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安全衛生パフォーマンスとその公開
Performance and reporting

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
December 2005
(仮訳:国際安全衛生センター)



  企業が安全衛生パーフォーマンスを公開することは、真の利益につながり、また透明性と責任感を証明する、とRoSPAの労働安全衛生アドバイザー、ロジャー・ビビングスが主張する。

 高水準の安全衛生パーフォーマンスを明確に達成し、これを利害関係者に報告することが、企業が総合的にビジネスで成功するために、かつてなく重要になっている。例えば、安全衛生マネジメント能力とパーフォーマンスの動向は、単に保険会社にとってだけでなく、機関投資家にとっても興味が増しつつある。安全衛生を規制する当局も、その不十分な監督リソースを使う際、この種の情報にますます頼ることになるだろう。

英国安全衛生委員会(HSC)はこのことを認識し、政府の安全衛生再活性化運動(Revitalising Health & Safety initiative)のフォローアップの一部として、トップ350社に対し、毎年その安全衛生パーフォーマンスの目標に対する結果を報告するよう促した。最近、このようなアプローチは、公共部門、民間部門、ボランティア機関の従業員250人以上の組織ででも行うよう促されている。(報告に関するHSCのオンライン指針を参照、www.hse.gov.uk/revitalising/annual.htm)。

HSCの指針を要約すれば、安全衛生パーフォーマンスに関する報告には、次の事項が含まれるべきであるとしている:

会社の方針、重要なリスク、安全衛生目標、従業員参画の仕組み、RIDDOR(災害・疾病・危険事象報告規則、Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurrences Regulations)に基づく報告件数、すべての死亡災害の状況、すべての業務上疾病の程度、疾病による休業日数、受けた監督指導、有罪となった安全衛生違反、労働災害と業務上の疾病により生じた総費用。


反響

これまでのところ反響はさまざまであった。2003年に、コンサルタント業を営むSystem Concepts社がHSE の委託によって行った、HSCの要請に対する大手企業の反響を調べた研究の第1ラウンドの結果(RR134(www.hse.gov.uk/research/rrpdf /rr134.pdf))が公表された。主な点は次のとおりである:

  • 適切な情報が記載された報告はわずか107件(30%)であった。
  • 企業内の安全衛生原則については88%のもので情報があった。
  • 34%のものにはパーフォーマンスのデータ(例えば災害件数、事故件数、死亡者数)があった。
  • パーフォーマンスを向上させる目標を設定していたのは13%だけであった。

9月に行われたRoSPAのスコットランド大会で、System Concepts社のAnsgar Kupper氏がこの研究の第2ラウンドについて報告したが、それはやはり、企業(公共部門の主要部分を含む)がウェブサイトや年次報告書にその安全衛生パーフォーマンスの報告を載せることがどれだけ進捗しているかを調べたものである(このレポートは以下で見ることができる:www.hse.gov.uk/research/rrhtm/rr388.htm)。

この研究は、パーフォーマンス報告が特にウェブサイトでかなり増加したことを示しているが、企業に、例えば災害率、損失日数とコスト、目標(教育訓練を行った従業員数など)に対する進捗率というようなしっかりしたパーフォーマンスデータを報告してもらうようにするには、まだ課題が残っている。

 RoSPAはここしばらく、企業の安全衛生パーフォーマンスを公表して、もっと透明性を上げようという運動を行っている。このような考えは、決して新しいものではない。1974年労働安全衛生法の第79条は、この種の公表に関しての規定があるが、様々な理由で実施されないできた。

この問題への関心を高めるために、RoSPAはそのウェブwww.gopop.org.ukで次のことを始めた:

(1)パーフォーマンスに関する指針の主要部分に焦点が当たるようにする。

(2)ウェブで報告している企業の例を紹介する。

また、RoSPAは、パーフォーマンスの測定とその報告に関する独自の指針を出しており(www.rospa.com/occupationalsafety/info/dash.pdf)、そこではHSCよりも包括的なアプローチを提案している。例えば業務上の交通災害(WoRRIs、work-related road injuries)やマネジメントシステム監査の詳細結果を含めることを促している。

HSCのものを含めたこれらの文書は、企業パーフォーマンスの問題として安全衛生に焦点を合わせようとしている、他のさまざまなHSC / HSEのツールや指針との関連において読む必要がある。

その例としては次のような指針がある:

  • 経営者
  • 労働者の参加
  • 健康と病欠
  • 損失の簡易計算表
  • 企業利益とリーダーシップの事例
  • 企業の安全衛生パーフォーマンス指標(CHASPI)
 

損失時間のデータ

過去には、多くの企業が、その安全衛生パーフォーマンスの主要指標として休業災害発生率を重視していた。これには問題がなかったわけではない。例えば、傾向を判断しようというとき、少ない数のもの(大きな母集団の小さな変化、小さな母集団における大きい変動)が統計的な有意性に問題を与えることがある。死亡以外の災害や重症でない疾病の場合、休業災害になるかどうかを決める境目は、従業員の回復力ということになる。

現代の組織は、例えば再編成と合併で絶えず変化している。この場合リスクマネジメントの基準はあまり変わらなくとも、ハザードが変化したことによって災害発生率に影響を与えることになる。

災害というのは、結果による後追いの指標である。これには疾病が含まれていない(国としてみれば、業務上の疾病、又は業務で悪化した疾病は業務上のけがよりも約2倍大きい問題である)。傷害の発生率は、重要な安全パーフォーマンスとは関係ないし、また、安全衛生マネジメントシステムや安全衛生カルチャー、リスク対策の基準を測るものではない。

それゆえRoSPAはHSEやIOSHなどの組織と共に、別の主要パーフォーマンス評価指標(Key Performance Index、KPIs)が必要で、それは災害発生率の低下といった、安全衛生マネジメントの改善の単なる「結果」ではなく、「そのために行ったもの(input)」と「それから産み出されたもの(output)」が含まれるようなものでなければならないと主張してきたのである。

公開

RoSPAは、企業の安全衛生パーフォーマンスを公開することには現実の利益、潜在的な利益の双方があると信じている。それは透明性と責任感を示すものである。

また、主要な利害関係者に重要情報を提供することができる(この意味で、それは「持続可能性(sustainability)」を高め、「企業の社会的責任Corporate Social Responsibility、CSR)」に関する報告を改善する)。また「ベストプラクティス」を基準として他の企業と比較することが容易になる。

さらに、時間の経過に伴う進歩を示すことができる。それは、安全衛生に対するその企業の成功、改善、熱意を強調するのに役立つ。他の、より詳細な情報(例えば安全衛生特別報告書、環境報告書、CSR報告書など)や外部の情報源に対する入り口として役に立つかもしれない。

もっと重要なことは、そうすることによって企業が取引先や重要利害関係者に、その優れたパーフォーマンスを示すことができ、競争において有利な立場を獲得することができるということである。

「知る必要がある」利害関係者の範囲は非常に広い。例えば:

  • 従業員(会社の取り組みの概要を知りたいと思っている現在の従業員及び入社志望者)
  • 経営幹部(主要パーフォーマンスのデータを知ることができる)
  • 投資家(会社を評価しようとしている機関投資家を含み)
  • 労働組合(組合員にアドバイスするためにデータについて研究する)
  • 顧客(倫理及び品質管理を評価する)
  • 取引先(例えば入札前の選択でその企業の安全衛生能力をチェックする)
  • 契約業者(会社の記録と要求事項を把握している)
  • 保険会社、仲介業者(保険料を設定するとき、パーフォーマンスを評価する)
  • 監督当局(監督といった介入の優先順位を決めるとき、方針とパーフォーマンスを参考にする)
  • 競合他社/同業者(ベンチマーキング)
  • 一般公衆(例えば近隣の会社の安全衛生パーフォーマンスを調べる)。

ウェブによる公表

安全衛生パーフォーマンスを例えばイントラネットで社内的には報告しているが、公表はしていないという企業が多い。RoSPAは、インターネットを通して公開することに非常な利点があると考えている。インターネットは即時かつダイナミックで利用しやすいコミュニケーション方式である。また、それは、より民主的なコミュニケーション方法と言えるかもしれない。

しかしインターネットによる報告がうまく行われていても、さらに多くの問題がある。例えば、情報のニーズが絶えず変化するのに対処するために、追加変更が必要となるといったことである。RoSPAが調べたところでは、ウェブにあるパーフォーマンスの情報は古くなっていて、ユーザのニーズに合うようにメンテナンスされていないものが多い。また、例えば、情報が事前警告なしに削除されたりすると、ユーザは混乱するということがある。

RoSPAの調査ではまた、多くの企業が、パーフォーマンスを公開することは不利であり、「障害(barrier)」であると認識していることが示されている。例えば次のようなものである:

「企業の評判に悪い影響があるかもしれない」、「データの確認に関する問題」、「情報のメンテナンス、更新、チェックのためのリソースが不十分」、「パーフォーマンスの良し悪しを判断する比較データがない」、「そういうデータが社外で関心をよぶか疑問」、「安全衛生担当者が経営幹部から確実にサポートを得られるかどうか確信が持てない」。

 RoSPAは、企業のウェブサイトでの安全衛生情報の公開がされることが規範となるべきであると提案したい。最低でも、最も重要なデータをウェブで公表し、補足のデータは年次報告書に記載する旨を述べておくことである。しかし継続と熱意を確実にするためには、企業において明確な意志決定が必要である。広大なネットワークの中では、検索エンジンを使用しても重要なリンクがいつも容易に見つけられるというわけではないので、安全衛生パーフォーマンスの情報を見つけるのが困難である場合も多い。したがって、安全衛生パーフォーマンス情報を企業のサイトのわかりやすい位置に置き、企業のCSR問題と統合することを考慮する必要がある。

品質とユーザーニーズへの合致がカギである。安全衛生パーフォーマンスの公表にあたっては、少なくともHSCが勧告した最低基準は満たすべきであるが、企業はまた、その情報が自分のウェブの重要来訪者にとってどれくらい意味があるかを自問する必要がある。例えば、業務上の交通災害(WoRRIs)の数や、安全衛生マネジメントシステム監査の結果などの重要な追加情報を掲載しているサイトはまだ少ない。

最後に、ウェブサイトの内容は定期的に見直して更新する必要がある。オンラインで報告を行うためのチェック・リストが www.gopop.org.uk/pdfs/report.pdf で入手可能である。


検証

ちょうど財務内容について独立の会計監査法人の署名が必要なように、企業の安全衛生パーフォーマンスも、外部の、独立した、その能力のある組織によって証明されていることを示す必要がある。RoSPAは、この線に沿った新しいサービスが必要かどうかについて読者のご意見をいただきたいと考えている。

基本的には、紙で公表されているその企業の安全衛生パーフォーマンスの検証に焦点をあてることになるだろうが、同時に企業が重要なパーフォーマンスのデータを、イントラネットによる社内報告、年次報告書、特別の社外レポート、またウェブなどで、よりよく伝えるための同時進行的なコンサルティングを行うことも可能だろう。

検証は次の3つのレベルで行うことができるだろう:

1)公開されたデータは適切なものであり、HSC、RoSPA、IOSHが勧告する項目をすべてカバーしている。

2)パーフォーマンスを構成する重要な要素を評価し、正しい結論を出すことを可能にする報告システムと解析方法を持っている。

3)そのシステムの抜き取り監査を行った結果では、報告されたデータが無意味であるような重要な食い違いはなかった。

レベル3の検証を行うのは、明らかにレベル1、2よりは難しく、企業は初期においては、レベル1、2を選ぶことになるだろう。


今後のアクション

企業の安全衛生パーフォーマンスの評価・公開に関する説明資料集や1日の講習コースが必要かもしれない。RoSPAは例えばwww.gopop.org.ukのような入り口を通って、より多くのグッドプラクティスのリンクを見るよう奨励することはメリットがあると考えている。

また、公開することは、認証(OSHAS18001)や表彰などを通じ、企業が達成したパーフォーマンスをさらに広く認識させることにも役立つ。現在、RoSPAの労働安全衛生表彰は50年目を迎えているが、この表彰のやり方を今のパーフォーマンスのコンセプトと一致させるよう、現在さらに開発中である。応募企業は、その詳細なパーフォーマンスをウェブ上に提出するよう要請されるだろう。しかし以前なら受賞したであろうレベルで、不十分な説明資料の提出のため賞を逃す企業がたくさん出ることになろう。

企業が完全なものを提出できるような支援、また適切な賞を通じてそのパーフォーマンスが評価されるというチャンスを最大限にするために、正しく準備を行うための支援が、企業にとって有難いということになるかもしれない。

将来その企業の優先順位と目標を決めるためのアドバイス、1対1でパーフォーマンスの比較を行うためのベンチマークとなる企業を見つけるためのアドバイスも企業の利益になるかもしれない。また企業は、安全衛生パーフォーマンス指標リスト(HSEのCHASPIなど)を完成させることや、アセスメント方法(学習技能評議会Learning and Skills Councilの資金で設立した教育サービス機関が要求するようなもの)についての助けを必要とするかもしれない。そして、多くの企業が、取引先候補に対して入札前安全衛生査定を行う準備についての支援を必要としている。

 RoSPAは安全衛生パーフォーマンスの報告に関するご意見、及びこれを進めるためにはこうしたらよいというご提案を歓迎します。rbibbings@rospa.com