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災害経験を共有・活用しよう
Sharing accident experiences

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
November 2005
(仮訳:国際安全衛生センター)


 業務上の災害・事故の大多数の原因がよく調査されていると安全衛生専門家の多くは、認識しているのだが、英国の企業がそれからを多く学んでいるとはいえない。RoSPAの労働安全アドバイザー、ロジャー・ビビングスが現状を打破して企業が貴重な教訓を生かすにはどうしたらよいかを問いかける。

 災害の余波は、被災者やその家族にとって快いものであるはずがないが、周辺の者も打撃を受け不安に感じるものである。重症・死亡につながる災害では従業員のすべてが動揺する。同僚は衝撃を受けるだろうし、管理監督者はとりわけ事後調査(社内調査にせよ当局によるものせよ)でなにか安全衛生管理に重大な手落ちがあったことが明らかになるのではないかという疑いに悩まされる。

当該の企業は、例えば地域メディアによる悪評を心配するだろう。会社の弁護士は、損害に対する「慣習法に基づく請求(common law claim)」(訳注1)に関してアドバイスを提供するだろう。

災害は厳しい問題ではあるが、同時に安全衛生の改善、、将来の災害防止に役立つ貴重な教訓が豊かに含まれているすばらしい鉱脈でもある。

それにもかかわらず、届け出るべき負傷災害の大部分が監督当局に報告されていない。従って、それらは内部調査もされていないだろうと想定してもまず間違いないだろう。調査についてかなり自身のある会社でも、よく考えてみれば、すべての事実を捉えているわけではないこと、結論も限定的なものであることに気付く。何よりも悪いことは、災害がかなりよく調査されても、こうしようと決めたことが実行されず、フォローが不十分で、その結果、安全衛生マネジメントが継続的に改善していくことにつながらない場合がしばしばあることである。

これは1998年以来RoSPAが安全施策における重要課題として災害調査に焦点を当て続けてきた理由のいくつかに過ぎない。RoSPAは他の団体と共同して、災害調査という新しい法的責務に関する英国安全衛生委員会(HSC)の提案に関する働きかけを進めてきたが、これは結局HSEの新しいガイダンスのほうが支持されて廃棄されるという結果になった(www.processingtalk.com/news/hse/hse100.html)。

RoSPAは、災害調査に取り組むための指針を公表している(www.rospa.com/occupationalsafety/learning/tenpoints.htm)。またセミナーも実施し(www.rospa.com/accidentinvestigation)、教育訓練コースの改良も行っている。最近、我々はDORI(災害調査実施体制の定義、Definition of Operational Readiness to Investigate、www.nri.eu.com/toppage4.htm 参照)を作り、企業がその調査能力をチェックし発展させることを助けるため、ノルウェーリスクマネジメント基金(Nordwijk Risk Initiative Foundation)と提携した。我々はこの重要問題について現在行われている議論を促進させるため更なる活動を鋭意検討中である。

最近7年間を振り返ると、次の2点が明らかである:

  1. 効果的な安全衛生マネジメントの前提条件として、調査結果から安全について組織的に教訓を得ることを推進する点についてはリスクアセスメントに比べて、HSEも他の安全衛生関係者も十分な注意を払ったとはいえない。
  2. 災害のケーススタディから学ぶことを促進しようというHSEの長い伝統(1974年以前の英国工場監督部 (HMFI : Her Majesty's Factory Inspectorate)が作成した雇用ジャーナル部門の「災害」誌から80年代、90年代におけるHSEの「危険区域(Black-spot)」にいたるまで)は実を結ばないままに終わってしまい、現在では、全面的な再検討が必要である。

第一の問題は戦略的なビジョンと方向性のうちのひとつであり、私がこのコラムで以前に指摘したように、政府はHSEに対して、政府全体を対象としてずっと成熟した「調査文化」を開発するように要請する要がある。それは多くの面倒な問題を抱えた政治家が党派を問わず歓迎するだろうと思えることである。

 あいにく、災害調査というテーマは、規制緩和とお役所仕事についての議論の中で不利な形勢にあり、政府内(Whitehall)では、優れた災害調査が持つ大きな付加価値力を擁護するものは殆どいない。
 

しかし2番目の問題、即ちどうやって災害から出てくる有益な教訓を共有するかということは、本質的にずっと実際的な事柄であり、より綿密な災害調査を必要とするものである。実際、この論文の次のステップとして、どうしたら匿名災害・事故情報を企業間及び安全衛生担当者間で安易に共有できるようになるかを検討していく。

特に小企業では、災害発生率はその業種の中では比較的高いほうかもしれないが、重大な災害が発生する間隔は非常に長いのが普通である。即ち、自分自身の災害調査から教訓を得る機会は非常に制限されるということである。そのため、そのような企業が同業者の災害・事故の経験から教訓を得られるようにするためには新しい手段が必要である。

 

 経験を共有・活用する

この観点から、RoSPAは災害調査の結果えられる情報を共有し、活用するための、電子システムの拡張を熱心に模索してきた。一つの具体的な活動であるSADIE(安全警報データベース及び情報交換 , Safety Alert Database and Information Exchange , http://step.steel-sci.org/SADIE/main_sadie_fs.htm)はこの点で可能性があると思われるし、さらには安全のみならず業務上の疾病についても教訓を見つけることに役立つかもしれない。

SADIEデータベースは、「安全活動の段階的変化(Step Change in Safety Initiative)」の一部として、英国の海上油田・ガス産業の資金援助で行われてきたもので、アスコットのシルクウッド・パークにある鋼鉄構造協会(www.steel-sci.org)のサーバーに収められている。その目的は、安全情報の共有を安易にし、海上を基盤とする産業の横断的な学習がよりよく行われるようにするためである。もっとも、陸上の産業に属する企業も広く利用してはいるが。

このデータベースはこの業界で起こった事故の包括的なデータベースを目指したものではなく、また統計情報を提供しようとするものでもない。データは登録ユーザーが手順に従って匿名化した事例を入力する。登録ユーザーはデータベースを検索することができる。このシステムでは、単語検索によって報告を分類することもでき、前もって登録した関心分野にしたがって、ユーザーに注意を促すE−メールを出すこともできる。

我々はSADIEの寄稿者とユーザーが得た教訓を足場として、例えばIOSHの専門家やRoSPAの表彰対象業種のため、或いはすべての企業を対象とした事例に基づくシステムとして、同じやり方で開発することが可能であると思う。

このようなシステムを利用することは、優先度の高い分野(高所からの墜落・転落、滑り、躓き・転倒、手作業、現場での運搬など)で、教訓を共有することにおいて大きな可能性があるように思えるし、また新しい、経験のない問題に光を当てることにおいても然りであろう。そのようなデータベースはリスクアセスメントのチェックを行う場合や、具体的な調査をしていて類似の事例を探すような場合、専門家やそのほかの人にも貴重なものとなるであろう。

災害調査から教訓を学ぶことを促進するための重要事項の一部として、RoSPAは、SADIEシステムをこのように拡張することについて読者の意見をいただきたい。そのようなシステムのニーズは実際にあるのか?そうであればユーザーの正確なニーズは何か?どのようにすればこのやり方での拡張を主導することができるのか?最初は誰に寄稿を頼んだらよいか?スタート時の材料及びイベントを含め、どのようなマーケティング・販売促進の努力が必要か?どうしたら、HSEなどのキーとなる仲介者から援助・支援を受けることができるか?

しかしながら、最初にはっきりさせるべきものは、比較的成熟した安全衛生カルチャーを持つオフショア産業以外に、この種のアプローチに対して現実的に要望があるのかどうかということであろう。多くの企業が、事故から得た教訓を周知させるために最新のイントラネットを持っている一方、災害調査や取調べから得られた事実を周知させることに非常に慎重である企業もあると聞いている。実際、情報が漏れて企業の評判を損なうことを恐れて、年間のRIDDORデータ(訳注2)さえも上級管理者に見せない企業さえいくつかあると聞いたことがある。例えば、業界誌で「今月の災害」といったコラムがあるものは、あったとしてもごく少ないが、それは多分現実には匿名化がそんなに容易ではないからだろう。常に責任の問題があって、弁護士は概して顧客である企業に、何が誰に発表されているか注意しなさいとアドバイスするだろう(ウルフ卿の定めた「訴訟前の行動ガイダンス(pre-action protocol)」では、被告に対し早期に全部を語ることを要求しているにもかかわらず)。

74年以前に刊行されていた黄色表紙の月刊誌「災害」をご存知の方は高齢となられているだろうが、その中に掲載されていた実際の事故をについて述べた優れた執筆者の印象を記憶しておられるだろう。その後20年間、HSEが同じやり方で行ったことは、建築や農業などのハザードの高い業種の重大災害の共通原因を、ケーススタディによって正確に特定するために非常に貴重であったことが判明している。インターネットとデジタル写真の出現により、さらには年毎に実用化されるほかの電子技術も加えると、災害から学ぶことに対するこのやり方は将来どれだけ協力になることだろうか?よい写真、図表は千の言葉に相当する価値があり、また優れたケーススタディは無数の表や棒グラフよりもずっと説得力があることが多い。災害情報をインターネットを基盤として共有・活用することは、まさに、英国産業が本当に必要としている成熟した災害調査文化を促進するために、なくてはならないものである。

読者のご意見は次へお送りください: ribiddings@rospa.com

訳注

1 common law claims
「制定法(statutory law)に基づく請求」と対比して使われているようであり、例えば豪州政府サイトであるが
www.workcover.nsw.gov.au/WorkersCompensation/WorkplaceInjuries/Benefits/commonLaw.htmには次のような説明がある:
common law claim は損害を受けた労働者が事業主を訴えるもので次の条件が必要である。

  1. 事業主の不注意・怠慢などを示すこと
  2. 最低15%の恒久的な能力の減損があること
  3. 事業主に負傷を知らせてから6ヶ月以降3年以内に請求を開始

 

2 RIDDOR
Reporting of Injuries , Diseases and Dangerous Occurrences Regulations
負傷、疾病及び危険自称報告規則