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不慮の事態にどのように備えるか
Contingency planning

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
February 2006
(仮訳:国際安全衛生センター)


ピーター・エリスが、そのリスクアセスメント・シリーズの中で、職場でテロ攻撃や火災のような大きな事件が起こることを考えたときに、何をしたらよいかを説明する。

周到に計画されたニューヨーク市ワールドトレードセンターの破壊、最近においてはマドリードの列車及び2005年7月のロンドンの輸送システムに対する爆破攻撃は、社会のセキュリティを一層強化する必要性を強調するものであった。全ての企業と団体は、不慮の出来事から従業員や来客を保護するために、セキュリティ対策を強化させなければならない。

最近の統計によると、テロ攻撃や火災などの大きな出来事に遭遇した企業の20%が、企業の存続も危ぶまれる状態にあるという。事業継続計画(continuity plan)を持っていない企業のうち、43%は再開されず、80%は13ヶ月以内に倒れ、保険請求者の53%が災害によって被った損失を埋め合わせることができないのである。金銭的損失を補うために適切な保険に入っている企業が多いにもかかわらず、このような状態になっている。

したがって、もし企業が経営に対して重大な影響を与えそうな出来事をあらかじめ考え、対応を計画し、その計画の有効性をテストし、これらのリスクを管理するために時間とリソースを割くならば、その企業は被害から回復して、将来再びさらに成功する可能性が高い。

この記事では、職場にある主な潜在的ハザードに焦点を当て、だれが危害を受けそうか、従業員やその他の者の安全衛生リスクを管理するために、どんな対策が実施できるかを説明する。しかし、この記事は、この問題に関して一般的な助言をするだけである。安全及びセキュリティに関する具体的なアドバイスを得るためには、すべての法的要求事項、公認実施基準(Approved Codes of Practice, ACoPs)、ガイダンス、及び英国/EUの基準を参照されることをお勧めする。

法令

2004年火災及び救助業務法(Fire and Rescue Services Act, FRSA)は、英国全土において、消防署(Fire Services Authorities、FSAs)の中心的役割が予防であるとしている。

この法律は、どんな種類の非常事態に対応するときも、消防署が一貫したやり方で業務を行うことができるように作られている。2004年民間緊急事態法(Civil Contingencies Act、CCA)の第1章も、火災及び救助業務法と同様に、対応力を強化することを狙っている。例えば、消防署は、他の緊急対応機関と協力して、非常事態を予防しかつそれに対応できるよう、不測の事態に備える計画を整備し、また演習を行わなければならない。

1974年労働安全衛生法は、事業者に対し、従業員及びその事業活動によって影響を受ける可能性があるその他の者の、職場における安全衛生を確保する義務を課している。1999年労働安全衛生マネジメント規則は、事業者に対し、種々のハザードを特定するためにリスクアセスメントを行うこと、そしてこれらのハザードから生じるリスクを除去するか、又は少なくともその対策をとることを要求している。

そのため、事業者は、自社の安全衛生管理方法を見直し、緊急事態に対処するための計画を追加することが望ましい。これは、職場のリスクアセスメントを新しく行うか、又は既に行ったリスクアセスメントの結果を見直して、必要があればそれを改訂するということにより実現ができる。

ハザードの特定:コミュニケーションの不足

  • コミュニケーションの不足は、緊急事態において負傷、病気、更には死亡災害にもつながりかねない。

誰が危害を受けるか?

  • 職場内にいるすべての者と近隣の者。

推奨される対策

  • 職場内外における大きな事故によって影響を受ける可能性のあるすべての者が、明確に記された書面による安全・健康・セキュリティ情報を入手可能であること。
  • 職場で起こりそうな大きな事故に関して住民又は従業員から、その人たちが心配していることについての情報を入手するとよい。これは、優先課題及び影響を受けそうな住民の区域を特定するのに役立つ場合がある。これができると、職場で大きな事故が起こった場合に影響を受けそうな住民に、リスク及びその対策について情報を伝えることができる。
  • 安全衛生・セキュリティ訓練の際には、従業員に対し、大きな事故のときには、正常な安全対策が機能しない場合があるということを強調して教えること。
  • 新入者に対しては、実際の仕事につく前に新入時教育を行い、自分自身及び他者の安全衛生をまもるために、大きな事故の際はどうしたらよいかを理解させること。
  • 現在いる従業員に対してはリフレッシュ訓練を定期的に行うこと。
  • 事業者は、従業員に情報、指示及び訓練内容を確実に理解させること。理解したことを示すために、従業員が文書にサインするようにするとよい。
  • 事業者は、従業員に職場全体に関して十分な知識を持たせ、緊急事態の際に従業員やその他の者が避難するのを助けることができるようにしておくこと。
  • 必要なときに冷静に行動できるよう、救助手順の訓練を行っておくことは必須である。
  • 緊急事態においては、救助用の機器、例えば呼吸用器具、救命索、消火設備などを扱える、適切な訓練を受けた人間が必要である。

ハザードの特定:火災又は爆発物・化学物質による攻撃

  • 職場では、放火、電気的又は機械的な欠陥によって火災が発生する可能性がある。
  • 職場内で爆発物や化学物質による攻撃が行われる可能性がある。

誰が危害を受けるか?

  • 職場内にいるすべての者と近隣の者。

推奨される対策

  • 自分たちの企業がどれだけ放火に対して弱点があるかを考えるために、火災に関するリスクアセスメントを行い、そのハザードを排除するか、又は少なくともリスクを減少させる対策をとるべきである。
  • 企業存続の可能性を高めるため、「事業継続性」の概念を、火災のリスクアセスメントの延長として取り入れること。また、火災、爆発物・化学物質による攻撃のリスクを減少させる予防対策を決めるためにも、火災のリスクアセスメントの手順を利用するとよい。ドア、窓、門、及びフェンスはすべて、放火や爆発物が仕掛けられることを防ぐために、夜間・週末は安全を確保し閉鎖しておくこと。
  • すべてのセキュリティ装置は正常に動作するようメンテナンスされていること。
  • 起動時に受信センターに信号を送る侵入防止警報装置を検討するとよい。
  • 認可された者だけが職場に入ることができるようにすること。これは、CCTV(有線テレビ)を使用することによって、チェックすることができる。
  • 認められていない人間が構内に入るのを防ぐために、セキュリティのための外部照明を設置すること。
  • 契約業者については、現場への入場を許可する前に、その世評をチェックすべきである。必要な場合は、発注者が付き添うこと。
  • 従業員に対して、火災または爆発物・化学物質による攻撃があった場合の役割を定めておくこと。これには、安全教育、火災防止設備の維持管理とその記録、火災、爆発物・化学物質による攻撃に対する演習も含まれる。
  • 従業員に対しては、火災を発見したり爆発物・化学物質による攻撃が行われたりした場合に、どのように行動をすべきかがわかるよう、十分なトレーニングをすること。
  • 従業員は、火災を発見した場合、また爆発物・化学物質による攻撃があった場合は、火災報知機を作動させなければならない。組織としては、そのような事態となった場合に自動的に作動する警報システムを検討するとよい。
  • 従業員は火災報知音を認識できること。そしてそれを聞いたときは、最も近い非常口へ向かい、外部の集合場所に集合すること。
  • また、「火災、爆発物・化学物質による攻撃発生。一番近い非常口へ行って下さい。」という音声による警告も、人の少ない構内では有効な場合がある。
  • 火災、爆発物・化学物質による攻撃が発生した場合の避難手順について従業員及びその他の者に対する訓練を行っておくこと。
  • 従業員及びその他の者に対して、外部の集合場所を知らせ、訓練もしておくこと。
  • 全従業員が最短の避難経路を見つけられるよう、適切に周知、指示、訓練しなければならない。また、その避難経路は適切にメンテナンスされていなければならない。避難経路には障害物を置いてはならず、また自動閉鎖扉をいつでもくさびで開けておいてはならない。
  • 適当な消火設備を準備しておくこと。火災の種類に応じてどの消火器を使用するべきかがわかるよう、従業員に対し訓練を行っておくこと。従業員は初期火災のみに対応し、火災が広まった場合は警報を作動させて直ちに構内から避難すること。
  • 事業者は、火災、爆発物・化学物質による攻撃が発生した場合に、それに対して具体的な任務を行う従業員を決めておくこと。
  • 警報が作動した場合は、指名された従業員は消防署やその他関係する緊急サービスに電話をしなければならない。
  • 火災、爆発物・化学物質による攻撃が発生した場合、何をするべきかを従業員やその他の者に周知するため、職場の中の目立つ場所に非常時の対応手順を表示しておくこと。
  • すべての関係者の間で効果的なコミュニケーションが維持されなければならない。来客受付システムがよく機能していれば、現場来訪者の管理を効果的に行うことができるだろう。指名された従業員は、火災、爆発物・化学物質による攻撃があった場合、来訪者が現場から避難するのを助けること。しかしながら、従業員は自分自身の安全と健康を危険に曝すことはしないこと。

ハザードの特定:不審な荷物

  • 企業には、危害を加えることを目的として手紙爆弾が送りつけられることがある。
  • 企業には、危害を加えることを目的として炭疽菌の芽胞などの危険物質が送りつけられることがある。

誰が危害を受けるか?

  • すべての従業員と職場にいる来訪者。

推奨される対策

  • 郵便物を開封する者が疑わしいと判断した場合のために、郵便局は次のようにアドバイスしている:
  • * 必要がないときには、その郵便物を扱わないこと。
  • * まだ開封されていない場合、開かないこと。
  • * その郵便物の臭いを嗅がないこと。またあまり近づかないこと。
  • * 荷物を動かしたり、漏れを自分で拭いたりしないこと。
  • * その出来事を報告し、その現場の緊急事態対応手順が実行されるようにすること。
  • * 周辺区域から人を立ち退かせ、できれば封鎖すること。
  • * 漏洩があった場合、荷物に触れた者全員の氏名を、連絡先とともに報告すること(警察にとって有用)。
  • 2001年9月のニューヨークでのテロ攻撃以来、HSEは事業者に対し、郵便物、不審な荷物の取扱方法を見直し、またその方法を定期的に演習するようアドバイスしている。郵便物の取り扱いに関するリスクアセスメントは見直しを行うことが望ましく、またその作業には従業員も参画することが望ましい。生物学的又は化学的ハザードにばく露されるリスクの管理として、優先順位に沿って対策を準備すること。これは次のとおりである:
  • * ばく露の防止、例えば郵便物を取り扱う従業員の数を制限する。
  • * 工学的対策、例えば、機械のフィルタと空気抽出システム。
  • * 日常業務に対する対策、例えば、電気掃除機や清掃装置に適切なフィルタをつける。
  • * 例えば、マスクと手袋といった個人保護具(PPE)の使用。ただし最後の手段として。

ハザードの特定:不適切な、陰になって見えない、紛らわしい安全標識

  • 不適切な、陰になって見えない、紛らわしい安全標識が職場にあると、緊急事態において死亡災害につながりかねない。

誰が危害を受けるか?

  • 緊急避難が行われているときに職場にいるすべての者。

推奨される対策

  • 1996年安全衛生規則(安全標識と安全信号)(Health and Safety <Safety Signs and Signals> Regulations)は、特定されたリスクが他の手段で対応できない場合には、安全標識を設けるよう要求している。
  • この規則は上記の状況で設置すべき安全標識を定めているが、それは避難経路、非常口、救急/救助設備、消防設備の位置、及び火災の場合に警報を発する方法に関する情報である(照明された標識、音響による信号も含む)。
  • 安全標識は、読むことができるよう、かつ完全に理解できるようにメンテナンスされていること。さらに、職場における他の物品(例えば、クリスマス飾り)がそれらを見えなくしてはならない。
  • 多くの標識を一緒に置いて、安全標識の有効性を損なってはならない。
  • 安全標識は、正しく作られ、十分に数があり、適切な場所に置かれ、よくメンテナンスされていなければならない(清掃、修理、必要な取替えも含め)。
  • 照明された標識・信号に対しては、停電の場合、非常電源を供給すること。
  • 動力を要する安全標識については、定期的なテストを行い、正常な状態にあることを確認すること。
  • 視覚か聴覚に障害のある者、及び英語を十分に解さない者の必要性を考慮に入れること。必要な情報を決めて提供する際に、音声による警報(英語以外の、職場で従業員や来訪者が使っている言語で)を安全標識と組み合わせて使用することは、この問題に対する解決策となるかもしれない。

ハザードの特定:救急設備

  • 事業者は従業員のためのみならず、大きな事故で影響を受けるかもしれない来訪者のためにも、職場の中で適切な救急処置と医療ができる施設を準備することが望ましい。
  • その施設に求められるレベルはリスクアセスメントにより決定される。

誰が危害を受けるか?

  • 構内にいるすべての者。

推奨される対策

  • 救急要員は、HSEが認定したトレーンニングに基づいて発行される証明書を所有している者でなければならない。それによって1981年安全衛生規則(救急)(Health and Safety <First-Aid> Regulations)で定義されている救急要員として、又は指名者として仕事をすることができる。
  • 指名者は、非常時の救急処置を除き、またその場合もその方法について具体的に訓練を受けている場合を除き、いかなる応急処置も行ってはならない。指名者は基本救急処置コースに出席したものであること。
  • 指名者は正規の資格を持った救急処置者の代わりとなることはできず、単に不在などの期間をカバーするためのものである。
  • 正常な救急ボックスとともに、爆発物・化学物質による攻撃などの大きな出来事に備え、特別な救急設備か物品が必要かもしれない。ただしこの場合、救急処置者がこれらの取り扱いについて訓練を受けていることが必要である。
  • リスクアセスメントによって、補足的な物品が必要かを検討する。例えば、死傷者の輸送手段、毛布、前掛け、他の適当な保護具、及びはさみなどである。それらが必要と考えられる場合は救急ボックスの近くに保管すること。

詳細

この問題に関する、より詳細な情報に関しては、以下のウェブサイトを参照のこと:

被災現場の片づけに関する緊急対応計画策定のためのガイダンス

政府は、自然災害やテロ攻撃などによって被災した現場の片づけに関する緊急対策計画を策定するための新しいガイダンスを公表した。ワールドトレードセンターの崩壊では160万トン以上のビルの瓦礫が発生した。どの現場の片づけプログラムでも、その第一の目的は、早急に通常の事業が回復することを支援することである。

このガイダンスは、現場の片づけに関する国内外の経験から得られたベストプラクティスを利用したものである。このガイダンスは、主要な利害関係者と協議した上で作られたものであるが、規範的なものではなく、現場の片づけに関する不測の事態に対応する計画をまとめる際に考えるべき、一般的なアドバイスである。また、計画策定にあたっては、地域的なリスクについて得られた情報を十分考慮するべきであると強調している。

ガイダンスでカバーされている、考慮すべき事項は次のとおりである:

  • 閉じ込められている人、及び負傷している人の救出。
  • 死亡者の収容。
  • 犯罪捜査への協力。
  • 瓦礫、その他残骸の安全な片づけと処分。
  • 現場の片づけが環境に及ぼす影響に対する対策。

http://www.odpm.gov.uk