このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

労働災害調査
Accident investigation

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
July 2006 P.20
(仮訳:国際安全衛生センター)

掲載日:2007.04.11

災害は、すべて調査されるべきである。災害を調査しなければ、再発し、ひいては傷害や死亡災害にまで発展する可能性があることがその理由である。再発防止に必要な行動を特定する調査の実施により、事業所は災害がどのように、なぜ発生したのかという事実を認識できるようになる。RoSPAの労働安全衛生コンサルタント、ジム・ピアース(Jim Pearce)が解説する。

災害調査の目的は犯人探しをすることではなく、災害発生の理由と再発予防策を明らかにすることである、ということを忘れてはいけない。

組織による災害調査の実施をはっきりと要求している法律は存在しないが、「労働安全衛生管理規則 1999年(Management of Health and Safety at Work Regulations 1999)」の第5条では、事業者に、安全衛生の取り組みを計画、体系化、監視、再検討することを要求している。HSEの指針「優れた安全衛生管理(HSG 65)(Successful health and safety management [HSG 65])」で規定されているように、災害調査は、事後処理であったとしても、必要不可欠な監視プロセスなのである。

「負傷・疾病・危険事態報告規則1995年(Reporting of Injuries, Diseases and Dangerous Occurrences Regulations (RIDDOR) 1995)」に基づき通報された災害に対しては、執行機関が独自の調査を実施することも可能である。この調査の一環として、執行機関は、重大な結果には至らなかったかもしれないが、同様の災害が以前にも発生した事実を確認する。また再発防止のためにどのような対策が講じられたかも確認する。

問題や過失を是正する機会を軽視して、効果的な調査や是正策を講じていなかった場合は、強制措置がとられることになる。

組織は、災害報告と調査に関わる方針を明記した正式な手順書を制定しなければならない。当該手順書には、方針実施の徹底、災害状況の監視、定常的レビューとシステム開発の各事項に責任を有する職員を明示しなければならない。

方針文書には、1)調査担当者に対する災害調査方法の指針となる、十分に詳細な作業基準、および、2)(HSEのHSG 65規則の推奨に準拠して)収集し、分析した、証拠を記載した書類を含めねばならない。

また当該方針は、潜在的な訴訟の解決に必要となる記録も含め、さまざまな記録の維持にも対処できるものとすべきである。

調査

管理職は災害発生に気づいたら、できるだけ迅速に現場を監督し、確実に負傷者の手当てが行われ、現場の安全が確保されているか確認する必要がある。

その後すみやかに、上級管理職と組織の安全衛生アドバイザーに報告する。この段階で、さらなる処置や調査が必要であるかを判断し、同災害をRIDDORに準拠して通知すべきか確認する必要もある。

誰を災害調査担当者とするかは、発生した災害の実際の結果により決定するが、最も重要なことは、災害の潜在的な結果と、再発の可能性に注目して決定することである。調査の責務を担う必要のある職員は、以下のレベルに合った適切な訓練を受けなければならない。

  • 低レベルの調査 この調査は短期のもので、関連するチームのリーダーや監督者、あるいは管理職が実施する。この調査では災害を取り巻く状況と、災害の直接原因および根本原因を調査する。
  • 中レベルの調査 この調査はより詳細なもので、安全衛生アドバイザー、従業員代表者、関連するチームのリーダーや監督者、あるいは管理職が関与する。
  • 高レベルの調査 この調査は、チームで実施する活動で取締役や上級管理職が責任者となる。また上記のすべての職員が関与する。

どのレベルの調査を実施する場合も、災害を取り巻く状況と、災害の直接原因および内在する原因(遠因)を調査する必要がある。

情報収集

情報の分析が進むにつれ、新しい情報を追加で必要とする調査が発生するため、情報収集と情報分析は並行して同時に実施する。

単刀直入に証拠を分析していく調査方法では、(上に例示したような)フォールトツリーを利用する。フォールトツリー法では、調査担当者は「なぜ」と質問し続けることで災害の原因を特定できる。

直接原因

  • 人間の行動と不作為(手落ち)には、たいていちょっとした不注意による過ち、思い違いや失念、錯誤、そしてほとんど見られないが、‘違反’などがある。安全規則違反やグッドプラクティス不履行は、仕事をやり遂げようとする善意の意図に反し、それが原因で起こりうる場合が少なくないことに留意すること。業務の遂行が不十分である、‘手っ取り早い方法’をとり、それを管理職が見逃した、また、単なる認識不足などが原因となる場合もある。さらに詳しいことは、HSE指針「誤りの低減と行動への影響(Reducing error and influencing behaviour [HSG 48])」を参照すること。
  • 不適切または安全ではない作業設備の使用、または、標準以下の職場での作業。

ここで強調すべきことは、人間の行動と不作為(手落ち)が原因で災害が起きた場合、それらの行動と不作為(手落ち)は、通常はさらに重大な内在する原因(遠因)があることの兆しであり、災害発生の可能性を最小限に抑えられるのであれば、そのような遠因を真剣に検討しなければならない、ということである。

内在する原因(遠因)

内在する原因とは、人々が特定の動作をするようになった理由、あるいは有害な状態を作り出した理由である。よく見られる内在原因には以下のようなものがある。

  • 人的要因 適正、身体能力、疲労、ストレス、および気力など。
  • 業務要因 携わっている業務に必要な注意の程度(多すぎても少なすぎても誤りの数は増えることに留意)、手順の不備や時間の制約など。
  • 組織の要因 仕事のプレッシャー、長時間労働、適切なリソースの入手、監督や管理方法の質、安全衛生問題への取り組み、など。
  • 工場や設備の要因 業務における設備の適性、状態、操作性の簡便さ、設備がエラー検出・予防機能を有しているか、職場配置はエルゴノミクスを考慮しているか、職場環境の照明、清掃、整理整頓が適正であるか、など。

これらの要因はすべて、チームのリーダーや監督者、あるいは管理職が管理でき、また管理すべきものである。

根本原因

根本原因とは、以下の事項を対象とする管理システムの不備である。

  • 情報、指示、教育訓練の提供 
  • 操業中の監視および受動的(事後の)監視
  • リスクアセスメント
  • 従業員との協議
  • リスクの抑制
  • 予防保守計画、など

上級管理職のチームは、これらの根本原因の特定と対応措置への包括的な責任を担う。特定された欠陥はすべて上級管理職チームが検討し、是正措置を講じる必要がある。

筆者は、安全衛生管理システム監察官の立場から、全般的に災害報告書の質、とりわけ、原因と是正措置にかかわる報告の質が非常に低いと認識している。

原因を特定し、適切な管理措置を実施したことを示すために記録した情報だけでは、不十分な場合が少なくない。災害報告書や調査報告フォームに記入する職員(この職員を調査担当者と明記するには気後れがするが)が、災害の簡単な説明を単に繰り返すだけということは珍しくはない。災害の原因が記載されていても、単に直接原因であって、重大な内在原因(遠因)や根本原因は書かれていないことが多い。

「管理職は災害発生に気づいたら、できるだけ迅速に現場を監督しなければならない。」

アクションプラン

同種の災害再発防止のために講じるべき措置を検討する計画を、策定する必要がある。計画策定にあたっては、当該災害分析で得た情報を考慮に入れるべきである。計画はどのようなものでも迅速に実施すること。

是正策では、標準的な「リスク抑制のツリー階層」の以下の項目を考慮すること。

  • リスクの排除またはリスク要素の代替
  • ハザードにばく露されているすべての職員や事物を保護するための技術的手段による抑制
  • 情報、教育訓練、監督、保守の各システムに支援された、安全作業システムの導入
  • (該当する場合、)個人用保護具の提供と使用

これらの是正措置は、グッドプラクティスと、それに従う義務があることを職員に認識させるための説明会を開く程度の簡単なことでよい。もちろん、是正措置は、実践するためには長期間を要する大きな変更も必要となる場合もある。そのような場合は暫定措置を決めて実施できるようにし、恒久的な是正措置の導入に向けての進捗状況を職員全員に全て報告しなければならない。

あらゆる管理システムと同様に、上級管理職チームが組織の災害記録の傾向を分析する定期的なレビューが必要となる。上級管理職チームのレビューにより、組織の安全衛生管理システムの効果が裏付けられ、年次事業計画におけるSMART目標(HSG 65規則で推奨されている、特定の、測定可能な、システム実践担当者との合意に基づく、現実的で目標期限のある目標[Specific, Measurable, Agreed with those charged with implementing them, Realistic and Time targeted as recommended in HSG 65])の設定により、システムのさらなる改良方法が示唆される。

レビューと計画の体系的な取り組みに関する指針は、英国標準[BS 8800:2004 労働安全衛生管理システム(付録D)(BS 8800:2004 Occupational health and safety management systems [annex D])」に記載されている。

当該指針のような、事後の問題対応型のデータから有用な発見があるかもしれないが、不都合な点もあることを認識しておかねばならない。災害の程度は実際より低めに報告されることが多く、実際の災害結果の深刻度は災害の潜在性を反映していない場合がある。従って、レビューを活用する際には、現在進行中の監視手法により収集したデータを併用すること。このトピックに関するさらに詳しい情報と指針は、英国標準BS 8800:2004(付録F2)に記載されている。

災害の代償は、直接災難を被った人々の痛みや苦悩だけではなく、被害者の家族や災害の目撃者もが負担している。災害発生理由を特定し、再発防止のための措置を講じる意向を組織が持っているのであれば、災害調査はきわめて重要なものとなる。

参考文献

  • 「誤ちの低減と行動への影響(HSG 48)」、1999年(Reducing error and influencing behaviour [HSG 48], 1999)
  • 「優れた安全衛生管理(HSG 65)」1997年(Successful health and safety management [HSG 65] , 1997)

「災害と偶発事故の調査:事業者、労組、安全代表者、安全専門家を対象とするワークブック(HSG 245)」(Investigating accidents and incidents: a workbook for employers, unions, safety representatives and safety professionals, [HSG 245])ISBN 07176 2827 2

災害のフォールトツリー、イベントツリー

上記のようなフォールトツリーは、災害調査中の証拠分析に活用できる。

年間件数

  • 労働者の負傷者数は100万人以上、疾病(健康障害)は230万件以上と報告されている。
  • 上記が原因となる労働損失日数は、およそ4,000万日にのぼる。
  • 負傷や疾病(健康障害)が原因で離職せざるを得なかった労働者数は25,000名以上。

資料出所:HSE、www.hse.gov.uk/costs

調査レビュー

RoSPAはノールドワイク・リスク・イニシアティブ財団(Nordwijk Risk Initiative Foundation)と提携し、災害調査のために事業者が講じている処置の適性を事業者自身に再確認させるための「災害調査実施体制の定義(Definition of Operational Readiness to Investigate: DORI)」というプロジェクトを運営している。RoSPAの労働安全アドバイザー、ロジャー・ビビングスは、次のように語っている。「災害がほぼ悲劇であることは常に言えることだが、災害は組織の安全への意識を変えさせる、かけがいのない機会でもある」

「多くの組織では災害調査を十分にしていると考えていても、必要不可欠な要素のすべてを網羅して考えていないため、実際には災害調査から十分な価値を引き出せていないことが明らかになっている。」

「安全衛生管理を改善するために重要な鍵となるのは、災害調査が確固とした体系的なものであることだ。労使が災害調査のプロセスを教訓と見なし、今後の改善に役立たせることが肝要となる。」

ホワイトペーパーの草稿は、http://www.nri.eu.comから入手可能である。組織が保有する調査リソースの管理において経験を有する職員が、今後この議論に寄与してくれることが望まれる。

リスク抑制のツリー階層

災害報告書と調査報告フォーム/調査記録

パート1

最初の報告書はできるだけ簡素なものとし、当該災害の関係者あるいはチームリーダーや監督者が記入する。この報告書には以下の事項を必ず含めること。

  • 当該災害(発生日時)の報告者と、当該報告書の報告先の特定
  • 当該災害の種類、たとえば、偶発事故(incident)、労働疾病(健康障害)、軽傷、重傷、主要な傷害などの明示
  • 当該災害の発生内容、発生日時、発生場所、誰が何をしたか、救急管理や応急措置の内容に関する簡単な説明の提示

パート2

安全衛生担当者による、初期評価(アセスメント)の実施。これは以下の事項を特定する必要がある。

  • 災害の種類、たとえば、負傷、疾病(健康障害)、ニアミス、明らかな危険あるいは予期した安全実践が状況に適合しないといった好ましくない状況
  • 傷害の実態、または、潜在的な傷害。たとえば、致死傷害、主要傷害、重傷、軽傷、損害のみ、そして、潜在的/実際の規模。
  • RIDDORに準拠して通知できたかどうか。できた場合は、報告した日時。
  • 災害簿に登録されていれば、その登録日時。
  • 必要な調査レベルが明示してある、さらに詳しい調査が必要かどうか。

パート3

調査担当者は、パート1、2で明示された質問への回答を模索するだけではなく、それ以外の、以下のような質問をすることで当該災害のできるだけ詳しい情報を収集する必要がある。

  • 作業状態に異常や、普段とは異なることがあったか。
  • 適切な安全作業手順に従っていたか。
  • リスクは周知されていたか。もしされていたら、なぜ抑制できなかったのか。たとえば、業務活動や作業設備や作業域を対象とするリスクアセスメントが存在していたか。リスクアセスメントは適切で十分なものであったか。
  • 保守と清掃は適切に行われていたか。もし行われていなかった場合、その理由は。
  • 職場の配置が有害事象発生に影響を及ぼしたか。
  • 工場設備や作業機器の操作が難しいことが有害事象発生に影響を及ぼしたか。
  • 直接原因、内在する原因(遠因)、根本原因は何か。
  • 同様の有害事象は過去発生したことがあるか。さらに調査を進める必要を示唆する一般的な原因や傾向はあるか。

パート4

リスク抑制実施計画書(リスクコントロール・アクションプラン)には以下を記録する必要がある。

  • 短期、長期に実施するリスク抑制措置はどのようなものとすべきか。目標とする完了予定日と責任者名を明示する。当該措置を完全に実施し終えた日も記録する必要がある。
  • どのようなリスクアセスメントと安全作業手順が再検討と更新を必要とするか。目標とする完了予定日と責任者名を明示する。再検討と更新を完全に実施し終えた日も記録する。

さらに、調査報告フォームと災害報告書には以下を明記する必要がある。

  • 調査担当者/調査担当チームの氏名、職位、署名
  • 当該調査結果の報告/通達先

これらの取り組みがすべて円滑に行われるために、管理職は必要な管理措置の実施を定期的に監視し、ステータスレポートを調査報告書に添付する必要がある。筆者は監査官の立場から、これらの取り組みはほとんどなされておらず、このような是正措置を実施したという主張を裏付ける正式な証拠を、組織はほとんど提示できない、ということを認識している。

Adobe Reader サイン版ダウンロードPDFマークのファイルを閲覧するにはAdobe Readerが必要です。
最新版のダウンロードはこちら。(新しいウィンドウが開きます)