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不慣れな地域への出張旅行における注意事項
Travellers'checks

資料出所:The RoSPA Occupational Safety & Health Journal
June 2006 P.18
(仮訳:国際安全衛生センター)

掲載日:2007.01.16

概要
知らない土地への出張旅行をする機会が増えているが、安全をどう確保するかは、極めて重要なことである。遭遇するリスクの内容と対応に必要な事項が述べられている。強盗や泥棒の被害にあうリスクをどのように避けるかは、計画の段階であらかじめよく検討しておく必要がある。お金は分散して持ち、強盗に出会ったときにほどよい金額の紙幣をすぐに渡せるようにしておく、ラップトップパソコンは持ち運ばないで、フラッシュメモリーを使うなどの方策が挙げられている。しかし、コミュニケーション手段が発達した今日、「知らない土地に出向く必要が本当にあるか」を判断することが最も大切だとしている。
右矢印 2006.09.28 速報として掲載
不慣れな地域への出張旅行における注意事項
バークレーカード・ビジネス・トラベル年次調査(annual Barclaycard Business Travel Survey)の回答者のほぼ半数は、この4年間の年間海外出張数は、毎年前年度に比べ多くなっているとしている。出張先として頻度がもっとも高い地域は西欧、米国、カナダであるが、中国、アフリカ、東欧も頻度が高まっている。従業員を海外出張させる事業者が、主に事前計画によって従業員の安全衛生を合理的に可能な限り確保する責任を有するのはもちろんのことだが、従業員自身がその安全衛生を確保するためのさまざまな方策もある。詳細をニック・クックが報告する。

法廷ドラマ集『ベイリーのランポール(Rumpole of the Bailey)』の脚本家であるジョン・モーティマーは、『ヤマネの夏(The Summer of Dormouse)』という自伝的な著作の中で、ニューヨークに出張中のある夜、強盗が穏やかに襲ってきたときのことを描いている。

モーティマーがホテルにひとりで歩いて帰ってくると、暗がりから巨体が現れ50ドルを要求してきた。モーティマーは当時70歳を過ぎ、強盗は巨体の若者であったが、長年法廷弁論の場面を描いてきたモーティマーは最悪の事態への最善の対処法を身に着けていた。彼は一呼吸置いて、悠然と微笑みながら言った。

「25ドルでどうか」。そしてしばらく間があった。「じゃ、25ドルを」と強盗が応じ、取引は終わった。強盗は闇の中に巨体をゆすりながら消えて行った。もちろんどの強盗もこのようにお人好しであるわけではない。また全員がこのような人をひきつける力や平静さをもち、損害を抑える訓練を巧みに実践しているわけでもない。

スージー・ランプラフ・トラスト(Suzy Lamplugh Trust)のトレーニングマネージャであるジュリー・スミス(Julie Smith)氏は、闘争ではないモーティマーの方策の中には、われわれの誰もが使えるものがあると見ている。

スージー・ランプラフ・トラストは、未知の顧客との面談に単独で赴いた後消息を絶った不動産業者スージー・ランプラフの失踪と殺人疑惑事件の後に設立された、今年創立20周年を迎える慈善団体である。

設立以来、同トラストの事業範囲は広がったが、従業員、特に単独で働く者自身が身体的な暴力のリスクから自分の身を護り、個人の安全に対する意識を高める支援をすることを主目的のひとつとしている点は変わらない。

リスクを評価する

このようなキャンペーンの一環として同トラストでは海外出張する従業員向けの研修を実施している。ジュリー・スミス氏は、「従業員が自衛するための最善策は、リスクを予想し、綿密な計画を立て準備することでそのリスクに対処することであろう。出国の相当前の段階からこの策は講じておかねばならない」と説明している。

従業員に業務理由で出張を求める以前に、すべての事業者はその出張が本当に必要であるのかを自問すべきである。

スミス氏は、「事業者は、本当にこの従業員を海外出張させる必要があるのか自問すること。これらは最初に問うべき質問であり、問えばリスクが低減されるのみならず、事業場の環境面での課題も若干ではあるが低減される。実際に顔を合わせる面談の代替策は存在しないものの、ビデオ会議や文書を電子的手段で交換し合う簡便な仕組みを使った代替策は大幅に見つけやすくなった」と説明している。

根源でリスクを低減することをつねに優先的な選択肢としなければならないが、出張を積極的に推進する場合は、事業者は確実にその従業員が直面する可能性のあるリスクを十分に認識させなければならない。結局、どのような強盗もジョン・モーティマーを襲った強盗ほど物分りがいいということではないのである。

スージー・ランプラフ・トラストの個別研修で主張されているのは、窃盗者や強盗に反撃すべきでない場合を知るということである。スミス氏は、「あなたの命は財産や金銭よりずっと大切だ。強盗に去ってもらう、あるいは、強盗から離れれば、重傷を被ったりさらに悪い状況に陥ったりするのを避けられる。またわたしたちは自衛法の習得も奨めていない。通常、海外では攻撃されれば反撃すべきではない。その場の事態に静かに対処するほうがつねに得策である」と述べている。

強盗より身体上優れていると感じても、スミス氏は「そのような人は、強盗がナイフや銃をもっているかもしれず、また共犯者が近くに潜んでいるかもしれないことに気づいていない」と同様の勧告をしている。

そして、もちろん見知らぬ土地のよそ者として、あなたは自分自身の「協力者」をもてるほどの幸運には恵まれない。ジュリー・スミス氏は「結局は単独出張というあなたの現在の状況自体がリスクなのである。自国にいる場合と同様のリスクがあるのだ。しかし、自国から遠方に離れるほどリスクを抑えることはますます困難になる」と語っている。

暴力に直面した場合の対処法を知ることは重要である一方で、スージー・ランプラフ・トラストでは第一にそのような事態への遭遇の回避を重視している。

「第一に、格好の標的になるような態度を示さないこと」とスミス氏。スミス氏のコメントを理解するためには、外国に初めて到着したときに自分が放つイメージを一歩下がって観察してみればよい。

長時間のフライトの疲れと、その国に不案内なことが重なり、優柔不断で、そわそわしているように見られているかもしれない。高価な旅行カバンを引き、高価なスーツを着用し、高価なラップトップを入れていると言わんばかりのPCケースを肩に下げてはいないだろうか。このようなあなたの姿は強盗には、特に望ましい商品を満載した獲物と映る。もちろん詐欺師にとっては、ジェットラグに悩まされている「獲物」はとりわけ無防備である(詐欺の代表的な例を別項に挙げている)。

このような事態のせいで快適なはずの出張が突然、まるで目隠しをされて地雷原を歩いているような気分になってしまうかもしれないが、心配にはおよばない。自分自身を護ることとは、簡単な常識を働かせることに集約される。そのために、出張が安全でトラブルのないものとなるよう手助けしてくれる情報やアドバイスが豊富にそろっている。

プランニング

ジュリー・スミス氏は、「外国到着の第一夜を過ごす部屋は、必ず確実に予約しておくこと。飛行機を降りるやいなや宿を探し回り、迷子になり、安全ではない地域に迷い込んでしまうようなことは、誰も望んではいまい。運転も避けるべきである。安全で信頼できる交通手段を確実に予約するべきである。理想的には、空港に誰かに出迎えに来てもらうといい。予約したホテルの近隣のホテル名をいくつか記しておくことも大切である。ホテルを予約済みであっても、手違いがあったり、ホテルが故意に超過予約を受けていたりすることもあるため、満室の場合は別のホテルにあたる必要がある」と述べている。

またスミス氏は、「旅行カバンをピックアップした後は、それ以降の行動を正確に頭に描くこと。そうすれば目的意識をもって行動できるため、自信のなさそうな、その国に初めて来た人間とは見られないようになる」とも語っている。

もうひとつ考慮すべきことは服装である。周りに調和した服装を着用し、最高のスーツはビジネスミーティングのときまでとっておくこと。

ラップトップPCはあまり目立たない普通のカバンの中に入れておくこと。しかし、ラップトップPCが必要であるのかをまず自問すること。自社の海外支店への出張であれば、その支店のデスクトップPCを借用できるはずである。

自分のファイルへは、全社規模のイントラネットを介してアクセスする。また、データはせめて目に付きにくい携帯型ハードディスクやメモリースティックに保存して持ち運べばよい。実際、ラップトップPCが必要な場合であっても、データは別のメモリー装置に保存し携帯するほうがよい。いくらラップトップPCが高価とはいえ、その中に保存されているデータのほうがずっと価値が高いのである。

出張に持参せず家に置いておくべき物はラップトップPCだけではない。すべての貴重品にも同様のことを勧める。それら貴重品を利用せずにすむ場合は、家に置いておくべきである。ここで重要な問題は窃盗ではない。そのような窃盗を物理的に防ぐために自分自身を危険にさらすおそれがあることが問題なのだ。金銭は惜しくなくとも、感情的に価値の高い貴重品を守るためには闘争心にかられるおそれもある。

現金の隠ぺいは、ラップトップPCやその他の貴重品に比べ容易なように思われるが、それでも慎重に考慮し、事前の準備が必要となる。

ジュリー・スミス氏は、「重要なことは、最小限しか持たないことである。ひとつの場所にまとめて保管しないこと。たとえば、多くの旅行者は現金を服の下に隠したベルト内にまとめて保管している。これは間違ってはいないが、すべての卵をひとつのバスケットに入れないように、と言いたい。コーヒーや新聞を買うとき、あるいはウェイターにチップを渡すときにいつでも服をたくし上げるのでベルトに注意が集まることになる。高額の現金はベルト内に是非とも保管すべきだが、ベルト以外に簡単に現金を出せる場所にも少額を入れておくべきである。少額の商品のための小銭やチップをすぐ取り出せるようにしておけば、旅行が楽になる。さらに大切なことは、こうすると釣り銭のごまかしや窃盗者の注意を引くことが防げるのである」

ホテルルームという聖域に到着し、ほっと安堵の息をつくこともまったくの認識不足であるとセキュリティー感覚への警鐘が鳴る。

「ホテルは安全な場所だと感じられるが、自分自身のセキュリティー確保のための措置は講じる必要がある。つまり理性的な予防措置をとるのである。予防措置は部屋のドアや窓の正常なロックの確認などの簡単なことでよい。特に女性の単独出張の場合は、部屋が一階であったり、長い廊下の端にあったりすれば、変更の依頼を考慮すべきである」とジュリー・スミス氏は語っている。

「安全にチェックインを終えた後も絶えず警戒を怠らないこと。たとえば、部屋にもどった際にドアが半開きになっていれば、理由を問わず絶対に部屋に入ってはならない。室内に入って何が起きているのか確認したいと本能的に思うことであろうが、その場を離れ、フロントに事態を説明しに行くという理性が働くはずである。また、異常なことは何も起きていない、掃除されただけだ、と思うかもしれない。そう考えたとしても、たとえば廊下に掃除用具のワゴンがあるかなど、その証拠となるものを確認しなければならない」ともスミス氏はコメントしている。

スミス氏はある会合に参加したときのことを回想し、その経験から語っている。ひとりの女性参加者がホテルにもどった際に部屋のドアが開いていたが、とりあえず入室したところ、侵入して彼女の所持品を物色していた男が襲ってきた。

幸い彼女は冷静さを失わず、犯人に逆らわず、何をしているのか聞きただすこともせず、その場からすばやく立ち去り、フロントに事態を説明しに行ったのである。

「彼女が侵入者と争っていたら、違う結末になっていたであろう。強盗の身になってみること。突然宿泊者が現れ驚きまどい、出口をふさがれてしまった。強盗はパニックに陥り、パニックから見境のない暴力に簡単に発展するのである」とスミス氏。

闘争の回避はいつでも最も重要な方策である。争いを避ければリスクは大幅に減るが、どんなに慎重であっても襲われる可能性はつねに存在する。

しかし、傷害を負うリスクを低減するためにできる実践的な方法がある。まずは叫ぶことである。できるだけ大声で叫ぶべきであるが、ただわめいていてはいけない。声が聞こえる範囲にいる人間に聞こえるように、「助けてください。強盗です。警察を呼んでください」などと明確な表明をすること。

旅行者に対してよく使われる詐欺の例

  • 偽装の交通事故。
  • 注意をそらさせた上での窃盗。何者かが旅行者に何かをこぼしかけ、旅行者の身体を拭いている間に旅行者のポケットから窃盗をはたらく。
  • 偽の公務員(警察官や入国管理官)が旅行者のパスポートや現金などをチェックする。
  • 親しげな見知らぬ人間−知らぬ場所に彼らと同行してはならない。
  • タクシードライバーによる釣り銭のごまかし。
  • 不法タクシー−信頼のおけるタクシー会社名を滞在先のホテルや空港で確認する。
  • 偽の旅行ガイド
  • クレジットカードによる詐欺

「渡航前に確認すべきこと(Know Before You Go)」キャンペーンは、旅行者の海外旅行中の安全確保を支援するために英国外務省(Foreign and Commonwealth Office: FCO)により2001年に始められた。

FCOが定めた上位項目は以下のとおりである。

  • FCOの渡航に関わる勧告(FCO Travel Advice)を確認する
  • 少なくとも渡航6週間前までに接種が必要な予防接種を確認し、特別の健康上の予防措置を講じる必要の有無を検討する(英保健省のウェブサイトを参照)
  • 信頼できるガイドブックを入手し、渡航先の情報を得る。渡航先の法規や慣習を確認する。
  • 旅行保険の有効期限を確認する。
  • パスポートは、期限などその内容が有効であるかを確認し、ビザの必要性も確認する。
  • パスポート、保険証書、24時間応急相談電話番号、渡航チケットの明細のコピーをとる。これらのコピーと旅程、連絡先を家族や友人に渡しておく
  • 旅行に十分な現金を用意し、それとは別に予備用にトラベラーズチェック、英ポンド、米ドルなどを持っておく

詳細は、新しいウィンドウに表示しますwww.fco.gov.uk/travelを参照すること。

強盗を牽制するための手法で、他者に異常に気づいてもらうために有効といわれているものには、吐くようなふりをする、知人を見つけ助けを求めるために手を振ったり呼び止めたりするふりをするなど、なんらかの不意の行動をとるということが挙げられる。どのような方法であれ、効果的に活用するために大切なことは事前に頭の中で行動をリハーサルしておくことである。こうすることで実際に有事の場合、自然に説得力をもった行動をすることができる。

その他に強く勧めたい手法は、非常用パーソナルアラームを携帯することである。スージー・ランプラフ・トラストは、できるだけ大音量を出せるアラームを薦めている。最低130デシベルの鋭い継続音を発するものが必要である。アラームの音量はよく通る鋭いものであることが重要である。

パーソナルアラームの主目的は、一般にそう思われているような、危機的状況を他者に知らせることではない。近くにいる人はアラームに反応してくれるかどうかわからないので、頼ることはできない。実際の主目的は、攻撃してくる人間にショックを与え混乱させひるませることで、逃げるタイミングをつくることである。

パーソナルアラームには基本的にガスアラームとバッテリーアラームの2種類がある。ガスアラームは鋭い継続音を発するが、与圧容器を使用しているため航空機内では使用できない。バッテリーアラームには与圧容器の問題はないが断続音を発するという難点がある。この断続音は通常の自動車の警笛と同様の音のため、継続して高音を発する装置としてはさほどの効果がないといえる。

必要時に備え、パーソナルアラームをどのように活用するか事前に準備しておくことが大切である。アラーム操作には慣れておくこと。非常時にはおそらく暗闇の中ですばやくスイッチ操作ができなければならない。危険地域にいると感じる場合は、手の中にアラームを握っておくこと。手からアラームが離れた瞬間に自動的に作動するよう設定できるアラームもある。もっとも避けたいことは、操作方法に不案内なアラームを非常時にポケットやバックの中を探し回ることである。

ジュリー・スミス氏はさらに、「アラームを使う必要が生じたら、アラームを攻撃者の耳元にできるだけ近づけてからボタンを押すこと。そして逃げること。立ち止まらず、考えず、ただ走り去ること」と語っている。

スージー・ランプラフ・トラストではパーソナルアラームの選択と使用法を説明した非常に有益なリーフレットを2種類用意している。これらのリーフレットは以下から入手可能である。

新しいウィンドウに表示しますwww.suzylamplugh.org/tips/choosingalarms.pdfPDF[101KB]

新しいウィンドウに表示しますwww.suzylamplugh.org/tips/usingalarms.pdfPDF[74.3KB]


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