このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。

効果的な安全対策プログラムで規則違反を防ごう

資料出所:National Safety Council発行「Today's Supervisor」2001年2月号 p.4-7
(訳 国際安全衛生センター)

マーキサン・ネイソー(Markisan Naso) 副編集長


OSHA(労働安全衛生庁)の規則に対する違反に関しては、ひとつの問いが絶えず付きまとうようだ。「どうしたら、これから逃れられるか」という質問である。どの会社もOSHAからの召喚状や罰金を回避する対策を見出したいと望んでいるが、これでは「予防」というもっと大きな問題点を見逃している。そうではなく、規則違反につながるような出来事から労働者を守ることに焦点を当てるべきである。優れた安全プログラムの制定を最優先しなければならない。安全管理士(safety professioanl)でNSC(全米安全評議会)の主要メンバーでもあるジョー・ケルバス(Joe Kelbus)は次のように語っている「他の会社が最近OSHAに高い罰金を払ったと聞くたびに、どの事業所長も私のところへ来て、OSHA規則の違反はどうやったら避けられるかという質問を投げかける。こういう心配も人間としては当たり前かも知れない。特にこのような出来事に備えて、計画を立てていなかった場合はね。」


最善の慣行というアプローチ

優れた安全プログラムは、まずOSHAとゆるぎない関係を築くことが出発点である。OSHAは一見、罰金の徴収に走り回り、違反の摘発に懸命なように思われているが、実は労働者の福祉を心配しているのである。企業は往々にして安全問題に関して自社の職場を安全なものにしようとはせずに、OSHAを非難している、とケルバスは考えている。

「現実に、OSHAに関して我々がとる道は二つある。選択肢その1は、安全と健康には、引き続き低い優先度しか与えないこと。労働者の誰かを安全担当管理者に昇進させ、傷害の発生件数を数えさせ、安全問題となったらすべてOSHAを非難させることだ。悪いのはOSHAだと言っていれば、自分のところの重大な安全問題は、そのうち消えていくと期待するのだ」。ケルバスは続けて語った。

「選択肢その2として、安全衛生に関する3ヵ年計画を立て、職場内の危険を把握し、低減し、排除することができる。安全と健康のための長期計画は、OSHAが要求するから立てるのではない。これが、より安全な職場環境を築くための、最善の慣行というアプローチである。」


安全第一主義の育成

優れた安全対策プログラムを作成するには、自社の職場に特有な問題を把握することから始めるべきである。まず労働者を作業過程に参画させることから始める。

労働者と話し合って、危惧される災害や問題に対する労働者の見通しを知ることが、貴重な情報源である。職場の安全衛生問題に関する知識、技法、理解を向上するために、監督者は安全講習会への出席も考えるべきである。安全講習会は、ある企業またはある事業所における安全と衛生の活動を促進し、業界ならびに政府の基準を達成するのに必要なスキルを形成する機会を参加者に提供する。NSCが主催する講習会「労働安全衛生」は、こういった活動を支援するための優れた手段である。

安全講習会は、それぞれの受講者に自分の職場が抱えるリスクを確認させることによって、長期安全計画の策定手順を大筋で決定するのに役立つ。安全衛生に関しては、それぞれの職場にそれぞれ異なった課題があるため、異なったアプローチと予防策をとる必要がある。しかしいずれにせよ、一般的な目標は変わらない。どんな安全計画でも、職場の危険を把握し、その影響を無効にするか排除する方法を見つけなければならない。そのために監督者と労働者は、以下を実行するための知識とスキルを磨かねばならない。

  • ある組織内でのリスクの許容レベルと、なぜ危険の把握と管理が危険防止にあたって最も重要な2本の柱であるかを明確にする。
  • 個人および組織のコミュニケーションに関する基本的な要素を把握し、安全衛生に関するメッセージの有効性を高める。
  • 報告と調査を要する事故のタイプと、事故報告を妨げる障害をどのように克服するかを決定する。
  • 安全衛生の規制問題に対応し、特に、OSHAの法令、管理、監督、基本的遵守ガイドラインに重点をおく。
  • 負傷や疾病を予防し、OSHAの要求事項に応えるために、記録の活用とその効用を把握する。
  • 安全点検の3つの局面を準備し、運用する。
  • 電気・火気の安全、整理整頓、機械や設備の安全装置に関連する危険や障害を把握する。
  • 労働衛生・職業性疾病のリスクを認識し、評価し、管理する。
  • エルゴノミクス的なリスク要因を評価し、是正措置を勧告する。
  • 重量物を人間が取り扱う場合、または資材を倉庫に保管する場合、上げ下げによる負傷を防止する複数の方法を明らかにする。
  • 個人用保護具(PPE)をいつ使用すべきか、また労働者のPPE受け入れを高める複数の方法を決定する。
  • 作業安全分析(JSA)手順を開発し、作業指示訓練(JIT)を確立する。
  • 新入社員にはオリエンテーションをほどこし、労働者の作業能力を高め、事故発生とコストを抑える。
  • 安全ミーティングを計画し、実行し、継続をはかる。
  • 安全衛生マネジメントシステムの主な要素を、自社の安全衛生向上計画に応用する。

これらの目標は、労働安全衛生に関する原則を、理解し応用するためのアウトラインに過ぎない。これらを実行に移すには、多大な作業、協力、労働者の参加が必要となる。


労働者参加の推進

安全対策プログラムを策定すること、また基準違反を防止するにあたって、最大の課題のひとつが労働者をその過程に参加させることである。

安全ミーティングへの参加を呼びかけるにしても、保護具の利点を力説するにしても、労働者の関心を引き付けるのが難しい場合が多い。良好なコミュニケーションは絶対に不可欠である。効果的な安全衛生プログラムを確立するためには、個人ベースならびに組織ベースの、コミュニケーションの要素を理解することが重要である。

「ビジネスで一番重要なのは、コミュニケーションであることは間違いない」。こう述べるのは安全管理士のマイク・バチェットである。「安全とは何かを、労働者が理解しているという前提に立ってはならない。何度も話し合い、教えねばならない。」

自分たちの職場で、安全メッセージの伝え方を改善する活動を列挙することから始める。安全メッセージが職場の入り口に掲示されているか? 職務記述書・目標記述書の一部として、安全衛生ポリシーに関する記述が含まれているか? 安全衛生の実践や手順が文書化されているか? 監督者が、毎日、安全衛生プログラムをサポートしているか?

こうした質問に対する答えが、職場での安全意識を高める戦略を策定するベースとなる。職場で安全性の優先度が低いと労働者が感じれば、また監督者がこの優先度が低いという態度であれば、労働者の参加意欲は低下する。監督者が労働者の福祉にもその他の人々の福祉にも配慮していることを示し、それを手順中に織り込むならば、かなり大きな反応が得られるだろう。前述した通り、労働者に話し掛けて仕事や責任について質問することは、安全対策計画を立てる上で大きな情報源となる。こうした交流は、危険の可能性を把握するのに役立つだけでなく、これらの作業者を手順に参加させることにつながる。「災害の危険性を把握する場合には、できる限り労働者の手を借りるよう、強く推奨する。労働者は、何が役立ち何がそうでないか、何が負傷の原因となるかを一番よく知っているのだ」と、バチェットは言う。


安全には時間がかかる

有効な安全プログラムを形作るまでには、多くのステップがある。事故レポートや安全点検、記録維持、安全ミーティングといった課題は、みな継続的な手順の一環であり、そのすべてに取り組まなければならない。しかし忘れてならないのは、安全対策に参画しこれに力を入れるのは、時間のかかる作業であるということだ。決して一夜にして完成するものではない。安全システムを稼動させるために時間をかけることの良い面は、一旦完成すれば役所からの召喚状や罰金を心配する必要がなくなることだ。すでに問題点を把握しているから、監督があるというので、慌てて現状を取り繕い、次の違反をどうやって逃れるか頭を悩ます必要はなくなる。

「多くの人たちがOSHAをスケープゴートとして利用している。OSHAの基準を満たすには何百万ドルも掛かることを話題にし、常に抜き打ち監督に対して非常に怯えている。もし君たちがまさに犬のように、死にそうな格好で足を引きずっていたら、真っ先に監督の対象になるだろう。だが、自分の仕事をこなし、安全向上に努めていれば、決してOSHAを怖がる必要はない」。バチェットの言葉である。

また、安全に対して常に最大限の努力を新たに投じていくことも大事である。自身の意欲をかき立て、新しいアイデアを学ぶために、将来もいろいろな講習会に通うことだ。職場での安全をおろそかにすることは、重大な事故を招来する可能性があり、多分OSHAの監督も入るだろう。しかしもっと大事なことは、労働者にけがを負わせる可能性があることだ。

OSHAの規則に対する違反に関しては、絶えずひとつの問いが付きまとうようだ。「どうしたら、これから逃れられるか」という問いである。どうして逃れるかなどが、問題になること自体おかしい。そうではなくて、問題に飛び込んで行くべきだ。そうすれば最終的にOSHAを怖れることはなくなる。いつでも後ろを振り向いて怯える必要はなくなる。結果として職場仲間の一層の安全がはかられる。ケルバスが次のように語っている。「安全対策計画を練ることが試練であり難問であると感じられたら、その作業は本物だ。しかし、長期的に見れば、このアプローチのお陰で、けがをする人の数が減るのだ。これこそ、安全の安全たる所以である。」

NSC主催の「労働安全衛生講習会」についての詳細はNSCのウェブサイト(www.nsc.org)を参照のこと。