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作業安全分析:事業場における最善の慣行

デビー・フェルドマン

(資料出所:National Safety Council発行「Today's Supervisor」 2001年7月号 p.4-7)
(訳 国際安全衛生センター)



今日の監督者は、職場における安全を改善し、労働災害、事故のリスクを軽減してほしい、という強い要望を受けるようになっている。作業安全分析(JSA)は、監督者が作業における危険性を明確にし、労働者の安全衛生に貢献するのに役立つ、手段の一つである。


JSA(Job Safety Analysis)

JSAとはある仕事における各単位作業(task)の体系的分析であり、労働者が実施すべき段階的な手順を明確にし、それにともなう潜在的な危険性を特定し、それを回避する方法を考えるものである。「単位作業」とは仕事の一部分で、それを完了するための一連の特定的な行動を言う。JSAを通じて、監督者や従業員は単位作業を検討し、それらに付随する危険性を明らかにし、安全な作業手順を確立し、それによって危険性を除去または最低限に抑えることができる。

作業安全分析(JSA)はまた作業危険性分析(job-hazard analysis)、活動危険性分析(activity-hazard analysis)、または単位作業特定危険性分析(task-specific hazard analysis)とも呼ばれている。JSAは職場でのOJT教育、監督に利用されている。普通は監督者1人と、特定の単位作業のステップをよく知っている従業員3人で、1つのJSAチームを作る。従業員1人が単位作業のステップを実施し、別の者がそれを観察し、記録を取って行く。

「JSAは職場での安全管理システムの一部です」と米国安全評議会のCSP、ジョゼフ・R・ケルブスは言う。「JSAは監督者が仕事の各単位作業の危険性を認識するのを助け、作業の安全性を高める規制措置の実施を支援する、最善の慣行として推奨されています」

「われわれはJSAを効果的で重要な訓練手段として、さらに監査手段としても利用しています。その目的は作業の順序が進められる過程を観察、チェックし、どのステップも見逃さないようにすることです」と言うのは、1,800人の労働者を雇用しているテネシー州アルコアのアルコア社テネシー事業部安全損失管理部長のマイケル・ラーベである。


多くの利益

「JSAは安全についての話し合い、問題の解決、事故調査、新規従業員のオリエンテーションなどに役立っています」と、ケルブスは言う。JSAは作業を安全にし、その結果事故もけが人の数も少なくなる。その上事故による負傷からくる労働時間、生産の損失も減る。さらに労働者の職場における安全についての姿勢も改善され、安全の重要性がよく認識されるようになる。

JSAはいくつかの重要なことを事業者に教えている。「どんな個人用保護具(PPE)を従業員は身につけるべきか、特定の作業にどのような特殊な手順や装備(たとえば落下防止用ハーネス)が必要か、事故は何から生じたのか、などをJSAから学ぶことができる」とラーベは強調する。

JSAを実施する基本的なステップは次の通りである。

  • 職種や作業のリストを作成する。
  • どの作業を分析するか、選定する。
  • 単位作業をステップに分解する。
  • 各ステップを観察する。
  • 危険性を特定する。
  • 危険性のそれぞれを取り除くための解決策と手順を開発する。
  • JSAを検討する。
  • JSAを実施する。

こうしたステップが示すように、最初に決めるのはどの作業を分析するかで、続いて検討する作業のリストを作成する。たとえば、溶接工が行う個々の単位作業についてJSAを実施しなければならない。次にそれらの単位作業の優先度を決め、最も重大で頻繁な事故、傷害が起きているものを最優先する。そのための方法として、最も事故の多い場所を特定する、あるいは会社の医療記録をチェックするなどが考えられる。危険なステップを含んでいるが、事故が起きていない単位作業に次の優先度を与える。始めたばかりの新しい作業もJSAの対象に加える。分析すべき単位作業のリストは会社が新しい作業を追加したり、機器、機械類を変更したりした時には、更新すべきである。


観察し、学習する

どの単位作業を分析するかを決めたら、だれに安全分析プロセスに参加させるかを決める。この単位作業に従事した経験のある従業員、現在従事している従業員に会い、またこの作業をよく知っている人間を探す。単位作業を実施している従業員に作業を進めさせ、それに伴ってJSAを作成して行く。作業中の労働者を観察するだけでなく、各単位作業をビデオに撮影するのも一つの方法である。オフィスに戻ってビデオを見れば、単位作業やステップを見逃すことがない。単純に見える作業でも多くのステップから構成されていることを忘れないようにすべきである。

ビデオテープは永久的な記録で、見過ごしたものがあったり、観察の際に記録し忘れた事項があったりした時に役に立つ。「われわれはビデオを入門段階の作業によく使います。訓練すべき事項が非常に多いので。また交替が非常に多いケースにも使っています」とラーベは言う。


書式に記入する

JSAの書式に見たことを記入して行く。JSAの書式は4部に分かれている。上の部分は単位作業、会社、JSAに関係する人々の氏名、単位作業を行うために必要な個人用保護具(PPE)などの情報を記入する。左側のコラムには単位作業の基本的ステップと、それを行う順序を記入する。中央のコラムには、最初のコラムに記入された各ステップに関連するすべての危険性を記載する。右側のコラムには、危険性を排除または軽減するための方法の提案を記入する。最上部には単位作業の標題、日付、作業を担当する者の職位、プラントの名称、場所、部門名、監督者の氏名なども記載する。

各ステップに番号を付け、それらの実施順序に従ってリストに記載する。作業行動を表す用語、たとえば「積み込み」(load)、「荷下ろし」(unload)、「スイッチを入れる」(turn on)、「持ち上げる」(lift)などを使う。各ステップで実施している行動を簡潔に記載する。単位作業のすべてのステップが完了するまで続ける。

危険性のリストを作成する際には、物理的、化学的、機械的、作業上、または作業場の危険性を含めるように注意する。危険性を特定する場合、次のことを考慮する。

  • 物体に衝突する、または衝突される危険性がないか。
  • 物体中に、または物体の間に挟まれ・巻き込まれる危険性がないか。
  • 転倒したり、墜落・転落する危険性がないか。
  • 押す、引く、持ち上げる、曲げる、ねじるなどの作業で緊張を生じないか。
  • 目、手、足、その他労働者の体の部分に危害が及ぶ危険性はないか。

このようにして特定した危険のそれぞれについて、危険を除去し、または事故発生のチャンスを減らす方法を提案する。書式ができあがったら、安全担当管理職に提出して評価を求める。完成したJSAのコピーは各従業員にも配布する。ラミネート仕上げした書式を作業場の近くに掲示し、すべてのJSAをバインダーに綴じて、保管すれば、すべての従業員に見せることができる。従業員も監督者も毎日、JSAを見て必要に応じて使用できるようにする。


JSAを習慣にする

会社は単位作業に変更がなければ、6カ月または12カ月おきにこれらのJSAを再検討するべきである。単位作業が変更され、または作業上で事故が発生した場合には、すぐにJSAを再検討する。事故発生の場合には、JSAを更新、改訂する必要があるかどうか、検討する。改訂した場合にはその作業を実施するすべての従業員の再訓練を行う。

「当社ではJSAを2年ごとに書き直している。ひとつは能動的な方策として、最後のJSA以後、特定の単位作業について何か変化はなかったかを探るために行っている。反応的な対策としてもうひとつは、事故調査の際、何が間違っていて事故につながったのかを明らかにして、JSAを再検討しています。」とラーベは言っている。


従業員の参加を奨励する

JSAが承認される前に、観察した従業員をチェックし、すべてのステップが含まれ、正確な順序で記載されていることを確認する。従業員にJSAに付け加えるべき、新しい危険性はないか質問する。従業員が勧告された安全対策をテストしてみたかどうかも確認する。このようにして、JSAが効果的に機能するように進めて行く。従業員がJSAのプロセスに参加するようになれば、作業場の安全に対する姿勢も積極的になるだろう。

従業員はそれぞれの単位作業について専門家であることを忘れてはならない。監督者は従業員に単位作業の組み立てを聞き、各ステップに付随する危険を特定し、危険を管理できるような手段を考える手助けを求めるべきである。「われわれは従業員にJSAの作成に参加するように要請している」とラーベは言っている。


次のステップは何か

JSAは新規従業員の訓練、現従業員の再訓練の資料に、また事故発生原因の究明に利用できる。事故や傷害が発生した時に、従業員は何をしていたかを事故の調査員が知るためには、JSAが手がかりになる。JSA作成の詳細については全米安全評議会(National Safety Council)(800-621-7619)に問い合わせていただきたい。パンフレット「作業安全分析」(Job Safety Analysis)も入手できる。