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職業ガンとの戦いに力を貸す
(デビー・フェルドマン)

資料出所:National Safety Council発行「Today's Supervisor」2001年3月号 p.4-7
(訳 国際安全衛生センター)


アメリカがん協会によれば、毎年およそ120万人がガンと診断されている。ガンは、細胞が異常に増殖し、体の組織や臓器を侵襲することによる疾病である。

男性では前立腺ガンが最も多く、女性では乳ガンが最も多い。肺ガンと大腸ガンは男女を問わずよく見られる。喫煙が肺ガンの原因となり、日焼けが皮膚がんの原因となることは、多くの人の知るところである。しかし、多くの人は事業場にもガンの危険有害要因が多数存在していることを認識していない。幸運なことに、これらの危険有害要因は防止することができるのである。

職業ガン

職業ガンは事業場が発がん性物質に曝されていることによって引き起こされるが、これについて200年以上前に英国の医師が初めて調査し、多くの煙突掃除夫がガンを発症していることを明らかにした。ガンの原因となることが知られているほとんどの物質は、これらの物質に暴露する労働者を調べることによって特定されてきた。現在、およそ1200万人の労働者が事業場で発がん性物質に曝されており、ガンの約4%は職業上の暴露に関連していると推定される。米国立がんセンター(NCI)によれば、すべての肺ガンの10%から20%、そして膀胱ガンの21%から27%が、発がん性物質への職業的暴露に関連すると考えられている。

1970年の労働安全衛生法は、事業場における発がん性物質の許容暴露限界(permissible exposure limits : PEL)を定めた。米労働省の一部門である労働安全衛生庁(OSHA)は事業場における危険物質への暴露を監視し、PELを設定して、これを施行する責任がある。OSHAでは、順守担当官が事業場の危険有害要因を監視し、研修について、これらの危険有害要因について労働者を教育していないものがないか目を光らせている。OSHA基準29 CFR 1910.1003から1019.1016は、労働者は工学技術による制御、安全な作業の実施、個人用保護具(PPE)によって職業上のガン危険有害要因から保護されなければならないとしている。

OSHAは法により、その労働衛生基準を実施するよう規定されている。OSHAはヒトに対する24の既知の発がん性物質について基準を設けて、各物質のPELを規定し、また危険物質の表示を求める他の基準も設けている。当局はまた、事業場が労働者にPPEを供給し、発がん性物質への暴露を検出するための検診を受けさせることも求めている。

自分の身に関わる発がん性物質を知ろう

労働者が発がん性物質に暴露する職業としては、塗装、石油精製、家具製造、採鉱、印刷及び複写操作、ドライクリーニング、アルミニウム製造、ゴム・コークス生産、石炭ガス化産業が挙げられる。ベンゼンと白血病、塩化ビニルと肝ガンなど、発ガンとの関わりが知られているものもいくつかある。

しかし、事業場の多くのガン危険有害要因は、労働者にこれらの危険物質を安全に扱う適当な方法を教育することに加え、PPE、既知の発がん性物質を危険性の低い物質に置き換える、工学技術による制御を用いるなどの予防戦略を用いることによって最小とすることができる。

米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)の一部門である国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は労働衛生調査を実施し、その調査に基づき勧告を出している。NIOSHは131の物質を職業上の発がん性物質の可能性があると特定している。国立衛生研究所の国立環境衛生科学研究所のプログラムである国家毒性プログラムは、発がん性物質であることが知られているか、または疑われるすべての物質をリストアップした発がん性物質に関する年間報告を発行した。これには発がん性物質への暴露の程度と特徴に関する情報、および各基準も含まれている。最も新しい報告は"9th Report on Carcinogens, 2000(「第9次発がん性物質報告書、2000年」)"であり、ヒトの発がん性物質であることが知られている物質と、ヒトに発がん性があると予想される他の物質が記載されている。写しはhttp://ehis.niehs.nih.govで入手できる。

自分が属している特定の産業において最もよく挙げられる危険有害要因を見つけるには、OSHAのウェブサイト(www.osha.gov)の"The Workers' Page(「労働者のページ」"を参照されたい。まず、自分の事業者の標準産業分類(SIC)コードをさがす。そこから、" Frequently Cited OSHA Standards(よく挙げられるOSHA基準)"のページに行き、自分のSICコードを入力すると、前年度の情報が表示される。

自分を守ろう

仕事での発がん性物質暴露から自分自身を守る方法はたくさんある。工学技術的解決は暴露を制限する最良の方法の一つである。事業場から発がん性物質を完全に取り除き、別の毒性が低い物質に置き換えることが可能な場合もある。例えば、既知の発がん性物質であるアスベストの代わりに人造鉱物繊維を用いることができる。有害の可能性がある物質を扱う別の方法は、化学および核産業でよく行われるように、その物質を隔離する方法である。

空気中の汚染物質の場合のように、危険物質を完全に封じ込めることができない場合、適当な排気または換気システムによって労働者の暴露を減らすことができる。また、労働者が危険有害要因に曝される時間を減らすよう、作業日程を調整することもできる。

すべての労働者は仕事中に暴露する可能性があるすべての汚染物質について、その色、臭い、触感を学び、その暴露の症状を見分ける方法を知っておくべきである。OSHAの基準再検討室長(Director of the Office of Standards Review)によれば、事業者は法により労働者に化学物質等安全データシート(MSDS)を提供し、危険物質周囲での作業方法を教育するよう求められている。

個人用保護具(personal protective equipment : PPE)

個人用保護具には、労働者と危険物質との間にバリアを作る衣服および他の付属品が含まれる。監督者はPPEの扱い方を定め、次いでPPEの使い方および適切なメンテナンスについて労働者を教育すべきである。労働者は自分の特定の仕事で用いるPPEの種類について、どのような時に使う必要があるか、そしてその時の着用法、制限条件、手入れの仕方を教わらなければならない。事業場は労働者に対し、汚染されたPPEの適当な廃棄法についても教育しなければならない。PPEは危険有害要因を完全に除去するわけではなく、PPEがうまく機能しなければ暴露が起こることを憶えておかねばならない。したがって、失敗の可能性を減らすために、装具は適切に着用し、メンテナンスしなければならない。

液体化学物質、化学ガス、蒸気により目または顔面に傷害を受ける可能性がある場合には、労働者は目および顔面の保護具を着用すべきである。目の保護具には、ゴーグルまたは眼鏡がある。ゴーグルはさまざまな使用状況に対しそれぞれ異なるスタイルで機能し、粉じんや飛沫から保護することができる。フェイスシールドも役に立ち、安全帽やヘルメットに顔面および目の保護具を取りつけて設計されたものもある。

事業者は、暴露レベルがPELを超えた場合に労働者が使うための呼吸用保護具を提供すべきである。ゴムおよびゴム引き織物、ネオプレン、プラスチックはある種の酸および化学物質に対し保護作用がある。プラスチックまたは他の合成素材の使い捨て保護衣は粉末物質または飛沫性物質からの保護において重要である。非常に毒性の強い物質の場合、完全密閉型の化学保護衣が必要であろう。手指および腕を保護するには、危険物質に対する保護手袋、ハンドパッド、スリーブ、袖口バンドがある。

新しい危険有害要因か?

CDCはあらゆる電気器具を取り巻く電磁場(electric and magnetic fields : EMF)への暴露によるヒトへの影響を調べている。CDCによれば、いくつかの研究が、高磁場に暴露した何人かの労働者で発がん率が上昇していることを示しており、少数ではあるが、高磁場で作業している人々の白血病および脳腫瘍の発生率がわずかに上がっていると報告している研究もある。また、2〜3の予備的研究からは、事業場のEMFと女性の乳ガンが関連づけて考えられている。

事業場で働く女性は、職業上いくつかのガン危険有害要因に直面している。発がん性物質に暴露している女性労働者の割合が高く、ガン危険有害要因を伴う職業には、医療関係、電気・電子機器製造、印刷・複写業、ドライクリーニング業が含まれる。

利用できる補助措置

OSHAの連邦・州業務活動(Federal-State Operations)次長(Deputy-Director)によれば、OSHAは相談プログラム、すなわち事業者が法を順守するのを助ける、各州の出先機関プログラムを提供している。OSHA職員が事業場を訪問し、いかにして法規を確実に守るかの監督指導を行う。このプログラムは「危険度の高い」産業における労働者250名未満を擁する事業者を対象にしている。このプログラムの詳細はwww.osha.govで入手できる。あるいは地方または州のOSHA事務所に連絡されたい。