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家庭での安全−従業員の安全と健康を守るために

(NSC発行「Today's Supervisor」 2002年1月号 p.4-7)
(訳 国際安全衛生センター)


ジュリー・ドイルの報告:

監督者として、あなたが会社の従業員の安全について考える時、彼らが職場で安全に働けるようにするためには、何を知っていなければならないか、何をしなければならないかについて焦点をあわせるのが普通である。しかし、もしあなたが本当に彼らの安全を守ってやりたいと考えるならば、彼らが毎夕、会社の外に出た時、何が起こっているのかについて注意を払う必要がある。

家庭は、けがが発生するところのようだ。偶発的なけがの殆どは、職場の外で発生している。事実、米国安全協議会(NSC)によれば、1999年には、職場では5,100の人が死んだのに対し、家庭では28,800人の人が死亡している。

一見したところ、とりわけ、職場は大型機械と危険な材料に囲まれているのをみると、職場は、家庭よりもっと危険が多い環境にあるようにみえる。しかし、統計を見るとはっきりしていることだが、家庭にある全てのものが、家庭を危険な場所にしたてるものとなっている。全国安全データベースに見ると、6千人以上の人が、家庭での事故に一番共通している原因、すなわち高いところからの転落で、毎年死亡しているのです。

家庭での火事やぼやで、約4,000人が命を奪われ、それと同数の人が、偶発的な中毒で亡くなっている。窒息、バイク事故、銃器、溺れ、電気などが、家庭の中やその近辺で起きる偶発的な死亡・傷害事故のもうひとつの共通する原因であり、毎年約6,000の人が亡くなっている。

職場を別にすれば、働く人の命を救うという点では、単一原因としては、車の安全が最も重要であるのは間違いない。NSCによれば、約39,000の人が、1999年に、車の衝突事故で死亡し、200万以上の人が負傷している。


家庭の安全が職場でも生きる

上記の数字がはっきり示していることは、従業員が仕事に邁進出来るよう、健康と安全を保つことにあなたが関心を持っているならば、家庭での安全問題が、包括的安全プログラムに含まれなければならない。「もしある従業員が、一日が終わる時に、家庭でけがでもしたら、彼もしくは彼女は、働くことができなくなり、会社にとっては職場でけがしたのと同じ結果となってしまうのです」とデラウエアー州のニューワークにあるデユポン・セフテイ・レソーシーズ社の営業担当副社長であるマイケル・クリッケンバーガー氏はいう。この会社は企業向けに安全訓練とコンサルタント・サービスを行っている。

クリッケンバーガー氏は、家庭での安全を奨励するための良い第一歩は、職場での安全には値打ちがあるという認識を確立することだと確信している。「我々の経験からいえば、従業員は、事故は起きるものであり、避けられないものと考えているところから問題が起こってくるのです。もし、あなたがこの考え方を変えさせることができれば、彼らの家庭生活での情報を自然に入手できるようになる」と彼はいう。

しかし、本当に従業員に家庭での安全に注意を向けさせるためには、会社が定期的に開催する安全会議の一部として、家庭での安全にスポットライトを当てるのは良い考えだと、彼はいう。さらに「家庭での安全問題を、安全会議で常時議論する項目とすべきだ」という。議論する項目としては、転倒、つまずき落下、火事、家の保安対策といった、どの家庭に最も共通するものを対象とすべきである。

クリッケンバーガー氏は、家庭での安全を話す時には、シーズン毎にタイミングを考えて、話題に選ぶことを薦めている。「もし時期が、人々が庭で働きだす春の場合には、まだ体が慣れていない重労働をいかにこなすのがよいかということに焦点を当てよう」と、彼はいう。「もし仕事場が、野外の狩猟でにぎわう場所にあるなら、狩猟シーズンがピークを迎える直前に、狩猟の安全について話し合おう」。

家庭での安全の重要性を知るには、会合以外にも、いろいろな手段がある。例えば、全米安全評議会(NSC)から年に4回発行されている雑誌"家庭の安全と健康"は、40万人以上の国民の手に届けられている。この雑誌は、働く人だけでなく、家族全員に関する安全問題をとりあげている。「この雑誌を家庭に配布している会社は、家族の安全と健康に関心を寄せていることを示している」と、雑誌の編集者であるローラ・コイン氏はいう。「家庭での安全訓練と教育は、好意の意思表示である」。家庭に配布するだけでなく、バイク祭りのような、安全を推進する特別行事で、この雑誌を使用している会社はたくさんあるという。
家庭での安全を奨励する方法を求めている監督者は、チラシやポスター以外にも、従業員に送る給料支払い小切手に詰込むことも考えるだろう。外部の安全専門家を引っ張ってきて、家庭での安全を議論することを考えている人のために、クリッケンバーガー氏は、コミュニテイに誰が良いか意見を求めるよう薦める。「あなたとあなたの家族が、殆どの時間をどこで過ごしているのかを考えてください」と彼はいう。「あなたの住んでいるところの消防署、警察、医者に電話をするとよい。彼らはみんな、喜んで来てくれ、安全について話をしてくれることでしょう」。

家庭での安全についての資料は、誰でも簡単に入手できる。例えば、全米安全評議会(NSC)のウエブサイト(www.nsc.org)にある"事例シート閲覧館"では、家庭での安全を向上させるためのいくつかの方法を簡単に示したものが含まれている。


友好的なアプローチ

ボルチモア市にあるテイト・ライル社の北アメリカ砂糖加工工場の監督者達は、"わが友よ、友に危険な作業をやらせるな"と呼ばれる安全プログラムを打ち出した。このプログラムは、職場での安全とともに家庭での安全を推進するものである。工場のリック・ベイカー部長によれば、自宅の周りで仕事をする時は適切な保護具を身につけることや、安全な芝刈り方法といった家庭での安全問題に関して、メールで注意事項を、工場の従業員に送っているという。

工場の安全プログラムのかぎとなるのは、毎週水曜日に開催される朝食会であり、そこでは家庭での安全問題に的をしぼって話し合われる。工場の消防隊長であるデーブ・フライヤ氏によれば、この朝食会は、その会で話す話題を選び、交替で会をリードする従業員で構成する委員会により運営されている。「我々は毎週水曜日の朝、従業員にドーナツとコーヒーがくばられる朝の休憩時間が終わる前に、朝食会を開始し、通常は20人から40人で話しあう」という。「短い安全映画を見せ、また資料をくばって、落下防止やバイクの安全といった家庭での安全問題について会議をリードしている」。

フライヤ氏によれば、この会合は従業員には非常に評判がよい。「この朝食会で我々は、良いフィードバックをたくさん入手し、もっと知りたいと思う問題について、従業員から多くの提案をもらっている。我々はいつも多くの人達をひきつけているので、間違ったことはやっていないと自負しています」。

水曜日の朝食会に加えて、テイト・ライル社の安全プログラムには、さらに家庭での安全についてのビデオも作成し、従業員はそれを借り出すことができ、家庭に持ち帰ることも可能。そして年に一度、会社は、工場の従業員全員に、消火器や一酸化炭素検知機といった自宅の安全器具をくばっている。

工場はさらに、従業員の子供と孫を対象として、家庭での安全に関する絵を募集する絵画コンテストを毎年開催している。そのコンテストで上位12人が選ばれ、彼らの12枚の作品は、従業員全員に送られるカレンダー作製に使用されている。

このような安全に対する幅広い参加により、工場にとっても、驚く程の見返りを得てきた。工場の製造ラインを止めるような事故が一件も発生しない日が、1年のうち357日を記録している。さらに、この工場は、1999年に最も改善された工場に対して贈られる"安全優秀賞"を受けた工場のひとつとなっている。

しかし、もうひとつ重要な結果として、安全プログラムが従業員の間に浸透したという、良い感覚を得たことである。「我々は、しっかりと結ばれた集団であり、多くの仲間は、仕事を離れてもお互いを見守っている」とフライヤ氏はいう。「これが、我々が安全に関して従業員の家族全員を引き入れることが重要だと考える理由です。我々が従業員の家族にまで関心を持っていることを示すことができるのは、すばらしいことです」。