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全身振動の悪影響から逃れる
Tuning out the effects of whole body vibration

(資料出所:National Safety Council発行「Today's Supervisor」 2006年1月号 p.1)
(仮訳 国際安全衛生センター)


渡っているつり橋が突風の直撃を受けて揺れ動いたらどんな気分がするだろうか。重機や大型車両を操作する労働者は、機械を動かすたびに同じような感覚を全身で味わっている。
  全身振動と呼ばれるこうした強烈な体験にさらされる労働者の数は、米国内で毎年600〜800万人にのぼっている。米海軍労働安全衛生局(Occupational Safety and Health Department of the U.S. Navy)によれば、トラックをはじめ、バス、フォークリフト、鉄道、ヘリコプター、航空機、農機具、建設機械、船舶を日常的に運転する労働者が全身振動にさらされる可能性があるという。一般にこうした車両や機械を操作する労働者の身体は特定の振動周波数に同調するようになり、これが全身で増幅される。振動は車両と足を伝わって脊椎最下部の尾骨に届き、ここから腰椎をつたって身体上部に波及する。こうした振動周波数は、長い間に椎間板の変性といった重大な健康障害を引き起こす可能性がある。
  シンシナティ在住の振動専門家で生物医学工学者、ドン・ワッサーマン(Don Wasserman)氏はいう。「いったい何が起こるのか。一言で言えば、腰椎の椎間板に修復不可能な小さな外傷ができます」
  「最終的には、振動へのばく露が、振動に抵抗しようとする身体能力の方を打ち負かしてしまいます。椎間板は文字通り外に出てきます。小さな裂け目ができるのです。これがヘルニアです」、とワッサーマン氏。
  全身振動の振動レベルは非常に小さいので、被害者には感知されない。ワッサーマン氏によると、組織の損傷は、関節炎の場合とほぼ同様に、ゆっくりと蓄積していくという。そしてある日突然、予告なしに被害者を打ちのめす。
  ワッサーマン氏は、全身振動は背骨の外傷のほかにも、痔、高血圧、腎臓障害などを引き起こし、男女ともに生殖能力に悪影響を及ぼす可能性があるという。
  ワッサーマン氏によると、少なくとも7〜8年か、それ以上の期間の全身振動への恒常的ばく露があってはじめて、組織の損傷が目に見える形で表れるという。残念ながら、全身振動によるダメージを発見して評価することは、その影響が必ずしも明白ではないために難しい。したがって全身振動のもたらす悪影響は、よくある不快感としてしばしば見過ごされがちである。

空気に乗る

全身振動から労働者を守る一つの方法は、車両や重機にエア・サスペンション式シートを取り付けることである。エア・サスペンション式シートは、垂直方向の4〜8Hzの共鳴振動を取り除くよう設計されている。振動を断つしくみとして使われているのはエアクッションである。オハイオ州ニューオールバニーにあるCommercial Vehicle Group社の技師で、研究開発担当副社長のローガン・マリニックス(Logan Mullinix)氏によれば、エア・サスペンション式シートは、スプリングに相当する要素とショックアブソーバーを使ってダンピング(振動減衰)を実現している点で、車のサスペンションに似ているという。エア・サスペンション式シートは、シートと人をシステムとして一体化するバイオメカニクスにより、トラックを通じて伝わってくる振動の周波数には同調しないように作られている。
  マリニックス副社長によると、典型的なエア・サスペンション式シートでは10〜15%、場合によっては20%まで振動を抑えることができ、機械式スプリング・シートよりも保護効果は高いという。同副社長は、車両のシートのチューニングはもっと一般的になるのが望ましいという。
  ワッサーマン氏によれば、多くのトラック運送会社がすでに自社の保有車両にエア・サスペンション式シートを取り付けているという。同氏は、こうしたシートのほとんどは購入・設置の費用もそれほどかからず、トレーラートラックなら走行距離100万マイルまで保証があるという。