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PTSDへの対処
Coping with post-traumatic stress

(資料出所:National Safety Council発行「Today's Supervisor」 2006年11月号 p.1)
(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日2007.03.26

「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と聞いて、職場で起きた災害を目撃した人が発症するケースを思い浮かべられる人はほとんどいないであろう。しかし、バージニア州アーリントンの米国精神医学会(American Psychiatric Association)によると、足場から人が転落する、同僚が全身やけどを負う、自動車が衝突するなど、どのような衝撃的出来事の後でもPTSDを発症する可能性があるという。

ワシントンの国立PTSDセンター(National Center for Post-Traumatic Stress Disorder)によると、PTSDを発症した労働者は、悪夢やフラッシュバックの形でしばしば衝撃的的出来事を再体験し、睡眠障害のほか、孤立感・疎遠感があるという。また、PTSDを持つ労働者はしばしば仕事を休み、集中力に欠け、ストレスになりそうな状況を回避しようとするという。

対応

多くの企業は従業員支援プログラムを頼りにしている。従業員支援プログラムでは、万一災害が発生した場合に、非常事態ストレス・デブリーフィング(Critical Incident Stress Debriefing: CISD)を行うことができる。ウィーバー(Weaver)氏はいう。「こうした*デブリーフィングは、PTSDとは何か、どのような場合に助けを求めるべきか、トラウマ(心的外傷)を経験した人を支えるにはどうすればよいか、といったことを従業員が学ぶよい機会です」。地域の多くのメンタルヘルスクリニックも、従業員支援プログラムを持たない企業を対象に同等のサービスを提供している。

(*デブリーフィング(debriefing)とは:元来は軍隊用語で、前線からの帰還兵にその任務や戦況について質問し報告させることを指していた。それが、災害や精神的にショックとなる出来事を経験した人々のために行われる危機介入手段として転用されたのが心理的デブリーフィングpsychological debriefing(PD)である。もともと米軍のパラメディックでもあり救急隊員でもあった心理学者ミッチェルがさらに構造化した非常事態ストレス・デブリーフィングcritical incident stress debriefing(CISD)として開発し、よく知られるところとなった。それは、災害などの2,3日(少なくとも1週間)後に行われるグループ技法であり、2〜3時間をかけて、出来事の再構成、感情の発散(カタルシス)、トラウマ反応の心理教育などがなされるものである。)

ウィーバー氏によれば、衝撃的出来事の後は、従業員に専門の精神科医による治療を受けさせ、何か問題があればすぐに援助できる態勢を整えておくことが大事だという。

従業員がトラウマに対処するには、専門の心理療法士を交えたグループディスカッションや1対1のセッションによる治療が不可欠である。

ウィーバー氏によると、PTSDに対する最も効果的な治療法は、PTSDの従業員に衝撃的出来事を段階的に再体験させ、このときに生じる感情的反応を克服する手段を学習させることだという。

長期治療

数週間が経過した後もPTSDの症状が消えない場合には、長期治療が必要である。ウィーバー氏によると、従業員によっては、衝撃的出来事による影響がないように見えても、数か月経ってから症状が出ることがあるという。

ウィーバー氏は、悲惨な死傷事故に立ち会ったPTSD患者は、永続的な心理変化を経験することがあると指摘する。医師が処方する各種の薬剤は、PTSDのさまざまな症状の軽減に役立つ。

PTSDかどうか、うつ病かどうかの確認

PTSDの徴候と症状は次のとおり。

  • 衝撃的体験のフラッシュバックと悪夢
  • 人間関係への悪影響
  • 睡眠障害
  • 孤立感や疎遠感
  • 過覚醒(トラウマによって絶えず脅かされる感覚)

うつ病の徴候と症状は次のとおり。

  • 強い悲しみ、絶望感
  • 疲労、脱力感
  • 食欲の変化
  • 人生に打ちのめされた感覚
  • 集中困難
  • 罪悪感と無気力
  • 自殺念慮
資料出所:米国精神医学会