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アスファルト屋根材の製造工程中の
アスファルトヒューム暴露

暴露低減に向けた現在の取り組み

(資料出所:NIOSH発行「Safety and Health Topics」 )
(訳 国際安全衛生センター)



5. 労働者保護のためのガイドライン

本セクションでは、屋根材製造業界で労働者のアスファルトヒューム暴露低減のために現在用いられているエンジニアリング管理、作業慣行、個人用保護具(PPE)にどのようなものがあるかを記述する。エンジニアリング管理には工程の入替、隔離(密閉)、全体換気および局所排気装置がある。これらの方法のいくつかは、省エネルギーや他の規制の順守など、ほかの目的のために使用することも可能である。本セクションでは、セクション4.3に明示された作業および職種について、アスファルトヒューム暴露を低減するために現在利用可能なエンジニアリング管理および作業慣行を示す。

5.1 納入、取り扱い、貯蔵

高温アスファルトの納入、取り扱い、貯蔵に際し、労働者のアスファルトヒューム暴露を低減するために、下記のエンジニアリング管理が採用されている。

5.1.1 エンジニアリング管理

一般にアスファルト屋根材の製造工場では、高温アスファルトを様々なタンクに入れている。例えば、納入されたアスファルト用、飽和アスファルト用、生産工程で使用するコーティングアスファルト用の貯蔵タンク、通常アスファルト屋根材または改質ビチューメン屋根材用のアスファルトコーティングを生産するためのポリマーおよび安定剤の混合タンク、ラミネート加工などの特殊作業のためのより小規模な加熱タンク、販売用または出荷用の屋根用アスファルトを生産する工場にある完成品用タンクがある。

下記の管理の有効性を判定するための研究が必要である。アスファルトヒューム暴露を低減するために利用可能なエンジニアリング管理として密閉型タンクがある。密閉型タンク内で発生するアスファルトヒュームは、外気に直接排気するか、数種類のヒューム捕集装置のいずれかを用いて換気することが可能である。これらのタンクあるいは吹込み釜、コーター、飽和器から排出されるアスファルトヒュームやダストの濃度を低減できる典型的な捕集装置としては、下記のようなものがあるが、これらに限定されるわけではない。

  1. ミスト除去器:スクリーニングまたは粗目フィルタ媒体(通常は永久使用のメタル・パッド)を用いて気流中の液滴を除去する
  2. 高速エアフィルタまたは繊維層フィルタ:使い捨てタイプのフィルタ媒体を用いて気流中の凝縮可能部分の凝縮を開始する。
  3. 電気集じん器:静電荷を用いて排気中に含まれる粒子を捕集する(ただし、補修グリッド上のアスファルト蓄積に関連した作業上および安全上の問題により、このプロセスの利用が限定されるので注意)
  4. 焼却装置および再生式熱酸化剤:排気を燃焼し、液滴を破壊するばかりでなく、排気に含まれる凝縮可能なガス状揮発性物質をも破壊する

5.1.2 作業慣行

高温アスファルトの上部空間におけるアスファルトヒュームの濃度を低減することは、存在しうるいかなる開口部(例:排気口)をも通じて貯蔵タンクまたは処理タンクから排出されるアスファルトヒュームの濃度も低減することになる。アスファルトは通常、パイプライン、トラック、鉄道によって工場に納入される。納入容器から貯蔵タンクへとアスファルトをポンプで汲み出す際、受け入れ側の配管は貯蔵タンクのアスファルト液面より下に接続する(「ボトムローディング」または「液面下充填」のいずれかにより)。この方法は充填作業時のアスファルトヒューム放出を低減するのに効果がある。

貯蔵タンク内のアスファルトは、製造工程での使用に先立って加熱される。余分な加熱アスファルトは、貯蔵タンクに戻さずに再循環させることにより、アスファルトの貯蔵温度を引き下げることができる。この手続きはタンクから放出されるアスファルトヒュームの濃度を低下させる。貯蔵タンクの空気による吹き飛ばし(air sweep)*は、アスファルトの上部空間にあるアスファルトヒュームの濃度をさらに引き下げて爆発下限の数分の1まで抑制することができる。Trumbore[1992]の報告によれば、余剰アスファルトを工程の起点に再循環させ、タンク内で空気による吹き飛ばしを用いることにより、貯蔵タンク内のアスファルトヒューム濃度をさらに50%から75%低下させることができる。現在、これらの抑制措置がとられているすべての貯蔵タンクにおいて、アスファルトヒューム濃度は平均で爆発下限の25%足らずである。

*空気による吹き飛ばしは、アスファルト貯蔵タンク上部の蒸気空間の排気方法として利用されており、作業による低下と空気の動きによる低下だけに頼ったタンクの換気に代わる方法である。空気による吹き飛ばしは、液体上部の蒸気濃度を爆発下限のわずか数分の1に引き下げる上で非常に有効である。蒸気空間から排出される空気量は、一般に1分当たり60-100立方フィート(cfm)である。この排気流は濃縮可能な粒子を除去するために濾過されるか、揮発性有機化合物(VOC)と粒子を破壊するために焼却されるかのいずれかである。

5.2 飽和器

5.2.1 エンジニアリング管理

完全密閉(エンクロージャ)に適切な排気換気を施す方法が、飽和器のエンジニアリング管理として一般に使用されている。完全密閉されるのは、一般に、飽和器のみならずウエットルーパー、時としてコーターも含まれる。利用可能なヒューム捕集装置は、セクション5.1.1に述べた装置と同じである(ミスト分離器、高速エアフィルタまたは繊維層フィルタ、電気集じん器、並びに焼却器・再生式熱酸化剤)。

一部の工場では、物理的または作業上の制約によって、飽和器、ウエットルーパー、コーターの全体を完全に密閉することが不可能な場合がある。そのような場合、適切な局所排気(LEV)とキャノピーフードとを併用して、一連の工程全体、あるいはコーターなど単一工程のアスファルトヒュームを低減することができる。図5-1は、典型的なフード構成を図示したものである。


図5-1. 飽和器、ウェットルーパー、コーター全体を密閉(出典:EAP[1988])

5.2.2 作業慣行

完全に密閉されたコーターの換気手順は、飽和器の場合と同様である。キャノピーフード付きコーターの場合、ライン中断のリスレッディング手順**において、作業員は必要に応じて呼吸用マスクを含む適切な個人用保護具(付録を参照)を装着しなければならない。このリスレッディング作業中は、排気ファンを作動させておく。

**リスレッディングはラインの運転開始時およびライン中断後に発生する。どちらの場合も、リスレッディングのプロセスは同じである。ライン運転者はライン上のマシンとロールを通ってウェブ(紙またはファイバーグラス)を引き出すか送る。この作業中は、すべてのマシンを、ジョグ・ポジションによって停止するかスローダウンする。リスレッディングのプロセスにおいて作業員がウェブを飽和器またはコーターを通って送る必要がある場合、高温アスファルト暴露を保護する標準的な個人用保護具を着用することを推奨する。すなわち呼吸用マスク、安全眼鏡、革製の作業手袋、長袖シャツ、革/ケブラー製の前腕/上腕用保護袖である。

5.2.3 設備の入替

吹き付け工程と浸漬(しんせき)工程を併用した飽和器を採用している工場の場合、もう1つの可能性として浸漬工程のみに切り替える方法がある。浸漬工程を用いた工場のアスファルトヒューム暴露の低減については、まだ評価や定量化がなされていないが、浸漬タイプ飽和器のほうが空気中のアスファルトヒューム濃度が低く抑えられる可能性が高い。業界では、吹き付け工程に伴う火災、爆発、火傷の危険を低減する必要性に迫られる形で、吹き付けタイプ飽和器を使わない傾向が強まっている。浸漬タイプ飽和器への切り替えに拍車をかけている要因としてはこのほかに、既存設備の寿命や残存有用年数、浸漬タイプ飽和器の費用対効果および優れた暴露低減効果に加えて、排気吹き出し量の増加やドアの密封度の向上、既存エンクロージャの開口部の低減、既存の局所排気装置のフード設計の改善など、他の利用可能な制御オプションがコスト面および暴露低減効果の面で優れている点が挙げられる。

5.3 改質ビチューメン含浸バット

改質ビチューメン含浸バットからのアスファルトヒュームの放出は、キャノピーフードと適正な局所排気装置によって主に制御されている。多くの場合、これらのフードは含浸エリアのみならず冷却バットも覆っている。

5.4 コーター

コーターでのアスファルトヒュームの捕集は、(1)コーティング工程の完全密閉(飽和器とウエットルーパーも含む)、あるいは(2)キャノピーフードのいずれかを用いて最も効果的に達成される。いずれの場合でも、コーターによって生成される屋根材アスファルトヒュームを完全に捕集するためには適切な換気能力が必要である。

場合によっては、高温ウェブがコーターエリアを通過した後に発生するヒュームを捕集するために、フードまたはキャノピーをグラニュール塗布セクション(基本的にはコーターに後続する)まで延長する必要があるかもしれない。

5.4.1 完全密閉(エンクロージャ)

工場内換気システムによるアスファルトヒュームの除去を行うには、外気へ排出する前に捕集装置へと誘導すべきである。これらの捕集装置の例としては次のようなものが挙げられる。

−ミスト除去器
 −高速エアフィルタまたは繊維層フィルタ
 −電気集じん器
 −焼却装置および再生式熱酸化剤

これらの捕集装置については、セクション5.1で詳述したとおりである[EPA 1988]。これらの排気流はすべて、捕集装置を通過した後、外気へと排出すべきである。

コーターを密閉したエンクロージャの外にいる作業員のアスファルトヒューム暴露を最小化するために、下記の作業慣行に従う。

  • エンクロージャの開口部の数と大きさを最小限に抑える。
  • 通常の生産運転中にエンクロージャのドアが開放される時間を短縮する。
  • いついかなるときも換気システムの排気能力を適正に保つ[ACGIH 1998]。
  • コーターと飽和器の温度を製造仕様および製造変数が許容するレベルに保つ。

開口部が多すぎると排気量が上がり、結果的に換気システムの捕集効率が低下する可能性がある。ヒューム暴露の可能性を最小化するためには、すべてのドアを目張りし、ライン運転中はドアを閉めたままにしておく。シートが飽和器に出入りするアパチャー(aperture)のサイズを最小化してヒューム暴露の可能性を低減するとともに、エンクロージャ内部の気圧を作業場より低くして飽和器の外から中への気流が起こるようにする。換気システムの最適な捕集速度を確保するために、工場施設への適切な補給空気が重要である。

エンクロージャの構成および換気が適正であると想定した場合、コーティング工程でアスファルトヒューム暴露が起こる最大の可能性は、コーターのメンテナンスおよび補修作業中にある。すなわち、ライン停止(主にフェルトシートの破断によって発生する)を修理するために製造運転中に労働者がエンクロージャ内部に立ち入る場合である。また、労働者は8時間シフト中にエンクロージャ内部に最高3回立ち入る必要がある場合があり、通常、問題箇所の修理に10分−20分かかる。エンクロージャに立ち入る労働者のヒューム暴露を最小限におさえるために、下記の作業慣行に従う。

  • すべてのドアを開放し換気流量を増やして、エンクロージャ内部に立ち入る前にアスファルトヒューム濃度を低減する。
  • エンクロージャ内部に適切なスペースを確保し、フェルトシートのスレッディング(threading)および関連メンテナンス作業が安全に行えるようにする。
  • 呼吸用マスクなど、必要に応じて適切な個人用保護具を着用する。

フェルトが破断した場合にエンクロージャ全体からアスファルトヒュームを排気できるよう、エンクロージャ内部の換気流量は十分高くなければならない。エンクロージャ内部の気圧を低く保つことは、アスファルトヒュームが作業エリアに漏れ出すことを防ぐためにも、またリスレッディングプロセス中にエンクロージャ内部のヒューム濃度を最小化するためにも不可欠である。ライン停止中の正式なメンテナンスとして、装置の冷却および排水を行い、アスファルトヒューム暴露の可能性を最低限に抑える。

5.4.2 キャノピーフード

一部の工場では、作業あるいは工場の構成(レイアウト)の制約によって、コーターの管理方法として密閉式にすることが不可能な場合がある。これらの制約は旧式の施設に多くみられ、工場が当初の設計から込み合っていたり、後になって製造上の改修が行われてスペースが制限されるなどの場合がある。したがって、これらの施設においては、エンクロージャを設置しようとすると、工程装置へのアクセスが制限されたり通常のライン運転に支障をきたしたりする。このような場合、コーティング工程中に発生するアスファルトヒュームを適切な局所排気装置のキャノピーフードによって捕集することができる。

一般的なキャノピーフードの寸法は、幅が5〜8フィートで、マット幅を2〜3フィート超えるのが普通である。マシン方向の長さは一般に6〜14フィートである。コーター上部に位置するキャノピーフードからの換気流量は、4,000〜8,000cfmの範囲である。フェルトラインからフード開口部までの垂直距離は、極力短くしてヒュームの最適な捕集を確保すべきである。マットフローまでの垂直側面の囲いは施設によって異なる。キャノピーフードにカーテンのようなものを取りつけて、フードの換気補集速度を高めることは、ヒューム捕集効率の向上に効果があることがわかっている。作業エリア内の空気の交差流を最小限に抑えてキャノピーフードでのヒューム捕集が妨害されるのを防ぐ。

5.5 面仕上げ工程および後続工程

飽和工程とコーティング工程が終了すると、アスファルトは加熱されることがなく、製品が冷えていくにつれてアスファルトヒュームの発生は減少する。一般に、浸漬されたフェルトがコーターエリアを離れる際、アスファルトヒュームが若干発散する。しかし、フェルトシートは直ちにグラニュールと鉱物分離剤の層で覆われる。フェルトシートに対するこの鉱物コーティングの溶着がアスファルトの冷却プロセスを助け、アスファルトヒュームの発散を低減させる。

鉱物分離剤の塗布によって無機質な鉱物性粉じんが発散する。この粉じんは、工場の鉱物塗布・冷却プロセスエリアの空気中の粒子濃度を高める。通常、グラニュール塗布装置、スレートドラム、ダストドラム、バックダスト塗布装置、移送ドラムには粉じん暴露を低減するための局所排気装置が設置されている。捕集されるアスファルトヒュームの量は、フェルトシート状のアスファルトに鉱物粒子が塗布される場所に局所排気装置がどの程度近接しているかによって恐らく決まる。Owens Corning[1993a,b]の報告によれば、工程の冷却セクションから放出されるVOC(揮発性有機化合物)は、冷却前に効果的な集塵が行われると大幅に低減するという。あらゆる製造業者は、バッグフィルター型集じん機による局所的集じんを行っている。集じん流量は、工場構成の違いによって大幅に異なり、最高で30,000cfmである。

製造施設内では、製造ラインの冷却セクションからさらに空気が排気される結果として、全体的な希釈換気が起こる。製造施設の全体換気は、屋根材製造によって大幅に異なるが、これはアスファルトヒューム暴露低減に貢献する。使用される換気システムのタイプは自然換気装置(工程に補給空気を送る)から動力換気装置(大量の空気を工程施設から排気する)まである。

冷却プロセスの後、製品の温度は周囲温度近くまで下がり、アスファルトヒュームの発生は最も低くなる。アスファルトヒューム暴露は、目止めアスファルトを屋根板製品に塗布する際、およびラミネート用アスファルトをラミネート屋根板製品に塗布する際にも起こりうる[Owens corning 1993a,b]。

これらの低量アスファルト塗布は、スター・ホイール塗布装置またはアスファルト押し出し機によって行われる。局所排気装置はアスファルト塗布時点で設置される。アスファルト塗布温度は一般に250〜400°F(120〜200℃)であるが、目止めアスファルトは水、空気、泡だった石鹸水によって、ほぼ瞬間的に冷やされる。ラミネート用アスファルトは、製品の固着を防ぐために、水浴またはその他の手段によって冷やされる。これらの工程では比較的少量のアスファルトが使用されるため、ヒュームの生成はおそらく最も少ない。しかしこの工程で起こりうるヒューム暴露については全くデータが報告されていない。

5.6 作業慣行と個人用保護具

燃焼、爆発、高温アスファルトとの接触による傷害を防ぐために、良好な作業慣行および個人用保護具を使用すべきである。製造工場内の囲われたエリアに立ち入る前に、まずエリアの換気を十分に行ってアスファルトヒュームを除去すると共に、労働者に適正な酸素を確保しなければならない。修理すべき装置もまた冷却して、火傷の可能性を低減しなければならない。アスファルトタンク、飽和器、コーターなど危険性のあるエリア内でのメンテナンス作業を行う人員は、適正な訓練を受けた者で、しかもエリア内にいることが義務付けられている者に限定すべきである。呼吸用マスクを含めた個人用保護具の適正な使用を義務づけるべきである(付録参照)。これらの作業中に使用される可能性のある個人用保護具には、次のようなものがある。

  • 安全眼鏡
  • フェースシールド
  • 長袖シャツ
  • 呼吸用マスク
  • つなぎまたはボディースーツ
  • 手袋
  • 安全靴

適正な個人用保護具は、皮膚および呼吸器のアスファルトヒューム暴露を低減する。

効果的な作業慣行は、アスファルトヒューム暴露の防止および急性・慢性の健康障害の危険性を低減するうえで重要な役割を果たす。例えば、あらゆる業務用機器とヒューム制御装置を適正に整備してアスファルトヒューム暴露の低減効果を確保しなければならない。呼吸器の保護を提供する場合には、文書化された呼吸用マスクプログラムに則して適用可能なOSHA要件すべてに従う。これには、NIOSH承認の呼吸用マスク、トレーニング、密着性テスト、医学的承認のほか、呼吸用マスクの適正な点検、清掃、メンテナンス、修理、保管が含まれる[29 CFR**1910.134]。

** Code of Federal Regulations. 参考文献のCFRを参照