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最近の各国の労働安全衛生プログラム - 米国

(資料出所:ILO発行「Promotional Framework for Occupational Safety and Health」
International Labour Conference, 93rd Session, 2005, Report IV (1), Annex I, pages33-48)
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(仮訳 国際安全衛生センター)
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 労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration: OSHA)は、2003〜2008年の戦略的管理計画(Strategic Management Plan)を策定した。この計画は、労働省戦略計画(Strategic Plan)の目標達成の支援へ向けた労働安全衛生庁のアプローチを表すものである。労働省の戦略計画では、準備の整った労働者(a prepared workforce)・保証された労働者(a secure workforce)・質の高い職場(quality workplaces)の実現を目指している。労働安全衛生庁では、同庁の戦略目標を実施することによって、労働安全衛生は米国の企業、職場、および労働者の人生の価値を高めるものであることが、すべての事業者と労働者から認められるものと期待している。

 計画に盛り込まれた労働安全衛生庁の目標には、次のような命題が反映されている。

労働安全衛生庁のさまざまな戦略的監督能力を強化することによって、投資収益率の最も高い分野に労働安全衛生庁の資源を集中する。

直接的な介入措置と協力的アプローチをともに用いて、安全で健康な職場を大切にし促進する深く根付いた文化の創造へ向けていっそうの前進を図る。

職場の安全衛生に対する国内の総責任者としてのリーダーシップを発揮するため、労働安全衛生庁は必要な専門知識と能力を確保する。

 労働安全衛生庁の戦略計画に代表されるプログラムが出てきた背景には、労働安全衛生の継続的な改善には次の5つの課題が存在しているという認識がある。

(1) 幅広い多様な事業者と労働者が対象であること。安全と衛生に関わるハザードの程度や形態は、事業者と労働者全体を通じてさまざまに異なる。一部の職業や産業、たとえば建設業や製造業は、ほかの職業や産業と比べ、必然的により危険である。一方、エルゴノミクス的要因や危険物質へのばく露を原因とする傷害などの目につきにくいハザードは、幅広い職業と産業にとって脅威になっている。

(2) 労働者の特徴の変化と仕事の内容の変化。労働者の年齢、性別、人種、国籍は、ここ数十年の間に多様化してきている。サービス産業、小規模企業、および臨時の仕事に従事する労働者、さらに高齢労働者と移民労働者を考慮に入れる必要がある。こうした人口動態的変化は、労働安全衛生庁の各種プログラムと戦略にも適切に反映させなければならない。

(3) 労働安全衛生に関する新たな課題を考慮する必要性。業務関連自動車事故と職場での暴力は、両者を合わせると死亡労働災害の45%に達する。また建設業は毎年ほかのどの部門より多くの死亡者を出しており、死亡率も高止まりしている。こうした状況に対処するには、新しい戦略が必要である。

(4) 健康、安全、および緊急事態への準備に関する分野で新たに出現しているさまざまな課題を考慮する必要性。健康に関わる問題として職業性喘息などがある一方、2001年9月11日のテロ攻撃とそれに続く炭疽菌の事件では災害評価の監視と汚染除去が必要となり、今後はこうした点についても継続的な注意が必要になる。

(5) プログラムの各種戦略の実効性を理解する必要性。さまざまな傾向、新たな課題、およびプログラムの各種戦略の分析には、組織的情報収集プロセスが必要である。

 労働安全衛生庁は2つの実績目標を掲げており、これらの目標については追跡を行って労働省に報告することになっている。目標の具体的な達成内容は、職場での死亡率を2008年までに15%減少させること、および職場での傷害・疾病の発生率を2008年までに20%減少させること、となっている。労働安全衛生庁の活動内容と、死亡・傷害・疾病の減少に関する全体的な成果との間の関係をわかりやすく示すために、同庁では計画期間を通じ、個々の各重点分野における結果を追跡する。これらの重点分野については、活動の結果と新たに留意すべき課題に基づいて、毎年分析と見直しを行うことになっている。

 労働安全衛生庁はこれまで長い間、労働者の生命を救い、傷害と疾病を防止し、健康を守るために、次のようなさまざまなプログラムを実施してきた。

労働安全衛生のための指針と基準の作成

雇用現場の監督と事業者および従業員との協力

小規模企業を対象とした相談業務の提供

事業者と従業員を対象とした遵守支援、アウトリーチ、教育、およびその他の協力プログラムの提供

各種のコンサルテーション・プロジェクトや認定労働安全衛生強化プログラムを実施する州への助成金の提供

安全衛生に関する最重要課題への対処を目的とした、ほかの諸機関・組織との関係強化

小規模企業を対象とした相談業務の提供

  労働省が成果主義を重視していることをふまえ、労働安全衛生庁の戦略的管理計画では重大なハザードと危険な職場に重点が置かれている。計画に盛り込まれた戦略が重視しているのは、次のことである。

強力、公正、かつ効果的な法の執行

パートナーシップおよび自主的プログラムの拡大

アウトリーチ、教育、および遵守支援の拡充

 戦略計画の策定以来、労働安全衛生庁の各種プログラムは拡大してきており、遵守支援をはじめ、パートナーシップや提携(アライアンス)などの協力プログラムが重視されるとともに、達成認定プログラムが大幅に増えている。こうしたプログラムの拡大は、予防的取り組みを推進する必要性に加え、根強く残る問題の根本原因に着目する必要性が、安全衛生専門家の間で認識されていることを示している。

 労働安全衛生庁は、2003〜2008年の戦略的管理計画の目標を達成するために、今後数年にわたって同庁の取り組みの指針となる次の3つの具体的目標を設定している。


直接的な介入措置を通じて職業上のハザードを減らすこと

遵守支援、各種の協力プログラム、および強いリーダーシップを通じて安全衛生文化を推進すること

労働安全衛生庁の能力およびインフラの強化によって同庁の有効性と効率性を最大限に高めること

 労働安全衛生庁が職業上のハザードを減らすことに成功するかどうかは、事業者およびその従業員を相手とする一対一の関係で決まる部分が多い。こうした関係が生じるものとして、事業場の監督、事業者との協議および支援の提供、教育訓練プログラムや認定プログラムなどがある。直接的介入措置は将来的にも常に必要であろうが、その一方で、事業者、労働者、およびその他の多くの人々が安全衛生文化を職場に採り入れれば、長続きする解決策が得られる。労働安全衛生庁の立場から言えば、安全衛生文化の推進という目標を達成するために割く資源は、同庁の有効性を何倍にも高める可能性を持っている。なぜなら、幅広い層の人々に安全衛生の価値を植え付け、同じ目標の追求へ向けてこれらの人々からも支持を得ることができるからである。この目標の達成には、協調的な取り組み、労働安全衛生庁の遵守支援スキルの強化、革新、および安全衛生の理想に対する奉仕の姿勢を堅持することが必要である。

 労働安全衛生庁がその有効性と効率性を最大限に高めるためには、情報収集・分析・評価能力の改善;新たな安全衛生課題への対処に必要な知識・スキル・多様性・能力を同庁職員が確実に身に付けること;労働衛生に対する同庁のアプローチの検討;同庁の情報技術活用方法の改善がとりわけ必要である。