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知り合いに失職した人がいるのはめずらしくない。景気の低迷で、企業は人員削減を優先せざるをえなかった。だが景気回復の兆しが現れるのに伴なって、大繁盛が見込まれる職種がある。派遣労働者である。 リストラによる穴を派遣労働者で埋めようと考える企業がますます多くなっている。派遣労働者を使えばコストが節約でき、人員を柔軟に調整でき、また労働者と長期契約を結ぶ前に、可能性のある労働者を検討することができる。企業は解雇に伴なう諸問題も回避できる。だが派遣ベースでの採用を選択した場合、労働災害や負傷のリスクが高まるおそれもある。そのリスクを最小限に抑えるためには、派遣会社と派遣先の企業との間で、安全に対する正しい認識を確立する必要がある。 従来、派遣労働者は事務職が中心だったが、この傾向は変化している。労働統計局と労働省のデータでは、2006年までに派遣労働者は140万人も増加するとみられている。派遣労働者でも、ブルーカラー職であるオペレーター、組立工、肉体労働者の比率が増え、事務職は減るとみられる。労働統計局の統計では、ブルーカラー職は2006年までに、なんと77%、人数にして120万人近くも増えるとみられている。 ブルーカラーの派遣労働者が増えるなか、その安全確保の問題が急浮上している。派遣労働者を採用する企業の多くは、安全訓練をほとんど、あるいはまったく実施しなくても彼らを生産活動に組み込めると考えている。だが現実には、過去にどれだけ訓練を受けてきた派遣労働者でも、新しい職務に適応するには時間がかかるものだ。 体験で得た知識デイアンドジマーマンのグループ社長兼安全委員会議長、Joe Ucciferro氏も同じ意見をもつ。同グループはフィラデルフィアに拠点をおく管理サービス企業で、グループ最大のヨー・グループは、業界大手の技術要員の派遣会社である。 「派遣サービスの利用企業は、派遣労働者を自社の訓練プログラムの対象外にしている場合が多い。派遣労働者は派遣先の施設に着任するなり、即戦力として働くことを求められる」とUcciferro氏は説明する。「しかし、実際には当人は周囲の危険有害要因に気づかない場合が多い。その環境に慣れていないからだ。派遣サービスを利用する企業が、安全確保の方針を堅持することが不可欠だと思う」 そうした安全確保の方針は、なかなか実行されないことが多い。派遣労働者の場合、派遣会社と派遣先企業とが責任を共有する必要がある。派遣労働者が現場に着任する前にさえ、多くの問題が発生する。たとえば派遣労働者を使用する企業が、業務の詳しい内容を派遣会社に知らせないことが多々ある。説明された職務と実際の職務が違っている場合もあるし、職務につく前に派遣労働者に適切な訓練がなされないこともある。 派遣先企業と派遣会社との意思疎通の欠如を防ぐため、両者の関係強化に向けた対策が必要だ。OSHAは、そうした安全面での関係構築に向けた対策を進めてきた。1997年にはオハイオ州で「チョイス・プログラム」を立ち上げ、派遣会社を派遣労働者の保護に取り組ませる試みを行った。このプログラムは、派遣会社に危険有害要因の把握のための訓練を実施し、労働現場に行ったときに、また労働者を労働現場に派遣したときに、どのような点に気をつければよいかを理解できるようにする。プログラムに参加した派遣会社は、業界の安全衛生問題に対するOSHAの対策内容を希望に応じて「チョイス」できる。 OSHA第5地方事務所のマイク・コナーズ所長は、「チョイス」プログラムの開始に尽力した。「われわれは、派遣会社が派遣スタッフに対し、不安全な行動を指示されたり、理解できない点があったときに、どのようにすべきかをレクチャーしてもらいたいのだ」とコナーズ所長はいう。「派遣会社は、派遣労働者が派遣先に着任する前に、その会社の情報をなるべく多く収集して、彼らが危険な目にあわないようにすることも可能だ。職務の危険度が高い場合、またその職務が明らかに危険で引き受け手がないために外注したと思えるような場合、派遣会社は十分に注意する必要がある。派遣先の会社が機械を適切に防護しているか、労働者に具体的な訓練を行っているかを確認しなければならない」 「チョイス」プログラムの重点は、派遣会社が危険有害要因を把握できるよう援助することにあるが、コナーズ氏は派遣先の会社の方が安全責任の多くを負うべきだと考えている。作業を管理し、派遣労働者を監督するのは派遣先の会社だからだ。 「派遣先が派遣労働者を迎えた場合、その会社は基礎的な訓練をあまり行わなくてすむ。それが派遣会社を利用する利点だ」とコナーズ氏はいう。「とはいっても、現場特有の危険有害要因については派遣先の会社に責任がある。派遣労働者を、すべての『HazCom』プログラムで訓練する必要はないが、『HazCom』プログラムにはすべての管理者を参加させていること、または必要な情報は誰に聞けばよいかを知らせなければならない」 要するに、コナーズ氏は派遣会社と派遣先の両者の協力を訴えているのであり、「チョイス」プログラムが両者の溝を埋める架け橋になるよう期待しているのだ。両者の良好な関係は安全な環境を促進するだけでなく、財務面でもプラスになる。派遣会社は派遣先に労働者を派遣するが、労働者の日常業務を監督し、これに指示を与えるのは派遣先の会社である。また派遣先の会社は、その職場で発生するあらゆる負傷と疾病を記録する責任も負っている。 だが問題は、派遣労働者が負傷した場合、労災補償給付を支払うのは派遣会社である点だ。労働者の安全確保のために協力すれば、派遣先での負傷件数を減らすことができ、その結果、派遣会社の補償コストも低下する。 「それが、われわれの訴えてきたメッセージだ。適切な安全衛生プログラムは利益になる。協力は利益につながるのだ。『チョイス』プログラムの参加者は十分な見返りが得られたと思うし、その経験をわれわれも共有できた」とコナーズ氏は説明する。
新しい管理者のもとで派遣労働者が派遣先の施設で業務を開始すると、その安全は派遣先企業に全面的に委ねられることになり、派遣労働者を環境に順応させる責任が発生する。機械類に習熟させ、作業手順の訓練を行なわなければならない。コナーズ氏によると、派遣労働者に関してOSHAが直面する最大の問題は経験のなさという点である。派遣労働者は、設備の具体的部分についての訓練を受けていないことが多く、そのため知らず知らずのうちに危険にさらされる可能性が高い。それは知識が足りないからにすぎない。 「プラントや機械の構成、機械の種類を熟知しているのは派遣先の企業の人達だけだ」とコナーズ氏は指摘する。「彼らは専門家であり、責任を負わねばならない。なかには労働者を訓練する時間がないという企業もある。当然ながら、そうした弁解は聞きたくない。派遣先企業には責任があるのだ。労働者の訓練を実施していないと、リスクを負うことになる」 すでに派遣会社の多くは、派遣先企業が労働者に安全な環境を整えるのを手助けするため、現場を検証したり、会合をもったり、ときには現場監督も実施している。実際の労働時間中の対策は限られているが、こうした手法によって施設内での安全への自覚は高まっているように思える。 イリノイ州ジョーリエットにあるプライオリティ・スタッフィングのビル・ローアー氏は、1981年から派遣業界で働いている。派遣先企業との協力が仕事の重要な部分だと気づいたが、良好な事例を経験することがほとんどだった。 「われわれが監督していない現場でも、適切な仕事をしている事業者がいる。派遣労働者をチームの一員に加えているのだ。わが社が契約したある会社には安全委員会があり、派遣労働者のひとりをそのメンバーに加えていた。派遣業界では、きわめてめずらしい例だ」とローアー氏は語る。 派遣会社が、幸運にも安全に対する自覚の高い会社と契約している場合でも、それぞれの施設に安全な環境を作り出すのは一苦労だ。「企業と契約業務を行う際は、その企業の自覚を高めるために多大な労力が必要になる。プラント現場の安全を検証し、派遣先企業と協力して職場のあるべき姿を検討する」とローアー氏は付け加える。「わたしが派遣先との関係を密にするのは、誰でも安全な条件のもとで働きたいからだ。派遣先を後押しして、派遣労働者の安全に共同責任を負えるように努めている」 OSHAのコナーズ氏は、数々の事例を扱うなかで企業は安全責任を引き受ける必要があることを思い知らされてきた。それが欠けると間違いなく問題が起きる。一例をあげると、機械の作動ボタンの押し方しか教えられなかった男性がいる。そして、ほとんど訓練を受けていなかった彼と同僚たちは、プレス機の上のダイスを取り替えるよう指示された。彼らはプレス機について限られた知識しかなく、緊急停止装置のことは教えられなかった。プレス機が回転した際、男性は腕の一部を失ってしまった。その男性は派遣労働者で、そこで働き始めてあまり間がなかったのだ」とコナーズ氏は語った。
短期的な損得勘定2006年までに派遣労働者が増大する状況では、コナーズ氏が説明したような災害が増える可能性も高まる。 現在は景気後退で派遣労働者の活用が低下しているかもしれないが、景気が回復し始めると、まず最初に派遣労働者の使用が増大する可能性が高く、その後に、企業は常用労働者の採用を検討し始めるだろう。 「景気が上向き始めているなかでも、顧客企業は幾分、慎重になっている。生産拡大への準備を始めながらも、景気が本当に底を打ったと確信できない。そこで念のため、常用労働者ではなく派遣労働者の再雇用に傾くかもしれない。本当に景気が上向いたと思えたら、派遣労働者を常用ベースで雇用するか、別の派遣労働者を雇用するなどの対策をとる可能性がある」と、デイアンドジマーマンのUcciferro氏はいう。 実際、派遣業界の動向は経済の健全性をはかる物差として利用されることが多い。「一般に、わたしたちの業界は、景気回復の時期を示すバロメーターとみられている。企業は、まず派遣労働者を採用してから、常用労働者の新規採用に進むからだ。したがって、この業界が活況になるときは、景気は上向いているといえる。景気の先行きを予想する人たちが利用する指標になっているのだ」とローアー氏はいう。 一時的な解決策ではなく景気回復の正確な時期は確定できないが、たしかなのは派遣サービスが成長を続けるということだ。2000年に派遣会社が採用した派遣労働者は、1日平均254万人と過去最高になった。前年と比べて4.2%の増加である。1995年以来、派遣労働者は年6.8%のペースで増え続けてきた。派遣業界が成長を続けるなかで、労働条件の安全性を向上させるには、今日以上に派遣会社と顧客企業との協力が不可欠になるだろう。 ローアー氏は、12年前には派遣労働者がいかに顧客企業に役立つか、熱心に訴えなければならなかったと告白する。ほとんどの人が派遣労働者の価値を知った今、彼らに安全な労働環境を提供するために最善を尽くすことが、派遣会社と顧客企業の義務だという。 OSHAのコナーズ氏によると、安全な条件を整えるためのカギは、意思疎通の経路を常にオープンにし、適切な訓練プログラムを保持し、安全記録を点検することにある。「派遣会社は顧客企業と緊密に協力する必要があり、なによりも労働者への訓練を欠かさず、労働者がそれを理解し、活用するよう努める。ただ、それだけの話なのだ」とコナーズ氏は明言する。
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