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国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > ドイツ 職場の労働者の安全衛生を改善するための労働災害防止対策の実施に関する法律
職場の労働者の安全衛生を改善するための
労働災害防止対策の実施に関する法律
(労働保護法−ArbSchG)

Gesetz uber die Durchfuhrung von Masnahmen des Arbeitsschutzes
zur Verbesserung der Sicherheit und des Gesundheitsschutzes der Beschaftigten bei der Arbeit
(Arbeitsschutzgesetz - ArbSchG)

(仮訳 国際安全衛生センター)


− 解説 −
ドイツの労働保護法について

 ドイツの労働安全衛生システムの特徴は、事業者責任、危害の判定及び労働者保護措置の決定、連邦と州との関係(連邦国家が制定した法律の遵守に関する監督・監視を州が行う)、二元的監督システム(営業法に基づく所轄行政庁と同業者労災保険組合とによる。)、そして事業場委員会・労働保護委員会における労働者との協議等に集約される。連邦と州との分担は別な意味で米国にも存在するが、二元的監督システムは日本、英国、米国とは異なり、むしろフランスに似ているといえる。

 ドイツの労働安全衛生に関する立法としては、まず1973年旧西ドイツで成立した労働安全衛生法(正式には産業医、安全管理技術者及び労働安全衛生専門家に関する法律(Arbeitssicherheitsgesetz(ASiG)[Gesetz uber Betriebsartzte,Sichherheitsingenieure und andere Fachkrafte fur Arbeitssciherheit]が挙げられる。(この場合、Sicherheitは衛生も含むと解釈される。)本法は、企業内に古くからあった産業医(Betriebsarzt)制度を立法によって国の制度としたものである。労働安全衛生及び労働災害防止について産業医と労働安全衛生専門家の積極的活用を柱とし、産業医並びに労働安全衛生専門家の選任、職務範囲、職務の独立性、事業所代表委員会との協力、労働安全衛生委員会等について規定している。

 これに対して1996年に立法化されたのが、労働保護法、正式には「職場の労働者の安全衛生を改善するための労働災害防止対策の実施に関する法律」である。全26条で5章からなる。ここで紹介するのはこの法律の訳文である。

 第1章(総則)の第1条は目的と適用範囲について、「本法律は、労働災害防止対策によって、職場の労働者の安全衛生の保護を保障し、これを改善することに資することを目的とする」と規定している。この趣旨は、わが国の労働安全衛生法の第1条とほぼ合致している。

 先に成立した1973年法が、主として産業医及び労働安全衛生専門家の選任とその職務範囲について規定していたのに対して、この1996年法は、事業者の労働安全衛生体制の構築についての責任を始め、広く労働安全衛生全般について規定している。より具体的には、第1章(総則)第2条で労働者、労働災害防止等の概念規定(定義)、第2章(事業者の義務)では第3条で事業者の基本的義務、第5条で労働条件の評価(たとえば危険有害要因等のリスクアセスメント及びリスク除去低減措置の実施)、第6条で文書化、第11条で産業医による予防措置、第13条で事業者以外の責任者等、第3章(労働者の権利及び義務)では、労働者の権利及び義務、第4章(命令権)では命令発令権の授権、EUの法手続等、第5章(最終規定)では、管轄官庁と法定の労働災害防止機関との協力、官庁の権限(情報提供義務者からの情報収集権)、事業所データ、年次報告、法令違反に対する罰則規定等が規定されている。

 本法の最大の特徴は、EUの安全衛生枠組み指令(正式には「労働安全衛生の改善を促進するための施策の導入に関する1989年6月12日付け理事会指令」[89/391/EEC])の実施に資することを目的としている点である。すなわち、この枠組み指令は、事業者の義務として(イ)の一般的義務、(ロ)防護と予防、(ハ)緊急、消火、避難、重大緊急の危険、(ニ)危険評価等、(ホ)情報提供、(ヘ)協議及び労働者の参加、(ト)労働者の訓練等を規定しているが、1996年法がこの指令の実施のために立法化されたという点は看過できない。

 また、1996年労働保護法が施行された後に、バイエルン州労働・社会問題・家庭・女性・保健省から「労働安全衛生・リスクマネジメントシステム(OHRIS)」が発行されている点も注目される。このマネジメントシステムは、1996年労働保護法及び1973年労働安全衛生法の双方を内部監査用マネジメントシステムを通じて遵守させ、もって労働安全衛生の継続的改善を目指そうとするもので、わが国の労働安全衛生マネジメントシステムに関する大臣告示(1999年4月30日公布)や同分野における国際的な動きであるOHSASシリーズ(Occupational Health and Safety Assessment Series)との比較検討に値する労作である。

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