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シンガポール共和国法令
労働者補償法
(第354章)

(仮訳 国際安全衛生センター)


第2部 傷害に対する補償

  • 使用者の補償責任
    1. 第3節.
      1. 作業のため、あるいは作業中に発生した事故によって労働者が傷害を被った場合には、いかなる雇用関係であろうと、使用者は本法律に基づく補償を行う義務があるものとする。
      2. 労働者が、その使用者の明示の、あるいは暗黙の承認のもとに、職場へ、あるいは職場から、何らかの交通手段によって移動中に起きた事故は、雇用のために、あるいは雇用中に発生した事故とみなすものとする。ただしこの場合、事故が起きた時に運営されていた交通手段は、その使用者によるものか、あるいはその使用者のためのものであるか、あるいはその使用者との取り極めに基づいて他の者によって運営されていたものであって、通常の公共交通機関ではない場合に限るものとする。
      3. 労働者が使用者の取引あるいは事業のために雇用されている敷地またはその周辺で起きた労働者の事故は、次の場合にはすべてその雇用が原因で、あるいはその雇用中に発生したとみなすものとする。すなわち、その場所においてその労働者が実際に危険であるか、あるいはそう判断して、傷害あるいは危険にさらされているか、あるいはさらされていると思われるか、あるいはさらされそうな他の者を救出、あるいは保護しようとして、または、資産の損害、喪失を回避、あるいは最小化しようとして起きた事故である場合。
      4. 事故が発生した時に、労働者が、その雇用にかかわる法律あるいはその他の規則、あるいは、使用者の、あるいは使用者の名で発せられた命令に違反して行動していたか、あるいは使用者の指示なく行動していた場合であっても、次に該当する場合には、その労働者に発生した事故は雇用が原因で、あるいはその雇用中に発生した事故とみなすものとする。
        1. 前述のような違反に基づく行為がなかったとしてもその事故が発生しただろうと判断される場合、あるいは、
        2. その行為が使用者の取引、あるいは事業の目的で、あるいは、それらに関連して行われたものであった場合。
      5. 次に該当する場合には、使用者には補償の義務はない。
        1. 事故発生時に労働者がアルコール、あるいは医師の処方箋に基づかない薬物の影響下にあって、労働者に起きた傷害の直接の原因がこのためであったことが証明され、その労働者の傷害がそのために発生した事故が原因であった場合。ただし、その傷害が原因で死亡に至るか、あるいはその労働者の所得を得る能力の50%を下回らない恒久的な能力喪失に至る場合はこの限りではない。あるいは、
        2. 意図的に自らで傷害を発生させたか、あるいは、偶然的な傷害を意図的に悪化させた場合。
      6. この法律の目的においては、それに反する実証がなされない限り、労働者の雇用中に発生した事故はその雇用が原因であったとみなすものとする。
  • 職業上の疾病に対する補償
    1. 第4節.
      1. 別表第2に例示された職種で雇用された労働者が、同表においてその職種と関連があると示された疾病にかかった場合、あるいは、その職種に雇用されていた労働者がその雇用を解かれてから12ヶ月以内、珪肺症または石綿症の場合は36ヶ月以内に、その疾病にかかった場合、そして、その疾病が原因で労働力の喪失または死に至った場合には、その疾病は雇用が原因であるとして雇用中に起きた事故による傷害と全く同様に補償の対象とされ、本節に基づいて本法律のすべての規定がそれに応じて適用されるものとする。
      2. 労働者が別表第2に例示された職種の雇用契約あるいは見習契約を結ぶ際、あるいは本人の了承のもとに使用者によってそれらの職種に移動される際には、使用者の要請を受けた場合には労働者は医師の診断を受けるものとし、そのための費用は使用者が負担するものとする。ただし、労働者は本法律の定めに基づいて必要とされる場合以外は診断を受ける必要はないものとする。
      3. 雇用が終了してから12ヶ月以降、あるいは、珪肺症または石綿症の場合は36ヶ月以降に労働者の労働能力の喪失が始まり、あるいは死亡した場合には、本節に基づく労働者の労働能力の喪失あるいは死亡に対する使用者の補償は行われない。
        1. ただし、労働者の死亡に先行して、この節の規定に基づいて補償がなされるべき労働能力を喪失した期間が存在していた場合、それが死亡の直前であったかどうかに関わらず、前第3項の規定は適用されないものとする。
      4. 本節に基づく補償の請求について労働者の月収を算定するためには、その労働者が、補償を請求すべき使用者によって疾病の原因となった性格の職種にそのまま雇用されていて、かつ、それ以前に能力喪失の期間が存在していない場合には、その労働者の労働能力喪失の始まりの日、あるいは死亡の日を事故発生日とし、そのような雇用が継続していなかった場合には、彼の雇用の最終日を事故発生日とみなすものとする。
      5. その他本法律のすべての目的において、労働者の労働能力の喪失の始まった日、または医師がその見解に基づいて労働者が疾病に冒されていると証明した日のいずれか早い方、あるいは、その前に労働能力の喪失期間がなかった場合には死亡日を、事故発生日とみなすものとする。
      6. 疾病が長期間にわたって進行したために、本節に基づく補償責任のある使用者が別個に2人もしくはそれ以上となった場合にも、補償される総額は使用者が1人であった場合を超えることはないものとし、その負担比率に関する取り決めがない場合には、各使用者はコミッショナーが定める比率でその補償額を分担するものとする。
      7. 補償されるべき疾病が別表第2に定められた疾病であるかどうか、また、本法律に基づく補償に関するその他の重要な事項を判断する目的で、労働大臣は医師の中から医療上の裁定者を指名するものとする。
      8. 上記第7項で指名された医療上の裁定者の報告は、コミッショナーが事実を確認するための決定的な証拠として取扱われるものとする
  • 雇用に関連して受けた傷害に限定される補償
    1. 第5節.
      • 前第3節、及び第4節に規定するものを除いて、疾病に関する労働者への補償は、関連する雇用が原因となった、あるいはその雇用に関して発生した疾病以外に対しては支払われないものとする。
  • 補償を受ける資格
    1. 第6節.
      1. 補償は労働者に対してその利益のために、あるいは、労働者が傷害のために死亡に至った場合には本法律の規定に基づくその被扶養者に対してその利益のために支払われるものである。
      2. 本法律に基づく補償がコミッショナーにより決定される前に被扶養者が死亡した場合、被扶養者個人の法的な代理人には補償の受領権はないものとし、その補償額は、被扶養者が労働者の死亡以前に死亡したものとみなして計算し按分されるものとする。
      3. 死亡した労働者に被扶養者がなかった場合には、補償金は本法律の規定に基づいて設立、維持、運営される「労働者基金」に払い込まれるものとし、その基金の運営責任者が補償を請求する権限を持つものとする。
  • 補償の金額
    1. 第7節.
      • 本法律の規定に基づく補償額は別表第3の規定によるものとする。
  • 所得の計算方法
    1. 第8節.
      1. 本法律を執行するための労働者の所得の計算は、事故発生時の月収を正確に計算するよう、以下の規定に従って計算するものとする。
        1. 労働者が、補償責任のある使用者によって、続けて12ヶ月間、あるいは12ヶ月に満たない事故の直前の一定期間、専属で雇用されていた場合には、その労働者の月収はそれぞれの場合に応じて12ヶ月間、あるいはその12ヶ月に満たない期間の所得の平均金額とみなすこととする。
        2. 労働者が使用者によって専属に雇用されていた期間が1ヶ月に満たなかった場合には、その労働者の月収は1ヶ月雇用された場合に得られたであろう所得額とみなすこととする。
        3. 労働者の所得について、前記の(a)項または(b)項に基づく信頼に足る証拠が得られないか、あるいは、そのために不適当な遅延または費用が生じる場合には、事故発生時のその地域における同種の労働者の所得に関する資料をもってその判断の基礎とするものとする。
        [16/90]
      2. 労働者が、二人以上の使用者との雇用契約に基づいて同種類の労働に雇用され、ある時はある使用者のために、別の時には別の使用者のために働いていた場合には、その労働者の月収の計算では、これらの雇用契約に基づく総所得を、事故が発生した時点の仕事の使用者との契約に基づく所得とみなして計算するものとする。
      3. 本節の目的に照らして、14日間を超える非勤務日数がない場合には、勤続期間は継続していたものとみなす。
  • 補償金の支払方法
    1. 第9節.
      1. 下記の第(1A)項の規定に基づき、傷害によって死亡に至ったか、あるいは恒久的な労働能力の喪失に至った労働者に対する補償金の支払は、コミッショナーに預託をする以外の方法では行われないものとし、労働者またはその被扶養者に対して直接する支払は、本法律の目的においては補償金の支払とはみなされない。
        • (1A)コミッショナーは次のような処理をするものとする。
          1. 年齢が18歳を超えない労働者の部分的な労働能力の恒久的な喪失に至った傷害については、コミッショナーはその補償が直接に労働者に支払われることを承認することがある。
          2. コミッショナーがそれが公平かつ合理的であると判断する場合には、本法律に基づく補償額の査定において、上記の第(1)項によらないで支払われた金額を考慮に入れることがある。
      2. コミッショナーの受領証は、コミッショナーに預託された補償金の支払が行われたことを証するものとして取扱われる。
      3. 事故が原因で死亡した労働者に対する補償金として上記(1)項に基づいて預託された金額の中から、コミッショナーは労働者の葬儀費用の実額か、あるいは250ドルかのいずれか少ない方を差引いて、それをこの費用を立て替えていた者に支払うことができるものとする。
      4. 事故が原因で死亡に至った労働者について預託された補償金は、コミッショナーが適切であると判断する比率で、死亡した労働者の被扶養者に分配されるか、あるいはコミッショナーの判断に基づいて特定の1人の被扶養者に割り当てられるものとする。
      5. コミッショナーに預託された金額が、一括して法的能力のない者に支払われることになる場合、あるいはその他コミッショナーがそうすることが望ましいと判断した場合には、コミッショナーは自らの判断に基づいて、コミッショナーが決定する方法や期間で、その金額を投資、充当、あるいはその他の方法で、その関係者の利益になるような使途に使用するよう命じることができる。
        • (5A)法的能力を喪失している労働者に月次で支払が行われる場合には、コミッショナーは、自らの発案に基づくか、あるいはコミッショナーへの要請に基づいて、法的能力の喪失期間中はその支払を労働者の被扶養者に、あるいはその労働者の福祉のために最も適しているとコミッショナーが判断する他の者にそれを支払うよう命じることができる。
        [16/90]
      6. コミッショナーが必要と判断する調査をした上で、労働者の被扶養者が存在しないこと、探し出せないこと、あるいは諸般の情勢から探し出せそうもないことが合理的に確認された場合には、コミッショナーは第(1)項に基づいてコミッショナーに預託された金額の残高を労働者基金に払い込むものとする。
      7. コミッショナーが自らの発案、ないしはコミッショナーへの要請について調査をした結果、被扶養者の状況の変化あるいはその他の理由から、本節に基づく決定を変更すべきであることを確認した場合には、その時の事情に基づいて適切であるとコミッショナーが判断するように、先に発した命令を変更することができる。
      8. 前第7項に基づく命令は、命令が不適切である理由を説明する機会が当該者に対して与えられない限りは、その人物の利益を侵害することはないものとし、また、被扶養者がすでに支払われた金額を返還しなければならないような命令であってはならないものとする。ただし、その金額が詐欺その他の不適切な方法で受領されていた場合はこの限りではない。
  • 補償金に対する譲渡、差し押さえ、あるいは担保設定の禁止
    1. 第10節.
      • 本法律の規定に基づいて、本法律に基づく一括払い、あるいは月次払いの資金は、いかなる方法においても譲渡、差し押さえ、あるいは担保設定がされてはならず、労働者以外の者には法的な手続においても引渡せないものとし、また、いかなる請求もこれと相殺されてはならないものとする。
        [16/90]
  • 通知、及び請求
    1. 第11節.
      1. 本法律にもとづく補償金の受領手続は、本節に規定する場合を除き次の事項が実行されない限りは成立しないものとする。
        1. 労働者によって、あるいはその労働者のために、事故の発生後可及的速やかに使用者に対して事故発生の通知が行われること。
        2. 傷害の原因となった事故が発生してから1年以内に、また、死亡に至った場合には死亡日から1年以内に、事故に関する補償の請求が行われること。
        [34/80]
      2. 死亡事故の発生についての使用者への通知は必要とされない。
      3. 次の場合には、使用者への通知の欠如、欠陥、あるいは不正確さは、手続を進める妨げにはならないものとする。
        1. 事故発生時、あるいはその頃に、使用者が他の情報源からその事故を知っていたことが証明される場合。
        2. 補償請求手続の過程で、通知、あるいは修正通知がなされて聴取が遅れていたために、その通知の欠如、欠陥、不正確のために使用者には自らの抗弁において何らの不利益が生じていないことが明らかであるか、あるいは、そのような欠如、欠陥、不正確さが、間違い、シンガポールに不在であったため、あるいはその他の合理的な理由で起きたということが明らかな場合。
      4. 上記第(1)項に定められた期間内に補償請求を行わなかったことは、その理由が間違い、シンガポールに不在であったため、あるいはその他の合理的な理由に基づくことが明らかな場合には、請求手続を進める妨げとはならないものとする。
      5. 傷害についての使用者への通知(使用者が1人以上であった場合には、そのいずれか1人への)は、職長に、あるいは労働者がその指揮下で働いていたその他の者に、あるいはその目的で使用者が指名した者に対して書面あるいは口頭で行われるものとし、通常の言語で、傷害の原因、および事故が発生した日、並びに場所を説明するものとする。
      6. 書面による通知の場合には、その通知書は通知をする相手方の住居、あるいは事業所において手交するか、あるいは書留郵便でその宛先に郵送するものとする。
  • 使用者によるコミッショナー及び保険会社への通知
    1. 第12節.
      1. 使用者による通知は、コミッショナーに対しては定められた様式で、保険会社に対しては書面をもって、事故の発生について次のように行うものとする。
        1. 事故が原因で死亡に至った場合には、事故発生から10日以内。
        2. 事故によって労働者に14日を超える労働能力の喪失がもたらされた場合には、事故発生から18日以内。
        3. 事故によって労働者に14日以内の労働能力の喪失がもたらされた場合には、事故発生翌月の15日以前。
        [16/90]
      2. 使用者が本節に規定に基づく通知を怠ることは違法行為であり、有罪の場合には2,000ドル以下の罰金に処されるものとする。
        [16/90]
      3. 本法律の目的においては、「使用者」とは第17節の「主たる責任者」を含むものとする。
  • 健康診断/及び治療
    1. 第13節.
      1. 労働者、あるいは労働者のために、事故発生の通知が使用者にあったら、使用者はその通知を受けてから5日以内に、その労働者が医師の健康診断を受けられるよう取り計らい、医師が必要と判断する治療および薬代を負担するものとし、労働者は手配された健康診断を受けるものとする。
        • (1A)本法律に基づく月次の支払を受けている労働者は、使用者の要請があった場合にはその都度、健康診断を受けなければならない。
        • [16/90]
        • (1B)労働者には本法律の規定に基づく以外は健康診断を受ける義務はない。
        • [16/90]
      2. 本法律に基づいて医師の報告が必要とされた場合には、その報告のための費用は使用者が負担するものとする。
      3. 労働者が上記第1項あるいは第(1A)項に基づいて使用者あるいはコミッショナーの要請を受けたにもかかわらず健康診断を受けなかった場合には、その労働者の補償を受ける権利は健康診断が行われるまで保留されるものとする。さらに、コミッショナーの受検要請から6ヶ月以上経っても労働者が健康診断を受けなかった場合には、その労働者の事故原因による傷害については補償がなされないものとする。ただし、その傷害が原因となって労働者が死亡した場合、あるいは健康診断を受けなかったことに相当な理由があることをコミッショナーが確認した場合はこの限りではないものとする。
        [34/80]
      4. 本節第1項に基づく健康診断を受ける要請を受け、そこで指定された期限内に受けなかった労働者がその診断を受けないままに、意図的にその労働者が事故発生時に居住していた場所を移転した場合には、その補償を受ける権利は、その労働者が使用者に新しい住所を通知した上で健康診断を受けるまで保留されるものとする。
      5. 本節第)項または第4項に基づいて補償受領権が留保されている労働者が、この各項で必要とされる健康診断を受けないまま死亡した場合には、コミッショナーは、それが適切であると判断する場合には、死亡した労働者の被扶養者に補償金が支払われるよう指示するものとする。
      6. 本節第3項または第4項に基づいて労働者の補償金受領権が保留されている間は、その保留期間についての補償は支払われない。
      7. 7傷害を受けた労働者が医師による治療を拒否するか、あるいは、その治療に基づく指示を実行しなかったか、あるいはそれを故意に無視した場合には、次のような措置がとられるものとする。
        1. 労働者が本法律に基づく支払を月次で受領している場合には、労働者がその治療を受け入れるか、あるいはその指示を実行するまでコミッショナーはそれら月次の支払を留保するものとし、さらに、これらの治療の拒否、怠慢、あるいは無視のためにその労働者の労働能力の喪失期間が長引くことになったとコミッショナーが確認した場合には、コミッショナーはその月次の支払を、傷害が発生した日から、彼が治療を受けその指示に従ったら治癒したであろうと合理的に判断される日までの期間に限定するよう命じることができるものとする。
        2. 労働者が恒久的な労働能力を喪失し、コミッショナーがその喪失はこうした治療の拒否、怠慢、あるいは無視のために悪化したことを確認した場合には、コミッショナーは、その労働者が規則的に医師の治療を受けていたら収まったであろうと合理的に判断される程度の能力喪失期間に相当する金額で、労働者への補償金を支払うよう命じることができるものとする。
        [16/90]
  • 認定病院
    1. 第14節.
      1. 労働大臣は適宜に官報に掲示して、本法律に基づく認定病院を指定するものとする。
      2. 傷害を受けた労働者が認定病院での治療を受ける必要があると医師が証明した場合には、その労働者は認定病院に受け入れられるものとする。
      3. 傷害を受けた労働者が認定病院に受け入れられた場合には、使用者は、本法律に基づく補償のほかに、その労働者にかかわるすべての費用とともに、その認定病院の担当医師が必要であると証する薬品、義肢(義手、義足)、外科用器具などすべての費用を直接その病院に支払う義務を負うものとする。
      4. 労働大臣は適宜に官報に掲載して、上記第(3)項に基づいて使用者が負担する費用の最高限度額を定めるものとする。
      5. 医師が認定病院での治療が必要であると証明したにもかかわらず、傷害を受けた労働者がその治療を拒否した場合には、使用者からの要請に基づいて、コミッショナーはその労働者への補償金の支払を留保するか、あるいは再検討することがある。
  • コミッショナーによる検討
    1. 第15節.
      1. 本法律に基づくすべての月次の支払については、労働者の状態に変化があったことを証する医師の証明を添付した労働者あるいは使用者の申請に基づいて、コミッショナーによる再検討が行われるものとする。
      2. [16/90]
      3. 月次の支払は、本節の検討の結果、並びに本法律の規定に基づいて、継続され、増額され、減額され、あるいは終了されることがある。
      4. [16/90]
  • 月次支払方式の代替方法
    1. 第16節.
      • 支払が6ヶ月以上継続した場合には、関係者が合意し、コミッショナーが承認する相当金額の一括支払方法で代替できるものとする。
      [16/90]
  • 労働者が下請け業者による雇用である場合の責任
    1. 第17節.
      1. 自らの取引または事業を執行する過程において、あるいはその目的のために、仕事の全部または一部の執行、あるいはその仕事を実行するための労働力の供給を受けることを他の者(本節では、これを「下請け業者」という)と契約をした者(本節では、これを「主たる責任者」という)は、その仕事の執行のために雇用された労働者に対する補償が生じた場合には、その労働者が直接に「主たる責任者」に雇用されていた場合と同様にその支払義務を負うものとする。
      2. 本節第1項に基づいて「主たる責任者」に対して補償の請求があった場合には、本法律においては、使用者に関する事項が「主たる責任者」に対して全く同様に適用される。ただし、補償の金額は、その労働者が直接に雇用されていた使用者によって定められた賃金に基づいて計算される。
      3. 「主たる責任者」が本節に基づく補償責任を持つについて、「主たる責任者」は、本節の規定とは独立して別途労働者に対して補償責任のある者から補償を受ける権利を有するものとする。
      4. 4本節は、労働者が本法律に基づく補償を「主たる責任者」の代わりに「下請け業者」から得ることを妨げるものではなく、また、事情に応じて、「主たる責任者」または下受け業者に対して請求して未払いとなっている補償の残額を、本法律に基づく手続でその他の者から回収することを妨げるものでもない。
      5. 5本節はいかなる場合においても、「主たる責任者」の仕事の執行、その管理下または運営下にあった場所、またはその周辺以外で発生した事故については適用されないものとする。
  • 使用者及び第3者双方に対する救済
    1. 第18節.
      • 本法律に基づいて補償されるべき傷害が、使用者以外の者に法的な損害賠償義務が発生するような事情のもとに生じたものである場合には、次のような措置がとられるものとする。
        1. 労働者はその者から損害賠償金を回収する手続をとり、また、本法律に基づく補償責任のある者に対しても請求するが、損害金と補償金の両方を受取る権利はないものとする。
        2. 労働者が本法律に基づく補償金を受取った場合には、補償金を支払った者、および第17節第1項に基づく補償を請求されている者は、前記の損害賠償金の支払義務者から補償される権利があるものとする。
  • 使用者の倒産
    1. 第19節.
      1. 使用者が本法律に基づく労働者に対する責任について保険会社との契約を締結している場合には、次のような事態が発生した場合には、その時点で有効なシンガポールの破産法、あるいは会社の清算に関する法律のいかなる規定にもかかわらず、使用者の保険会社に対するその責任に関する権利は労働者に譲渡され、与えられるものとする。その条件となる事態とは、使用者が破産するか、あるいは債権者との間で示談をするか債務整理計画に入る場合、または使用者が株式会社である場合には、清算手続を開始するか、あるいは会社の取引または事業の管財人ないしは管理者が正式に指名されるか、会社がその資産に対する包括担保権を有する社債権者によって、あるいは彼らのために、その担保権に準じて占有されることになった場合とする。
        • (1A)上記の第1項に基づく譲渡があった場合、あたかも保険会社が使用者を代替したかのように、保険会社は使用者と同じ権利および救済権を取得し、同じ責任を引継ぐものとする。ただし、その後の保険会社の労働者に対する責任は、使用者に対する責任以上のものにはならないものとする。
      2. 2労働者に対する保険会社の責任額が使用者の労働者に対する責任額より小額である場合には、会社の破産または清算があった際には、労働者はその差額を証明して管財人あるいは管理者からその額を回収するものとする。
      3. 上記第1項の事態において、使用者と保険会社との契約が使用者の契約条件不履行のために(保険料の支払条件以外において)無効ないしは取り消し可能になった場合にも、同項の規定は契約が無効ないしは取り消し可能ではないものとして適用され、保険会社は会社の破産または清算に際して、労働者に支払った金額を証明することができるものとする。
        • (3A)上記第3項は、労働者が会社の破産または清算の事実、および使用者が保険契約を締結していたこと、およびその契約相手を知った後に、可及的速やかに事故の発生並びにその結果としての労働能力の喪失を保険会社に通知しなかった場合には適用されない。
      4. 以下の a b c の債務には、@ABに定める日までに発生し、補償金または補償責任額として支払われるべき債務を含めるものとする。
        1. 破産法(第20章)第90節に基づいて、他のすべての債務に優先して支払われるべき債務
        2. 会社法(第50章)第328節に基づいて、他のすべての債務に優先して支払われるべき債務
        3. 会社法 第226節に基づいて、社債に関する元本および利息のすべての請求に優先して支払われるべき債務、
          1. 上記aについては、破産命令の発せられた日
          2. 上記bについては、会社の清算手続開始日、あるいは、会社が強制的な清算命令を受け、それ以前に自己清算手続を開始していなかった場合には清算命令の発せられた日
          3. 上記cについては、管財人が指名された日、または会社法(第50章)第226節に基づいて占有権が移転された日。
      5. 補償金が月次で支払われていて、それが一括払いに切り替え可能なものであった場合は、本節に基づいて支払われるべき金額は第16節に基づいて申請していれば切り替えられたはずの一括払いの金額とし、その金額に関するコミッショナーの確認書は最終的な決定額とする。
        [16/90]
      6. 上記第4項は、第3項に基づいて保険会社が証明できる金額には適用されるものとするが、破産した会社あるいは清算中の会社が保険会社と第(1)項に基づく契約を締結した場合には、上記第(4)項は適用されないものとする。
      7. 本節は、会社が再建のため、あるいは他の会社と合併の目的で自己清算する場合には適用されない。
  • 船員に関する特別条項
    1. 第20節.
      • 本法律は、本法律の目的において労働者である船員には以下の変更を加えて適用される。
        1. 傷害を受けた者が船長である場合を除き、事故発生および補償請求の通知は、あたかも船長が使用者であるかのように、船長に対して行われるものとするが、事故および労働能力の喪失状態が船上で始まった場合には、船員は事故発生の通知をする必要はないものとする。
        2. 船長または船員が死亡した場合には、補償請求は請求者がその死亡情報を知った日から6ヶ月以内に行われるものとし、また、その船舶が乗組員全員と共に沈没した、あるいは喪失したとみなされる場合には、船舶が沈没した、あるいは喪失したとみなされる日から18ヶ月以内に行われるものとする。
        3. 傷害を受けた船長または船員が英連邦内領土あるいは外国に陸揚げされた、あるいは外国に残された場合には、傷害に関する状況およびその性格についての証言書はその領土の判事または行政官、外国であった場合には領事館員によって作成されるものとし、それを作成した者によってそれが労働大臣に送付されると、その書類、あるいはその証明付きの写しは、その後の求償手続においては商船法(第179章)第184節および第186節に基づく証拠能力のある証拠として取扱われ、商船法の諸条項が適用されるものとする。
        4. その時点で有効なシンガポールの海運に関する法律、あるいはその一部に基づいて、傷害を受けた船長または船員の保護にかかわる費用が船舶の所有者の負担責任となる期間については、月次の支払は行われないものとする。
  • 契約による責任免除について
    1. 第21節.
      • 雇用が原因で、あるいは雇用中おける労働者の人的な傷害について、労働者が使用者から補償を受ける権利を放棄するような契約、あるいは協議は、本法律に基づく補償責任者の責任を免除あるいは軽減する意図が含まれている限りは、すべてこれを無効とする。
  • 死亡した労働者が使用者から受取るべき資金は、コミッショナーが受領した上でその被扶養者に支払う
    1. 第22節.
      • 死亡者の財産の管理並びに分配に関するその時点で有効なシンガポールの法律の規定にかかわらず、労働者が死亡して、その被扶養者に本法律に基づく補償金の受給権があり、また、労働者が本第8節の計算方法に基づく月収の2ヶ月に満たない金額で使用者から受取るべき金員があるとコミッショナーが判断した場合には、コミッショナーは継承権の提示を求めることなく、自己の判断に基づいてその金額を受領して被扶養者に支払うことが合法的であるものとする。
  • 使用者の責任についての強制保険
    1. 第23節.
      1. すべての使用者は、本法律に基づいて自らが雇用する労働者に対して発生する責任について、保険法(第142章)で認定された保険会社と一つないしはそれ以上の保険契約を締結し、それを継続しなければならない。ただし、労働大臣が官報での通知によってこれと異なることを定めた場合にはこの限りではない。
      2. 使用者が本法律に基づく補償責任に関する保険料またはその一部を回避する目的で、労働者の所得から何らかの差し引きをすることは違法行為であり、そのため有罪となった場合には2千ドルを超えない罰金、あるいは6ヶ月を超えない禁固刑、あるいはその両方を科されるものとする。
      3. 使用者が第1項に定められた保険に加入しないことは違法行為であり、そのため有罪となった場合には1万ドルを超えない罰金、あるいは12ヶ月を超えない禁固刑、もしくはその両方を科されるものとする。
        [16/90]
      4. 本法律の目的においては、「認定された保険」とは本法律のもとで禁止されている条件または例外条件を伴わない保険契約をいう。