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記事化学製品へのばく露リスクがとりわけ高い、若年者層

出典:オーストラリア安全評議会 National Safety Council og Australia(NSCA)発行
「National Safety」 2006年6月号
(仮訳 国際安全衛生センター)

掲載日:2007.04.03

化学物質へのばく露は若年者に特別のリスクをもたらす。

若年者は、就労者の中で常に重要な役割を果たしてきている。彼らは働くことで一家の所得に貢献し、「臨時」出費をまかなうために働いている。

人は雇用されることにより(自尊心を育成したり、実用的で、より優秀な実地技能を身に着けたりするなどの)多くの収穫を得るが、雇用状態で考察する限り、若年労働者は好ましくない作業環境、低賃金、乏しい福利厚生の下で就労しているという特徴を示している。さらに若年労働者は、化学物質へのばく露など、多くの潜在的リスクにもさらされている。

若年労働者はどのような場所で化学物質にばく露されるのか

一般的な雇用形態においては、若年労働者の就業状況は、一般的に、重要な昇進への機会の欠如、高い離職率、実地訓練の欠如、自由裁量権や技能の適用可能範囲の制限、高い雇用の不安定性、就業時間の大きな変動や不確定性、低賃金、乏しい福利厚生という特徴を示している。

若年労働者の多くは(たとえば、レストラン、店舗、美容院、ガソリンスタンドなどの)小売業かサービス業に雇用されている。初心者レベルの作業において、洗浄剤、溶液、塗料、腐食剤および漂白剤を含む有害化学物質の暴露を受けるのは、大半が若年労働者である。

有害性情報の欠如、化学製剤の配合がさまざまであったり、あるいは有害性情報が不正確、古いために、若年者のばく露の程度はいっそうひどくなっている。若年労働者がばく露される可能性のある化学製品とその業界の例を以下に列挙する。

  • レストラン、小売店舗、ヘルスケア施設での化学洗剤
  • 美容院でのシャンプー、ヘアダイ、ヘアケア製品やその他の化粧品
  • 建設業や自動車修理工場での塗料、建設資材、研磨剤
  • 印刷業者、コピー店でのインクや溶剤
  • ネイルサロンでのグルー、ネイルポリッシュ、ネイルペイントリムーバー、爪を磨いた際に発生するアクリル系の粉じんドライクリーニング店でのパークロロエチレン、その他のドライクリーニング用溶剤
  • ヘルスケア施設や獣医院でのラテックス
  • ガソリンスタンドでのガソリン蒸気
  • 芝生メンテナンス業、農業での殺虫剤
  • プールメンテナンス業のプール用化学薬品
  • 配管業の、はんだのヒューム
  • 建設業でのシリカやその他の建設資材
  • ドライブスルーレストラン、ドライブスルー酒店、駐車場、ガソリンスタンドでの車の排ガス。

若年労働者が被る、職場におけるハザードとリスクを増大させる要因にはさまざまなものがある。これらの要因は、それぞれ生理的、心理や行動、毒物学的、および職場にかかわるものに分類される。

生理的要因

若年者の生理機能は、成人のものとは異なることが少なくない。若年者の身体形態は小児より成人のほうに近いが、一人当たりの体重に対する身長、体表面積および体重の割合は、成人より若年者のほうが大きい。さらに思春期後には、男子若年者は筋肉が増えるため急激に身体が成長する(女子若年者にはあまりそのような傾向は見られない)。身体の各臓器や主要な組織も急速に成長する。

また代謝率も若年者のほうが成人より高く、一回の呼吸量や酸素消費量も成人より多い。概して、若年者のほうが成人より活動的であるが、これも酸素必要量が若年者のほうが多い理由のひとつである。呼吸速度が早いと大気汚染物質へのばく露リスクが高まる。

おそらく、さらに重要なことは、若年者の内蔵や身体組織の多くは機能的にまだ成熟していない、という点であろう。(神経、胃腸、筋骨格、内分泌腺、免疫系統などの)身体組織の中には、成長途上であるため化学製品へのばく露で傷害を被るおそれがあるものもある。(たとえば、脳神経細胞や神経系統の髄鞘形成や生殖器官の調節など、)青年期のさまざまな臓器は急激に成長しているため、危険有害物質へのばく露による傷害や、累積性外傷疾患を被りやすくなる可能性がある。

心理/行動に関わる要因

青年期は、子供から成人に移行する成長期であり、理解力、所作(挙動)、社会環境における相互作用、ふるまいや行動様式が変化し、成人としての人格が形成される重要な成熟期間である。

青年期の心理は成人のものとは異なる。青年期の特徴は、急激な身体の成長と、発展途上にある心理変化である。青年期には突然、急速に身体変化が起きるため、一般的には自分のイメージを気にし、自意識、感受性、身体変化への関心が高まる。

若年労働者は、特定の仕事に必要とされる経験や身心の成熟に欠けている。このような場合には、適切な情報、教育訓練、監督が必要となる。また青年期は、個人的な体験期間でもあり、若年労働者は多くの仕事を試してみてから、特定の職業を決め、将来計画を定めるということが見られる。しかし、若年労働者の転職理由の中には、職歴の早い時期にばく露された、職場での要因(たとえば、アレルギー性化学薬品など)による健康状態の悪化というものも見られる。

若年労働者の職場での有害化学物質へのばく露を考慮する際には、(アルコールやドラッグなど)日常生活でばく露されている有害化学製品や、環境上、また職場外でばく露されている要因もすべて合わせて、化学物質への包括的なばく露として考察する必要がある。

毒物学上の要因

化学物質へのばく露による若年労働者の毒物への反応は、以下の理由により、成人とは異なる可能性がある。

  • 若年労働者は化学物質を容易に吸収してしまう
  • 若年労働者の体内には化学物質が長期にわたり残存する
  • 若年労働者の生体内変化経路は、効率が悪い
  • 化学物質の排出速度が遅い
  • 身体組織がまだ充分に完成していない場合、化学物質にばく露されると組織の成長や成熟が阻害される
  • 身体組織が新たに作られている、あるいは職場環境に適応していない場合、化学物質へのばく露は、身体機能を阻害する

(鉛や有機水銀など)よく知られている毒物は身体の成長プロセスに影響を及ぼすで知られているが、(鉛や有機水銀以外の有毒金属、分解しにくい有機汚染物質、内分泌かく乱化学物質などの)有毒性が疑われる毒物の影響も見逃せない。

成人労働者と比べると、若年者は残りの寿命が長いため、職場で化学物質にばく露されている若年労働者は、成人労働者に比べ、慢性疾患や加齢による影響を受けるリスクが高い。また、潜伏期の長い疾病を患う可能性も増大する。

最後に言及するが、職場での有毒物質へのばく露は、過失による場合、意図的な場合、あるいは犯罪による場合のいずれも起こりうる。これらのことは、時には死を招く恐れもある、若年者の化学物質乱用という社会問題に関する多くの文献で裏付けられている。

職場の要因

職場に新しく入った若年労働者は、工具、資材や、職場そのものにまつわる基本的な危険性についての認識が欠けていることがある。また、若年労働者は、特定の仕事にかかわる業務要件や安全作業手順を熟知していない場合もある。自分自身の法律上の権利や、訓練を受けている年上の熟練労働者に任せるべき仕事であるかどうかについて知識がない場合もある。

若年労働者は、安全確保や傷害予防の教育訓練を十分に受けていなかったり、通常の職責外の仕事で、教育を受けていないものに携わったり、十分な監督を受けていなかったりする可能性もある。年配労働者により,長期に渡って作り上げられてきた安全でない仕事の慣例、あるいは職場の安全文化への認識が低い場合も、若年労働者の仕事に対する態度の育成に悪影響を及ぼすと考えられる。さらに、若年者がさまざまなリスクを負う理由は、知識が欠けているためであったり、より頻繁に見られることだが(「わが身には起きない」などのように)リスクへの配慮が欠けていたり、(とりわけ男子若年者に見られる)リスクを招く無謀な行為をしたりすることである。

若年労働者のための職場安全プログラム

組織が運営する、成人労働者向けの標準的安全プログラムへ若年労働者を参加させることが必ずしも適切というわけではないことを、若年者を雇用するすべての組織は認識すべきである。すべての若年労働者に、職場における権利と責務を通達すべきである。中でももっとも重要なことは、注意義務の責任であろう。法律の中には、特定の職種や仕事への従事者から、若年労働者を除外しており、その旨の明記を義務付けている。

その他にも、若年労働者向けに設計しなおす必要がある職業上の安全制度には、以下のようなものがある。

  • 危険有害物質のハザード情報とリスク管理(特に、ラベル、MSDS制度、化学物質登録目録)
  • 若年労働者のニーズを考慮したリスクアセスメント
  • 教育訓練、とりわけ、能力訓練。若年労働者向けの教育訓練の方式や教材は、慎重に考察されなければならない。
  • 職場の安全規則、指示、手順
  • 安全管理、特に、局所排気や個人用保護具など、労働者の認識を必要とするもの

結論

化学物質へのばく露の影響は、身体に接触した(あるいは、身体が吸収した)化学物質の量と、ばく露した時期(人生のどの時期にばく露したのか)により異なる。青年期の生物学的諸相は特有のもので、生殖、呼吸、筋骨格、免疫、内分泌腺、中枢神経系の各機能を含めた、1)身体機能の阻害と、2)多くの身体組織の成熟阻害、の双方の観点から、青年期は、毒物の作用が特異な反応を示すという重要な時期である。

若年労働者と成人労働者の相違がすべて悪影響を及ぼしていると言い切れる確証はない。それでも、毒性は化合物に関連する性質であり、毒性の中には年齢に関連するものもあるということは明らかになっている。青年期は、不慮の傷害を負うリスクが高い時期であるため、免疫系統や中枢神経系統への毒物の影響はとりわけ有害なものとなる。

職業上の毒物へのばく露は、若年労働者の傷害の中でもほとんど認識されていないが、このような職場関連の災害にはさらに厳重な監督が必要となる。一般的な予防措置を講ずれば、作業環境のハザードから若年労働者は保護される。さらに、若年労働者の職務行動に成長が見られるようになり、ひいては、彼らの今後一生の職歴を通し安全予防が講じられることにつながる。

本記事の元原稿の出所は、オーストラリアCCH出版。筆者は、ニューサウスウェルズ大学安全科学学部応用毒学科准教授クリス・ウィンダー氏。本記事の全文は、『労働安全衛生雑誌』、オーストラリア&ニュージーランド、CCH出版(Journal of Occupational Health and Safety ? Australia and New Zealand ? a CCH publication)の四月特集号で閲覧可能。