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狭隘なスペース:危険な作業場

(資料出所:オーストラリア安全評議会 (NSCA) 発行
「Australian Safety」 2001年3月号)

(訳 国際安全衛生センター)


狭隘なスペースでの作業に関するオーストラリア基準の改定を目前にして、オーストラリア安全評議会 (NSCA) 機関紙Australian Safetyが最近の事故を検証しその防止策を勧告する。

閉鎖された空間で死んでいくという恐怖は、たとえ閉所恐怖症ではなくても充分に理解できるであろう。1996年以降ニュウサウスウェールズ州内で、堀割、窯、タンク、立坑、およびその他の狭隘なスペースの作業場で発生したこの様な死亡事故について考えて欲しい。

最近の死亡例

2000年1月、窯炉運転作業員が予熱炉の故障を点検していた際に、予想外の熱風を受け窒息死した。作業員は部品を取り外す為に予熱炉のトンネルに入ったが、そのとき窯炉台車が前に動き出口を遮いだ。

1999年3月、電気工が500mm x 800mm x 7mの溝で作業中、その剥離用工具が240ボルトの電流の流れている電線に接触し感電死した。

同じ様な感電事故では、1998年10月に電気工がスキッド操舵ローダーで損傷を受けた下水管の修理中に下水溝で240ボルトの活線に接触し感電死した。

1998年3月、ショットブラストブース内で12mパイプを仰向けの姿勢で作業員がショットブラスト作業を行っていたところ、重さ約900kgのパイプ1本が吊滑車から落ち作業員の胸部に落下した。同僚が作業員を発見し、心肺蘇生法を施したが救命することはできなかった。作業員は致命的な損傷を胸部に受けていた。

1997年4月、住居用家屋の屋根裏で活線に接触した自営便利屋が感電死した。事故当事、死亡した便利屋は同住居の台所照明の修理中であった。

同月、所有地内のダム掘削作業が行われている最中に、堀割の水漏れを調べに行った農夫が死亡した。堀割の側壁が崩壊し、農夫の胸部を押しつぶした。

1996年9月、昇降機立坑付近で作業中の機械主任に昇降機が衝突し死亡した。事故当時、機械主任は昇降機と立坑の隙間の最終測定を行なう為に立坑梯子の上段部にいたと思われる。同主任は、昇降機下端ガードと1階の降着ドア敷居の間で押しつぶされていた。

これら事例は全てニュウサウスウェールズ州内で起きたものであるが、同じ様な死亡事例は他の州でも同時期に起きていた。

根本的な予防可能性は別としても、これら事故はすべていとも簡単に発生しているという共通点がある。例えば、堀割の水漏れあるいは炉内に故障があるという問題が発生すれば、現場に出向き調べるということが自然の対応であろう。しかし、これら死亡事例は安全が常に「常識」ではないことを喚起し、安全には系統的かつ厳密な計画および予測が必要であることを指摘している。

基準改定

オーストラリア基準の広報担当者によれば、オーストラリア基準AS2865―1995「狭隘なスペースでの安全作業に関する統合国家基準」の改訂版は今月発表される。

同広報担当者は、改定基準には狭隘なスペースの定義方法に変更があり、「狭隘なスペースを測定する為に新しい要素が取り入られ、基準も再構成されている」と述べている。また、同担当者は次のように述べている。「新しい基準はリスクアセスメントの手法を記載している付録を含んでいる。また、狭隘なスペースに入る作業員が記入する必要のある認定書式にも若干の変更がある。加えて、定義変更、変更理由、および変更が示唆するものについての新しい付録が添付された。」

関係者にとって新基準への対応の指針として、新基準とともにその手引書が3月に発行される予定である。

全国労働安全衛生委員会(NOHSC)の勧告

狭隘なスペースにおける安全作業に関する下記の情報は、全国労働安全衛生委員会(National Occupational Health and Safety Commission−NOHSC)のホームページ<www.nohsc.gov.au>より転載した。同委員会によれば、狭隘なスペースとは「完全あるいは部分的に囲まれた空間を指し、通常の作業場としては設計されておらずかつその出入りに制限がある場所。」となっており、貯蔵タンク、サイロ、ピットや油ダメ穴、パイプ、シャフト、ダクト、船内の狭隘なスペース等を含んでいる。

この様な空間内での作業(頭部あるいは上半身のみを入れることを含む)は様々な理由により危険を伴なう。下記の理由により死亡あるいは重傷事故が発生する可能性がある:

  • 酸欠状態あるいは過剰酸素状態(例えば酸素供給装置よりの漏れ)
  • 内部空気あるいは内部壁面の汚染
  • 蒸気、水、その他のガスあるいは液体が制止できない状態で浸入する
  • 窒息(例―穀物、砂、小麦粉等による)、感電、爆発、火事の危険性

狭隘なスペースにおいてはその他の危険物による労働災害のリスクも高くなる。例えば、狭隘なスペースで操作される器具、騒音(ハンマー打ちの音は増幅される)、放射線、あるいは温度(作業工程、天候、劣悪な換気、不適切な作業着等により作業環境は暑すぎたり寒すぎたりする)等から危険が生じる。

作業スペースに制約が加えられると云うことは、手作業による怪我あるいは落下が起き易い。

基準について

NOHSC(本基準をオーストラリア基準に統合した)によれば、AS2865―1995は事業者(設計者)に対する下記に関しての一連の要求である:

  • 狭隘なスペースに入る必要性をいかにして排除あるいは最小限にするか
  • 狭隘なスペースに入る必要のある人の安全衛生をいかに確保するか

上記に加えて、事業者は下記を義務付けられている:

  • 狭隘なスペースに改造がなされる場合、その改造によりそのスペースへの出入りが現状より困難なものにならないようにする
  • 狭隘なスペースに絶対に許可証無しでは誰も入れないようにする
  • 適切な救助および応急措置方法が計画、確立され実地訓練を確実に実施すること。
  • 次の記録をとどめておくこと:
    • 立入り許可証(1月間)
    • リスクアセスメント報告(5年間)
    • 訓練(従業員雇用期間中)

この基準は、狭隘なスペースの設計、製造、供給に従事する者に対しても、様々な責務を課している。

危険な状況を調査

まず最初に、職場にある狭隘なスペースをリストアップし、その空間に関わる全ての作業(定期保守等)および当該作業を行う為にその空間に入る必要性があるかどうかを書き留める。

下記のような危険がないがどうかよく見る。:

  • 狭隘なスペースに入ること自体に伴う危険
  • 狭隘なスペース内で行う作業に伴う危険

これを行うには下記の提言を取入れたチェックリストを用いればよい。

1. 危険をなくす方法

最良の方法は狭隘なスペースに入る必要性を皆無にする事である。例えば、自動洗浄機能あるいはのぞき窓のあるタンクを使用することがそれにつながる。

2. 危険を最低限にする方法

  • 代替:狭隘なスペース内での作業がどうしても避けられない場合、作業自体を可能な限り安全なものとする為に他のもので代替することができる。例えば、可燃性溶剤に代えて不燃性溶剤を使用する、エアゾールを噴霧するのではなくブラシを使用する等である。

  • 防止対策:機械などの偶発的作動、偶発的通電、およびパイプ、通気孔、排水溝等からの汚染物質等の偶発的浸入等を防止する為にすべての危険を伴なう可能性のあることが当該空間で発生しないようにしなければならない。

  • 技術的に危険を排除する:その内容としては、人の立ち入禁止、汚染物質の洗浄、内部状態のチェック、酸素濃度・圧力・温度を含む内部空気が常に安全であること等を確認できる方法を技術的に有すること。

  • まず第一に正しい設計をするよう努めること:その空間に入る必要性を排除した設計が不可能な場合、空間内に入るあるいは空間内で作業する人員のリスクを最小限にする設計(安全な出入手段を含む)を行うこと。

3. 安全作業を確実なものとするために

安全衛生に対する危険があるところでは、下記事項を満足させるように安全作業基準を作成する:

  • 立入り許可証無しに狭隘なスペースには入らない。立入りの際には、空間の外に必ず最低限1名の人員を待機させる。
  • 人が中にいる場合は、それを明示する適切な告知板を設置する。
  • 狭隘なスペースでの作業が終了したことおよび作業員が空間内に残っていない事の確認(書面による認定)がなされない限り、狭隘なスペースでの操業を再開しない。
  • 適切な救助、応急処置、および消火手順を準備しておく。

保護具:危険が他の方法で十分取り除くことができない場合や、他の方法が実施されるまでの暫定措置として、呼吸装置、安全保護具、保護衣等を用いても良い。

危険要因

危険要因とは、狭隘なスペースで作業することから生じる危険に影響を与える事柄である。

狭隘なスペースの性質
下記によりリスクは高まる:

  • 欠陥のある、あるいは不安定な構造
  • 視界の悪さあるいは照明不足
  • 動作を制限する大きさおよび形状
  • 出入りが難しい、又は障害物がある場所
  • 作業員を押しつぶすか閉じ込める可能性のある可動装置の存在
  • 制止できない蒸気、水、あるいはその他のガスまたは液体の浸入の可能性

空間内の空気の状態
下記によりリスクは高まる:

  • 空気を希釈してしまう不活性ガスの存在
  • 汚染物質(ガス、気化物質、煙、微粒子)の存在
  • 爆発物あるいは揮発性物質の存在
  • 換気不足
  • 温度や気圧が通常より低い又は高い状態

現存又は直前まで存在した物質
下記によりリスクは高まる:

  • 空間内の酸素を消費してゆっくりと酸化する有機あるいは無機物質
  • 酸素を吸収する物質(穀物、化学物質、土壌)
  • 表面に汚染物質を残存させる物質(固体、液体、スラッジ)
  • 窒息を引き起こす可能性のある物質(穀物、砂、小麦粉、肥料等)の存在

隣接する区域での作業
隣接する区域での高温作業あるいはフォークリフトのような可動機器の使用はリスクを高める可能性がある。

作業要件
下記によりリスクは高まる:

  • 酸素消費量および体温を上昇させる肉体運動の必要性
  • 余分な酸素を漏出する可能性のある機器の使用
  • 空間への出入りを困難にする可能性のある機器の使用
  • 汚染物質を放出する工程(例。毒性あるいは可燃性物質を使った塗装、毒性蒸気を発生させる金属を使用する溶接・ろう付け)
  • 酸素を多量に消費する工程のある作業
  • 加熱の必要性
  • 放射を発生させる機器(レーザー、溶接機、放射ゲージ)の使用
  • 閉塞的な空間において増幅する騒音を発生させる工程

空間内の作業員数
空間内の作業員の数が増加すればリスクも増加する。(ただし、状況によっては1名より2名のほうが安全な場合もある。)

空間内での作業時間
狭隘なスペースでの作業が長引けば長引くほどあるいは頻繁であるほどリスクは増加する。

空間外での待機人員数
重要機器の保守、空間内作業の監視および救助作業を行えるのに充分な人員を空間外で待機させなければならない。

従業員の適正、技能、経験
従業員の経験不足あるいは訓練不足はリスクを増加させる。



訓練に関する助言

狭隘なスペースでの作業に関する訓練内容は下記を網羅すべきである。

  • 狭隘なスペースでの作業に伴う危険
  • リスクアセスメント手順および危険防止対策
  • 緊急手順
  • 安全器具の選択、使用、装着、および保守

狭隘なスペース内で作業を行うか、狭隘なスペースに対して作業を行う人員は、当然訓練の対象であるが、下記の関係者も訓練の対象とすべきである:

  • 閉鎖空間作業中の待機要員
  • 立入り許可証の発行担当者
  • 作業場の設計レイアウトをする者
  • 狭隘なスペース内および周辺で作業する人員の管理あるいは監督者
  • 閉鎖空間作業で使用する機器の保守管理者
  • 保護具の購入・配布・装着・保守担当者
  • 救助および応急措置にかかわる者

NOHSCが概略を示したこれらの危険防止対策に関する助言に従えば、この記事の冒頭に記載した死亡例のような事故は発生することはなくなるだろう。このようなシステマテックな手順を踏むことで、どのような状況においても安全を考慮する必要があるとの認識により応急的・軽率かつ条件反射的な対応をしなくなるだろう。