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建設業の安全性〜改善か宣伝か?

資料出所:オーストラリア安全評議会 (NSCA) 発行
「National safety」 2002年2月号 p.30-33, 36-38, 40

(訳 国際安全衛生センター)


 建設業界での作業は、より安全になっているだろうか。それとも上乗せした数字で統計を操り、希望的観測に近づけているのだろうか。回答する人たちの意見はさまざまだ。ポール・サマービルのレポートである。

 進行中の作業に少し目を留めてみると、建設現場がいかに不整備で混乱しているかがすぐに分かるだろう。
どのような時でも、セメント混練、レンガ積み、タイル張り、クレーンまたはフォークリフトの運転、配線、掘削、ノコ引き、資材の配達など何百ものプロセスが考えられ、たくさんの建設作業員が様々な作業を行っている。
 このような多岐に渡る作業、および常に変更が起きる状況は、建設分野の安全性を向上させるための2つの難題である。
建設分野はオーストラリアで最大の産業のひとつであるが、国内でのデータを見ると、その安全性に関しては、理想の数字に程遠いことが分かる。全国労働安全衛生(OHS)委員会は、予算が大幅に削減されたため、1992年以来、当業界に関する報告書を作成していないが、国内労働者に対する補償金の最新の数字を見ると、非常に不安になる。1998−1999年には、54人の死亡者および12,961人の非致命的な負傷者が報告された。これらの数字は、全産業の平均よりもはるかに高い。さらにOHSが補償した事故の全業界の平均は、千人の従業員につき、20.26人であるが、建設業界では34.82人であった。
 いったいこれらの低い統計の影にはどういう要因があるのか。業界、労働組合、その他の関係者は、どのような取り組みが可能だと認識しているだろうか。
 Thiess ContractorsのOHS部長であるレイ・ミランダ氏によると、以前と同様に、多岐に渡る請負労働が、建設業界にとっての主要なOHS課題だという。「建設業界は、元請業者が作業員に仕事を与えるプロセスについて取り組む必要がある。一応改善されてはいるものの、下請業者の安全記録を確認し、OHSを重要視しない者の数を低減することにもっと注意を払うべきだ。このことはまた、作業が開始される前に実践される必要がある」と氏は述べる。
 「安全性については開始時および評価段階で忘れられることがあまりにも多い。当業界では、作業の際に検討するべき要素は、それにかかる費用のみだと考えている人々が多い」
 ミランダ氏は、当業界はどのようなリスクが建設プロジェクトに発生するかを厳密に考える必要があると主張する。「元請業者はリスクを負わずに収入を得ているが、下請業者は果たしてその作業にリスクが伴うことを理解しているだろうか。彼らは安全に作業を進める専門技能や手段を有しているだろうか。現場のリスクに対する彼らの姿勢とはどういったものか」
 「OHSに対する心構えを持たない下請業者が多い。彼らは工具のみを持参して現場に現れ工事を始める。この問題を解決するには、業界が請負業者との結びつきを深め、安全に作業を行うことを保証し、彼らが受けるリスクについて理解することを証明する必要がある」
 「私は現実主義者で、ひとたびリスクを伴う作業に着手すると、まず頭に浮かぶ課題のひとつは安全性であると考える」と氏は言う。
 ミランダ氏はConstruction Safety Alliance(建築安全同盟)の書記でもあり、当機関のOHS文書手続き手順が簡素化されたことで、下請業者の安全性が高まると認識していると話す。
 「現場の安全性を保証するためには、下請業者に請け負わせる前に、尋ねられる質問を明確にしておくよう、今後も取り組んでいく。一方、様々な会社の期待を踏まえて、重複事項を減らし、より均一になるよう、下請業者に関する課題を改善していきたい」と氏は述べる。
 さらに氏は、情報の共有は効果的だが、それが大手企業のみでなく、全業界で行われる必要があり、「全業界に通用する基準を示す必要がある」と語る。
 「知識を共有することが大切であり、こうすることでその他の者が同じレベルに達するこようになる」
ミランダ氏は、建設業内の企業風土の問題もまたOHS記録の数字が低い要因だと考える。「鉱山業などの他の業界では、軽傷を負った作業員は一応病院へ行くが、翌日仕事に戻ることがよくある。一方、建設業では、軽度の事故に遭った場合、その翌日は仕事を休むだろうと予想される」
 「このことは単に従業員に関する考え方だと言っているわけではない。これは上司に関しても言える傾向である。軽傷を負った従業員に適切な仕事をどう与えていいかを事業者が把握していないことが多い。これは単に、事業者が作業員の技能について評価していないだけだ」
 但し、氏はここ5年間で、当業界はその実績を高めてきたと考える。「重度の事故や死亡事故に対する安全性は確かに向上している。今後はより軽度の事故に取り組んでいく必要がある」と氏は言う。
 「Thiessでは、全て図表を作成しており、これによると軽傷で1−2日の欠勤が伴う事故はそれほど減少していない。これに対し、重度の事故は、我々がその管理に焦点を当てた成果が表れ、その数が減少した」
 一方、Bovis Lend Leaseアジア太平洋環境の安全衛生部長レオ・マーフィ氏も、建設業は5年前に比べて安全になったと同意するが、まだ安全性は十分ではないと即座に付け加えている。
 安全性が高まったことは、WorkCover NSW(New South Wales)が報告した、負傷率の低下で分かると氏は言う。しかし、傷病強度率(LTI : lost-time injury rate)は、それ自体で安全性が向上したことを示すには不十分だと氏は警告する。「OHSが改善したかどうかを見るにはおそらく、重傷が減少したことの方が、LTIの比率よりもより正確だろう。両方の値とも減少してはいるが。さらに注目すべきは、これらの測定から、リスク管理の根本的な改善が分かることだ」と氏は述べる。
 マーフィ氏は、先のプロジェクトの構想および設計の段階から、OHSの効果を早いうちに査定するという基本理念を、当業界が発展させる必要があると主張する。
 「また他の極めて重要な課題としては、管理者、監督者、関係スタッフがリスクを認識し、適切で優れた管理をする技能を失わないことだ」と氏は述べる。また、単純であるが、総合的な対策により、下請業者レベルでいっそう実践的なOHS活動を行うことが必要である。
 「建設業はようやく、協議を行って高い基準を設定するために、プロジェクトに関わる全ての人々からの積極的なリーダーシップを必要とするようになった。そして、すべての関係者が知識や経験を共有することにより、最高の結果をもたらすことが保証されるのである」と氏は語る。


 
 11月にWorkCover NSWが発行したSafely Building NSWで公表された報告書では、建設業の安全性が向上しているという考えが示されている。この報告書は、100ページをはるかに超える量で詳記、産業および労働組合からの意見などを参考に研究者によって書かれた。
 当報告書は、行政、大手ゼネコン、労働組合、WorkCoverによる1998年の覚書(MOU : memorandum of understanding)での合意に続くもので、一つにはMOUの成功を評価する目的がある。
 WorkCover NSWによると、この覚書はシドニーオリンピックの準備に当たり、地方自治体が建設業に関心を抱くようになった際、元請業者と共にOHS改善のアジェンダを一括承認する方法として作成された。この考えは、サプライチェーン管理に沿って改良を進展させ、OHSを管理する世界で最も優れた一連の実践手引きを開発したいというものだった。
 Safely Building NSWでは、1998年から2000年の間に、MOUによりOHSを管理する関係者たちの間で、25パーセントの向上があったと報告している。実際、MOUに署名した団体では、1998年から2000年までに起こった事故率が32パーセントも減少した。
 報告書によると、NSWの建設業での事故率は全体で、44パーセントから40パーセントに減少、具体的には1995年以来、千人の作業員につき傷害を負った人数が58人から39人に減った。
 にもかかわらず、いくつかの業界関係者は、この報告書の数字について疑問を投げかける。建設林業鉱山エネルギー労組(CFMEU)安全調整担当のブリアン・ミラー氏は、これを“宣伝”だと述べる。
Safely Building NSW の調査の中には、万事順調で安全性の問題は改善が見られるといっているが、これらは現実に即していない」と氏は話す。「確かに事件・事故の数字は低くなっているが、これは私が日々現場で目にしているものとは異なる。私はここ12ヶ月で数件の衝撃的な事故を目撃したし、数件の事故は今まで見た中で最悪だった」
 「この報告書では、協議以外にも、MOUが合意されたおかげでよりよいコミュニケーションがいかに取れてきたかを何度も強調している」が、氏は政府関係の現場ですら、安全性について大きな意見の相違を最近目にしたと話す。
 「この報告書の公表は大掛かりで、画期的なすばらしいものに見えるが、真の安全問題については多くの内容が専門用語でかき消されている。見かけがいい冊子で、この中には宣伝がたくさん垣間見える」と氏は指摘する。
 さらに、「この(報告書の)数字も整合性に乏しい」と氏は加える。「統計データをうまく見せるよう、頭の切れる人材を雇ったのだろうが、私は彼らに言いたい。いつでも私と現場に出向いて、現場調査をし、現状がこの報告書の数字と同じかどうかを見たらどうかと」
 ミラー氏はこのほど、80から100人の作業員が住宅を建設している、2000万ドルの費用をかけた現場を訪れた。WorkCoverは当現場で14の禁止事項を通知したが、これらは無視されていたという。
「現場安全委員会は基本的に機能していない。これはそこで働くスタッフが安全性についての適切な知識を持ち合わせていないからだ。設計などの重要な問題が主要であるが、これらは忘れられている」と氏は指摘する。
 この記事のインタビューをしたわずか2日前にミラー氏は、建物の本壁が壊れて39歳の作業員がそれに当たって死亡した現場を訪れた。現場での安全性についてあきれるほど多くの問題を見たという。
 「この現場には多くのトラックが来ていたが、安全規定に従い、荷を固定していたトラックは一台もなかった。代わりに、各トラックは穴がたくさん開いた合成の掛け帯を備えていた。これでは荷が簡単に落下し、通行中の車に当たるのではとゾッとした」と氏は語る。
 「NSW州での新しい規制によると、書面で作業方法を告知しなければならないとあるが、足場組み立ての会社でさえ、この必要性を理解していなかった」と氏は付け加えた。
 「風のある天候での作業や、不安定な壁について、WorkCoverは警告している。また倒壊についての実施基準もよく知られている。つまりこれは周知の問題であり、これらの事故が今後も起きることに言い訳の余地はない」と氏は語る。
 「WorkCoverは、宣伝に多くの費用をつぎ込んでいるが、彼らに必要なものは現場での検査(監督)官と安全委員会および幹部向けの研修だ。メディアキャンペーンは、労組、事業者、WorkCoverが安全委員会について協力しなければ成功しないだろう」
 「私は日々感じるのは、ほとんどの委員会が最新のやり方を備えていないということだ。政府関係のプロジェクトでも、安全研修カードすら携帯していない作業員を目にした。彼らが安全委員会を尊重せず、PIN(一時的改良情報)の配布を受け入れなければ、建設業に必要な効果的な改善は期待できない。」



 建設業において本当に安全性が改善されているかどうかに疑問を持っているのは、労組だけではない。Barclay Mowlem Constructionの鉄道レールグループ安全部長リンゼイ・ホルト氏は、LTIの統計には誤差があると述べる。
 「いくつかの研究の結果によると、事態は改善されているというが、これは経験を積んだ業務復帰担当のコーディネーターが、作業員を業務復帰させるためのより充実したプログラムを求めているためだというのが私の見解だ。LTIの数字は見かけがよいが、実際の事故は現在も定期的に起こっていると思う」と氏は述べる。
 ホルト氏は、当業界が抱えている重要な問題は、(安全性への)帰属、リスク分析、および知識だと考える。「建設業以外の人々は、彼らが活用する管理システムがどこに帰属するかを理解している。今日私たちは、充実したOHS管理システムを適用しているが、具体的な作業に対する意識について一部の作業員に聞いてみると、その返答が単純であることに驚くだろう」
 「安全性への帰属は、従業員と話し合うだけで明確にできる。専門家チームによる説明を受けるよりもむしろ、その作業員にリスク分析をさせると、現場の安全についてはるかに深く関わりを持ち順守するようになるだろう」と氏は指摘する。
 「また知識も非常に重要だと思う。規制に従う必要性について、その管理者から多くの資料が提供されているものの、具体的な状況での対応法などを質問すると、答えが返ってこないことがしばしばある」
 一方、WorkCover NSWの最良の実践をめざす構想部門部長であるダレン・マクドナルド氏は、建設業におけるOHSが改善されていないという意見に反対する。
 「業界の実績についての(統計データの)根拠は実にしっかりしている。Safely Building NSWで、我々は幅広い監査結果、過去のクレーム、労組の調査データや、UNSWによる徹底した研究、シドニー大学による定性的研究などの結果を得た。これらは改善されたことを示すポイントをすべて押さえている。しかし、当業界における現在のOHSの実績が、政府または地方自治体によって受け入れられる程度に達したということではない」
 マクドナルド氏は「検査官を増やすだけで解決するというほど単純ではないと思う」と言う。
 「より効果的な規定への順守が重要だ。また安全な設計に対応した実効的な法体制を整えることや政府省庁による効率的な調達方法も然りだ。また、元請業者、下請業者、作業員、労組などをより上手に管理してOHSを改善させ、建設業の機能を確立することも重要だ。この報告書を見ると、これらすべての取り組みが大切だと分かる」
 「むしろこの報告書により、基本的な問題に対処するために、多面的で整合性のある方法が強く求められている。そして、継続的に今後も進めていく改善のための指針となる、重要な調査結果や勧告をまとめて示している。これらの結果は、近年かなりの進歩があったことを示している上、労組の調査もまた同様であるが、欠失している点についても指摘している」
 当報告書の勧告のねらいは、これらの不足点を補うことであると氏は述べる。これらの課題の中で最も重要な点は、設計の際にOHSを配慮し、請負業者がシステム導入において不足箇所に取り組むための確実な作業指標を使用して、より意義のある効率性の評価を保証することだと氏は考える。
 ミランダ氏は、Safely Building NSWは“非常に誠実な”データだと言う。「システムの進歩は認めるが、現在も公明正大な作業を続けている」と述べる。
 なるほど、当報告書は、建設業での障壁となっている“主要な不足点”とは、OHS管理だといっている。
 さらに、この報告書ではNSW州に焦点を当てているが、この問題は他の州とも関連があることに注視したい。実際、NSW州よりも人口が少ない州のある業界関係者が、National Safetyで述べているように、OHSの実践や遂行は、シドニーやメルボルン以外の他の地域では、少なくとも10年遅れていることが広く知られている。

法の規定

 WorkSafe Victoriaは、現場作業員がレンガ積みを行う建設現場で、OHSを順守するよう、レンガ積みの徹底した作業方法を公表した。
 この作業方法は、建設作業員や下請作業員がOHSの法律に確実に従うことで、レンガ積みに関したOHSの成果を向上させる目的がある。
 以下は、現場作業員によって使用される診断チェックリストの主要項目で、WorkSafeが注意を喚起する事項の編集版である。
  1. レンガが配送される場所に、十分なスペースをとっているか。
    配送されたレンガが安全な場所へのアクセスや非常出口などをふさいでいないか、また地方自治体の基準に準拠しているかを確認すること。
  2. セメントミキサーは安全に使用されているか。
    ミキサーは適切に管理し使用できる状態でなければならない。プーリーベルトの回りは適切な保護がなされているかを確認すること。
  3. レンガ積み用の足場は適切に組み立てられているか。
    レンガ積み用の足場は、1枚の踏み台、1支間あたりの最大荷重を675kgとして頑丈に組み立てられなければならない。踏み台は最低でも足場板5枚の幅があり、正常な状態において、専用の足場板を完全に取り付けなければならない。2メートルを超えるすべての足場は手すり、中さん、足置き台が必要。レンガガードが望ましい。
  4. レンガ積み作業員は、足場を安全に使用しているか。
    踏み台に荷重がかかりすぎると、足場が崩落する可能性がある。踏み台のどの部分でも簡単にアクセスできるようにしておかなければならない。レンガ積み作業員は、手作業における負傷のリスクが非常に高まるため、肩の高さよりも上でレンガを積んではならない。適切な高さに足場を追加すれば、無理をする必要がない。
  5. バローホイストとレンガ昇降機は適切に準備され、安全に使用されているか。
    バローホイストを組み立て/解体する作業員は、WorkSafeの足場作りまたは組み立て調整の技能認定書を、またホイストを操作する作業員は、WorkSafeのホイスト技能認定書を取得していなければならない。ホイストはしっかりと安定しており垂直でなければならない。また、ホイストが倒れた時に足場まで一緒に落ちてしまわないよう、足場のみでなく、建物にそれぞれくくりつけなければならない。
  6. レンガのクリーニングは安全に行われているか。
    塩酸の入った容器は未使用時に、安全にまた確実に保管されているかを確認すること。また、作業員が塩酸やけどの危険性を理解し、塩酸を安全に使用する方法を心得ているかを確認すること。また、塩酸が目に入ったり皮膚に付着したりしないよう、十分保護しているかを確認すること。
  7. レンガ積み作業員は、紫外線から保護されているか。
    ほとんどのレンガ積み作業員は屋外で作業を行うため、長時間紫外線にあたる恐れがある。作業員は長ズボン、長袖シャツ、つばの広い帽子、および日焼け防止指数(SPF)15の日焼け止めが必要である。適切な保護を拒むような作業員は、このルールを守る他の作業員と交替させること。

より詳しい情報と勧告については、www.workcover.vic.gov.auを参照のこと。


 それでは当報告書で強調される具体的なOHSの課題とは何か。
 安全管理のための正式な記録システムは“一般的に”改善されているが、記録される安全な作業は、実際の安全な作業に反映されていないことが多い。
 言い換えると、紙面上では優れたOHSシステムを持つ企業があるが、これが必ずしも日々現場で起こっていることに反映しているとは限らない。
 当報告書は乏しい計画性についても強調する。下請業者は非現実的な工程と連結性が安全性の改善への主な障壁となっていると述べる。また現在でも、金銭的報償とボーナスはプロジェクトの工期を早める手段だという。作業を早く終わらせなければならないというプレッシャーが、安全な作業の妨げとなることは想像に難くない。
 Safely Building NSWではまた、設計の悪さが建設業界の事故を増やす主要要因だということが海外の調査で判明したと述べる。顧客、設計者、元請業者は、大体の場合において、体系的にこの問題に対処していないという。
 WorkCoverのダレン・マクドナルド氏は、建設現場の事故の3分の2は稚拙な計画・設計に起因するということが海外の調査で分かったと指摘する。
 WorkCoverは現在、基本的に顧客、設計者、建設作業者が計画・設計を行う時点で、体系的にこの問題に協同で取り組む手順をふんでいるヨーロッパの法的アプローチについて調べている。
 NSW報告書によって分かった他の要因は、傷病度数率などの“減点式”結果測定法への先入観である。「基準指標から離れていくと、これらの測定法では、改善対策を測定する作業を正確に評価することができない」という。
 また出資者は、建設業のOHSの実績が示す状況を認めていないが、現行の基準が何であろうと不十分だとする点には完全に同意している。
 我々の共通の立場とは、建設現場で死亡や負傷を完全になくしたいという共通の願いであり、すべての関係者がより良いOHSの将来のために協力することが最も重要なポイントである。

動けない空間

 オーストラリア安全評議会(NSCA)のコリン・マクドナルド氏は、閉塞空間については重要な問題であるものの、建築会社にかかるリスクは見落とされがちだと話す。
 「建設業者は、作業員の入れ替えがとても激しいため、閉塞空間についての規定を順守することは難しい」と氏は指摘する。「ある工事では50名の作業員が現場で働き、その1ヵ月後には別の現場で85名が作業をする」
 「NSW州を含むいくつかの州では、各作業員は閉塞空間に関する研修を5日間のコース日程で受けなければならないという規定条件を設けているが、必ずしも実現可能だとは思えない」
マクドナルド氏は、閉塞空間の工事を伴うことが時にあるため、建設現場は特に困難な場所であると述べ、このほどブリズベン市内の地下駐車場工事をしたクイーンズランド建設会社の例を挙げた。
 「建設作業員は地下を掘り崩す必要があったため、工事プロセス自体が閉鎖された空間となっていた」と氏は説明する。「別の例としては、キャンベラの下水設備処理工場の一社が行ったトンネル工事を思い出す。このプロセスは保健衛生の問題だけではなく、従来から取り上げられている、閉鎖された空間のリスクもあった」
 マクドナルド氏は溶接や研磨などのプロセスはガスを発生させ、閉鎖された空間でのリスクが高まることもあると指摘する。同様に閉塞空間の解体や改修工事では、危険をもたらし得る工具を持ってその場所へ入らなければならない。
 「これらはすべて建設業界が常に直面している課題だ」と氏は話す。「大体の場合、建設会社は、閉塞空間についての研修修了書を持っている1人以上の作業員を現場に配置し、これらの問題に対処している。そしてこの研修を受けた作業員が、その他の現場作業員が安全に工事を進めるよう確認している」
 氏は、建設業界が閉塞空間や解体に関する独自の実践基準を作成することが、当問題に役立つと考える。
 Combined Training and ConsultancyのOHS顧問バー二ー・コードン氏は、閉塞空間についての多くの研修を指導しており、最もよく起こる事故はアクセスと救助に関係していると話す。
 氏は、建設会社が閉塞空間についての研修に関する規定条件を満たすことは、それほど難しいことではないと言う。「元請業者は、請負業者向けの安全管理プログラムを確立するべきだ。請負作業員が現場に入る前に、請負業者向けの研修プログラムを行なう。それから対象現場についての具体的な研修をし、その後対象工事についての研修プログラムを提供する」
 「この3段階に渡る事故防止プログラムで、安全規定を守らない請負人は作業をしないということを約束させる」と氏は述べる。
 NSW州のOHS規定2001(77章1−4項)や他の州における同様の規定に従い、すべての下請業者は、閉塞空間についての研修を受けた証明を取得する必要があると氏は話す。
 しかし、コードン氏は、ほとんどの建設現場では、現場での閉塞空間の工事について研修を受けている作業員はいないと言う。「また下請業者が独自の閉塞空間に関する許可または証書を準備していることは、非常に稀だ。規定に従って全作業員に研修を与えるべきだが、現実はかけ離れているというのが私の見解だ」
 この解決法としては、閉鎖された空間での作業に対する請負業者技能評価プログラムを開始することだと氏は述べる。「ある作業が閉鎖された空間へ入ることを伴う場合、作業員たちがその技能を証明できなければ、その場所へ入れさせないようにする」と氏は話す。
 「多くの作業員はこれを恐れ、たじろぐだろうが、死亡させたり重傷にあわせるよりはましだ」


ポール・ソマ−ビルは、National safetyの寄稿・編集者である。