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オーストリア 労働災害をどのように減らすか
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労働安全衛生の目標墜落・転落災害の件数は、オーストリアの労働者災害のなかで断然トップを占めている。また企業とAUVAにとって大きな費用負担となっている。 したがってキャンペーンは、以下の墜落・転落の予防に焦点をあてた。
業務上および通勤途上での災害のデータを、キャンペーン開始前に分析した。表1は1994年の主要な基礎的データである。墜落・転落の絶対件数、保険加入のブルーカラー労働者およびホワイトカラー労働者ごとの数値(カッコ内)、墜落・転落災害の発生率(年千人率、カギカッコ内)を示している。 表1. AUVAに報告された墜落・転落(1994年)
災害発生率が最も高いのは男性ブルーカラー労働者グループである(31.2/1,000)。自営業者の災害発生率(6.8/1,000)は、ホワイトカラー労働者(7.5/1,000)より少し低い。報告された墜落・転落の約75%が業務上で、残りが通勤途上で発生した。ブルーカラー労働者の通勤途上での災害リスク(4.6/1,000)は、ホワイトカラー労働者(3.5人/1,000人)より少し高い。 全体として、1994年の新規年金受給資格者にかかる費用の41.1%(約865万ユーロ)が、墜落・転落を原因とするものだった。墜落・転落の災害件数に占める比率は27%なのに、年金費用では41%を占めているという事実から、その被害(consequences)の大きさは平均以上であると結論できる。1994年の墜落・転落関連の障害年金費用は、7億6,600万シリング(60億円)だった。災害関連の障害年金額は、平均4万4,272シリング(3,220ユーロ)だった。評価時点で、費用調査の内容が公開されたが、そこではリハビリ、再訓練、医薬品、疾病休業手当、個人的費用など、関連する他の費用も考慮されている。 キャンペーンの発案者は、これらの費用と災害発生率に関連した問題だけでなく、質的な面にも注目していた。墜落・転落の主な原因は、労働者が作業場所に潜むリスクとその予防法に無知であること、また職場が危険な状態にあることである。同時に、職場の災害原因のなかで墜落・転落はもっとも軽視されており、だからこそ、こうした問題への関心を高める必要がある。 被災者のなかでは、若年者が大きな割合を占めている(図1参照)。労働経験のない若年者は、まったく未知の危険有害要因に直面する。災害、特に墜落・転落は、経験の欠如が原因である。高齢労働者になると墜落・転落のリスクは急激に高まるが、特に女性はその傾向が強い。 AUVAは「あらゆる段階での安全確保」キャンペーンで、労働環境での墜落・転落を恒常的に10%減少させる目標を立てた。また宣伝広告キャンペーンを開始して事業者と労働者に墜落・転落の危険を簡潔に訴えるとともに、研修および情報資料を作成し、AUVAが災害予防のあらゆる面の窓口となる専門機関であることを宣伝した。
キャンペーン構想と実行キャンペーンの主たる対象は、AUVAの保険に加入している全労働者とその事業者である。実行は、主にAUVAの災害予防推進部が担う。キャンペーンのための中心的な場所は職場自体で、安全衛生管理者をはじめとする協力関係を追及した。AUVAと同じく災害予防にかかわるオーストリア労働監督署とも連携した。労働監督署は、キャンペーンの一環としてスタッフを派遣し、はしごからの墜落・転落とその予防法を訴えた。 キャンペーンの基本的戦略は、業務上の墜落・転落を予防するためのリスクマネジメント戦略を広めることだった。リスクマネジメント・システムには、情報を流すことと連絡の徹底が含まれた。 情報の面では、災害の焦点と原因を特定、分析し、技術的、組織的な災害原因を除去するための情報を普及させることが課題だった。また関係者の危険への自覚を促し、作業時の行動を具体的な状況に柔軟に適応できるようにする。さらに労働者に対し、足許が安定する靴を着用するとともに、機敏な動作によって墜落・転落を予防し、または少なくとも被害を最小限にするよう奨励した。研修用パッケージとして、スライド、フォルダー、情報シート、リーフレットを用意した。 連絡徹底の面で重要なのは、オーストリアの産業が中小・零細企業で占められていることを考慮することだった。労働者50人以下の企業が約22万社ある。そこで約120万人の労働者が働いている。こうした企業の関心を墜落・転落の問題に向けさせるため、一般広報活動を行った。 災害予防推進部の専門家が担当したのは、企業別の災害予防ポイントについての労働者向け研修と、各社独自の災害予防対策の立案に向けた協力である。これらの活動に関連して特製リーフレットを配布し、ポスターを掲示した。 もっとも重要だったのは、AUVAのスタッフが企業を訪問するたびに、それが他の目的での訪問であっても、必ず墜落・転落問題への関心を高めるよう努めたことである。また企業に書簡を送付する場合には、必ず情報資料とキャンペーン用ステッカーを同封した。 若干の問題が発生した。 キャンペーン用の資料と設備の費用が1,400万シリング(約100万ユーロ)、人件費は約1,100万シリング(約80万ユーロ)かかった。プロジェクトの資金はAUVAが拠出した。欧州連合が、キャンペーン支援のため2万ユーロを拠出した。 得られた経験と効果キャンペーン期間中、災害発生件数の動向を四半期ごとに調査し、必要な場合は対策をとった。キャンペーン終了時点で統計データを全面的に分析した。注意しなければならないのは、キャンペーン期間中に災害データの集計方法の変更があった点である。病院の外来病棟での災害件数はまったく、あるいはほとんど記録されなくなった。AUVAが公立病院の外来病棟との契約を打ち切ったからで、このため評価がむずかしくなった。 集計方法の変更は災害原因とは無関係なため、キャンペーンに起因する災害の実質的減少数を計算した(表2参照)。これによると、キャンペーン期間中に墜落・転落は合計9.3%、新規年金資格者の費用は5.7%、墜落・転落関連の労働損失日数は4.4%減少した。AUVAは、これらの数値は控えめな推計だと考えている。 表2. 災害データの評価
キャンペーン初年の7月と8月、次のポスターが公共掲示板に掲出された(図2)。前後に世論調査を行ってポスターの存在を思い出す率を評価した。その結果の8%という数値を、専門家は好成績と評価した。 図2. キャンペーン中に公に掲示されたポスター:「ほとんどの災害の原因に、目新しいものはない」キャンペーン中に作成された情報資料は、キャンペーン後も企業から大量の注文、購入が続いた。このように産業界の反応は、きわめて前向きだったといえる。特筆すべきは、キャンペーン期間中、日刊紙、雑誌、電子メディアに墜落・転落関連の主催者が掲載費用を払わない記事が150本を超えたことである。 キャンペーン期間中に大半の目標は達成された。残念なのは、キャンペーン終了とともに墜落・転落災害が全体的に増加したことである。このことから、墜落・転落の予防には個人の注意が決定的役割を果たすことがうかがえる。それが低下したとき、つまり広報などのキャンペーンが終了すると、災害件数は増加したのである。 もっとも重要なのは、キャンペーン期間中は、その結果として墜落・転落件数と関連費用が大幅に減少したことである。災害関連費用を決定するための計算モデルに(W. Kolb, R. Bauer, 'Unfallfolgekosten in Osterreich')基づいて計算すると、実質的な費用節減額は3億2,300万シリング(約2,350万ユーロ)になった。 節約費用内訳は次のとおりである。
AUVAは合計2,500万シリング(180万ユーロ)をキャンペーンに投入したが、その結果、1億5,000万シリング(1,090万ユーロ)を節減できた。したがってAUVAにとっての費用便益率は1対6になる。
上述した費用節減の一覧表から、災害予防は企業にとって経済的にきわめて合理的であることがわかる。 キャンペーン後も、中企業や大企業は各社独自の墜落・転落予防キャンペーンを実行し、大きな成果をあげた。それにもかかわらず、オーストリア全体の墜落・転落件数には影響がなかった。 他の分野での利用についてこのキャンペーンは社会保険機関の組織とニーズに合わせたものだが、作成された情報資料(ビデオ、研修用スライド、フォルダー、ポスターなど)は他の分野でも使用できる。 詳細は下記まで。Dr. Karl Koerpert
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