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閉鎖空間からの脱出
閉鎖空間から安全に脱出するために犯してはならない10の間違い

資料出所:カナダ労働災害防止協会(IAPA)発行 「Accident Prevention」
September 2005
(仮訳 国際安全衛生センター)



 現場で働く作業員に、閉鎖空間(Confined Space)での仕事をする上で、一番楽しいことは何かと聞いてみる。「そこから出てくること」というのが大半の回答だ。

 閉鎖空間は、労働に適さない環境であるだけでなく、適切な事故防止策が講じられていない場合には傷害や死亡事故の発生リスクが極めて高くなる問題の多い労働環境である。カナダのオンタリオ州労働者安全保険機構(Ontario Workplace Safety and Insurance Boad : WSIB)のデータによれば、1998年から2002年の間に、閉鎖空間での作業に起因して17人の労働者が死亡している。またこの期間中、「閉鎖的な環境(Tight Environment)」のカテゴリでは、死亡には至らない労働災害について280件の申し出があった。 

 他の労働災害と比較した場合に、閉鎖空間での作業による傷害や死亡事故は、純粋な意味での人間性を背景として発生する傾向が強い。すなわち、閉鎖空間で災害に巻き込まれた作業員を救助しようとした同僚が被災するというケースが数多く発生している。7月5日にオンタリオ州ハミルトンで発生した事故も、このケースに該当する。この日、Shannon Pegg氏とその義理の息子は、大量の腐敗廃棄物を処理プラントに運搬していた。何らかの理由でPegg氏は3,000ガロンのタンクに入り込み、メタンガスですぐに意識を失ってしまう。15歳の息子はその物音を聞きつけて救助に駆けつけ、同様に意識を失っている。救助活動によって息子は救助されたが、Pegg氏は死亡した。

要求内容を詳細に示した規制案

カナダのオンタリオ州は、1997年にハミルトンのDofasco製鉄所の脱ガス処理タンク(閉鎖空間)で2人の作業員が死亡した悲劇的な事故以来、閉鎖空間についての新たな規制の策定に向けて意欲的な取り組みを行っている。1999年には、この事故で死亡した2人の作業員を検死した検死陪審が、工場に対する規制(Regulations for Industrial Establishments)の閉鎖空間セクションの具体的な改善に向けた提言を行っている。

労働省広報担当官のBelinda Sutton氏は、「最近では、2005年6月に協議を実施しています。労働省はこの協議を通じて、改正案の明確化と改善に向け、関係者の貴重なご意見を経営者団体などの各団体からいただきました。その上で、これからの意見を新たなスキーム案に反映するための努力を続けていくところです」と語っている。

労働省は建設、採掘、医療、工業の各分野に対する新たな分野別規制を提案しているだけでなく、閉鎖空間の問題に対処するための規制を別個に導入することを目指しており、その適用対象として広範囲の分野の職場を想定している。この分野の拡大によって網羅される職場には、労働安全衛生法の適用対象ではあるものの、上記の4分野には該当しない職場が含まれる。

最近、IAPAがこの産業分野規制案を検討した。労働衛生分野の技術専門家Wagish Yajiman氏は、この規制案が1990年に制定されたR,R,O,規制851(工場)における閉鎖空間に対する要求内容から大きく前進するものであると確信しており、次のように語っている。「IAPAはこれまで、実施内容の厳格化を推奨してきました。これまでは管理権限を根拠として、責任は常に経営者に課せられてきました。しかしこれからは、この要求内容によって(閉鎖空間への立ち入り)計画で行うべき業務が詳細に規定されそれに基づいて業務を許可するという枠組みとなります」

新しい規制では、閉鎖空間を「完全または部分的に周囲から遮断された空間」として、次のように定義する。

  1. 長時間の作業を目的として設計及び建設されていない
  2. その構造、位置、容積、またはそこで実施される作業により、環境空気に関連する危険が発生する可能性がある。

また、環境空気に関連する危険は、次のように定義される。

  1. 引火性、可燃性、または爆発性を有する物質の滞留
  2. 環境空気中の酸素の不足または過剰
  3. 次の影響を引き起こす可能性のある、ガス、蒸気、煙、粉塵、霧などの空気汚染物質の滞留。
    1. 直接的な生命への危険に結びつく重大な健康面への影響
    2. 作業員が閉塞空間から自力脱出するための能力への影響

閉鎖空間での具体的な計画では、次の内容が明らかにされてなければならない。

  • 労働者の責務
  • 具体的な教育訓練の内容
  • 立ち入り許可システム
  • 救急処置の手順
  • 個人救護具
  • エネルギー源の遮断と物質移動の抑制
  • 監視人(閉鎖空間内の作業員の監視及び相互連絡を担当)
  • 閉鎖空間への出入りに対する適切な方策
  • 環境測定
  • 爆発性物質及び引火性物質が存在する空間での適切な作業手順
  • 換気及び置換
  •  

    立ち入り許可についての要求内容案

    この規制案では、閉鎖空間での作業ごとの立ち入り許可を求めている。その許可にあたっては、次の内容を明らかにするものとする。

    1. 閉鎖空間の位置
    2. 予定している作業内容の詳細
    3. 予想される危険と対処法の詳細
    4. 立ち入り許可の適用期間
    5. 監視人の名前
    6. 各作業員の立ち入りと退去の記録
    7. 立ち入り及び救助に必要な装置のリストと、それら装置の妥当性の証明
    8. 環境測定によって所得されたデータ
    9. 実施を予定している作業で火源を使用する(発火源となる可能性がある)場合には、その作業及び引火防止対策

    参照:A Guide to Safety in Confined Spaces , Ted Pettit Herb Linn National Institute for Occupational Safety and Health
     Canadian Centre for Occupational Health and Safety , OSH Answers database.

    災害の要因

     閉鎖空間(Confined Space)は、出入りのための開口部が狭く、自然換気が困難な空間と定義され、長時間の作業を前提として設計されていない。このような空間には、ボイラー、キュポラ、脱脂洗浄器、溶鉱炉、パイプライン、立杭、ポンプ室、反応槽及び処理槽、浄化槽、汚泥処理槽、下水管、サイロ、貯蔵タンク、船倉、ユーティリティ用地価設備、大型槽などを含む閉鎖的な空間が上げられる。

     これらの空間の構造や使用状況に起因して、次のような環境空気に関連するさまざまな災害が発生する可能性がある。

    a)酸素欠乏症

     環境空気が自然に移動しない閉鎖空間では、環境空気中の酸素濃度が19.5%未満となり、酸素欠乏が発生する可能性がある。酸素濃度は次の要因によっても低下する。

  • 溶接、切断、ロウ付けなどの作業
  • 金属の腐食などの化学反応
  • 発酵などのバクテリア反応
  • 二酸化炭素などのガス発生による置換
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    b)引火性

     酸素量の過剰もまた、問題を引き起こす。環境空気中の酸素濃度が高い(21%超)の状態で発火すると、衣服や毛髪などの可燃性物質に引火する。このような空間は、通常大気を使用して換気する必要がある。閉鎖空間の換気では絶対に純酸素を使用してはならない。引火性のガス、蒸気、粉塵が含まれる閉鎖空間に発火源が持ち込まれると、爆発が起きる可能性がある。

     

    c)有毒性

     閉鎖空間においては、遭遇する物質(液体、蒸気、ガス、霧、固体、粉塵)は危険有害性があると考える。有毒物質は、閉塞空間に収納されている物質から発生したり(収納物質が壁などに吸収され、これを撤去する際や清掃時に有毒ガスが発生させる可能性がある)、作業(清掃溶剤の使用)や隣接区間からの漏出などによって発生する。

     環境空気面での危険有害性だけでなく、物理的な危険性も存在する。閉鎖空間には、次のような物理的危険性が存在する。

  • 極端な高温または低音
  • 埋没の危険。貯蔵場所に収納されている、こぼれやすい粒状の物質に作業員が埋没し、窒息する場合がある。
  • 騒音。閉鎖空間の構造及び音響効果によって騒音が増幅され、情報の伝達に支障をきたすだけでなく、聴力が低下する可能性がある。
  • 滑りやすい、濡れた床や壁面。作業員が負傷したり、電気回路や電気機器の使用によって作業員が感電する場合がある。
  • 落下物。特に、出入り口が上部にある空間では、作業員が重傷を負う可能性がある。
  •  閉鎖空間での作業プログラムは、災害のない労働環境整備に不可欠な要素である。ベストプラクティスを確実に実行するには、企業内の労働安全衛生合同委員会(Joint Health and Safety Commitee)や安全衛生代表会議(Health and Safety Representative)と連携しながら、文書によって明確化した閉鎖空間での作業プログラムを構築し、継続的に整備していくことが必要になる。このプログラムには、危険性やリスクについての評価、1つまたは複数の計画を作成するための手法、作業員に対する教育訓練内容、さらには必要に応じて閉鎖空間への立ち入り許可システムを含めるものとする。(「規制案(Proposed Regulations)」を参照)。またそのプログラムには、現場での救急処置担当者のための救急手順やその教育訓練を盛り込む必要がある。

     総合的かつ実践的なプログラムが策定されていない場合には、作業員のミスが生命にかかわる重大なリスクにつながる可能性が高まり、ただでさえ問題の多い労働環境が危険な労働環境となる。次に、労働災害の原因として数多く見受けられる10の間違いについて説明する。

     

    1 責務を守らない

     閉鎖空間に適用される規制を理解してこれを完全に履行するだけでなく、新たに定められる規制の要求内容を常に把握する必要がある。

     自己満足、慣れ、情報不足は、安全感覚の錯誤を招く。管理者、監督者、労働安全衛生合同委員会(または労働安全衛生代表会議)、そして作業員は、閉鎖空間への立ち入りに伴う危険に対処するための教育訓練を受ける必要があるだけでなく、それぞれの責務が明確に規定されていなければならない。閉鎖空間の状況を事前に把握することなく作業指示を出したり、閉鎖空間への無謀な立ち入りを行うことは、労働災害を自ら招き入れることと同じである。適切な教育訓練を受けている管理者や作業員は、閉鎖空間において豊富な作業経験を持っていたとしても、労働災害の可能性が皆無ではないことを理解している。検出器による閉鎖空間のモニタリングを担当する作業員に対しては、検出器の較正や、その適切な取り扱いについての教育訓練を実施する必要がある。検出器が合っても、これを正しく活用できないのであれば意味はない。

     

    2 自分の感覚でガスを感知する

     たとえば、致死性ガスの硫化水素に特有な「腐卵」臭は感知しやすいと考える人は多い。しかし、人間の嗅覚で感知できるのは極めて低濃度の硫化水素に限られる。硫化水素の濃度が高くなると、臭覚が麻痺して死に至る恐れがある。 たとえば、致死性ガスの硫化水素に特有な「腐卵」臭は感知しやすいと考える人は多い。しかし、人間の嗅覚で感知できるのは極めて低濃度の硫化水素に限られる。硫化水素の濃度が高くなると、臭覚が麻痺して死に至る恐れがある。

     ガスや蒸気には、空気よりも質量が重いために閉鎖空間の下部に滞留するもの(硫化水素など)と、メタンなどのように空気よりも質量が軽いことから閉鎖空間の上部に滞留するものがある。閉鎖空間内に含まれるさまざまなガスを正確に測定するには、較正済みの検出器を使用して、閉鎖空間内すべての部分(上部、中間部、下部)を測定する必要がある。この測定は、4フィートの感覚で実施することが望ましい。理想的な測定方法は、サンプリング ポンプやサンプルチューブ、検査用部品を使用した測定である。

     また、酸素は作業員の生存に不可欠であるとともに、ガスの適切なモニタリングにも重要であることから、酸素濃度の測定は必須である。

     

    3 ガスの環境測定システムのだらしない運用

     閉鎖空間の環境空気サンプルから収集したデータの精度は、使用した検出器の精度によって左右される。環境空気中の危険物質の検出や危険状態についての警告における検出器の信頼性確保には、その管理プログラムが重要な意味を持つ。たとえば検出器の較正は、あらゆる有害物質の濃度が異常値を示さない環境で行わなければならない。この配慮を怠った場合、検出器は不正確な数値や実際よりも低い数値を示すことになり、安全の確保に支障が生じる。

     教育訓練プログラムにバンプテストを含めることによって、あらかじめ濃度を設定したガスを使用してテストを実施してから閉鎖空間での測定を実施できるようになる。検出器がバンプテストをパスしなかった場合には再度検出器の較正を行う。

     作業員がガス検出器の有効性を信頼しないために、ガス検出器への投資をためらう企業は多い。ガス検出器の適切で正確な使用のためには、検出器に対する信頼性の確保が必須である。

     

    4 不適当なガス検出器の使用

     すべてのガス検出器が同じ機能を持つものではない。複数のセンサーを備えるガス検出器は、そのほとんどが酸素、引火性ガス、硫化水素、一酸化炭素の濃度を検出する。しかし、酸素と引火性ガスの濃度については必ず検出必要があるものの、毒性ガスの濃度は個々の閉鎖空間によって異なる。潜在的な危険性を適切に評価することが、適切な検出器の選択につながる。新たに加わる有害物質についての定期的な測定の実施を検討する必要がある。

     

    5 閉鎖空間の再測定なしの安全確認

     閉鎖空間への立ち入り前に実施するわずか1回の測定によって、その閉鎖空間での作業時間全体に対する測定が完了するわけではない。閉鎖空間内の環境空気の状態は急激に変化することから、継続的なモニタリングが不可欠である。米国では連邦労働安全衛生局(OSHA)により、閉鎖空間における作業員の不在空間が20分を超えた場合の再測定が義務付けられている。

     

    6 場合によっては換気しない

     測定によって有害なガスや蒸気が検出された場合には、必ず換気を行わなければならない。引火性のガスや蒸気によって酸素が置換されているものの、燃焼可能な濃度を超えているためにこれらのガスや蒸気が燃焼にいたっていない場合には、強制換気によってその濃度が低下し、爆発可能範囲になる可能性がある。閉鎖空間で不活性ガス(二酸化炭素、アルゴン、窒素)を使用している場合には、十分な換気を行い、作業員の立ち入り前に再測定する必要がある。

     

    7 閉鎖空間は隔離を前提

     電源のロットアウト、空気バルブや油圧パイプの閉止や抜き出し、軸駆動機器のベルト、チェーン伝道、機械的連結部の切断、機械的な稼動部分の安全確保などを網羅した計画を明確かつ十分に練ることで、多数の要因が関連する危険から閉鎖空間とそこで働く作業員を確実に隔離しなければならない。

     

    8 不適切な呼吸用保護具の使用

    総合的かつ実践的なプログラムが策定されていない場合には、作業員のミスが生命にかかわる重要なリスクにつながる可能性が高まる 呼吸用保護具は基本的に、空気を浄化するタイプと空気を供給するタイプの2つに分類される。空気を浄化する呼吸用保護具は空気からの危険物質を除去し、空気を供給する呼吸用保護具は、別の場所に準備してある呼吸用の安全な空気を提供する。酸素が不足している閉鎖空間では、必ず空気供給方の呼吸用保護具を使用しなければならない。

     

    9 監視人に指定された以外の業務を課す

     監視人の担当業務は、閉鎖空間における作業員の状態についての監視と相互連絡に限定される。これ以外の業務を監視人が担当することは禁止されている。また、異常事態においては、いかなる場合にも監視人は閉鎖空間内部に入ってはならない。さらに、監視人は、ガスの危険性や緊急時に起こりうる障害の症状を把握している必要がある。

     

    10 あわてて救出処置をする

     OSHAの統計によれば、閉鎖空間における死亡事故の60%は、同僚を救出しようとして閉鎖空間に入った外部の作業員の死亡事故である。監視人が、合理的に検討された計画に従わず、衝動的に救急作業にあたることによって労働災害が発生することも少なくない。監視人の業務は、救出ではなく救出プログラムの実行である。監視人は、作業員とのコミュニケーションの続行に努め、救出計画が確実にされていることを伝えるとともに、救出に役立つあらゆる事故関連情報を収集する義務を負う。

     閉塞空間における安全かつ効果的な作業は、「場当たり的な」計画では実行できない。閉鎖空間での有効な作業プログラムは実際の立ち入り前に作業の大部分を終了し、なおかつ作業が無事に完了したことを告げる「これで外に出ます!」の声を最高の成果とするものである。

     

     筆者Suzan Butyn氏は、Accident Preventionに多数のレポートを寄与している。
    同士の最新記事"Can You Hear Me Now"は2005年の1月 / 2月号に掲載されている。
    "Confined space"に関するこの記事の内容は、日本では「酸素欠乏症等防止規則」による規制におおむね関与している。