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中高年労働者が安全に働くために
THE CHALLENGES OF AGING WORKERS
Emloyers can help themselves with offices and processes designed for the aging worker

資料出所:Canadian Centre for Occupational Health and Safety(CCOHS)発行
「LIAISON, A Newsletter for the Users of CCINFO」 2002年 秋号
(仮訳:国際安全衛生センター)



 「若い頃の元気が今もあればなぁ」 そんな嘆きをよく聞くし、あなただって知らず知らずのうちにふともらしてしまうことがあるだろう。殊に、あらゆる経済分野に生産性の向上を求めるさまざまな力が押し寄せてくる昨今、こうした発言を頻繁に耳にするようになった。

 労働力の高年齢化という現状は無視できないものがある。一般に、身体能力や瞬時に意志決定する能力は、40代、50代くらいから衰え始める。しかし、体力や認知機能の低下は、状況を理解し、業務の遂行に最も有効な方法を熟知し、習熟した技能で正確に業務をこなしてきた豊富な経験で補うことができるのである。

 ベビーブーム世代の第一陣が労働の一線を退くようになって、ある現実的な問題が持ち上がってきた。それは、若年労働者を訓練し、一人前に育てていく一方で、中高年労働者の生産性や健康を維持していかなければならないという問題である。

 そのうえ、新たに労働人口に加わる若年労働者の数は、定年間近の中高年労働者より少ないのである。

 2001年の国勢調査で、この現状が裏付けられた。カナダの統計(Statistics Canada)によれば、
  • 1991年において55歳から64歳の人口を1とした場合、15歳から24歳の人口との比率は1:6であった。
  • 2001年で、この比率は、1:4となった。
  • 人口統計学的傾向によれば、2011年にこの割合は、1:1つまり同等になる可能性がある。
 その結果、労働者年齢の中央値は、劇的に上昇することになる。
  • 1991年、中心となる労働者集団(working group)(20〜64歳)の中央値は、38.1歳であった。
  • 2001年、中央値は41.3歳へ上昇した。
  • 2011年、中央値は43.7歳まで上昇すると予想されている。 
 インフレ、年金受給額の減少、長寿化に伴って増大する医療費など、幾多の重圧が中高年労働者にのしかかっており、現在の定年年齢を過ぎても働かざるをえない人々は今後ますます多くなるであろう。
 
 このような状況から、企業は、中高年世代への配慮を深め、中高年労働者により適した作業空間を提供せざるを得なくなるのである。中高年労働者をとりまく現状への対処を誤ると、生産性は低下し、債務や労働者からの損害賠償請求も増加することになるであろう。

 また、加齢に関する研究でも、中高年労働者の作業方法を変更させる身体的要因が指摘されている。

視力の低下
「遠近調節能力」(距離に応じてピント調節を行う能力)は低下するが、こうした変化は、眼科医の処方で作った眼鏡をかければ矯正できる。周辺視力(視野の中心より外側の左右の領域を識別する力)、視力(モノを正確に識別する力)、深視力(視覚によって距離を把握する力)、明暗への順応力も変化する。
聴覚の低下
 聴覚の低下には2つの原因‐‐‐騒音による聴覚機能の損傷と加齢による影響‐‐‐が考えられる。中高年労働者の難聴は、この両方による場合が多い。また、周辺から聞こえてくる騒音や反響音で注意が散漫になりやすくなることも問題である。
身体能力の低下
 動作が鈍くなったり、体力や安定性が低下する原因としては、筋肉が損傷したり、こわばったりすることが考えられる。筋肉の損耗は、繰り返し筋肉を使ってきたり、変形性関節症や糖尿病などの年齢的な要因によって発症する。一般的に体力は20歳から60歳の間に15%から20%低下する。握力や手首の柔軟性を例にとると、つるつるとした丸いつまみを回すような簡単な筋肉動作が老化によって困難になる。
認知機能の低下
 年齢を重ねるにつれて情報処理に要する時間が長くなってくるのは、中枢神経系が老化してくるからである。その結果、記憶はこわれやすく、短期間しか持続しなくなる。それに伴って、学習方法も変化してくる。年をとると、新しい知識を記録するだけでなく、その知識を既知の知識と照合し、正しいかどうか判断する必要も出てくるのである。このため、学習するのにより多くの時間を要するようになるのである。

実際的な解決法

 中高年労働者を援助し、ひいては事業者自身の助けとなる実際的な解決法をいくつか紹介しよう。

老眼対策
 作業者により調節可能で、明るさを変えられる間接照明を取り付けること。良好な照明状態で、グレアの源となるものがなければ、視力の低下に普通は気づかないものである。
 ラベルや説明書には大きな活字を使用し、書類のレイアウトを見やすくすることも重要である。
 コンピュータ・モニターの解像度を高く、画面を大きくすれば、視力の低下を補うことが可能である。
 従業員は、コンピュータ作業に適した眼鏡の使用を考慮する。

聴覚の低下対策
 バイブレータタイプのポケットベルや、音声増幅器付きの電話機、ランプ付きの着信表示器を使用する。
 騒音を発するプリンターや外部から聞こえてくる暗騒音を遮断し、周辺からの騒音を最小限に抑える。
 会議室では円卓を使用し、席は近づけて配置する。騒音を低減する表面材をできる限り使用する。反響の起きやすい四角い部屋を設計しない。

体力低下への対策
 机上や収納場所は手の届く範囲内で、作業がしやすい状態に保つ。
 つまみやハンドルにぎざぎざをつけ、つかみやすく扱いやすくする。
 階段や通路にはしっかりした手すりを付け、照明を明るくする。
 休憩をスケジュールに組み込む。目安として、10〜15分間作業を続けた場合2分以内の休憩を設ければ、疲労が軽減される。同じことを何度も繰り返すような反復性の高い動作は、あらゆる年齢層の労働者に身体的な悪影響を及ぼしかねないことを忘れてはならない。

認知機能対策
 労働者が簡単な訓練を受けただけで出来て、しかもその仕事が単純な反復作業であるなら、必要な知識は限定される。しかし、新しい仕事、あるいは比較的なじみの薄い作業の場合には困難が伴う。長い期間教育や訓練を受けたり、さまざまな作業を伴う業務につけば、認識上の問題はかなり補えるだろう。

 退職間近の労働者を教育することへの(事業者と中高年従業員の双方が持つ)抵抗感を克服すること。
 労働者に訓練がもたらすメリットを示すこと。
 訓練の対象となる労働者の年齢、知識、経験に合わせた訓練方法を取り入れ、より実際的な訓練を考えること。
 中高年労働者の訓練期間は長めに設定すること。

 こうした手段の多くは常識的なものばかりである。なかにはコストのかかるものもある。しかし、そのほとんどは、「ここで働きつづけてほしい」というメッセージを中高年労働者に強く訴えかける、ちょっと気の利いた設計上の工夫にすぎないのである。

労働者の高年齢化に関するさまざまな問題の解決策は、カナダ労働安全衛生センター(CCOHS)のサイトにあります。www.ccohs.caを開いて、OSH answers をクリックしてください。


この記事は、Canadian Centre for Occupational Health and Safety (CCOHS)の許可のもと、国際安全衛生センターが翻訳したものです。