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中華人民共和国労働法の解説(概要)目次

はじめに
  1. 1994年7月5日に中国全国人民代表大会常務委員会で採択された「労働法」は新中国が成立して以来 労働関係を全面的に調整し 労働行為を規範化する最初の基本的法律であり、中国労働法制を造り上げるにあたり重要な一里塚となっている。

  2. 労働法は労働関係及び労働関係と密接な関係をもつその他の社会関係を調整の対象とし社会保険と労働法の執行を監督する時に発生する関係を含め、最も幅広い社会関係に及ぶものである。


中華人民共和国労働法制定の沿革について
  1. 中国政府は労働法の立法を従来より重視してきたのであるが、その中で様々な歴史的原因により作業が何度も繰り返され、難航するということがあった。1993年の初めに入り、中国の特徴を持つ社会主義市場経済体制の確立という目標が確定されてから、労働法の立法作業が大いに速められたのである。

  2. 労働法の起草は、中国が従来の計画経済から市場経済ヘと転換していく過程の中で行われたので、私どもは労働関係と労働基準の現状から出発すれば改革の方向を維持しなければならず、外国の成功した経験を参考にし中国が批准したILO条約における履行義務を引き受け、国際慣行と徐々に適合すれば、外国のものをそのまま取り入れないように中国の実情を踏まえなければならず、法律の統一性、権威性を明確に示せば、地域間の経済発展水準の差異を考慮しなければならない。こういった立法思想のもとに、労働法の制定は労働者の適法な権利を保護し、生産力の解放と発展に役立ち、社会主義市場経済発展の要求に適合し、法律規範の統一性と社会経済発展のアンバランスを合理的に結びつけ、中国の国情を踏まえて国際慣行との接点を見出すことを終始して立法の原則としている。

  3. 労働法は労働関係の調整を長期的に行う実践の上で生まれたものである。過去40年間にわたって制定した数多くの労働法律、法規と行政規則は、労働関係の調整のために根拠となる基本的な法律規範を提供し、労働法の制定のための法律的基礎を作った。 改革開放以来、中国の経済構造と生産関係に大きな変化がおこり、公有制を主体とし、多種類の経済要素が併存する枠組みが確立し、国有企業の経営メカニズムの転換と非公有制経済の発展が進むことに伴い、労働関係には多様化かつ複雑化が見られている。このような深刻な変化の中で、労働関係を適正に調整し、使用者と労働者の間の矛盾を解決し、労働者の適法な権利を保護するために従来どおりの労働関係調整の方式と手段を改め、労働法律制度をさらに整備し完全なものにすることを必要としている。このことが労働法の制定のための実践的基礎となった。


中華人民共和国労働法の基本的内容について
  1. 労働法は労働関係を決める合理的方策により内容を組み合わせ、労働者の権 利と義務、労働関係の確立と調整、労働基準の制定と執行、労働行政部門の職 責について明確に規定し、いろんな重要問題に関して新たな解決を行っている。

  2. 労働法の基本的趣旨は、労働者の適法な権益を保護することにあり、これが労働法全体を一貫するメインラインである。企業の権利はすでに「企業法」、「会社法」と「全人民所有制企業の経営メカニズムの転換に関する条例」などのものによって的確に保障されているので、労働法は労働者の権利保護を特に強調し憲法が定める労働権利を具体化する以外に一部特殊保護の条項を増やしている。

    1. 労働者の職業安定及び就業権が侵害を受けないことを保障すること
    2. 労働時間を短縮し、休息休暇を増し、年次有給休暇制度を確立すること
    3. 賃金の保障、つまり最低賃金基準、賃金の支払い、賃金の形式等の面から労働者の賃金収入に対し保障を与えること
    4. 社会保険と福祉の保障を行うことに関するものである。


  3. 労働法の核心は労働関係を調整することにある。最も革新的な部分は次のとおりである。

    1. 労働契約制度である。

      これは労働制度改革の成功した経験を総括し、労働市場における労働者と企業の主体的地位を法律の形で確立する重大な改革措置である。労働法を公布し実施することにより、必ず労働契約制度の全面的な導入実施の足取りを大いに速め、社会主義市場経済のもとでの新しい労働関係と労働制度の確立のために法律の基礎をかためることになる。

    2. 使用者による従業員解雇制度である。

      中国では過失による解雇は別として、使用者(企業側)が従業員に対し非過失による解雇ないし経済的理由による解雇を行うことを許すことは、従来よりの規定には一度も定めたことがない。これはあくまでも市場経済規則の要求に従い企業側に雇用の自主権を与え、国有企業の経営メカニズムの転換と近代的企業制度の確立のために制定したものである。

    3. 従業員の辞職制度である。

      つまり法律の形で労働者の職業選択の自主権を保障する。

    4. 労働協約である。

      これは国際慣行を参考にして一部の企業における試行的改革の経験を総括し、労働行為における政府、組合と企業の「三者原則」を明確にし、平等協議と団体交渉を労働行為の規範に取り入れ、労働協約を労働関係調整の重要手段とし、労働契約締結の根拠とするために制定したものであり、「組合法」の関係規定の上での新機紬ともなっている。



  4. 労働法の重点は労働基準を制定することにある。特別な意義を持つのは次のとおりである。 

    1. 労働時間の基準であり、つまり一日の労働時間が8時間を超えず、週平均の労働時間が44時間を超えない。 

    2. 休息休暇の基準であり、つまり週に少なくとも一日間休息し、元旦、旧暦正月、メーデー、国慶節を法定休日と定め、年次有 給休暇制度を実施する。

    3. 賃金の基準、つまり賃金水準を経済発展の基礎の上に徐々に引き上げ、企業は賃金を自主的に配分する権利を享有し、国は最低 賃金保障制度を実施する。

    4. 職業技能の基準、すなわち職業分類の基準、職業技能検定の基準など である。


  5. 労働法は労働行政部門の職責を定めている。つまり労働行政を主管し、使用者が労働法律、法規を順守する状況の監督検査を行うと共に、労働行政執法職 員の権限行使の監督も行う規定を設けている。


中華人民共和国労働法の主要な特徴
  1. 労働法は新中国が成立して以来45年間にわたる労働行政の成功した経験を総括し、改革解放15年来の労働体制改革の主要成果を十分に具体化している。

    1. 労働関係を確立する場合における労働契約の締結の必要を法律の形で規定し、労働者の職業選択の自主権と企業の雇用の自主権を明確に与える。
    2. 市場経済の要求に適合し労働協約制度を確立する。
    3. 労働時間と休息休暇制度を基本的な法律の形で初めて明確に定める。
    4. 使用者に法により賃金の配分方式と賃金の水準を自主的に決める権利を与える。
    5. 最低賃金保障制度を確立する。
    6. 国が職業分類を決め、職業技能の基準を制定し職業資格証書制度を実施することを明確にする。
    7. 社会保険制度の改革の成果を十分に認め、社会保険統一改革の方向を明確にする。その他労働就業、労働安全衛生、労働争議処理等の分野においてはこれまでの改革の成果と経験を吸収している。


  2. 労働法は法典形式の基本法であり、全面的かつ系統的な内容のものである。労働法は労働関係の調整と労働基準の確立と労働管理行為の規範化を、有機的かつ合理的に結びつけ、立法を一本化して法典としての特徴を明らかなものにしている。

    1. 適用対象が広い。 
    2. 企業の所有制別に法規を制定するという従来の立法方式を改めて、全ての企業に適用できるように法律をつくる。


    このことは統一的な社会主義労働力市場の設立という客観的な要求に適合するとともに、所有制の違う企業のために同一の規準によって公正競争の条件をつくる。また労働市場の合理的な流動性の観点からも有利である。

  3. 労働法はマクロ的に指導する性格を有するとともに実施されるものである。労働法は現実を踏まえなすべきこと、かつ、努力しさえすれば実現可能であることについては比較的に詳しく具体的に規定している。例えば労働契約の締結、内容、期限、解除等について明確に規定する。 その一方では時期的には成熟してないが、発展の方向が正しいと立証されたことについては原則的に規定している。例えば労働協約に関する規定について指導的なことしか書いていない。

外国の労働立法の経験を参考にすることについて 

中国はILOの加盟国であり、ILOが制定し国際社会に通用する労働規約を立法の参考にすべきであるが、当面では経済的にはまだ立ち遅れている発展途上大国であるので、一部の制度と労働基準の制定について一時的に国際的統一規準に達することが極めて困難であり、中国の国情に適合することを前提に外国の経験を取り入れ、かつ、参考にして、労働法制定の基礎を社会主義市場経済の促進と発展に置くよりほかはない。例えば最低賃金、最低就業年齢、週休制度、女性労働者保護、障害者雇用等については、国が批准した国際労働規約に規定する義務を履行する。ただし、労働契約、労働協約、経済的原因による人員削減、年次有給休暇制度、最低賃金制度、職業紹介の提供と就職サービスの充実等については、私どもは外国の労働立法の有益な経験を選択的に参考にし、国際慣行との接点を徐々に見出すようにしている。



結び
  1. 「労働法」の全面的な実施とあいまって中国労働部は大量な準備作業を行い広報のキャンペーンを進めている。
  2. 「労働法」の実施を円滑に進めていくため労働部は「社会保険法」、「安全生産法」、「労働契約法」、「就業促進法」、「職業技能開発法」、「賃金法」、「労働争議処理法」、「労働保護法」、「労働監察法」などの関連法律の起草に積極的に取り組んでいるところである。