中国における労働災害による経済損失に関する調査
このレポートは、国際安全衛生センターが実施したセミナー「安全管理と新しい動向」(1999年11月)に参加した中国のLi
Xiaofei氏がカントリーレポートとして提出したものの抜粋である
(訳 国際安全衛生センター)
1 中国における労働災害による経済損失に関する調査
1.1 調査方法と調査内容
調査は、直接的経済損失と間接的経済損失について行った。
直接的経済損失には、治療費、葬祭費、年金、補助および救済基金、休業補償、通常の事故対策費、救援復旧の費用、業務正常化の処理費用、事故に伴う罰金、損害賠償、固定資産の損失、流動資産の損失などである。
間接的損失には、生産の停止または低下による損失、労働損失、資源の損失、環境汚染対策費用、代替労働者の訓練費用などである。
1.2 調査範囲と対象
調査は、14の省と政府直轄市、製造業就労者数が比較的多い代表的な自治区で行なわれた。焦点調査からは、268の有効結果が得られた。標本調査は、8業種の112企業から、労働災害の経済損失事例1676件が得られた。
中国では、各地域を経済開発の水準によって3グループに分け、具体的には、I.開発地域、II.中開発地域、III.未開発地域の3つに分類した。調査件数はカテゴリーごとに、IとIIは各20%、IIIは60%とした。業種は、石炭、化学、金属、電機、紡績、軽工業、建材、建設など生産規模の大きい企業を含む業種を中心として、主に大中規模の企業を対象とした。調査対象期間は1982年から1990年とした。
具体的な企業をとりあげた調査では、国営企業を対象とし、負傷、死亡事故、職業病による経済損失を調査した。工場外での交通事故と、外資企業での労働災害による損失は調査対象から除外した。調査の対象となる負傷の程度を、1日以上の休業災害とした。
職業病に関しては、国が定める9種類を対象に調査し、焦点調査はじん肺による経済損失に絞り、その他は一般的調査にとどめた。
2 主たる調査結果
2.1 損失の主たる傾向
2.1.1 直接損失対間接損失の比率
国営企業における直接損失と間接損失の比率は、1:2.47、村営または市営企業では1:1.3、大災害では1:2.47、職業病では1:4である。
2.1.2 負傷の程度による費用の分布
負傷の程度による費用の分布を表2に示している。
表2 負傷の程度による損失費用の分布
負傷の程度
|
死亡
|
重傷
|
軽傷
|
損失(億元)
|
69
|
19
|
40
|
%
|
53.78
|
14.99
|
31.23
|
死亡、重傷、軽傷の比率は、1:0.36:0.93である。個人損失の平均値でみると、同じく20:10:1となり、その差はきわめて大きい。
2.1.3 業種別の費用の分布
業種別の費用の分布を表3に示している。費用が最大なのは石炭で、次いで金属、電機の順となる。
表3 主たる業種別の費用分布
業種
|
金属
|
電機
|
石炭
|
化学
|
紡績
|
軽工業
|
建設
|
建材
|
その他
|
費用
(億元)
|
10.9
|
18.6
|
52.2
|
8.4
|
1.38
|
4.4
|
2.5
|
5.3
|
23.3
|
%
|
14.4
|
12.8
|
63.2
|
5.6
|
0.9
|
3.2
|
1.5
|
2.9
|
22.5
|
2.1.4 地域別の費用分布
地域別の費用分布を表4に示している。国営企業の場合、中開発地域の費用が最大で、次いで開発地域、未開発地域の順になっている。
表4 地域別・負傷の程度別の費用分布
負傷の程度
|
開発地域
|
中開発地域
|
未開発地域
|
費用(億元)
|
%
|
費用(億元)
|
%
|
費用(億元)
|
%
|
死亡
|
4.66
|
52.00
|
61.52
|
54.00
|
2.58
|
50.00
|
重傷
|
1.16
|
13.00
|
17.10
|
15.00
|
1.03
|
20.00
|
軽傷
|
3.14
|
35.00
|
35.32
|
31.00
|
1.54
|
30.00
|
%
|
7.00
|
89.00
|
4.00
|
個人損失の平均値でみると、開発地域の費用が最大で10,544元、次いで中開発地域の6,603元、未開発地域の6,142元となる。
2.1.5 費用構成の分布
国営企業の労働災害による経済損失の各種費用を調査した結果、労働損失の価値がもっとも高くて81.9億元、次いで治療費が18.2億元、休業補償が10.1億元だった。
2.1.6 時間的変化による費用の傾向
国営企業の労働災害による費用は時間とともに増加する傾向にある。1980年から1994年にかけて金額で105億元、率で444%増加し、年平均に換算すると金額で8.7億元、率で37%になる。年間費用総合指数は、1982年を100として1994年には544になった。個人費用の平均値と負傷件数は、いずれも増加する傾向にある。損失費用合計の傾向に決定的な影響を与えるのは、個人損失費用の平均値である。
2.1.7 職業病の経済損失の推計
厚生省(Health Department)の統計データと、今回実施した調査によると、1991年から1994年の各年のじん肺による経済損失は、それぞれ92億元、100億元、106億元、113億元と推計されており、毎年増加している。
2.2 主たる結論
中国の労働災害による年間経済損失は、国民総生産(GNP)の約1.1%、金額にして466億元以上である。職業病による経済損失は甚大で、特にじん肺による損失は年間100億元に達する。労働災害による経済損失の7分の1が、大災害によるものである。
各業種の国営企業のうち、石炭産業の費用がもっとも大きく、55.2億元で、全体の費用の41.12%を占める。
負傷の程度別にみた費用のうち、死亡事故の割合がもっとも高く、全体の費用の53.8%を占め、次いで重傷が15%を占める。
各種費用別の割合では、労働損失がもっとも高く、金額で82.8億元、全体の費用の64.5%を占める。
労働災害による損失は年々、増加しており、1994年の国営企業での損失は1992年の5.5倍に達している。
国営企業における労働災害の個人費用の平均値は、村営・市営企業、合弁企業の4.5倍で、企業の所有形態によって労働災害費用に大きな差のあることが分かる。
直接費用対間接費用の比率は、1:2.47である。
労働災害費用は、時間と統計上の傾向からみるとGNPと指数的な相関があり、相関係数は0.95である。つまり、労働災害費用は国家経済の発展と密接な関係がある。
参考文献
- 1.「The cost of Occupational Accidents and Diseases」国際労働機関(ILO)
- 2.「Accident Facts,1988年版」国家安全委員会
|