現在の状況
現在の労働災害に関する状況は深刻である。統計資料によると、90年代中に毎日3人以上の死者をともなう事故が平均して2件発生し、10人以上の死者を出す重大事故も3日に1件の割で発生している。毎年の労働災害による死亡者数は2万人に近い。すなわち1労働日ごとに約80人、1労働時間ごとに10人の労働者の命が失われていることになる。
さらに最近の報告によると、1998年には15,372件の労働災害が発生、死者14,662人を出した。そのうち5,674件は鉱業災害で、死者は9,221人に達している。鉱業の事故件数のうち88%は炭鉱で起きており、73件は重大事故で合計1,463人の死者を出した。事故原因のうち最も多いのはガス爆発および炭塵爆発である。
統計によると1991年以降、中国での事故による死亡者の総数は増え続けている(図1参照)。労働災害による死亡者数も減少しつつあるとは言い切れない(図2参照)。
図1 中国における全種類の死亡事故件数(1991〜1998年)

図2 中国における鉱業・非鉱業の死亡事故件数

不完全な統計ではあるが、中国では労働上の危険が存在する企業が50万を超えるといわれる。2500万人以上の労働者が塵埃、有毒物質および/または騒音にさらされている。1998年末までに中国のじん肺症発生の総数は542,041人に達し、うち127,147人が死亡、414,894人が治療を続けている。1990年以降、毎年約7,000人の新規じん肺症患者が報告されている。じん肺症は1993年から96年にかけては減少したが、その後はまた増加に転じている。1998年には8,285人の新規患者が報告されており、これは80年代末の水準に近い数字である(図3)。
図3 中国におけるじん肺の新規発生、死亡、総件数(1990〜1998年
)

一方では最近の数年間、急性および慢性の中毒が数千人に達し、毎年数百人の死者を出していると伝えられている。新しい報告では、1998年には総数16,869人の職業病患者が出ており、うち10,637人(63.1%)は労働に起因する疾病であり、、6,232人(36.9%)は殺虫剤によるものである。労働災害関連の職業病のうち最も多いのは塵肺症で、総数の72.5%を占めており、急性・慢性中毒が2位で続いている(表1、図4参照)。
危険で非衛生的な労働環境、不十分な保護装置、適切な訓練の不足などが中国の事業場の一部で労働者の健康を阻害していると言えるだろう。
経済改革が始まってから、中小企業が各地で盛んに設立され、経済成長に大きな役割を果たしている。中小企業の多くは鉱業や一次製造業に属し、手作業中心で技術も遅れている。労働環境は悪く、色々な労働上の危険を抱えている。中国では中小炭鉱における労働災害が多発している。中小炭鉱の30%は未登録で、64.5%は十分な安全基準に達していない。このような環境での労働が安全に行われるはずがないとも言える。あるサンプル調査によると、中小企業の82%にはなんらかの労働上の危険が存在し、中小企業の労働者の30%は塵埃や有毒物質および/または騒音の中で働いている。職業病と確認された、またはその疑いのある疾病の発生率は15.8%である。危険性の高い化学物質、発がん性物質の厳格な規制や使用制限もなく、重大な職業上の中毒、職業性のがんもしばしば発生している。中小企業における労働安全衛生は中国における重大な社会問題になっている。
労働災害や職業病は労働者の生命や健康を損なうだけでなく、国家にとっては大きな経済的な損失である。労働災害は毎年、数十億元の直接的な経済損失をもたらし、職業病も100億元近い損失を出している。過去数年で見ると、労働災害、職業病による経済的損失は、年間800億元(約100億米ドル)に達している。
図4 中国における1998年の職業病

職業病 |
件数 |
%
|
じん肺
殺虫剤中毒
慢性中毒
急性中毒
目、耳、喉疾患
皮膚疾患
その他の疾患
|
8,285
6,232
1,068
510
437
62
275
|
49.1
36.9
6.3
3.0
2.6
0.4
1.6
|
合 計 |
6,869
|
100
|
|