このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > EU 欧州安全衛生機構 年次報告 1999年

1. リンクの構築−欧州安全衛生機構の情報ネットワーク

資料出所:European Agency for Safety and Health at Work発行
「Annual Report 1999」
(訳 国際安全衛生センター)


欧州連合(EU)には、労働安全衛生問題に関する膨大な知識と情報の蓄積がある。これらの資源を有効に活用すれば、欧州で働く1億5000万人の働く者の生活の質と安全性を大幅に改善できる可能性がある。欧州安全衛生機構(以下「機構」)の主な目的は、欧州内で、また労働関連の安全衛生についての専門知識と関心をもつさまざまなグループと個人の間に、効果的な連携を構築することである。

1999年、機構は主要な活動機関とネットワークであるフォーカルポイント(Focal Points)、テーマ別ネットワークグループ(Thematic Network Groups)などの専門グループ、トピックセンター(Topic Centres)を統合した。またEU以外の団体と国に連携を拡大するための措置を講じた。

フォーカルポイントの参加の拡大

フォーカルポイントは機構の情報ネットワークの中心である。各国の主要な安全衛生機関で構成され、加盟国を代表するとともに、機構の主たる関係者である労働者、使用者、政府機関の各代表とのパートナーシップにより、国内の情報提供団体とのネットワークを管理する。

1999年、フォーカルポイントの機構活動への参加が拡大したことは歓迎すべきである。フォーカルポイントは、機構の活動計画の実行に大きく貢献し、「反復的負荷傷害(RSI)」、「労働安全衛生の現況」など多数の報告書が提出された。また「戦略文書」と「2000年活動計画」案の策定への協力要請に対し、フォーカルポイントがきわめて前向きに応じてくれたことは、とくに心強い出来事だった。

実務面では、機構とフォーカルポイントのプロジェクト・スタッフとの連携が、新規採用スタッフ向け研修コースと合同セミナーの開催を通じて強まった。12月には、機構とフォーカルポイント代表がワークショップに参加し、「2000年活動計画」の実行計画について討議した。

欧州の専門家との連携

機構のテーマ別ネットワークグループは、活動計画の具体的側面の実行についての指針提供を担当している。フォーカルポイントが指名した15加盟国の一流の専門家で構成され、社会的パートナーと欧州委員会もオブザーバーとして参加している。1999年は、機構のプロジェクト活動の基本分野である「労働安全衛生の監視」「労働安全衛生システムとプログラム」「労働と衛生に関する研究」「優良安全衛生規範」に沿って4つのグループが組織され、活動した。各グループは、1999年中にビルバオで少なくとも2〜3回の会合をもち、経過を検証し、今後の方向を検討した。この他2つの専門家グループが、インターネットとコミュニケーション活動の強化の面で機構への支援を続けた。

また6月には、欧州各国の安全衛生担当者と専門団体の代表者による非公式の会合も行った。

前進するトピックセンター

運営委員会が最初に4つのトピックセンターを指名したのは1998年である。トピックセンターはさまざまな国の安全衛生専門機関との連携を確立するもので、期間を定めて設置され、機構の情報活動のなかの個別課題を実施する。センターの一つは、「労働と衛生に関する研究」の幅広い課題を扱い、他の3センターは、「優良安全衛生規範」の各側面(筋骨格系障害、労働におけるストレス、危険物質)を対象にしている。1999年、4つのセンターはデータ収集に深く関与し、その活動報告書を提出したが、内容は後段で詳述する。1999年11月の運営委員会での評価報告と決定を受け、各センターとの契約は1年延長された。

EU諸機関との緊密な協力

1999年、機構は欧州連合議長国のドイツおよびフィンランド、「生活および労働条件改善のための欧州財団(European Foundation for the Improvement of Living and Working Conditions)」、さらに他の多数のEU諸機関と緊密に協力してきた。とくに、欧州委員会の各局との協力の幅を継続的に拡大し、雇用・社会問題総局だけでなく、研究総局、情報社会総局、企業総局にまで広げたことが重要である。

6月には、機構が開催したEU加盟国内での労働安全衛生研究のニーズおよび優先課題についてのセミナーに、研究総局が参加した。その結果、機構は現行の「第5次研究開発枠組計画」に対する年次評価と見直しへの協力を要請され、翌月、これについての報告書を提出した。このセミナーには欧州委員会の共同研究センター(JRC)も参加しており、機構とJRCとのさらなる協力拡大が見込まれている。

情報社会総局は、機構の内容と活動の説明を受け、機構とともに欧州市民向けのユーザーフレンドリーな情報システムと電子的情報サービスを開発するための検討に入った。企業総局との間でも、機構情報への中小企業のアクセス改善に向けた協力のあり方について、討議をはじめた。機構は、情報普及の一層の向上をはかるため、今後のすべての出版物の編集、印刷、および配布に、欧州共同体公式出版物事務所(Office des Publications Officielles des Communautes Europeennes: OPOCE)を全面的に活用することにした。

欧州議会との協力強化も進展した。11月には、所長が雇用・社会問題委員会の委員向けに、機構の役割と現在の活動、2000年活動計画の概要についてプレゼンテーションを行った。こうした公式説明に加え、欧州議会の関心ある議員への個人的説明会の回数も増やした。

ECOSOC(欧州共同体経済社会評議会)の社会問題委員会に対するプレゼンテーションでも、機構とその役割についての認識と理解の拡大が重要目的の一つであった。同委員会には、機構の主な関係グループの多数の代表者が参加している。

1999年上期の欧州標準化委員会(CEN)との協議の結果、CEN運営委員会は、機構のウェブサイトから労働安全衛生関係の標準の情報に無料の連携を確立することに合意した。

機構はまた、昨年締結した了解覚書に基づき、生活および労働条件改善のための欧州財団との緊密な協力も継続した。機構所長は同基金運営委員会の正規参加者になっている。「労働安全衛生の現況」プロジェクトに加え、同基金と機構は、欧州委員会あての共同文書を作成し、両機関の補完的な関係と今後の活動についての共通の展望を明確に提示した。

機構は今後も、新設された企業総局など欧州連合の他の諸機関との連携強化を優先し、相乗効果を最大化して労働安全衛生に対するメッセージをできるだけ広げるよう努める。

欧州連合の枠をこえた連携の確立

1999年、機構はEU以外の国や団体との連携も強化した。同年中、機構はEU加盟候補国に関する戦略の策定作業を開始した。ヘルシンキ首脳会議で、加盟前段階の期間での各機構の役割が決定されたことで、この活動は一層、注目されることになった。追加財源の支出も見込まれており、加盟候補国が労働安全衛生のウェブサイト、フォーカルポイント、国内ネットワークを構築するのを支援できるようになる。

1999年は、欧州自由貿易連合(EFTA)諸国との協力も一層発展した。EFTAの全加盟国が機構の「労働安全衛生の現況」プロジェクトに参加しており、また機構のインターネットを基盤にした情報ネットワークや「労働安全衛生欧州週間」などの活動に興味を示す国も多い。

さらに韓国から韓国産業安全公団(KOSHA)、日本から中央労働災害防止協会(JISHA)が来訪してネットワークが両国に拡大し、また国際労働機関、世界保健機関、国際社会保障協会との協力も強化された。また機構は、米国労働安全衛生庁(OSHA)との合同ウェブサイト構築の計画を推進するとともに、2000年11月にサンフランシスコで開催される次回のEU−米国会議の準備にも参加している。


安全衛生と雇用の継続との関連を探る

1999年9月にビルバオで開催された欧州安全衛生機構第3回総会の参加者の意見では、労働に起因する災害や疾病を受けたものを労働力として除外しつづけることをやめるには、欧州諸国は何らかの統一された安全衛生優先の考え方を確立することが必要である。
EU議長国のフィンランドとの共催となった総会には、31ヵ国から300名を超える労働安全衛生専門家が参加し、オーストリア皇太子殿下が開会を宣言した。総会では労働安全衛生と雇用の継続との関連に焦点があてられた。欧州委員会、欧州議会、各国政府、事業者と労働者団体の各代表も含めた参加者に対し、負傷と労働関連の疾病による労働損失日数が欧州全体で年間約6億日にのぼり、経済的損失は1,850億ユーロから2,700億ユーロに達することが明らかにされた。人的被害の面からみると、損失費用はさらに高い。労働を通じて負傷し、疾病にかかった何十万人という人々は、職場から永久に排除されている。貴重な技術と経験、経済的に貢献できる能力をもつ可能性があるにもかかわらずである。
フィンランドのMarkku Lehto社会保健相によると、この問題への取り組みは道徳的かつ経済的責務である。同氏は「労働者の雇用の継続の向上は、EUの雇用戦略の第1の柱である。あらゆる年齢層の知識と経験は、EUの福祉と競争力確保のために必要であり、われわれの社会の成功の基礎である」と述べた。
人々が労働人口に復帰するのを支援するための総会提案のひとつとして、事業者に対して効果的な安全衛生対策をとるよう呼びかけた。具体的には、職場の設計を見直し、良質な情報と研修を提供することで、人を労働に合わせる現在の傾向ではなく、労働と職場を人に合わせようというものである。欧州委員会の雇用社会問題総局長は、EUの社会アクション・プログラムで労働安全衛生と雇用の継続との関連にもっと明確に焦点をあてるべきだとする提案を支持した。同局長は、この総会を「政治的な突破口」と評して次のように述べた。「労働安全衛生が、いまようやく近代的な雇用戦略の中心的要素として認識されるようになった。われわれは初めて、労働と雇用を全体的に認識するための第1歩を踏み出したのだ。この変化は欧州の雇用戦略を大幅に強化することになるだろう」
基調報告と主な結論を含めた総会の要約は、機構のウェブサイトに公表されている。