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国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > EU 欧州安全衛生機構 年次報告 1999年

2. 安全衛生情報の拡充

資料出所:European Agency for Safety and Health at Work発行
「Annual Report 1999」
(訳 国際安全衛生センター)


機構は、現在ある情報の蓄積と利用拡大だけでなく、将来の情報ニーズの予測とそれへの対応という責務も担っている。機構の情報プロジェクトは、方針の策定と実行の両面を支援するとともに、幅広い課題に取り組んでいる。その成果は報告書とインターネットを基盤とした供給源に反映されている。

1999年、機構のテーマ別ネットワークグループとフォーカルポイントの監督のもと、プロジェクト・スタッフ、トピックセンター、外部コンサルタントが主要な4つの情報プロジェクト(「労働安全衛生の監視」「労働安全衛生システムとプログラム」「労働と衛生に関する研究」「優良安全衛生規範」)に取り組んだ。

労働安全衛生の現状(現況)の把握

EU内の労働安全衛生の現況は、各国とEUの政策決定者だけでなく、事業者や労働者などにとっても中心的な懸念事項になっている。この問題は、早くから機構の優先的な情報プロジェクトとして位置づけられ、1999年末には幅広い調査活動が完成段階に入った。その内容は2000年に発表される予定である。外部の業者が15ヵ国の報告書に基づいて欧州の統一報告書案を作成し、11月の関連テーマ別ネットワークグループ、12月のフォーカルポイントの会合で討議された。主たる調査結果は11月の運営委員会に提出され、さらに補強した報告書案が、発表に先立って2000年2月の運営委員会に提出された。

労働安全衛生システムとプログラム

プログラムの表題は幅広い内容を含んでいるが、作業は以下の3つの基本的分野で進められた。

  1. 「マーケティングと調達における労働安全衛生」。1998年の機構の報告書「欧州連合加盟国における労働安全衛生の経済的影響」には重要な指摘があった。十分な安全衛生規定を備えて営業していることを証明できるかどうかを基準に、企業と契約を締結する方法が、欧州の多数の国で、全体的な労働安全衛生水準の向上に有効であったということである。その報告を補足するための一環として、1999年にマーケティングと調達における労働安全衛生の役割を詳細に調査することを機構は決定した。機構の公募に応じた外部の業者1社が選定され、フォーカルポイントと連携して欧州全域の20件のケーススタディを実施したうえで、2000年中頃までに最終報告書を完成するよう取り組んでいる。

  2. 「安全衛生と雇用の継続(エンプロイアビリティ)」。この課題を取りあげた9月の機構の会議結果を受け、契約会社1社が、労働者の雇用の継続向上に向けた加盟国のプログラムと政策の実践と経験について、報告書をとりまとめている。これを補強するため、「労働安全衛生の監視」プログラムの一環として、職場の安全衛生と雇用の継続との関連に焦点をあてたデータ収集作業も開始した。

  3. 「安全衛生キャンペーン」。機構は、効果的な安全衛生キャンペーン実施に向けたマニュアルの作成にも着手した。契約会社1社が、「システムとプログラム」のテーマ別ネットワークグループと協議し、効果的なキャンペーンの基本的要素とは何かをさぐる欧州規模の調査を行った。2000年中頃にはキャンペーンのための「指針」が完成する。

労働と衛生に関する研究

欧州の多数の市民が、労働界の急激な変化に直面している。新しい、また現在の労働慣行が安全衛生に与える影響を正しく理解する必要がある。1999年、欧州共通の優先的研究課題を決定するため、機構は加盟国の考え方を集約した。

加盟国の専門家からの意見聴取の後、「労働と衛生に関する研究」のトピックセンターのパートナー機関であるイギリスの安全衛生研究所(HSL)が、テーマ別ネットワークグループとフォーカルポイントでの討議に向けた報告書案を作成した。この報告書への意見と、6月にビルバオで開催した機構のセミナーの結果に基づいて、優先課題についての最終報告書が作成される。これらはまた、EUの次期(第6次)「研究開発枠組計画」作成に提起する機構の意見の骨格になる。

今後の研究の基本的優先課題については、加盟国間でかなりの合意ができていると思われる。具体的には心理社会的要因(労働におけるストレスなど)、エルゴノミクス的な危険要因(手作業と作業姿勢など)、化学的危険要因、安全リスク、中小企業でのリスクマネジメントなどである。これ以外に、職業的またはその他の作業関連の疾病、個別作業ごとのリスク、リスク・アセスメント、危険物質の代替物、肉体的危険要因などの優先的課題がある。

また「研究」トピックセンターの活動として、労働安全衛生の研究情報を扱うインターネット・システムのためのデータ収集手順と管理システムの確立などがある。また「優良規範−労働におけるストレス」のトピックセンターに対する研究情報の提供にも前進が見られたとも報告している。

欧州委員会の要請に応え、機構は、作業関連の首および上肢の筋骨格系障害に関する研究情報について、専門家による検証を依頼した。報告書は1999年末に発表されたが、この分野での今後の活動に向けた討議のための貴重な知的基盤となる(囲み参照)。

優良安全衛生規範

1999年、「優良規範」に関して「筋骨格系障害」、「労働におけるストレス」、「危険物質」の3つのトピックセンターがデータ収集に集中的に取り組んだ。

10月には、「労働におけるストレス」と「研究」の2つのトピックセンターが協力し、コペンハーゲンで労働におけるストレスに対する優良規範と研究をテーマにワークショップを開催した。現在、その報告書を作成中である。

また1999年は、「優良規範」に関するテーマ別ネットワークグループが、建設産業の労働安全衛生の重要性をふまえ、ウェブサイトに同産業向けの情報を掲載する最良の方法を助言するためのサブグループを設立した。サブグループの検討に基づき、ウェブサイトに新たなページが追加され、建設産業の安全衛生に関連して欧州内外へのリンクを提供している。


筋骨格系障害−欧州の悩みの種

筋骨格系障害は欧州の労働者にもっとも多く見られる作業関連の疾病の1つで、建設現場から病院の病棟や事務所にいたる、あらゆる産業の何百万人もの労働者を悩ませている。機構が新たに発行した一連の研究情報報告の第1号(1999年発表)は、作業関連の首と上肢の障害の問題を検討し、これに対処するための欧州戦略策定の基礎を提供している。

欧州委員会の要請を受け、機構は、筋骨格系障害トピックセンター参加機関であるイギリスのロービンズ衛生エルゴノミクスセンター(Roben's Centre for Health Ergonomics)のピーター・バックル教授およびジェイソン・デベルー博士と契約し、この問題を詳細に検証した。調査では既存の科学的文献を参考にしただけでなく、国際的な科学委員会の見解も取り入れ、研究に関するテーマ別ネットワークグループによってとりまとめられた。

調査の結果、首と上肢の筋骨格系障害は欧州全域でますます深刻な問題となっており、甚大な経済的影響を与えていることが明らかになった。また生体力学や計量モデル、そして生理的また軟組織の変化の直接の計測に基づき、一部の筋骨格系障害と職場の行動との間に強い関連のあることが科学的に証明された。

職場の危険要因として共通しているのは、肩と手首を中心とした不自然な姿勢、きわめて反復性の強い動作、または手に対する力の負荷や腕の振動を伴なう作業などがある。ただし、低温の労働環境、作業の組織化の方法、労働者の、自らが属する労働組織に対する見方なども一因となっている可能性がある。女性は、とくにそうした危険要因にさらされる確率が高いように思われる。

バックル教授とデベルー博士は、多数の分野での調査の続行と、加盟国に筋骨格系障害への標準的対処法がないという問題を解決するための協議を呼びかけた。ただし、現在の科学的知識でも、リスクのもっとも高い労働者を把握し、保護するために必要な情報は十分に揃っているとも主張した。

同教授らは、欧州レベルでは、EU法ですでに承認されたリスクアセスメント、健康調査、労働者への情報と研修提供、エルゴノミクス的作業システム、疲労防止対策の原則を強化する手法が適切だとしている。

公表された調査結果について、グループ・ローディア(Groupe Rhodia)の医学アドバイザーで、欧州委員会の「労働における安全、衛生および健康に関する諮問委員会」(ルクセンブルグ)の筋骨格系障害特別グループ議長であるパトリック・レビー博士は、次のように述べた。「機構の報告書は、労働衛生にとって何がきわめて重要な問題なのかを考えるための貴重な基盤を特別グループに提供してくれた。内容は包括的で、欧州の筋骨格系障害の予防策開発と普及に関心をもつ人にとって興味深い手段になっている」

機構が予定している次回の研究情報報告では、労働におけるストレスをとりあげる。「これらの研究情報プロジェクトは機構の重要な財産である」とハンス・ホースト・コンコレウスキー所長は述べた。「われわれの目的は、欧州と加盟国の政策決定者が、労働安全衛生に関する今日の最重要問題に対処するための予防的戦略を検証し、また必要な場合は新戦略を策定するための、包括的で利用しやすい報告書を提供することである」