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職場の新しいリスクとの闘い:ストレス、うつ及び暴力

First published in English as Combating new risks in the workplace: stress, depression and
violence

by the Office for Official Publications of the European Communities
© European Communities, 2004

Japanese translation: © Japan International Center for Occupational Health and Safety
(JICOSH), 2005
Responsibility for the translation lies entirely with JICOSH

資料出所:European Commission's Employment, Social Affairs and Equal Opportunities DG 発行
「Social Agenda」 Issue 9/2004 p.17-18
http://europa.eu.int/comm/employment_social/social_agenda/social_agenda9_en.pdf

(仮訳 国際安全衛生センター)

 
 EUの職場及び社会での最近の変化に対応した労働安全衛生戦略の推進

 EUの労働安全衛生面には、最近、目覚しい改善が見られる。労働災害及び職業性疾病の防止を基本とした意欲的な災害防止計画により、1994年から2001年までの間に重篤災害で15%、死亡災害で31%の減少が見られた。

 しかしながら、依然として、この数字は高い水準を示している。最新の統計によると、EU15カ国での労働災害のうち、死亡災害は4,900件、重篤災害(休業3日以上-three or more days off work)は、470万件となっている。さらに労働力の変化により、新しく取り組まなければならないリスクが現れている。

 この人道的観点以上に、経済的にも安全衛生を改善しなければならないという議論が行われている。約2億1千万日が毎年、労働災害により、約3億5千万日が職業性疾病により失われている。これは、それに伴って発生する補償と給与面で企業に重い負担となっている。1999年、労働災害及び疾病による損失はEUの全GDPの3%以上にのぼった。

 2年前EUは、2002年〜2006年のEU共同体の労働災害防止計画を策定した。この計画は、安全衛生の範囲を労働福祉(well-being)という、よりグローバルな概念を含むように拡大し、グローバルな競争を考慮しながら、災害防止文化をさらに発展させようとするものである。この計画は、既存の広範囲な法的枠組みを基礎として、全ての利用可能な方策、例えば意識向上策、ガイドライン、優良実施基準(code of good practice)、自発的な合意などを利用して、かつ全ての利害関係者の参加の下に実施されることになる。特に、安全衛生ルールを効果的に適用することが確実に行われることに力点が置かれている。

 この計画はまた、労働の場における最近の変化、及び新しく出現したリスク、特に心理社会的なものも念頭においている。

 社会的、かつ人口学的な変化により、今や、多くの女性と高齢者が働いている。女性や高齢者は、これまでと違ったリスクを受ける、これまでと違った業種で働く傾向があるため、新たな課題が生じている。

 女性労働者の大部分はサービス部門で働くので、現実には、災害率は男性よりずっと低い。しかし男性は、業務上疾病として筋骨格系障害、難聴及び肺疾患に罹患する傾向がある一方、女性は、感染症、神経的障害、ストレス、モラルハラスメント及び暴力を受けているという報告がなされている。2000年には、男性の7.3%と比べ、女性労働者の10.2%がいじめに遭ったと訴えており、さらに男性の僅か0.8%と比べ、女性の3.1%が性差別を経験していると語っている。

 欧州人口の高齢化は50歳以上の労働者比率上昇に表れている。年齢に基づく比較によると、若い人は労働災害に遭う確率が高く、一方、55歳以上の人々は、重篤な災害に遭うことが多く、また癌のような長期間にわたって発症する職業性疾病の件数が最も多い。

 労働力のこのような変化に加え、労働市場では雇用形態の多様化として非正社員が大きく増加している。調査研究によると、雇用期間が2年未満の労働者は、労働災害を受けやすい。パートタイム作業及び標準的でない時間に働く作業(交替勤務あるいは夜勤)もまたリスクを増す要素である。その理由は、適切な教育訓練の欠如、交替あるいは夜勤作業が原因となる心身の問題、管理者の認識の欠如、あるいは不安定な雇用の下での労働者のモチベーションの欠如などである。欧州の労働者の約20%は、交替勤務に従事しており、ほぼ同数が少なくともなんらかの夜勤作業に従事している。

 今日新しく出現している問題、つまりストレス、うつ、不安、職場暴力、ハラスメント及びいじめは、苦情増大の原因となっている。およそ140万人のヨーロッパ人が職業に関連した心理社会的な健康問題に苦しんでいると推定されている。EUの方針では、技術的な法令による管理になじみにくいこれらの新しいリスクを、よりグローバルな労働福祉(well-being)という概念を取り入れることにより、認識しようと努めている。

 EUの拡大は、既に難しくなっている状況を一層悪化させるおそれがある。新加盟国に対して、EUの安全衛生法令を効果的に適用することが不安を引き起こしており、かつ、リスク回避及びリスク削減というEUのグローバル災害防止対策についても広い範囲で理解不足がみられる。しかし、EU安全衛生法令をその国へ移植し、適用させ、監督指導を行わせることは重要である。最近の調査によると、健康に関するEU規則(労働安全衛生を含む)を完全に実施することにより、ハンガリーの平均寿命は10年以内に2〜3年上昇するだろうと期待されている。

 新加盟国での産業構造はかなり異なっている。新加盟国では、農業及び製造業部門で働いている人が多いのに対して、従来の加盟国ではサービス業指向となっている傾向がある。また、新加盟国では、小企業で雇用されている人々の率が高く、そこでは、安全衛生の諸規則は、ほとんど守られない傾向にある。

 職場のリスクの変化に対応して、EUの労働安全衛生政策では、労働福祉(身体面、モラル面かつ社会的次元を含む概念)の継続的向上を目指している。また、次の点に重点を置くことも強調している。すなわち、人口学的変化、新しい雇用形態、職場組織、労働時間、企業規模(中小・零細企業に必要な特別対策を行う)などである。加えて、新しい、あるいは出現しつつあるリスクの分析も奨励されており、欧州"リスク監視所(Risk Observatory)"を創設しようとする計画もある。

 労働安全衛生が全ての関連政策及び計画の中で考慮されるようにしようという「主流化アクション」は、特に促進させることが奨励されている。例えば、各種のEU基金からの給付は、ますます職場標準の遵守度合いに依存し、教育プログラムは安全衛生事項に対する終生の認識を創り上げることを目的とし、また、調査研究プログラムは、職場の変化による要求を満たすよう変わって行くだろう。ストレス及びハラスメント、うつ及び不安といった社会的リスクを防止する具体的対策も考慮されるだろう。