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労働と社会の変化に対する適応:
労働安全衛生に関する新たな共同体戦略(2002〜2006年)


資料出所:欧州安全衛生機構ホームページ
http://osha.europa.eu/systems/strategies/future/com2002_en.pdf

(訳 国際安全衛生センター)


欧州共同体委員会
ブリュッセル、2002年3月11日
COM(2002)118 final
EC委員会通知
労働と社会の変化に対する適応:
労働安全衛生に関する新たな共同体戦略(2002〜2006年)


目次

概要
1. はじめに
2. 労働現場の変化への対応
2.1. 社会の変化
2.1.1. 女性化の進む社会
2.1.2. 高齢化する労働人口
2.2. 雇用形態の変化
2.3. リスクの性質の変化
3. 安全衛生に関する新たな共同体戦略へ向けて
3.1. 労働福祉に対するグローバルなアプローチ
3.2. 予防文化の強化
3.2.1. 教育、意識向上、予測:リスクに関する人々の知識の改善
3.2.2. 現行法規のより適切な適用
3.3. さまざまな手段の連携とパートナーシップの構築
3.3.1. 法的・制度的枠組みの改訂
3.3.2. 革新的アプローチの推進
3.3.3. 労働安全衛生をほかの共同体政策に重要事項として盛り込むための取り組み
3.4. 拡大への準備
3.5. 国際協力の推進


概要


労働安全衛生は今やEUの最も充実した重要な社会政策部門の一つになっている。すでに1951年には欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が労働者の安全の向上に取り組み、これがローマ条約ですべての被雇用者に拡大された。この結果、1970年代後半以降、とりわけ1987年の単一欧州議定書発効以来、安全衛生基準の向上を目的としたおびただしい数の法規が作られることになった。

EUが利用できる文書資料はこのように豊富に存在しており、それゆえに共同体としての戦略を定めることが社会政策のアジェンダにとっては不可欠である。2002年から2006年までの期間を対象とするこの戦略には、次のような三つの新しい特徴がある。

  • この戦略は労働現場における変化と新たなリスクの出現、とりわけ社会心理的側面を考慮しつつ、労働福祉に対するグローバルなアプローチを採用している。これは、労働の質の向上、安全で衛生的な労働環境を不可欠な要素の一つとみなしている。

  • この戦略はリスク予防文化の徹底さまざまな政治的手段---立法措置、社会的対話、漸進的施策と最善の慣行、企業の社会的責任と経済的インセンティブ---の連携、および安全衛生に携わるあらゆる関係者の間でのパートナーシップの構築を基盤に据えている。

  • この戦略は意欲的な社会政策が競争の公平性を期すための一つの要因であることを指摘する一方で、これと表裏一体の関係にある事実として、「ポリシーを持たないこと」がコストを生み、このコストが経済と社会に重くのしかかることを強調している。

1. はじめに

より多くの良質な雇用の創出、これは2000年3月のリスボン欧州理事会でEUがみずから定めた目標であった。安全と衛生は労働の質を考えるうえで明らかに不可欠の要素であり、EC委員会通知の「質への投資("Investing in quality")」(1)をうけて最近採択された指標の中にも、この安全と衛生が取り入れられている。この指標でみる限りEUは良好な実績をあげており、労働災害件数は1994年から1998年までの間に10%足らず減少した(2)。しかしながら絶対数は依然として高いままであり、死者は5,500人、休業3日以上の災害は480万件にも達している(3)。さらに重大なのは、1999年以来、一部の加盟国および一部の部門において、憂慮すべき災害規模の拡大傾向が再び顕著になっていることである。また、加盟申請国における労働災害の平均頻度は、主として伝統的に高リスクとみなされている部門に対する依存率が高いことから、EUの平均よりもはるかに高くなっている。

一見単なる寄せ集めのように見える上の数字に対しては、十分な警戒が必要である。なぜならこれらの数字は、欧州指令で定められた予防アプローチがさまざまな関係者からまだ十分に理解されておらず、取り組みも依然不十分で、効果的に実際に適用されていないことを示しているからである。これは特に加盟申請国において顕著である。換言すれば、これらの数字は労働安全衛生に対するよりグローバルなアプローチの策定を促すものである。というのも、雇用の質を決めるのは、一般に認識されている次のような一連の構成要素、すなわち、必要とされる技能の種類、被雇用者の訓練のレベル、雇用関係のあり方、実際の労働形態、および労働時間の要素だからである。従って、より健康的な労働環境を目指すための取り組みを、(サービス指向を強める)経済活動、(多様化が進む)雇用形態、(女性が増え、より高齢になりつつある)労働人口、および(多様化が進む一方で、社会的疎外が顕著になりつつある)社会一般の全体的趨勢の一部として取り込む必要がある。

さらに、安全で衛生的な労働環境と職場組織は、経済と企業のパフォーマンスを左右する要因でもある。職場の衛生状態と競争力との間に存在するはっきりとした関係は、単なる法令遵守にかかる費用の問題では片付けられない複雑な側面を持っている。経済に関して言えば、「質を伴わない」労働は、生産能力の損失---労働災害や健康上の問題が原因である労働損失日数は1999年で五億人日にのぼる---と、これに対する補償および給付(4)となってあらわれ、そのうちの多くは企業財務に重くのしかかる。転職や配置替え、若しくは労働時間の短縮を余儀なくされた人の数は約35万人にのぼり、程度はさまざまながら永久労働不能障害を負った人は30万人近く、このうち1万5千人は働くことがまったくできない状態にある。こうした人間としての悲劇もさることながら、労働人口の構造的な高齢化を背景にすると、これは資源の浪費である。

企業レベルでは、「質を伴わないこと」は、労働者や顧客、消費者をはじめ、安全の問題に対してますます敏感になっている一般の人々に対する企業イメージの低下につながる。言い換えれば、衛生的な労働環境は企業の品質イメージの向上に貢献し、この環境を改善するためのステップは、「品質管理」と社会的責任に対する全体的なアプローチの一部になるということである。そして品質管理と社会的責任は、ともに業績と競争力にプラスに作用するのである。

労働安全衛生に関する共同体政策は、これらの変化やニーズに対応し、労働福祉の推進(5)を目的としたものでなければならない。ここで言う労働福祉は、肉体的・精神的・社会的に良好な状態を意味するものであって、単に労働災害や職業性疾病の不在によって測定し得るものではない。これは共同体政策がそれ自体で質の向上を追求するものでなくてはならないことを意味し、次のような2つの基本的前提を持つことになる。

  • 共同体政策はさまざまな手段を連携させなければならず、何十年にもわたって積み上げられてきた豊富な共同体政策の中にその基礎を見出さなければならない。これらの共同体政策の中では、予防を優先事項に据えているという点で、枠組み指令89/391(6)がかなめとなる。また共同体政策は、当該分野におけるさまざまな共同体プログラム(7)で培われた経験の上に築かれなければならない。規範的アプローチは、既存の基準を絶えず調整することであれ、新しい基準を策定することであれ、今後も依然不可欠である。基本的権利に関する憲章の第31条には、「あらゆる労働者は、みずからの健康、安全、および尊厳を尊重する労働環境を持つ権利がある」とうたわれている。しかしながら、変化し続ける労働現場の中では、透明かつ信頼できるデータと指標に基づいたパフォーマンス評価や、(単一もしくは複数部門のレベルの)社会的パートナーの働きかけ、あるいは企業が自主的に策定する計画など、漸進的アプローチの推進もひとしく重要である。さらに、関係者すべての知識と意識を改善し、労働安全衛生に対する関心が、関連するその他すべての共同体政策に重要事項として盛り込まれるようにすることが不可欠である。

  • このような目標を達成するため、共同体政策は全員参加に基づく「良きガバナンス註)(8)の枠組みの中で、公的機関や社会的パートナー、企業、官民の保険業者といったすべての関係者を関与させるものでなければならない。ニース欧州理事会で採択された社会アジェンダ(9)は、新しい共同体戦略の本質的要素とは、「労働環境における変化を予測し管理すること」に役立つものと定義している。新しい共同体戦略それ自体は、事前の幅広い協議に基づくものであり、そこで表明されたさまざまな見解が考慮されている。たとえば、欧州議会は社会アジェンダに関する決議の際、EC委員会に対し、「労働安全衛生に関する真の意味での共同体戦略を策定」「比較可能な共通の目標を設定し、現行の種々の指令の導入・管理・評価を強化するための行動計画を含み、さらに、これまではカバーが不十分だったり、あるいはまったくカバーされていなかった太陽光線にさらされて生じる皮膚病などのリスクや、ストレスや筋骨格系障害といった新たに出現しつつあるリスク、および新しい労働環境に対する追加的立法措置を包含した予防的アプローチの一環としてリスク分析の利用を推進すること」を要求した。一方、経済社会委員会は、EC委員会の要請に応じて予備的意見(10)を採択した。社会的パートナーをメンバーに含む労働安全衛生及び健康の保護に関する諮問委員会(ACSHH)は、2001年12月に諮問委員会としての意見を採択した。こうした事前の協議によって、首尾一貫した政策的枠組みの設定、具体的行動の提案、および完全実施までのタイムテーブルを含む、2002年から2006年までを対象とする新しい共同体戦略への道筋が定まった。

    訳註)ガバナンス−−統治管理


2. 労働現場の変化への対応

リスボン欧州理事会は、欧州が「知識ベースの経済」に移行しつつあり、移行期を特徴づける大きな変化が、社会や雇用、労働安全衛生に影響を与えると指摘した。それゆえ、この戦略的分野においてどんな方針を追求すべきかを新たな観点から見直し、適時新しい優先課題を見定める必要がある。

それでもなお、こうした変化は、現在置かれている現実の状況を覆い隠すことはできない。労働災害の発生率はいくつかの部門では依然非常に高く、これらの労働災害は、EU域内で記録されている災害件数の大部分を占めている。4部門(漁業、農業、建設業、および保健・社会福祉サービス)での災害発生率は平均より30%多く、別の4部門(採取産業、製造業、ホテルおよびレストラン業、運輸業)では平均より15%ほど高い。この数字は、中小企業および零細企業に注目するとさらに高くなる。たとえば建設業では、平均災害発生率は平均より41%高いが、従業員数1〜9人の企業ではこれが124%に、さらに従業員数10〜49人の企業では130%にはねあがる(11)。したがって、このような「伝統的」リスクを減らして中小企業に予防の文化を徹底しようとするならば、先に指摘したような状況に対して常に警戒を怠ってはならない。


2.1. 社会の変化

2.1.1. 女性化の進む社会

労働者に占める女性の割合が伸びていることは、ここ数十年間の明白な事実である。高齢化する労働人口に対処するためにリスボンで定められた基本的目標の一つにも掲げられたこの問題は、労働安全衛生に新しい次元をもたらしている。

女性労働者のうち83%はサービス業で働いていて、このことにより男性に比べて女性の災害および職業性疾病の発生率がはるかに低く、女性が災害に巻き込まれるリスクも大幅に低くなっている。

しかし、こうした傾向を必ずしも手放しで喜ぶわけにはいかない。なぜなら、女性が多数を占める種類の労働では、死亡事故を含めた労働災害発生率が上昇しているからである(12)。さらに言えば、職業性疾病と診断されたものに占める女性の割合はわずか17.8%(1995年の数字(13))だが、いくつかの分類グループではるかに高い比率を示している。アレルギーでは45%、感染症では61%、神経系障害では55%、肝臓・皮膚系障害では48%に上昇する。こうした数字は、職業性疾病における性差の重要性を際立たせるものである(14)

予防措置、および補償給付のための評価処理と基準では、労働人口に占める女性の割合の増加、とりわけ女性がさらされやすいリスクに対し、特別に配慮しなければならない(15)。これらの措置は、エルゴノミクス的観点や作業場の設計、物理的・化学的・生物学的物質との接触の影響などを対象とする調査に基づいたものでなければならず、実際の労働形態における生理学的・心理学的相違を考慮したものでなければならない(14)


2.1.2. 高齢化する労働人口

欧州の労働人口は、今後数十年の間に、50才以上の労働者の割合が増え、逆に若年労働者の割合が減ることになる。

年齢で比較すると、若年層は負傷等の労働災害を起こしやすい傾向がある一方で、55才以上の労働者ではより重篤な労働災害に見舞われ、致死率も欧州平均より高くなる傾向がある。また、55才以上の労働者はガン(その大部分は依然アスベストへの暴露によるもの)や循環器系疾患といった慢性的な職業性疾病を持つグループであるのに対し、若年労働者ではアレルギーや感染症の罹患率が高い傾向がある。

ただしこれらの数字は、今やさまざまな世代が携わるようになっている仕事の種類によっても大きく違いがある。高齢労働者は手工業でいつまでも第一線で働く人もいれば権限を持たない人もいる。その一方、若年層はより不安定な雇用形態で働いていることが多い。こうした違いをふまえて、雇用の質に対するグローバルなアプローチを採用し、労働現場における各世代と年齢グループ固有の状況に留意する必要がある。


2.2. 雇用形態の変化

労働市場では雇用形態がますます多様化しており、とりわけ一時雇用が急速に伸びている。企業における契約の種別と雇用期間は、職場の健康状態と負の相関関係にある。雇用期間2年未満の労働者が労働災害に遭遇する率は、平均よりも高い。臨時労働者の場合、建設業および保健・社会福祉サービス業で特にこの傾向が顕著である。

こうした新しい労働形態の中では、パートタイム労働と変則的勤務(交替制や夜間勤務など)が、リスクの度合いを増す要因となっている。その具体的原因として、適切な教育の欠如、交替制または夜間勤務によって生じる心身の問題、企業経営者側の認識不足、さらに不安定な雇用関係にある労働者側の意欲の欠如といったことが挙げられる。

しかしながら、現在では労働現場全体が、より柔軟な勤務形態へとシフトしつつある。作業場(鉱山、工場、事務所など)とそこでなされる仕事との間にあった明確な関係も、情報技術の急速な普及とともに弱まっている。こうした変化は雇用関係にはきちんと反映されておらず、その一方で、被雇用者と自営業者の区別がつきにくくなるという状況が起きている。実際にはこうした変化は、テレワーカーの問題といった固有の問題を提起している。作業がどこで行われるにせよ、こうしたテレワーカーの健康と安全に対して責任を負うのは事業者なのである。すなわち、テレワーカーが実際に働いている場所や自宅においてリスクを防止し、チェックを実行するための手段が講じられる必要がある。共同体の複数部門のソーシャル・ワーカー間で2001年10月12日から始められた交渉は、こうした問題を議論するための場として設けられたものである。

2.3. リスクの性質の変化

労働形態が変化していること、特に労働時間の配分方法が柔軟になり、一定目標の達成義務をベースとした個人重視の人的資源管理が行われるようになっていることは、労働衛生、そして広く労働福祉に関する問題に大きく影響するようになっている。

ストレス、うつ病、不安、職場での暴力、ハラスメント、脅迫といった「新しい」疾患が労働衛生に関連するあらゆる問題の18%の原因を作っており、これらのうちの4分の1が2週間以上の欠勤を引き起こしているということは、今日では周知の事実である(16)。教育産業と保健・社会福祉サービス業では、これらの障害の頻度は二倍になる。こうした障害は、特定のリスクにさらされることよりも、労働形態や労働時間の配分、上下関係、通勤による疲労、企業内の人種的・文化的多様性に対する寛容度といった、さまざまな要因が一体として作用することの方に関係が深い。 この種の障害に対しては、ILOが「労働福祉」として定義したグローバルな背景の中で対処する必要がある。
新しい社会的リスクを予防するためのこうした戦略には、薬物依存が災害発生率に及ぼす影響、とりわけアルコールと麻薬に関連する問題が含まれるべきである。


3. 安全衛生に関する新たな共同体戦略へ向けて

3.1. 労働福祉に対するグローバルなアプローチ

労働安全衛生に関する共同体政策の目的は、肉体的・精神的・社会的側面を含む概念である労働福祉の継続的改善をもたらすことでなければならない。さらに、次に掲げるような補足的目標についても、すべての関係者があわせてこれを追求しなければならない。

  1. 「労働災害および職業性疾病の継続的削減」。共同体レベルと加盟各国レベルの両方において、特に事故発生率が平均以上の部門を対象に数値目標の設定を考慮し、欧州雇用戦略を実施するための種々の措置にも特別に配慮するべきである。

  2. 2リスク評価、予防措置、および補償制度に「ジェンダー註)」の視点を取り入れること」。これは、労働安全衛生において女性特有の側面を考慮するためである。

    訳註)ジェンダー――社会的、文化的、心理的な性、後天的に社会的要因によって分化する先天的な生物学の性である「セックス」と区別される。

  3. 「社会的リスクの予防」。ストレス、職場でのハラスメント、うつ病と不安、アルコール依存や薬物依存に関連するリスクについては、特別な措置を講じるべきであるが、それだけでなく、ヘルスケア・システムと連携したグローバルなアプローチの一環として位置付ける必要がある。

  4. 「職業性疾病の予防の強化」。アスベストによる疾病、難聴、および筋骨格系障害を優先課題とするべきである。

  5. 「リスク、災害、疾病における人口動態変化の考慮」。予防措置では年齢的要因をもっと考慮するべきであり、特に若年労働者と高齢労働者に注目すべきである。

  6. 「変化する雇用形態、労働形態、および労働時間の考慮」。特に変則的あるいは一時的雇用関係を結んでいる労働者が注目の対象となる。

  7. 「企業規模の考慮」。中小企業と零細企業、および自営業者と無給の家事手伝い人に対しては、情報、意識向上、リスク予防のプログラムにおいて特別な措置を講じるべきである。

  8. 「新たなリスクの分析」。特に、化学的・物理的・生物学的物質と接触することで生じるリスクや、労働環境全般(エルゴノミクス、心理的、および社会的リスク)に関連するリスクについて考慮すべきである。

3.2. 予防文化の強化

安全と衛生に関する共同体政策は、労働者自身を含むすべての関係者を巻き込んだ予防アプローチに基づいており、リスクを先読みして管理下に置くことを目的とした真のリスク予防文化の推進を目指している。
3.2.1. 教育、意識向上、予測:リスクに関する人々の知識の改善

管理された労働環境を創出するということは、リスクに関するすべての人の知識を改善することを意味する。これはすなわち、労働福祉の推進を主眼として、単なる特定リスクの予防を超えたグローバルでかつ予防的なアプローチを用意することにほかならない。これには、次のような三つの互いに支え合う要素がある。

  1. 経済社会委員会が指摘しているように、労働現場への参加とともに教育が始まるのではない。教育は、(一部の国において交通安全が教えられているように)問題の存在に対して人々の意識を向上させることを目的として、あるいはそれ自体で独立した職業指導として、学校のカリキュラムの一部になるべきである。ただし、ここで最も重要なことは継続的な職業訓練である。職業訓練は定期的に行われなければならず、日々の労働の現実に焦点を合わせ、労働環境に直接影響を与えることをねらいとしたものでなければならない。これは、国、地域、現場、部門の特質および特殊性を考慮した授業を行う必要があることを意味する。

  2. 意識向上のための教育は、たとえば中小企業や零細企業、熟練労働者といった特定の状況に適しかつ多様な資源を結集しなくてはならない。これらの人々や組織に対しては、障害者雇用の必要性を認識させるとともに、特に適切な労働環境の創出に注意を向けさせる必要がある(17)

  3. リスクを管理下に置こうとするなら、技術革新に関連したリスクであれ、社会の変化に起因したリスクであれ、新たに起こるリスクを予測することが非常に重要である。リスクの予測には、まず何よりも、情報と科学的見解の系統的な収集に基づき、リスクそれ自体を継続的に監視して行くことが必要である。欧州議会は、この種の分析が予防アプローチに不可欠な要素であることを強調している。また欧州議会は、研究者に対して一貫したアプローチの採用を求めている。研究機関はそれぞれのプログラムを協調・連携させ、作業場で起きる現実の問題をこれらのプログラムで取り上げ、その研究成果を企業、とりわけ中小企業に移転できるようにすべきであるとしている。

欧州安全衛生機構は、意識向上とリスク予測に関する課題において、主導的役割を果たすべきである。EC委員会は2002年後半に、欧州安全衛生機構の作業を評価し、同機関がこの分野で果たすべき役割を示した通知を出す予定である。

  • 欧州安全衛生機構は次の作業を行う。

  • 企業または特定の活動分野から収集した良き実践事例をもとに「リスク観測所」を設置する。

  • 欧州委員会統計局の支援を受けて系統的なデータ収集を行い、経験と情報を交換するための組織づくりをする。

  • EU加盟申請国をこの情報ネットワークに取り込み、各国固有の状況に合わせた作業ツールを開発する。

  • 「欧州労働安全衛生週間」の受け手と最終受益者に焦点をあて直す。

  • 欧州障害者年(2003年)のために、障害者への差別をなくす方法や、設備や労働環境を障害者のニーズに適応させる方法に関して最良の実践例と情報のデータベースを構築する。

3.2.2. 現行法規のより適切な適用

労働環境の質を改善するうえで、共同体法規の効果的適用は不可欠である。これにはあらゆるレベルにおける関係者すべてが高い意識を持つことが必要である。欧州委員会は、諮問委員会ならびに社会的パートナーと共同で、指令の適用方法に関する指針を用意する予定である。この指針は、社会経済委員会の意見に従って、経済活動および企業の多様な性格を考慮したものとなる。

一方、欧州委員会の側では、条約で同委員会に与えられた権限の範囲内において厳格なアプローチを採用し、指令の適切な移植および法規の適切な適用が確実に行われるようにする予定である。また欧州委員会は各国当局と密接に協力し、共同体指令の正確かつ公平な導入を確実にするための方策を練る予定である。この点に関しては、情報と経験の交換を促進し、相互協力と支援を実施する上級労働監督官委員会(SLIC)が基本的役割を担うことになる。そこでは、欧州議会によってその重要性が強調されてきた年間行動計画の一部として、共通の監督目標を掲げるための具体的な推進策、労働安全衛生分野における労働監督のための共通原則、および、これらの共通原則にてらして各国の監督制度を評価する手段と方法が存在しなければならない。上級労働監督官委員会に加盟申請国の監督当局を参加させることは、共同体法規の効果的導入を進めるうえでの最重要課題である。

加盟各国の多様な制度構成および行政上の慣例に留意することは重要であるが、その一方で、労働の質と労働福祉を重視した新しい戦略を導入するには、どのような体制がこうしたグローバルなアプローチに最も適しているかを検討する必要がある。

  • 「予防サービス」は、社会的・心理的リスク、およびジェンダー要因をカバーした真に学際的なものであるべきである。

  • 「労働監督」活動においては、あらゆるリスクの評価、とりわけリスクが複雑で蓄積しやすい部門(病院など)におけるリスクを評価できなければならない。監督業務は、監督の役割に加えて、企業および労働者に対して予防的役割を併せて持たなければならない。その結果として、監督業務は監査に対して開かれたものでなければならず、監査の結果と品質指標を使って革新的アプローチが推進されなければならない。

監督業務によって実施されるチェックでは、抑止効果のある適切で効果的な、統一された制裁が加えられなければならない。この点に関しては、次の2つの側面が重要である。

  • ほかの年齢階層グループより災害のリスクにさらされやすい「若年層の保護」。これには、法定年齢に達していない若年層の不法雇用を根絶するための実効的措置(18)と、就労を認められている若年僧に対する安全衛生規則の厳格な適用が含まれる。

  • EU域内で営業している一部企業では、「実際に営業している加盟国と当該企業が設立された加盟国が異なる場合、行政上・刑法上の制裁を免れている」ケースがある。たとえば、本社のある国以外で期間を限定してサービスを提供している場合などがこれに該当する。サービス提供の枠組みの中での労働者の配属に関する1996年12月6日付けの指令96/71/EC第3条(1)(e)では(19)、異なるEU加盟国に従業員を派遣してサービスを提供させる企業は、派遣の期間中、派遣元国において適用されるものと同じ労働安全衛生基準を適用しなければならないとしている。当該指令第4条の規定に従って、公的機関相互間で情報の交換をはかるための協力が徐々に進められており、これによって違反企業の摘発はより容易になるはずである。ただし、国境をまたいだ形で行われる違反に対処し、この件に関連して上級労働監督官委員会で進められている作業をさらに推進するために、あらゆる可能な方法と手段を検討するべきである。
3.3. さまざまな手段の連携とパートナーシップの構築

すべての側面を考慮しつつ良質な労働環境を推進するには、利用可能なあらゆる手段を活用したグローバルなアプローチが不可欠である。またすべての当事者が十分にその責任を引き受けることが必要であり、各当事者の取り組みは、評価と査定に対して開かれたものであるべきである。
3.3.1. 法的・制度的枠組みの改訂

現にある共同体としての完全で一貫した堅牢な法的枠組みは、リスクを予防し労働者を保護するための基準と原則が必要とされる安全衛生分野において不可欠の道具である。EC委員会は、法律文書の作成で培った経験に基づき、次に示すようないくつかの並行する道筋に沿って、この分野においてバランスのとれたアプローチを追求していく。

  1. 科学知識、技術進歩、および労働現場の変化に合わせた既存指令の継続的「改訂」。これまでの指令の実施状況に関する各国報告の分析作業は、企業レベルで行われる評価とあわせて、法令の実施にあたりさまざまな関係者が遭遇した困難を特定するのに役立つはずであり、これによって欠点が見つかった場合にはそれを修正することが可能になるはずである。EC委員会は、諮問委員会(ACSHH)の協力をえて、さまざまな「安全衛生」指令の実地適用に関する報告を作成する予定である。そのねらいは、現実の問題を見きわめ、一部の条項を改善してよりわかりやすい一貫性のあるものにするとともに、既存の枠組みに存在するギャップを埋めることにある。また、「発がん性物質」指令の適用範囲の拡大も提案する。さらに、筋骨格系障害に関する通知を出し、既存の共同体法規(すなわち、重量物取扱、コンピューター操作作業、および振動に関する指令)で規定されている予防措置の観点からこの障害の原因を探り、依然として十分にカバーされていない分野(作業場のエルゴノミクスなど)について条文の修正や新たな規定の追加を提案する。

  2. 「新たなリスクの考慮」。社会心理的な問題と疾病の増加は、労働安全衛生にとって新たな脅威であり、労働福祉の推進を阻害するものである。同様に、職場におけるさまざまな形の心理的ハラスメントや暴力も今日では特別な問題を提起しており、立法措置が必要である。このような立法措置を講じる際は、EC条約第13条をルーツとして最近採択され、ハラスメントの意味を定義して救済措置を用意したいくつかの指令を叩き台とすることができるであろう。

  3. 「法的枠組みの合理化」。共同体の法的枠組みに対しては、過度に複雑で明瞭さに欠けると受け取られる傾向がある。この点については、既存指令を整理統合してより理解しやすいものにする一方で、様々な指令が個別に求めている報告書を別々に作成するのではなく、これらの指令の実施に関しては報告書を一つ作ればよいとすることで、法的枠組みをシンプルかつ合理的なものにする必要がある。EC委員会は、こうした報告を整理統合・合理化するのに必要な立法上の提案を行う予定である。

  4. 「共同体機関の合理化」。共同体法規を効果的に導入するには、EC委員会と加盟各国の行政機関が緊密に協力する必要がある。労働安全衛生及び健康の保護に関する諮問委員会(ACSHH)と鉱山等採取産業安全衛生委員会(SHCMOEI)という2つの諮問委員会を単一のACSHHに統合すれば、こうした協力もより良好かつシンプルなものになると思われる。

EC委員会は次の作業を行う。

  • 諮問委員会およびに社会的パートナーと共同で、経済活動および企業は部門ごとに多様な性格をもつことを考慮しつつ、指令の適用方法に関する指針を用意する。

  • 「発がん性物質」に関する指令の適用範囲を拡大することを提案する。

  • 新たに起こりつつある筋骨格系障害の問題にあわせて現行法規を改訂する。VDT画面に関する指令を修正するよう提案し、現行の規定を作業場におけるエルゴノミクスにより配慮しやすいようにする必要があることを補足する。

  • 職場における心理的ハラスメントおよび暴力に関する共同体措置について、その適切性と適用範囲を検討する。

  • 共同体指令の整理統合および実施報告の合理化のために、必要な立法案を作成する。

  • 労働安全衛生及び健康の保護に関する諮問委員会(ACSHH)と鉱山等採取産業安全衛生委員会(SHCMOEI)という既存の2つの諮問委員会を、単一の労働安全衛生諮問委員会に統合することを提案する。

  • 上級労働監督官委員会(SLIC)に参加する加盟申請国の監督当局の代表が、労働衛生諮問委員会(ACSHH)、またビルバオの欧州安全衛生機構と欧州生活労働条件改善財団(通称:ダブリン財団)によって運営されている種々の機関へ参加できるよう提案する。

3.3.2. 革新的アプローチの推進

基準を決めるには立法措置が必要であるのとまったく同様に、革新的アプローチを推進し、さまざまな当事者に対して「先に進む」ことを促し、さらに、共同体戦略の全体目標の達成へ向けてあらゆる関係者を(とりわけ規範的アプローチになじまない新しい分野において)結び付けるには、また別の手段が必要である。EC委員会は、こうした革新的な動きを後押しするつもりである。

1. 「基準点と最善の事例の特定」:これらの手段を、新しい戦略のもとで、3つの異なるレベルで利用すべきである。

  • 「加盟国の政策を『収斂させつつ進歩させる』ことを目指す作業」。欧州社会基金から資金が投入される欧州雇用戦略は、この種のアプローチにとって効果的な枠組みである(20)

次のことを実現するために国別数値目標を採用するべきである:

  • 死亡災害発生率と負傷災害発生率の低減

  • 職業性疾病の発生率の低減

  • 労働災害および職業性疾病による労働損失日数の低減

これらの目標が達成されたかどうかは、既存の方法を使った指標(21)により評価することができる。これらの数値目標では企業規模と産業部門を考慮して、災害と疾病の発生率が平均より高い部門において達成すべき目標を定めるべきである。

これらの指標が真に機能するものとなるためには、収集されたデータがより正確で比較可能であり、カバー範囲がより完全で、より迅速に利用可能にならなければならない。この目的を実現し、一部加盟国の過少申告の問題を解消するために、EC委員会と加盟国は、労働災害および職業性疾病に関する統計を調和させる作業を継続的に推進する必要がある。これらの統計では、労働災害と職業性疾病、およびその原因と結果を対象とするだけでなく、問題の原因とされる労働環境的要因に関する定量的要素も含める必要がある。

  • 「新たな現象の特定を容易にすること」。ストレス性障害および疾病はこうした新たな現象の一つの例であり、筋骨格系障害、アルコール依存や薬物依存も同様である。EC委員会はこの問題を2003年の雇用ガイドラインに取り込み、ダブリンの財団と共同で、こうした現象を評価してモニタリング指標を作成するための、データおよびその他の情報を収集する作業を進める予定である。

  • 「『質を伴わないことのコスト』に関する意識向上とフォローアップ」。「質を伴わないことのコスト」とはすなわち、労働災害および職業性疾病によって生じる経済的社会的コストのことである。EC委員会はビルバオの欧州安全衛生機構と共同で、この問題に関する知識を充実させるためのデータおよびその他の情報収集する作業を進める予定である。

EC委員会は次のことを行う。

  • 雇用ガイドラインの修正を2002年に提案することを検討する。この修正は、労働災害および職業性疾病を低減させるための国別数値目標の採用を加盟国に求め、災害発生頻度の高い部門に特に注意を払い、ジェンダー要因および年齢要因を取り込むことが目的である。

  • ストレス性障害および疾病の問題を2003年の雇用ガイドラインに盛り込むための提案が適切かどうかを審査する。

  • 現行プログラムの実施に関する中間評価とあわせて、安全で衛生的な労働環境の推進においてESFが果たす役割を分析する。

  • 欧州の統計情報、および進捗状況を示す指標の作成に関し、調和作業を推進する。

  • 労働災害および職業性疾病の経済的社会的コストに関する知識の価値を高める。

2. 社会的パートナーによって結ばれる自主的合意

社会的対話は、革新的な方法を適用するための理想的な手段である。なぜなら、それによって現行法規の効果的適用が可能になる一方で、労働福祉の推進に関連するあらゆる問題を扱うことができるからである。さらに、特定の部門や職業に固有のリスクと問題についても、個別に取り上げることができる。部門単位での社会的対話は、この分野ですでに膨大な経験を蓄積している(22)。また、欧州の労働者協議会の中には、「優良規範」を定めているところもある。複数部門レベルでは、諮問委員会ACSHHの枠組み、および条約第138条に基づく協議という形で、社会的パートナーが現行法規の改善に協力している。

社会的対話を構成するさまざまな要素は、新たなリスク、特にストレスの問題を扱ううえで有益と考えられる。ストレスの雑多な性格、すなわち幅広い障害がストレスに関連付けられるという側面に注目すれば、社会的パートナーを巻き込んだこの種のアプローチは非常に適切といえる。

EC委員会は2002年、条約第138条で定められた手続きに従って、ストレスおよびストレスが労働安全衛生に及ぼす影響について社会的パートナーとの協議を開始する。


3. 企業の社会的責任

アウトソーシングがますます進む一方、健康問題に対する一般の人々の意識も高まっていることから、数多くの企業が下請業者の選択や製品の販売手法において、安全で衛生的な労働環境を一つの重要な基準とするようになっている。たとえば労働安全は、特に購買手順における自主的な認証およびラベル表示の要素として取り込まれており、そのためにしばしば第三者機関が利用されている(23)

「企業の社会的責任のための欧州枠組みの推進」と題されたグリーン・ペーパー(24)では、現行の規則や基準の一歩先を行くことを目指して自主的に「優良規範」を実践しようとする企業にとって、労働衛生は理想的な分野の一つであることが強調されている。このペーパーに続く協議では、幅広い関係当事者がカバーされており、可能な対応がいくつかも明らかにされる予定である。

4. 経済的インセンティブ

労働災害および職業性疾病に関しては、すでに長い間、保険料という形で、個々の企業および/または活動分野に対し、災害発生率に応じた経済的インセンティブが働いてきた。こうした経済的インセンティブはリスク予防を推進するものであり、リスク予防の分野において利用可能なほかの手段を補うものである。官民の保険業者は、すでに同種の経済的インセティブを検討済みで、企業内リスクの分析や技術支援、設備補助、適切な教育といった要素を含む予防契約を用意している。この種の取り組みによって、経済的インセンティブはより系統的に働くようになると思われる。
3.3.3. 労働安全衛生をほかの共同体政策に重要事項として盛り込むための取り組み

労働福祉は、安全と衛生に関する政策だけで実現できるわけではなく、作業設備の設計方法や雇用政策、障害者政策をはじめ、運輸政策、そしてもちろん予防と治療を含めた一般の厚生政策など、ほかの政策とも密接な関連を持っている。

  • 雇用の質を改善してEUの生産能力を存分に発揮するには労働衛生が重要であり、その意味で「欧州雇用戦略」への労働衛生の取り込みをさらに推し進めるべきである。本戦略は、このつながりを強化するための新しい提案をいくつか提示する。

  • 「作業設備および化学物質の製造と販売」に関する共同体規則との連携を強化すべきである。これは、この種の設備および物質が労働衛生に及ぼす影響と製造者への間接的影響に関する情報を収集するための、より系統的な取り組みによって推進できるであろう。この点に関しては、自主的ラベル表示の慣行は相当な貢献を期待できる。

  • 協力を密にすることで、安全と衛生に関する新しい共同体戦略と公衆衛生に関する共同体戦略のつながりを強化すべきである。公衆衛生上の主要な災厄---より具体的にはさまざまな種類の物質依存---の予防方法に関して得られた経験は、職場における予防措置にも取り入れられるべきである。その半面として、労働衛生は、人々の健康状態全般を左右する重要な要素とみなされるべきである。

  • 目標に保護を掲げ、予防措置をベースとしたほかの政策、とりわけ運輸政策、環境政策、市民保護政策、および共通漁業政策との協調を重視したアプローチを開発するべきである。

  • 共通漁業政策に関しては、EC委員会は社会的パートナーに依頼して、漁業における生活・労働・安全の条件を改善するための措置、女性の役割を強化するための措置、および漁業に依存する地域における雇用、特に若年者の雇用を進めるための措置を検討してもらう予定である。

  • 入札を通じて「公共契約」を与えられる請負業者は、労働安全衛生分野において適用義務のあるすべての規則および規制に完全に準拠していなければならない。保護に関する取り決めや労働条件に関する義務を、入札を行う機関が仕様書に示した形で考慮してこなかった参加業者の入札は、仕様書に適合しているとみなすことはできないか、もしくは当該作業を行うにはレベルが低すぎるとみなされ、これらのことを根拠に入札が拒否されることもありうる。民間警備業および清掃業の社会的パートナーはすでに、安全と衛生に関する規則への適合の問題に取り組んでいる。
3.4. 拡大への準備

拡大はEUが直面している大きな課題の一つである。これはまず何よりも、規則に則って新しい加盟国を吸収し、吸収後もEUの諸制度および諸機関が引き続きスムーズに機能できるようにする必要があるEU自身にあてはまることである。また、膨大な法規を自国の制度に取り入れる必要のある加盟申請国に対しても同様にあてはまる。「共同体としての蓄積」が確実かつ適切に利用されるようにするには、特に次に掲げる点に留意しつつ、経験と知識を効果的に移転しなければならない。

  1. パートナーシップと統合に関する取り決めを利用した技術支援プログラムの強化。

  2. 該当する制度および機関に加盟申請国を取り込み、経験の交換と、知識および共同体としての研究成果へのアクセスを促すための諸制度の整備。

  3. あらゆるレベル、特に企業内における社会的対話の強化。

  4. 労働災害および職業性疾病に関するデータの収集と分析の促進。特に共同体として現在進めている統計に関する調和作業に加盟申請国を組み入れること。
3.5. 国際協力の推進

労働安全衛生に関する共同体政策は、「各種の国際組織」によって進められている作業と連携したものでなければならない。EC委員会は、労働者の安全と衛生の保護を推進するうえで同等の役割を担う国連諸機関---WHOおよびILO---とこれまでも長期にわたって実り豊かな協力を続けてきたが、今後も引き続き積極的に協力していく予定である。この協力においては、次の分野を重視すべきである。

  • 「IPEC」プログラムに基づき、EU加盟国が批准済みもしくはまもなく批准予定の1999年6月17日のILO第182号を適用して、世界にある最悪の形態の児童労働を撲滅すること。

  • 「全世界を通じての労働衛生の改善」を支援すること。そのための手段として、特にILOに対して共同体法規を考慮した条約ならびに勧告を作成するよう促し、これらの条約と勧告が効果的に適用されることを確実にするために協力すること。

  • 薬物「依存」およびアルコール「依存」の労働安全衛生への影響。その重要性はWHOおよびILOも認識している。

「第三諸国」、とりわけ地中海諸国、ASEAN諸国、NAFTA、およびMERCOSUR諸国との協力は、モノ、サービス、資本の自由な移動を促進することがその第一の目標であるが、それだけでなく、最低限の安全衛生基準が確実に遵守されるようにするためにも不可欠である。この点ではEUが採択した法的枠組みは、これらの諸国と情報交換を進めるうえで共通の基盤として役立つであろう。

米欧協定(Transatlantic Pact)のもと、米国との間で既に始められている労働安全衛生の問題をめぐる協力および経験の交換は、さらに強化されるべきである。EUと米国による隔年の二国間協議、およびビルバオの欧州労働安全衛生機構がコーディネートしている情報交換は、労働保護の推進へ向けて国際レベルで協力しようとする意志のあらわれである。

  1. COM (2001) 313 final, 20 June 2001

  2. 就労中の10万人あたりの労働災害件数。出所:Eurostat - "Statistics in focus", Population and social conditions: No 16/2001 "Accidents at work in the EU 1998-99" and No 17/2001 "Work-related health problems in the EU 1998-99"。

  3. 1998年の数字。出所:同上。

  4. 1997年には、OECDでのこれらの支出は1,220億ドルにのぼったと見積もられている(出所:Health data 2001)。この数字にはイタリア、オランダ、ポルトガル、スペインは含まれていない。支出はフランスとドイツの2カ国だけで920億ドルにのぼっている(購買力平価換算)。

  5. 「労働福祉」の概念はILOによって提起された。

  6. OJ L 183, 29 June 1989.

  7. 特に最後のプログラム((1996-2000), COM(95) 282, 7 October 1995)。

  8. European Governance - a White Paper; COM(2001) 428 final, 25 July 2001.

  9. EC委員会から理事会、欧州議会、経済社会委員会、および地域委員会に宛られた社会政策アジェンダをめぐる通知に関する欧州議会決議、A5-0291/2000。

  10. 1999年12月9日に採択された意見に基づくSOC/065, 11 July 2001。

  11. 出所:Eurostat, Labour Force Survey 1999 (ad hoc module) および SEAT (European Occupational Accident Statistics) data 1998。

  12. 出所:Eurostat, SEAT, 前掲書。

  13. 出所:Eurostat。

  14. 一方、男性は、筋骨格系障害および血液系障害の93%、聴覚障害の97%、肺疾患の91%を占めている。

  15. 特に、「Work Life 2000」プロジェクトの一環として開催されたセミナー、「Gender differences in working conditions」の議事録報告を参照のこと。(http://www.niwl.se/wl2000/workshops/workshop67/article_en.asp)。

  16. 出所:Labour Force Survey 1999.9。

  17. 作業場を障害者のニーズに適応させる必要性は指令89/654で取り上げられており、「妥当な適応」の概念は指令2000/78(OJ L 303/16, 2 December 2000)で定義されている。

  18. 基本的権利に関する憲章の第32条には、「子供の雇用は禁止される。雇用を認められる最低年齢は、最低卒業年齢未満であってはならない。ただしこの規定は、若年層にとってより有利である可能性がある規則を無効にするものではなく、制限付きの例外は認められる。労働を認められた若年者は、その年齢に適した労働条件を与えられねばならず、経済的搾取から保護されると同時に、安全、健康、あるいは肉体的、精神的、知能的、社会的発達を損なったり教育に悪影響を及ぼしたりする可能性のある労働から保護されねばならない」とうたわれている。

  19. OJ L 18, 21/01/1997, p. 1-6.

  20. ガイドライン第14条(c):「(加盟国は)安全と衛生に関する現行法規が職場レベルでより適切に適用されることを確実にするために努力(するものと)し、そのための手段として、法規の実施を推進・徹底し、企業、とりわけ中小企業が現行法規に適合するよう支援するための指針を提供し、労働安全衛生に関する教育を改善し、伝統的に高リスクとされる部門における労働災害および業務上疾病を削減するための措置を推進する(ものとする)」。

  21. 労働災害についてはSEAT、業務上疾病についてはEODS。

  22. たとえば、共同のマニュアルや教材の採用、農業、建設、ガス、清掃、民間警備サービス、砂糖、電気通信、漁業、理髪、道路輸送、民間航空および海運といった分野における指令草案に対する共通の立場の採用など。皮革部門と理髪業では、安全で衛生的な労働環境の原則に則って、安全衛生に関する良き職場慣行の適用を目指した業務遂行規則が採用されている。またさまざまな運輸部門では、労働時間と安全衛生の問題に関する共同負担金および枠組みに関する合意が作成されている。

  23. 「Occupational Safety and Health in Marketing and Procurement」、欧州安全衛生機関への報告、2000、ISBN 92-95007-01-8。

  24. COM (2001) 366 final.