このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > EU 機械の安全性の進展

機械の安全性の進展


ポール・マキン氏へのインタビュー

資料出所:KOMMISSION ARBEITSSCHUTZ UND NORMUNG
(KAN−ドイツ労働基準委員会)発行
KANBRIEF」2001年第3号

(訳 国際安全衛生センター)


マキンさんの職業経歴を手短にお話しいただけますか?

製造業において上級管理職として約20年間勤務し、HSE(英国安全衛生庁)で機械安全担当の労働監察官としてさらに20年間勤務しました。1985年CEN/TC114(欧州標準化委員会の技術委員会114)第1回会合にBSI(英国規格協会)機械安全委員会の議長として参加しました。その際に私と同様、他国からの代表、すなわちドイツのSiegfried Radandt、フランスのJean-Paul Lacore、イタリアのOdone Beltramiが個々に、既存の規格および国内法規が、現代の機械の安全性には有効ではないという結論に達していたことを知りました。それ等の規則はどのような危険に対しても効果があるとは云い難い法的要求事項の羅列であったのです。欧州規格EN292を起草するにあたり、私たちは、いかなる機械にも、またいかなるリスクの組み合わせにも適用可能な方法論つまり、リスクアセスメントに基づいた、機械の安全性に対する理念を作り上げました。

その頃、私はイギリス交渉団の一員として機械指令の草案作りにも関っていました。指令の付属書IとEN292が相当に一致しているのは、われわれがCEN(欧州標準化委員会)で発展させた考え方を欧州委員会に導入したためです。

マキンさんは、1992年から今年の始めまで機械安全のCENのコンサルタントをなさっていました。マキンさんのお仕事はどのようなものでしたか?

1991年には、策定された規格が、指令および欧州委員会の各命令の要求を必ずしも満たしていないことが欧州委員会および加盟諸国には明白となっていました。この主たる原因は、CEN/TCsに対して新しい規格の策定について誰からも助言がなかったことです。TC(技術委員会)の委員は規格の技術的側面の専門家であり、新しい法的要求の専門家ではなかったのです。そこで欧州委員会は、CENが雇用するコンサルタントの導入を決めたのです。これらコンサルタントの業務はCEN/TCsに対して、どの様にすれば命令および指令の要求を満たすことができるかを助言することでした。私たちコンサルタントは、法律、標準化、そして機械の安全性の専門家であることを期待されていました。

機械の規格をどのように評価しますか。また最も頻繁に直面する問題はなんでしょうか?

先ず最初に、作業部会(WGs)の委員のご苦労により過去10年間で規格の内容は相当改善されたということを申し上げたい。しかし、まだいくつかの問題が存在しています。時には、規格案の範囲が、どのような機械に当該規格を適用するかを充分明確にしていないために、規格の起草者以外には当該規格を理解することが困難になっています。また、規格案によっては付加価値を規定していません。もう1つの主要な問題は、規格が多くの場合、当該機械に関する全ての危険には対応していないということです。

そしてより一般的な問題として、規格の草案作成に時間がかかりすぎるということがあります。この主たる原因は、標準化作業のあらゆる段階における人材不足です。CENとその委員は全体で8000近い規格からなる計画に取り組んでいるので、CENの組織基盤が障害となるのです。もう一つの要因は、作業部会発足時の委員が退職してもその補充がなされていないということです。当初の機械安全の標準化計画は250の規格を想定していましたが、現在では800の規格から構成されています。将来的に人材の増加が見込めませんので、個人的には、この問題の唯一の解決策は計画が取り扱う規格数を減らすことにあると思います。しかし各TC(技術委員会)は担当する規格がそれぞれ重要であると考えているので減らすことは容易ではありません。

機械規格では有害因子の発散について充分な配慮がなされたのでしょうか?

いいえ。計画の当初から作業部会が特定の分野においては充分な専門知識を有していないこと、そしてそれが規格の内容に影響したことは明らかでした。作業部会は私に言わせれば、従来の機械安全の専門家により構成されていたのです。彼らは危険防止設備、機械的および電気的危険に関してはたいへん有能でしたが、有害因子の発散に関する能力は低かったのです。ご承知のとおり、1835年前後に始めて機械の周りに危険防止設備を設置し始め、それ以降、機械的危険に対しての対処は改善を続けてきたのです。ほとんどの分野においての問題はこの50年の間に認識されるようになったに過ぎません。分野によっては認識されるようになってからまだ50年たたないものもあります。実際には、実質的な解決策を策定できる専門知識は今日にいたっても産業界においてあまり普及していないのです。したがって、作業部会委員の既存の専門知識で規格を作成し、より困難な分野には手をつけず早急に規格を完成させてしまうか、あるいは、問題に対処する充分な専門知識が開発されるまで規格作成を遅らせるかどうかの問題に直面したのです。このことにより、ほとんどの規格が「騒音あるいは振動についてはふれません、将来の改訂時に取り扱います。」となってしまったのです。

こうした危険要因(有害因子の発散)を規格から除外してしまうのは、非常に危ないことだと思いませんか?

そのとおりです。そのような規格はだれにとっても有用ではありませんし、とりわけ機械設計者にとっては役に立ちません。しかしここで私たちがこうした危険に対処していないことを認識していることを忘れないでください.したがって、規格作成者および規格利用者の双方に対してこうした危険に取り組まなければならないことは喚起されているのですが、まだ解決すべき問題は残っています。2年前に私たちは騒音に関するコンサルタントを任命しました。彼らは少なくとも問題点を認識し、ある程度の解決策を策定することには大いに役立っています。現世代の規格が有害因子の発散に対して効果的に対処できないことは認識していますが、将来の改訂によって規格は効果のあるものになるでしょう。今の時点では、現実的に考えて、完璧とはいえない規格も受け入れなければなりません。

機械分野における国際規格はどのように評価されますか?

先ず最初に思い当たるのは、丸鋸についてです。イギリス、ドイツ、中国、台湾、ブルンジ、どこで使われようが、丸鋸は同じリスクをもたらします。リスクは同じで、EN292の手法を用いれば、リスク削減技術も同じであるはずです。したがってヨーロッパあるいはISOで機械安全規格に取り組むのであれば違いがあってはならないのです。CENの作業の明確な枠組みである機械指令は、機械の安全性に関して、その国際版であるEN292あるいはISO12100と全く同様な取り組みをしています。したがって、機械指令の要求にも準拠するISO規格を作成することに何ら問題はないはずです。

しかし現実はどうなのでしょうか?

現実は、ISO機械安全規格がある場合は非常に規範的であり全く異なる法的取り組みを反映しています。ISO規格は実際のところ、少数の製造業者および加盟国の機械安全への取り組みを反映しているに過ぎません。これはまさに、われわれが統一市場に向けて準備をしていた1985年に直面した状況です。

ここで問題が2点あります。第1点は政治的なものです。ISOにおいて、ヨーロッパの加盟国が機械関連の計画を後押ししているのは間違いありません。彼らは彼らの規格をISOにおいて採択させることを望んでいるのです。ですから、ヨーロッパ以外の加盟国にとっては、ヨーロッパ人がヨーロッパの法律を押し付けているようにみえるのです。第2の問題は改善の為の資金の問題です。われわれは、丸鋸のリスク金をかけることにより削減できます。しかし、1週間生き延びるために食料を入手することが優先される途上国であれば、安全設備への投資に高い優先権はありません。ですから、個々の社会が期待するものは違いますし、これからも長期間にわたり違うでしょう。しかしこの違いがあるからと言って、規格のなかでこれらリスクを削減する手法を開発し、リスクを認識しなくてよいというわけではありません。個々の加盟国はそうしたいと思ったときに、規格を採用し利用することができるのです。社会、それは貴方であり私でありますが、そのような判断を毎日しているのです。私はいつも、私が意味していることの好例として、自動車を挙げています。もし私が貴方に、「ヨーロッパで年間10万人を殺す機械を発明しました。いい機械だと思いませんか?」と言えば、貴方は私に「機械を禁止しなさい。」と言うでしょう。しかし社会は、自動車導入の費用と便益を比較してリスクアセスメントを行うのです。その結果社会は自動車を容認するか又はそのような法律を作る、ということになります。

規格のなかでの「予測可能な誤用」の取り扱われかたをどのように思われますか?

製品を業務用に使用するかどうかという問題は、さらなる検討を要する「予測される誤用」の範疇のひとつだと思います。例えば、専門的な環境のみで使用される物品の規格を策定しているのであれば、研修が行われ、監督が行われ、統制された活動の範囲内で使用されることを把握あるいは期待できます。しかし製品が不特定多数の人の家庭内で使用されるのであれば、使用条件は同じではありませんし、起こりうる危険に対して異なる配慮をしなければならないと思います。そしてもう一つ問題があります。それは適正な作業を行うための機械が購入されない可能性があるということです。ヨーロッパ全体の事故統計によれば、最も危険な場所は個人の家なのです。

機械指令は業務用および業務外使用のあらゆる機械を対象としていますが、機械を業務用に使用している関係者がこの指令を策定しました。そのことが指令に反映されているとおもいます。EN292についても同じことが言えます。従って、有害因子発散の問題と同様に、この分野においても、さらなる努力が必要です。私がここ数年来CENに注いできたエネルギーを、間違いなく今後この分野の検討に費やすことになると思います。それは標準化という観点からだけではなく、単に機械の安全性という観点から行うことになると思います。

マキンさん、インタビュ―に応じていただきありがとうございました。