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EU加盟25か国における労働安全衛生研究の優先課題

資料出所:欧州安全衛生機構ホームページ
TE6805648ENC - Priorities for occupational safety and health research in the EU-25

(仮訳 国際安全衛生センター)

* 欧州安全衛生機構 発行の「Report」のシリーズTE6805648ENC「EU加盟25か国における労働安全衛生研究の優先課題」(Priorities for occupational safety and health research in the EU-25 32ページ)の要約および1.要約した優先課題のリストの部分の訳である。

EU加盟25か国における労働安全衛生研究の優先課題
欧州安全衛生機構(European Agency for Safety and Health at Work)

  • 目次
  • 前書き
  • 要約
    1. 要約した優先課題のリスト
    2. 科学的、政策的背景
    3. 心理社会的労働環境
    4. 筋骨格系障害
    5. 危険有害化学物質
    6. 労働安全衛生マネジメント
    7. 参考資料
  • 付属資料 意見の提出があった機関のリスト

要約

このレポートは、欧州委員会(European Commission)の要請を受け、第7次フレームワーク プログラムの準備に向けての情報提供を目的として、労働安全衛生(Occupational Safety and Health)分野での優先的な研究課題を明らかにするために、欧州安全衛生機構(European Agency for Safety and Health at Work)が作成したものである。この初稿の作成にあたっては、EUおよび世界各国の資料を使用した。初稿については、作成後に当機構のネットワーク(付録を参照)に送付して、その検討を依頼した。しかし、短期間に回答を提出しなければならなかったことから、十分な時間をかけた綿密な検討を経ていない。したがって現時点においては、これを中間レポートとして理解することが妥当である。

このレポートは、心理社会的労働環境、筋骨格系障害、危険有害化学物質、および労働安全衛生マネジメントの4つをテーマとして組み立てられている。セクション1は、現在まとめられた優先課題のリストである。セクション2では、これらのテーマに関連する状況の理解のために、労働安全衛生に関する世界的な動向とEUの政策枠組みの概要を説明している。例えば、このレポートで強調している問題の大部分は、2002年から2006年の労働安全衛生に関する欧州委員会の戦略でも重視されている問題である。以下に各分野の優先課題(詳細はセクション3から6に記載)について簡単に説明する。

心理社会的労働環境

職場の組織および構造や、職場での契約関係において発生している大規模な変化は、心理社会的問題の発生またはその深刻化に結びついている。この問題が、労働者の健康や福祉、労働の質、そして現在の市場で企業が必要としている創造性や革新性に悪影響を及ぼす可能性があることについての懸念が広がりつつある。その結果、「労働環境の変化」や、健康や安全に対するその影響についての観察や研究に対するニーズが高まってきた。同時に、労働関連のストレスや心理社会的暴力の防止に力点を置き、心理社会的労働環境の改善を目的とする組織的対策の構築およびテストのための研究も必要となっている。さらに、筋骨格系障害(MSD)の報告および原因の特定においては、過失や事故の発生において心理社会的要因が果たす役割の研究も重要となる。

筋骨格系障害

筋骨格系障害は、加盟国の労働安全衛生関係当局が一貫して予防策実施の優先度が高い課題として位置付けてきた問題である。欧州統計(Eurostat)によれば、この障害は最も一般的な労働関連の健康障害であり、EUの労働条件調査はこの問題が一部で深刻化していることを示唆している。労働における筋骨格系への負荷や関連リスクの低減は、労働者の継続的な雇用の実現や多種多様な労働者に適した仕事と職場の確保を通じて質の高い仕事の創造を目指す「リスボン戦略(Lisbon Objective)」の達成に不可欠である。これについては、2つの優先課題が示されている。1つめは、人体の筋骨格系系にかかる負荷または過負荷を評価するためのツールの開発である。現在、人間工学者は、リスク評価においては人体にかかるすべての負荷を考慮するべきであり、重い負荷とそれ以外の姿勢上の緊張とを切り離して評価するべきではないとしている。また、ストレス、過労、振動、低温など、その他のリスクファクターも含めてMSDをとらえるための評価指針や対策の策定が必要である。2つめの優先課題は、知識の不足を考慮した評価方法、対策、および予防策の確立である。特に、見過ごされがちなMSD(立ち仕事などの動かない仕事)や、特定の職種(自宅、居住型施設、病院での看護サービス、宅配便、ケータリング、清掃、在宅勤務など)が重要である。さらに、多様な労働者や新たなリスク(マルチスクリーンによる作業、キーボード以外のコンピュータ入力機器、携帯用コンピュータの使用など、新技術についての優れたデザイン原則に関連するリスク)に適した評価方法の確立も重要である。

危険有害化学物質

職場には膨大な数の化学物質が存在し、さらにはその数は増加の一途を辿っており、現在、EU市場では100,000種類の化学物質が取引されている。化学産業は製造業の中でヨーロッパ第3位の規模を有する産業であり、170万人の労働者を直接雇用し、化学産業に依存する雇用者数は300万人にのぼる。また、有害な化学物質へのばく露は、化学産業以外の多くの職場でも発生する。例えば、農業労働者は農薬、洗剤、微生物を含む粉じんに接触し、建設労働者は溶剤や塗料を日常的に使用する。「第3回労働条件に関するヨーロッパ調査2000(Third European survey on working conditions 2000)」によれば、EUの労働者の16%が、労働時間の4分の1以上の時間において有害な物質を扱うか、接触している。この分野では、3つの優先課題がある。1つめは、皮膚ばく露を含む労働者のばく露状態に関する評価モデルの検証と改善である(測定、モデル化、リスクアセスメント)。有害な物質に対するばく露については豊富な情報が存在するが、従来において女性が従事してきた作業など、特定の作業については、包括的な情報が存在していない。2つめの課題は、ナノ粒子や超微粒子に対するばく露である。ナノテクノロジーの急速な発展は、新たな素材、機器、プロセスの開発につながっているが、ナノ材料の生産加工や使用に関連する職場での健康リスクについて知識や理解はその開発スピードには追いついていないのが現状であり、ばく露の経路、想定されるばく露レベルと毒性について現段階で入手できる情報は極めてわずかである。3つめの生物学的要因に対する職場でのばく露レベルを評価および測定する方法は、あくまでも実験段階に留まっており、生物学的要因に対する職業ばく露限界値は設定されていない。生物学的要因に関連する微生物の生態、ばく露経路、その影響、メカニズム、予防策、医学的な診断および回復策を網羅した、職場でのばく露に対する体系的なマッピングを構築する必要がある。

労働安全衛生マネジメント

労働の質と構成は変化を続けており、顧客および知識主導型となる傾向を強めている。労働者もまた、高齢化、男性支配の低下、監視の不確実化・困難化など、さまざまな面で変化を続けており、この傾向は中小企業にも広がっている。その結果、健康問題はより複雑化しており、この大きな変化の中で労働安全衛生を改善するための新たな方策を開拓する必要がある。リスボンサミット以降、労働安全衛生の経済的要素、すなわち職場における健康の経済面への影響や、より広い視点においての世界におけるヨーロッパの競争力に対する労働や雇用の質の影響が重視されてきた。これらの問題には、社会において無駄を生むすべてのコスト、労働条件に関連するコスト(事故や健康問題による長期欠勤を含む)、労働安全衛生の要素を統合したマネジメントおよび会計処理のツールの開発などが含まれる。この他に、研究面で注目を要する重要問題として、健康に対する労働条件の長期的影響の問題や、疾病による負荷全体に対する職業による要因の個別的な影響の問題がある。ヨーロッパ全体での調査や各国での調査により、職場での健康や労働条件についての全体像が明らかになってきたが、職場における健康に関するヨーロッパ全体にまたがる縦断的な調査を実施する必要性が明確である。これにより、労働に関連する格差の緩和や特定の職種および職業における健康リスクの防止を目的とした政策の策定が可能となる。


1.要約した優先課題のリスト

各セクションについて、最優先課題と考えられる問題を太字で強調している。

心理社会的労働環境

  • 「労働環境の変化」と安全衛生への影響
    • 仕事と生活のバランス
  • 心理社会的労働環境改善のための組織的な対策
    • 労働関連ストレスへの注目
    • 身体的暴力および心理社会的暴力への注目
  • 筋骨格系障害と心理社会的労働環境の相互影響
  • 事故や過失に対する心理社会的要因や組織的要因の役割
  • 作業組織の改善および強化するための計画
    • 高齢化労働者の保持
    • 障害を有する労働者の統合
    • 労働市場への女性の参加

筋骨格系系障害

  • 人体の筋骨格系へのあらゆる負荷または過負荷を評価するツールの開発
  • 知識の不足を考慮した評価方法、対策、および予防策の構築
    • 見過ごされがちなMSD
    • 特定のハイリスク分野
    • さまざまな労働者
    • 新しいリスク源
  • 参加型の手法の開発
  • 回復のための対応策
  • 設計段階に人間工学を取り入れたアプローチ
  • 既存解決策の有効性の評価

危険有害化学物質

  • 化学物質へのばく露の評価
    • 労働者のばく露評価モデルの検証および改善
    • 低レベル複合ばく露およびその影響を含む屋内空気の質
    • 有害な物質およびその他の要因(騒音、振動)、複合ばく露、混合物の毒性などによる複合的な影響
  • 特定の化学物質グループの評価
    • ナノ粒子や超微粒子へのばく露
    • 発がん性物質 ?−ヨーロッパにおける職業がんによる負荷
    • 内分泌攪乱物質を含む生殖毒性物質
  • 職場での生物学的要因へのばく露
    • 世界の疫学研究に関連する職場リスクの評価とあらゆる職場レベルにおける労働安全衛生戦略の策定
    • 職場での生物学的要因へのばく露のアセスメント

労働安全衛生マネジメント

  • 労働安全衛生の経済的要素
    • 社会において無駄を生むすべてのコスト
    • すべての経済活動に対して労働と雇用の質が及ぼす影響
    • 労働安全衛生の要素を統合したマネジメントおよび会計処理ツールの開発
  • 平均余命と労働(縦断的な調査)
    • 労働における健康に関するヨーロッパ全体の縦断的な調査
    • 死亡者の労働歴に関連する死亡届および関連統計データの分析
    • 死亡の全体に対する特定の労働関連疾病の詳細な評価
  • 高齢労働者の管理
    • 年齢と労働の関連についての分析
    • 加齢に伴う労働からの除外を防ぐ政策の策定
  • 予防する文化の強化
    • 労働安全衛生の社会における尊重
    • 企業の社会的責任の役割
    • 調査成果や優れた実践例の普及