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アムステルダム条約

1993年11月に発効し欧州連合(EU)を発足させたマーストリヒト条約にかわるアムステルダム条約が本年5月より発効しました。これはEUの新憲法とも呼ばれるもので、EUの労働安全衛生を理解する上でも欠かせない知識です。
ここでは駐日欧州委員会代表部のご了解のもとに同代表部の広報誌"europe"1999年5/6/7月号に掲載されたアムステルダム条約の解説を転載します。


1999年5月1日に発効

EU拡大と深化の道標ともいえるアムステルダム条約は、調印から全加盟国の批准完了まで1年半を要した。
欧州議定書

1997年10月に調印されたアムステルダム条約が、欧州連合(EU)加盟国の批准手続きを終えて本年5月1日に発効した。経済分野にかかわる共同体事項、共通外交・安全保障政策(CFSP)、司法・内務協力(CJHA)というマーストリヒト条約で規定されたEUの3つの柱の強化を中心に、公衆衛生、男女同権、移住などの新分野でも欧州の人々が手を携えて実効を上げられるようになった。また、アムステルダム条約によって、EU市民が直接選出する唯一のEU機関である欧州議会に、より大きな権限が与えられた。世界情勢の変化に対応して雇用、消費者政策、機構改革などが条項として明示された新条約は、EUのさらなる結束と発展を実現するためのものだ。


アムステルダム条約発効までの道のり

1957年、ローマ条約により欧州経済共同体(EEC)が設立された。67年には、それまで欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)、欧州原子力共同体(EURATOM)およびEECの3機構に存在していた理事会と委員会がブリュッセル条約により単一化され、欧州共同体(EC)という名称が広く一般に使われるようになった。87年7月に発効した単一欧州議定書では、92年末に単一市場を実現する目標が示され、EC加盟国の市民にとって、自国以外の加盟国で働いたり、買い物の機会が増える事を意味するようになった。

単一市場を完成させるための経済通貨同盟(EMU)について具体的に言及したのが、93年11月に発効したマーストリヒト条約である。単一通貨ユーロの生みの親ともいえるものだ。また、このマーストリヒト条約によって、ECが欧州連合(EU)へと発展し、欧州市民権が生み出された。マーストリヒト条約は通貨統合の具体化などによって欧州統合を強力に推進する原動力となった。97年10月2日のアムステルダム条約調印は、EUの歴史にとってさらなる道標となった。その後EU加盟各国は批准手続きを進めていたが、今年3月30日のフランスの批准によって全EU加盟国の批准が終了した。最後の批准がなされた日の翌々月の1日に発効するという、アムステルダム条約の規定に基づき、新条約は5月1日に発効した。


新条約の4つのポイント

マーストリヒト条約からアムステルダム条約への改正は、大きく分けると4つの点で行われた。

第1は、自由、安全、法の支配、つまり司法・内務協力に関してである。

EUは、ますます国境のない地域となりつつある。アムステルダム条約は、EU域内の警察と司法の協力を大きく前進させた。同時に、性別、人種、民族、宗教、政治的信条、身体的障害、年齢などによるあらゆる形の差別をなくすために、EU加盟国の統一した対策の採用を可能にしている。さらに、EU域内国境での旅券審査の全面的廃止を目的とするシェンゲン協定の内容が新条約の議定書として組み込まれた。これまでデンマーク、フィンランド、スウェーデン、英国、アイルランドの5カ国をのぞく10カ国がシェンゲン協定に調印している。今回の議定書には、英国とアイルランドについては国境の出入国管理の維持を可能にする特別協定が設けられている。警察と司法の分野では、マフィア、テロ、人身売買、幼児虐待、武器・麻薬の売買、汚職などへの対策がEUレベルでの協力の対象となった。加盟国は防止、調査、訓練に関して協力をすることになっており、欧州の警察機関である欧州刑事警察機構(Europol)に重要な役割が与えられることになった。

また、EU加盟国は、戦争、迫害、貧困などの理由で故国を追われた難民や庇護希望者の増大により発生する問題に、共同で対処する体制を整備した。新条約は、査証、亡命や入国の承認に関して、EUの枠組みとして規準を定めている。

1997年10月2日、新条約はアムステルダムの王宮において
EU加盟国代表によって調印された。
欧州議会

第2は、市民の日常生活に影響を与える問題についてEUにこれまで以上権限を与えていることだ。ここで中心となるのは、雇用に関する部分であろう。

実際には、失業問題に緊急に対処する必要性から、各国の雇用政策を調整するためのアムステルダム条約規定が先行実施され、98年と99年を対象とした雇用ガイドラインが採択されている。今後はアムステルダム条約に基づいて、加盟各国の雇用政策とガイドラインの実施状況はEU理事会が調査していくことが定められている。また、理事会が加盟国相互の情報と経験の交換や共同行動とパイロットプロジェクトを支援することによって、EUの雇用戦略は推進されてゆく。

そのほかには消費者保護、公衆衛生、それに特定の社会政策が挙げられる。たとえば、公衆衛生の分野においてEUの活動はより広範な基盤を持つようになった。病気や麻薬から身を守ることのみではなく、健康への脅威を防止し、ガン、AIDS、麻薬の常用などの撲滅のためのプログラムや、政策の調整を図ることとなった。消費者保護の分野でも、狂牛病や汚染輸血などの対策強化として厳しい品質・安全基準の採用、消費者が組織を作る権利と消費者教育に関する規定の創設など、市民の権利と充実した生活がより保障される。

マーストリヒト条約に議定書の形で付随していた社会労働条項は、アムステルダム条約では条約の一部となり、男女間の機会均等と職場における平等な処遇という、欧州経済共同体(EEC)設立条約から存在している2つの原則を実現するための特別施策の採用を定めている。これに加えて、加盟各国が就業機会や昇進に関して不利な状況に置かれている人に対して、不利益を防止または補償することを目的とした施策を実施することを認めている。

第3はEUの外交政策に関するもので、政治的な観点からの共通外交・安全保障政策(CFSP)の強化がポイントだ。

EUは、CFSPの上級代表職の創設による結束強化、政策企画・早期警戒ユニットによる情勢分析、人道援助・平和維持活動の推進などを通じ、国際的な舞台において幅広い行動を取ることが可能となった。また新条約は共通防衛政策の漸進的な策定と西欧同盟(WEU)のEUへの統合に言及している。WEUは唯一の純欧州の軍事機構で、アイルランド、オーストリア、デンマーク、フィンランド、スウェーデンを除くEU10カ国が正式加盟している。もし、EU加盟国が民主主義の原則や人権をはなはだしく侵害した場合、EU理事会はアムステルダム条約の規定に則より、阻止行動を起こすことができる。また、理事会は、当該国のEU加盟国としての一定の権利を停止することも可能だ。

第4は、EU拡大をにらんだ機構改革について言及された点だ。まず欧州議会の権限の強化が明確に規定された。環境問題から消費者保護、公衆衛生にいたるまでのさまざまな問題に関してEUとして立法化する場合、欧州議会はEU理事会と並ぶ役割を与えられたのだ。また欧州議会は、男女同権、社会保障制度の調整、不正行為の防止および撲滅、職業訓練、地域援助、運輸、国籍による差別の禁止、貧困国への援助などについて、理事会と同等の発言権をもっている。

ユーロの導入によってEUの経済統合は成熟の段階を迎えた。そして、今回発効したアムステルダム条約はEUの政治統合をさらに推し進めるとともに、EU拡大の道標として、歴史的悲願であったひとつの欧州大陸実現へと欧州市民を導いていくはずである。


この記事の出典「europe」1999年5/6/7月号は国際安全衛生センターの図書館でご覧いただけます。