このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > ドイツ パネルディスカッション:CSR−国際機関の役割

パネルディスカッション:CSR−国際機関の役割
Panel discussion: "CSR - the Role of International Organisations"

資料出所:KOMMISSION ARBEITSSCHUTZ UND NORMUNG
(KAN−ドイツ労働基準委員会)発行
KANBRIEF」2003年第4号

(仮訳 国際安全衛生センター)
原文はこちら



 企業の社会的責任(corporate social responsibility: CSR)は、世界中の企業にとってますます重要なテーマとなりつつある。企業がその経済的側面だけではなく、特に社会環境的側面でどのように企業活動を行なっているかについて数多くの事例がある。ILOは、数多くの種々のイニシアティブに対する枠組みを提供する業務を行なっている。

 A+A2003の会議における、KAN会長Eugen Muller氏[BDA: Confederation of German Employers' Association]司会によるKAN及びILOの共同パネルディスカッションで、CSRのテーマには、数多くの幅広い異なった取り組み方が存在することが明らかになった。従って、ISOが標準化の草案を作成し、多くの取り組み方を比較しようとする意図があることは驚くようなことではない。ISOの戦略諮問グループメンバーであるGuido Gurtler氏(Siemens, AG)は、CSRの推進は世界的な目標であるが、標準というものがその達成に対して適切な手段であるかということに関してはまだ疑問が残ると述べた。標準化に対する反対論として、CSRは標準が無くても既に機能していること、上手に広報したり紹介したりすることが必要ではあるが、肯定的な事例や経験が既にそろっていること、更に、優先事項がそれぞれの文化によって異なるため、1つの標準で全てに当てはまる解決策とはなり得ないといったものがあった。

 この立場は、ドイツ連邦経済労働大臣(Federal Ministry of Economics and Labour)Wolfgang Koberski氏[BMWA: German Federal Ministry of Economics and Labour]が述べたように、ドイツ政府の立場に一致したものである。CSRは役立つものであるが、それはあくまでも企業側の自発的な努力にもとづくものである。標準は、単に費用のかかる新たな認証の分野を1つ増やすことになりかねない。この点は、ドイツ経済の利益にかなうものではないだろう。Koberski大臣はまた、EUレベルでCSRを標準化しようとする取り組みに対しても反対を表明した。

 この問題に対する世界各国の対応は、同じものではなかった。ソマリアからの労働組合代表であるAlfred Angula氏は、次のように不満を述べた。「多国籍企業は、社会的責任の声明について、一つの大陸から他の大陸へとそれぞれ異なった説明をしている。そして、目的とされている平等性は、しばしば達成されない。」Angula氏によると、各国政府は社会的標準の遵守を効果的にモニターし、こうした標準、とりわけILO標準を推進する人的資源も経済的資源もないとのことであった。

 同様の報告が、コスタリカの企業スポークスマンCarlos Roberto Acuna氏からなされた。彼が所属するChiquita社は、コスタリカにCSRの概念を導入した企業の1つであったが、この考え方は大企業以外には広がらず、中小企業や農業分野などではほとんど実施されなかった。法的な規定は存在するものの、遵守状況を監視できるような具体的な法律文書の形をとっているものはほとんどない。

 社会的報告(social reporting)は、多くのCSR概念の重要な構成要素となっているもので、Lucien Royer氏[ICFTU: International Confederation of Free Trade Unions]によって示されたように、実際、いくつかの企業では長いあいだ慣習となっている。しかしながら、より幅広い社会的報告のための枠組みを創設する必要があると、Royer氏は確信する。EUは、グリーン・ペーパー[COM(2001)366 final, 18 July 2001]で、このプロセスに新しいはずみをつけ加えた。しかし、これは自発的な参加を期待するには十分ではなかった。Royer氏の見解では、世界的な最低限の枠組みが特定されなければならない。大変重要なことは、どのように社会的責任が工場レベルで、すなわち、より大きな民主主義及び参加拡大を視野に実行されなければならないかである。

 ISOの副会長(Vice-President)Torsten Bahke博士[DIN: German Standards Institute]は、CSRは、とりわけ公平な競争に関し、重要な事項を象徴していると強調した。しかし、このような標準を創ろうとすることは、ISOの力を超えているかもしれない。Bahke博士の見解によれば、関係団体では、この事項について合意に達することはなさそうである。

 労働安全衛生及び労働条件を規定する種々のILO協定は、数々の分野でCSRのテーマとオーバーラップしている。ILOのJukka Takala博士が指摘するように、総計90以上の関連する勧告(recommendations)、協定(agreements)、実施基準(codes of practice)等があることから、問題は標準不足ではなく、それを実施できない点である。しかしながら、もしILOの構成メンバーである使用者団体、労働組合及び政府が必要性を指摘すれば、ILOはこの問題に対処することになろう。

 また、このパネルディスカッションでよせられた意見から、世界的な有効性を持つ枠組み文書の必要性も示された。何よりもまず、CSRの標題の下に何が含まれるかに関し、同意が必要である。まだ一般的に受け入れられた定義が存在しないためである。同時に、枠組みはあまり制限的なものにすべきではなく、多様性、文化的相違、及び各国の特性を認めなければならない。最後に、枠組み文書は、企業の社会的努力に見合い、かつ企業の競争力を損なうことのないように、十分に的確なものでなければならない。