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イギリスのHSEホームページにイギリス・欧州・アメリカにおける労働災害の比較が掲載されていましたので、ご紹介いたします。(訳 国際安全衛生センター)

労働災害:イギリス・欧州・アメリカの比較


概要

労働災害の定義や報告義務はそれぞれの国によって異なっている。HSEは1991年、欧州連合加盟国のうちフランス、ドイツ、 イタリア、スペインの災害統計について、独自の分析を行った。その後、分析の対象にアメリカとアイルランドが加えられた。 他の中小加盟国の統計も参考にして、イギリスの安全に関する実績を比較することができるようになった。

Eurostat(欧州委員会統計局)は、比較可能な欧州の労働災害統計の作成に関する現実的な提案について、 加盟国と努力を続けている。Eurostatは休業4日以上の負傷(4日以上の休業を要する、または一定の重篤度に達する負傷)率 についての、暫定的な結果を公表している。

表1はHSEによる死亡率の調査結果と、Eurostatの休業4日以上の暫定的負傷率を示している。表2は一部の産業におけるの死亡率である。

主要なポイント

主な結論は、イギリスの死亡率および負傷率は欧州でも最低の水準にあり、アメリカよりも低いということである。

イギリスにおける全産業の職場での死亡率は、他の欧州連合加盟国やアメリカよりも低い。

またイギリスの主要産業における死亡率は欧州連合の他の主要加盟国より低い。 ただ、イギリスの農業における死亡率はドイツより高く、 スペインと同水準である。また建設業でも、イギリスの死亡率はドイツに並んでいる。

イギリスの全産業における休業4日以上の負傷率は、スウェーデンやアイルランドを除く他の加盟国より低い。

表1:イギリス、欧州、アメリカでの労働災害

被雇用者(employee)/自営業者(self-employed)10万人当りの死亡率

イギリス
1993/94年
1994/95年
1.2
0.9
デンマーク
1992年
1.7
フィンランド
1993年
2.0
オランダ(注1)
1991年
2.6
アメリカ
1994年
3.2
ドイツ
1994年
3.2
フランス
1993年
3.9
ベルギー(注1)
1992年
3.6
アイルランド
1992年
4.0
スペイン
1993年
5.1
イタリア
1991年
5.5
ポルトガル
1992年
5.7
 

欧州(Eurostat発表)およびアメリカの休業4日以上の10万人当り負傷率
 

スウェーデン
1993年
1,100
アイルランド
1993年
1,200
イギリス
1994年
1,700
デンマーク
1993年
2,200
アメリカ(注2)
1994年
2,800
フィンランド
1993年
4,200
ベルギー
1993年
4,500
オーストリア(注2)
1993年
4,600
イタリア
1993年
4,800
オランダ(注2)
1993年
4,800
ドイツ
1993年
5,000
フランス
1993年
5,200
スペイン
1993年
7,000
ルクセンブルグ
1993年
7,500
ポルトガル
1993年
9,500

表の注:

  1. これらの国の死亡率は一部の交通事故を含んでいるが、公共部門は含んでいない。 オランダの率は同国での死亡報告数が実際より低い可能性があるため、推定となっている。
  2. アメリカ、オーストラリア、オランダの負傷率には、休業1−3日の負傷も含まれている。 それらは休業2日以上の負傷と言える。これに相当するイギリスの負傷率は、労働力調査(Labour Force Survey)によると 1993年で2,550人である。


表2:イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの産業別死亡率(注a)
 

産業
イギリス
1993     1994
ドイツ
1993     1994
フランス
1993
スペイン
1993     1994
イタリア
1991
農業(注b)
7.3      8.5
6.0      6.7
9.8
9.1      5.4
18.4
公益事業
0.5      0.6
3.1      4.3
5.6
12.5     10.1
4.4
製造業
1.6      1.2
2.3      1.6
2.3
6.7      4.9
3.3
建設業
8.9      6.9
7.9      8.0
17.6
21.0     19.3
12.8
運輸業(注c)
2.2      2.0
7.2      7.5
6.5
13.0     10.7
11.2
他のサービス業(注d)
0.3      0.4
1.0      1.2
1.9
1.4      1.5
0.9
全産業
1.2      0.9
3.3      3.2
3.9
6.4      5.1
5.5

注:

  1. 死亡率はフランスとイギリスの場合は「被雇用者」(employee)10万人当りで表されている。ただし、イギリスの農業は被雇用者(employee)と自営業の両方を含む「労働者」(worker)10万人当りである。イタリアは「労働者」(worker)、またドイツは被保険労働者(insured worker)10万人当りである。 産業分類は1992年標準産業分類による。
  2. フランスの農業における死亡率は1992年の数字である。
  3. 輸送:ドイツの場合には国有鉄道を除いている。イタリアでは倉庫業が含まれている。
  4. これら4カ国の「他のサービス」には、小売/卸売業、ホテル/レストラン、ビジネス活動、娯楽、社会的および個人的サービスなどが含まれている。イギリスでは行政、教育、保健が、またドイツでは民間保健サービスが含まれている。

 

労働災害統計の情報源および統計比較の条件


HSE調査:イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア

  1. 労働災害の定義や報告義務はそれぞれの国によって異なっている。 そのため、一部の国(たとえばイギリス、アイルランド、デンマークなど)の負傷統計は事業主(またはその他の者)による 全国労働監督局への報告の副産物である。一方、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシャでは、 統計の主な情報源は保険や社会保障制度を通じて行われた請求によるものである。 オランダの場合は、統計は事業主による報告と社会保障制度の請求の両方を情報源としている。 保険や社会保障制度の一つの特徴は、請求申告がほぼ100%に近いレベルで行われ、 結果としてほぼ完全な災害統計が得られることにある。 これに反して、事業主の報告に基づく制度では、負傷者の報告がかなり実際の水準を下回っている。
  2. 多くの国における労働災害の公表数は、労働中の人々が車両の走行中に、 または道路上の車両によって負傷した事故を含んでいる。 イギリスの統計は、これらの事故を含んでいない。 この種の事故は一部の加盟国の災害による死亡者の20−40%に達する。
  3. ほとんどの国では、負傷者は休業4日以上または2日以上を基準として報告が義務付けられている。 これらの分類には、特に「重大」(serious)とされるあらゆる負傷が含まれている。 たとえばイギリスの場合、表の休業4日以上の負傷率には、報告に関する規則で定められた重傷が含まれている。
  4. HSEは1991年にフランス、ドイツ、イタリア、スペインのEU主要加盟国の災害統計について、独自の分析を行った。 この調査は各国の災害統計をイギリスの統計と比較できるように、調整することが目的であった。 たとえば、各国の統計から交通事故を除き、5カ国の事故率を同じ基準に揃えている。 またこの調査では、主に定量化できない要素、たとえば各国の保険制度における過小、過大申告による偏りについても考慮している。 その上で、この調査は、統計制度の違いにかかわらず、イギリスの全産業(また主要産業部門でも)の死亡率、 負傷率が他の主要加盟国より低いとの結論を出している。
  5. この調査は1980年代中期を対象としたものだが、その後に1991年から1993年までの期間についても、 他の加盟国およびEurosatから入手できる資料に応じて、拡大調査が行われた。 またアメリカおよびアイルランドについてもおおよその死亡率データが加えられた。 死亡率は各国の事情に応じて、被雇用者(employee)または就業者(worker)−被雇用者(employee)と自営業者(self-employed)− 10万人当りで示されている。 被雇用者グループとはイギリスとスペインでは被雇用者(employee)−農業を除く、農業は被保険労働者(insured worker)ベース−、 フランスでは被保険労働者(insured employee)−”salaries”−、イタリアでは労働者(worker)、ドイツでは被保険労働者 (insured employee)−"abhangig beschaftigte"と"unternehmer"−である。
  6. 表1に示したイギリスの死亡率は、他の加盟国で入手できる最新のデータと比較するために、 1993/94年と1994/95年のデータを取っている。1995/96年のイギリスの最終的死亡率は就業者(worker)−被雇用者(employee)と 自営業者(self-employed)−10万人当り1.0になると予想されている。 産業別の死亡率は、HSC/HSE年次報告書および関連する安全衛生統計に示されている1992年標準産業分類(SIC92)に従っている。

イタリア

  1. イタリアの死亡率は1991年の死亡災害報告および同年のEurosatの内部文書 「欧州共同体加盟国労働災害統計、未調整データ、1985−92年、A部」に基づいている。 事故の原因となる機器に関する統計はISPESLによって、「第1回事故の国別状況、1989−91年」で公表されている。 この統計は1989年−91年の交通事故を全体として特定し、道路交通事故の死亡統計を調整するための最善のデータとなっている。 しかし、調整できるのは農業と他の全産業の区別だけである。 そこで1991年の農業の死亡災害率から、1989年−91年に発生した交通事故の率を差し引き、他の各産業の率からも、 1989年−91年の農業を除く全産業の発生率を差し引いてある。 被雇用者数の推定は全国労働力調査による。
  2. 公表されているイタリアの死亡災害と雇用統計は、主要な部門レベルにおいてほぼ同じ産業分類に基づいている。 しかし、1991年の雇用統計はEurosatと同様に、鉱業・公益事業を製造業と区別していない。 1993年の雇用統計では産業分類がかなり改善されている。 そのため、1991年の鉱業・公益事業、製造業の雇用状況については、それらの産業の1991年の数字に1993年の比率を当てはめて推定した。
  3. イタリアの統計をイギリスの統計ベースに合わせる作業はおおよそのものであるが、それでもイタリアの死亡率がイギリスやドイツよりかなり高いという比較に影響するものではない。

EUの中小加盟国

  1. EUのその他の加盟国(オランダ、デンマーク、ベルギー、ポルトガル)のデータはEurosatの内部文書で発表された 災害統計に基づいている。ベルギー、ポルトガル、オランダの率には、一部の交通事故が含まれているが、公共部門は入っていない。 しかし、これらの中小規模加盟国の統計から、イギリスの安全に関する実績を比較検討することができる。 デンマークの労働環境省はデンマークの死亡災害の3分の1は交通事故に属するものだとしており、 同国の死亡率についてこの交通事故を統計から除く調整を行っている。
  2. フィンランドの1993年の死亡率は同国労働省の資料によった。この率には交通事故による死亡者は含まれていない。
  3. オランダ労働省は、同国での死亡災害は実際より低く報告されていると見ている。 1991年の報告死亡者数は43人だが、実際には150人の死者が出ていると同省は推定している。 表に示したオランダの死亡率は10万人当り被雇用者(employee)2.6人だが、これは高い方の死亡者数に基づいている。 イギリスの率は、労働関連の交通事故を含めても、これより低い。

Eurosat

  1. Eurosatおよび加盟国は、労働災害に関する欧州の統計を比較可能なものとするためのプロジェクトを開始している。 プロジェクトはHSEの調査方法を基準にしている。 これまで加盟国に提案された主なポイントは、統計を取る際の基準として、休業4日以上の基準を使うこと、 死傷者の過小報告を調整すること、交通事故を区別することなどであり、これらはほとんどの産業および仕事の種類を包括している。 事業者の報告または労働力調査に基づくイギリスの労働災害統計は、これらの主要な提案の内容に合致している。
  2. Eurosatはこのプロジェクトの暫定的な結果として、一部の産業における休業4日以上の負傷率を発表している。これらは製造業、建設業、 小売・卸売業、ホテル・レストラン業、金融サービス業、不動産業(1992年標準産業区分の分類D、F、G、H、JおよびK)の 5つの主要産業部門をカバーしている。
  3. この公表された率をまとめたのが表1で、数値は便宜上切り上げてある。 スウェーデン、アイルランド、デンマーク、イギリスの率は、各国のすでに報告されているの死傷者過小報告に基づく調整を 行っている。 イギリスおよびアイルランドの調整は全国労働力調査の結果に基づいている。
  4. ギリシャはEurosatに他の諸国と比較できるような正しい形式のデータを提供していない。 したがって表1からはギリシャのデータを除外してある。

アメリカ

  1. アメリカの1994年の労働人口は1億2240万人で、イギリスの約5倍に近い。 この大きな労働人口について、さまざまな機関や制度が労働災害による死亡者、負傷者の統計を出している。 表1のアメリカのデータは、全米安全評議会(NSC)が出した「1995年および1996年の事故」の統計に基づいている。 アメリカの死亡率は労働統計局が行った事業場調査に基づいている。
  2. NSCの推定では、1994年の自動車事故を除く労働災害による死傷者(disabling injury)は約340万人である。 NSCはこの数字を全国衛生統計センターのデータから引用している。 「disabling」とは、死亡またはある程度の恒久的障害をもたらす負傷、または負傷者が負傷した日以降、 1日を通じてその任務または活動を効果的に実行できない状態になった負傷を意味する。 アメリカの負傷率は、推定労働人口に対する340万人の死傷者の比率である。 アメリカの負傷率は実質的には、休業2日以上の負傷率である。 1994年の負傷率は被雇用者および自営業者10万人当り2,780人で、 イギリスの労働力調査(LFS)では1993年のこの率を2,550人としている。
  3. 全国衛生面接調査局(NHIS)は、1994年には672万人が労働災害で負傷し、半日の就業制限を要したと推定している。 休業半日の負傷率は5,490人になる。これに近いイギリスのデータはLFSから得られる全労働者の負傷率で、 アメリカより定義が広く、1994/95年に4,460人であった。 イギリスの率が低いと言えるようではあるが、イギリスとアメリカ(LFSとNHIS)で使われた質問の内容にもよるだろう。

全体的結論

  1. 表1はHSEの調査およびEurosatの公表比較データの結果を示している。 それによると、イギリスはEU加盟国およびアメリカに比べて死亡率が低く、また負傷率においても、 スウェーデンとアイルランドを除き、他の諸国より低いことがわかる。 スウェーデンの死亡率はまだデータが入手できていない。 OECDの過去の調査では、スウェーデンの死傷率はイギリスより低くないにしても、同程度と見られている。 Eurosatの現在の作業によると、スウェーデンの負傷率はイギリスより低いようである。 イギリスの負傷率は、定義にもよるが、アメリカと同程度か10%程度低いようである。
  2. 表2はイギリスおよびEUの主要4加盟国(フランス、ドイツ、スペイン、イタリア)の各産業別の死亡率である。 主なポイントは次のとおり。

    イギリスの死亡率は全産業および主要産業の大部分において、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアより低い。

  3. 例外は農業で、イギリスの死亡率はドイツより高く、スペインと同程度である。また建設業の死亡率においても、 イギリスはドイツと同程度である。
  4. 要するに、イギリスの死亡率は全産業および主要産業において他の諸国より低い。こうした結果に基づいて、イギリスの死亡率、負傷率は欧州で最低線にあり、アメリカより低いと言える。