1998年建築その他の建設労働者
(雇用および労働条件に関する規制)
中央規則−ハイライト
資料出所:NSC発行「Industrial Safety Chronicle」2000年第一四半期号
(仮訳 国際安全衛生センター)
1.背景
3年前まで、建築その他の建設にかかわる労働者の安全衛生に関する法令は、実質的には皆無だった。これらの労働は、労働者の生命、身体へのリスクを伴ない、また労使関係が一時的であるという性格があり、労働時間が不確定で、基本的な設備が欠如しており、福利厚生施設も不充分であるという特徴がある。建築その他の建設労働者には、中央法の一部の規定しか適用されなかった。そこで建設労働者の安全衛生、福祉、その他の労働条件を規制する包括的な中央法令が必要であると思われた。州政府、連邦政府直轄地の行政府との協議のなかでも、こうした法令の制定が支持された。また、第41回労相会議での決定に基づいて設置された州労相委員会も、1995年5月18日の会合で中央法令(案)の必要性を支持した。1996年3月1日、あらゆる建築または建設作業において50人以上の労働者を雇用する建設事業所を対象とした「1996年建築その他の建設労働者(雇用および労働条件に関する規制)法」が制定されたが、それまでに至る経過を追って以下に記載した。
1988年12月 5日
|
法案を上院に提出 |
1995年11月 3日 |
省令(1995年第14号命令)を公布 |
1995年12月 1日 |
法案を下院に提出し省令を議会による法律に置きかえる |
1996年 1月 5日 |
新省令を公布 |
1996年 3月27日 |
第2次省令(1996年第15号命令)を公布 |
1996年 6月20日 |
第3次省令(1996年第25号命令)を公布 |
1996年 8月19日 |
法律が大統領によって承認される |
2.中央規則
この法律は、第40条と第62条において、中央政府と州政府に規則を制定、告示する権限を与えている。これらの権限に基づき、中央政府は「1998年建築その他の建設労働者(雇用および労働条件に関する規制)中央規則」を告示した(1998年11月19日付告示No.GSR.689(E)参照)。これらの規則は、1998年11月19日の官報への発表をもって発効した。
3.中央規則の適用範囲
中央規則が適用されるのは、
- 1947年労使紛争法で中央政府の管轄とされているすべての事業所
- 1956年会社法第617条で定義された公共部門の事業で、中央政府が所有、管理または経営しているもの。
中央規則が適用されないその他の事業場については、州政府の管轄になる。州ではケララ州政府だけが、上述の法律に基づいて、ケララ州内に存在する事業場に適用される規則を告示した。その他の州は、それぞれの州内の事業場に適用される規則を告示する予定である。
4.全体の構成
中央規則は5部に分かれ、30の章、12の付則、26の書式で構成されている。第3部は20章からなり(第VI章から第XXV章まで)、安全衛生だけをとりあげている。同規則のなかの建設労働者の安全衛生に関するすべての章、付則、重要書式の表題を、以下に記載した。
1998年建築およびその他の建設労働者(雇用および労働条件に関する規制)中央規則
章
第I章 |
略称、適用、施行開始時期および定義 |
第XVI章
|
作業床および板囲い、シュート、安全ベルトおよび安全ネット |
第II章 |
事業者、建築家、プロジェクト・エンジニア、 設計者、建築労働者などの責任と義務 |
第XVII章
|
構造物としての骨組みと型枠作業 |
第III章 |
中央諮問委員会、事業場の登録 |
第XVIII章
|
はい付け、はいくずし |
第IV章 |
事業場の登録 |
第XIX章
|
足場 |
第V章 |
不服申し立て、命令の謄本、罰金の支払いなど |
第XX章 |
囲堰および潜函 |
第VII章 |
吊り上げ機器および用具 |
第XXI章 |
安全組織 |
第VIII章 |
通路とスロープ |
第XXII章 |
爆発物 |
第IX章 |
水上または水辺での作業 |
第XXIII章 |
くい打ち |
第X章 |
運送および地上移動装置 |
第XXIV章 |
医療サービス |
第XI章 |
コンクリート作業 |
第XXV章 |
インド規格局への情報 |
第XII章 |
解体 |
第XXVI章 |
労働時間、休憩の間隔、週休など |
第XIII章 |
掘削およびトンネル開削作業 |
第XXVII章 |
通知、登録、記録、統計の収集 |
第XIV章 |
急勾配の屋根の建設、修理、保守 |
第XXVIII章 |
建築労働者の福祉 |
第XV章
|
はしごおよび脚立 |
第XXIX章 |
賃金 |
|
|
第XXX章 |
長官および監督官の権限 |
付則
|
安全衛生に関する重要な書式
|
付則I |
吊り上げ機器、吊り上げ用具およびロープをはじめて使用する前の試験および検査の方法 |
書式V |
ウィンチ、デリック、付属器具の初期および定期的試験・検査の証明書 |
付則II |
建築その他の建設労働における通知すべき職業性疾病 |
書式VI |
クレーン、または巻き上げ機、付属器具の初期および定期的試験・検査の証明書 |
付則III |
救急箱の内容物 |
書式VII |
クレーンのフックの初期および定期的試験・検査の証明書 |
付則IV |
救急室の物品 |
書式VIII |
ワイヤロープの使用前の試験・検査の証明書 |
付則V |
救急用バンまたは車両の積載物 |
書式IX |
クレーンのフックの焼なまし証明書 |
付則VI |
連続騒音で許容される暴露 |
書式X |
焼なまし対象外のクレーンのフックの年次徹底検査の証明書 |
付則VII |
建築労働者の健康診断の定期性 |
書式XI
|
健康診断証明書 |
付則VIII |
安全担当管理者の人数、資格、責務など |
書式XII |
健康登録 |
付則IX |
危険な工程に関する計画 |
書式XIII |
中毒および通知すべき職業性疾病の通知 |
付則X |
労働衛生センターが備えるべき設備とサービス |
書式XIV |
災害および危険事態の報告 |
付則XI |
建設医療担当官の資格
|
|
|
付則XII |
作業環境において許容される一定の化学物質の水準 |
|
|
5. 重要な規定
以下は、規則のなかでも重要な規定を盛り込んだ章の内容である。
第I章は、略称、適用、施行開始時期、および建築、建設労働に関係する専門用語74語の定義を示している。重要な定義は以下のとおりである。
-
「有資格者」とは、中央政府によって承認され、インドの試験機関に所属し、吊り上げ機器、吊り上げ用具、ワイヤロープまたは圧力プラントもしくは装置の試験、検査、または焼きなまし、証明のための十分な資格、経験、技術をもつ者を意味する。
-
「吊り上げ機器」とは、材料、物または建築労働者を持ち上げるための、クレーン、ホイスト、デリック、ウィンチ、ジンポール、二またクレーン、ジャッキ、滑車装置、その他の機器類を意味する。
-
「吊り上げ用具」とは、ロープ、チェーン、フック、吊り索、その他「吊り上げ機器」の付属物を意味する。
-
「標準的安全操業慣行」とは、建築およびその他の建設活動において、労働者の安全衛生と、活動で使用される機械と装置の安全運転のために順守すべき慣行で、以下のすべてまたは一部に準拠するものを意味する。
- インド規格局が承認した関連する規格
- 全国建築コード
- 設備・機械類の安全な使用に関する製造業者の使用説明
- 建設産業における安全衛生に関する行動規範(国際労働機関が発表し、随時、改訂されたもの)
第VI章は、建築およびその他の建設労働者の安全衛生に関する一般的規定である。とくに重要なのは、以下の点に関して事業者がとるべき防衛的な安全対策である。すなわち、過剰な騒音、振動、火気、建設現場で使用される機械の可動部分がもたらす危険。スリップ、つまずき、切断、溺死、墜落の危険性。粉じん、ガス、ヒュームなど。磨食性物質。電気的危険。車両の往来による危険。この章の条項により、頭部の保護具やその他の保護衣、目の保護、安全ヘルメットと安全靴、資材・物品落下の危険にさらされる労働者の頭上の保護は、事業者の義務とされている。また、資材の積み上げ、残骸の処分中にとるべき予防措置も具体的に示されている。建設労働者が持ち上げ、または運搬する最大重量
も具体的に定められている。規則では、50人以上の労働者を雇用する事業所に、安全衛生方針を文書で作成することを義務づけている。
建築およびその他の建設現場での資材の取り扱いの重要性を考慮し、ひとつの章(第VII章)を吊り上げ機器と吊り上げ用具にあてている。この章は、吊り上げ機器・用具の製造、据付、運転、保守、試験および定期検査に関する規定を定めている。すべての吊り上げ機器は、はじめて使用する前、または改造、修理を受けた後、または建設現場での組み立てに当たり、また最低5年に1回、定められた方法により、有資格者による試験・検査を受けるよう義務づけられている。すべてのクレーンのフックは、有資格者の立会いのもとで、定められた期間を守って、焼なましを行わなければならない。この章ではまた、吊り上げ機器、とくにホイストとタワー・クレーンの運転において順守すべき予防措置も具体的に定めている。
第VIII章からXXIII章までは、その他の建設機材の運転、建設現場でのその他の作業工程と運転において、とるべき安全上の予防措置を示している。
第XXI章は、建設現場に設置すべき安全組織について具体的に定めている。規則は、同数の事業場代表者と建築労働者で構成する安全委員会を設置し、建設事業場中に安全担当管理者を1人任命するよう求めている。災害は、定められた当局に報告することを義務づけ、災害または危険事態の原因を調査するための手続きを定めている。
第XXIV章は、建設労働者の健康診断、労働衛生センター、救急室、救急用バン、ストレッチャー、救急箱、その他の労働衛生サービス、緊急時の車両サービスなど、建設労働者に提供すべき医療面
での便益を定めている。中毒と職業性疾病は、規定の機関当局に報告するよう義務づけている。規則は、すべての建築労働者に対し、登録前、およびその後、一定の間隔をおいて定期的に、ムンバイの工場指導労働研究所総局(DGFASLI)が承認した建設医療担当官による健康診断を受けるよう義務づけている。
|