このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次) > インドにおける労働安全衛生マネジメント

インドにおける労働安全衛生マネジメント

B.K.ミトラ
インド全国安全協会、副理事長

(資料出所:National Safety Council発行
「INDUSTRIAL SAFETY CHRONICLE OCT.-DEC. 2000」)

(訳 国際安全衛生センター)



1. 序論

インドにおける労働安全衛生マネジメントは、インド政府の労働省、産業省、環境森林省の総合的政策に従って実施されている。各省は関連する規則を制定し、インド政府または州政府がそれを施行する。各省はそれぞれの部局を通じて、職場における清潔で、安全な、人間的で健康な環境を確保するために、政策を推進する活動を展開している。



2. 法的規定と執行


2.1 概要

インドでは各種の産業施設を対象とする各種の安全衛生法規が施行されており、それらが産業活動の枠組みを構成している。基本的に、主要産業は1948年工場法の規制を受けているが、産業活動の中の特定的な安全面、たとえば廃棄物処理、汚染規制、危険廃棄物管理などについては、他の法規が適用される。表1はこれらの法規、それらの制定を担当する関係省庁、執行機関などを示している。


2.2 主要法規の規定

2.2.1 1881年工場法

目的

インドでは1881年には早くも工場法が制定されている。同法は工場に働く労働者の安全衛生、福祉、その他の問題を規定した法律である。同法は何回もの改正によって段階的に範囲を広げ、各種の労働条件に適用されるようになり、特に安全衛生面に重点が置かれている。1987年には同法の大幅な改訂が行われ、危険な工程を取り扱っている工場における、i)基本的アプローチ、ii)健康の保護と事故防止、iii)非常事態計画、という3つの重要な領域が同法に加えられることになった。

主要規定
  • 工場の承認、免許、登録
  • 占有者、製造者の義務
  • 安全衛生の基本方針と組織
  • 健康、衛生基準
  • 危険な機械の防護、資材の取扱い、圧力プラント、床、階段、ピットや汚水だめの被覆
  • 危険なヒューム、ガス、爆発性粉じんの予防、火災の予防
  • 建物、機械の安定性と保守
  • 事故、危険事態、疾病の報告
  • 危険なプロセス産業に関する、下記についての規定
    • サイト評価委員会
    • 工場主任監督官への情報の開示
    • 地方自治体
    • 労働者と一般公衆、オンサイト非常事態計画、健康診断、記録
    • 化学品、物質の暴露許容限度
    • 危険を知る労働者の権利
OSHマネジメントに関する規定

工場法および規則はOSHマネジメントに関する要件も規定している。基本的な要件は次の通りである。

a) 安全管理者の任命
下記に該当するすべての工場においては、占有者は安全管理者を任命しなければならない。安全管理者の数は州政府の通達によって決定される。
  1. 1000人以上の労働者が常時雇用され、または
  2. 身体への傷害、中毒、または疾病、あるいは工場で雇用されている者の健康に対するその他の危険を伴うあらゆる製造工程または操業が行われている、

b) 工場医務管理者の任命
  1. 「危険な工程*」を実施し、50人以下の労働者を雇用している工場の場合、
    (「危険な工程」とは、特別な注意を払わなければ、使用されている原料または中間製品、最終製品、副産物、廃棄物、廃液などが下記に該当する、産業に関連するあらゆる工程または活動を意味する:

    i. その工程等に従事するまたは関係する者の健康に重要な障害を及ぼす、または
    ii. 環境全般に汚染をもたらすおそれがある)

  2. 及び51人から200人の労働者を雇用している工場の場合、
    「非常勤」の工場医務管理者を置き、

  3. 200人を超える労働者を雇用している工場の場合、
    500人以下の労働者を雇用している工場では、1名の常勤工場医務管理者を、またそれ以上の労働者が雇用されている場合には、追加1000人またはその端数ごとに1名の工場医務管理者を置かなければならない。
表1
法律、規則 中央機関 執行機関
労働省(MOL)
  ・1948年工場法 DGFASLI 州工場監督局
  ・1986年ドック労働者(安全衛生福祉)法 DGFASLI DGFASLI
  ・1952年鉱山法 DGMS DGMS
  ・1996年ビルディングその他の建設労働者法 主任労働コミッショナー 州労働局
  ・1948年従業員州保険法 ESIC ESIC
環境森林省(MOEF)
  ・1986年環境保護法 CPCB SPCB
  ・1986年環境保護規則 CPCB SPCB CPCB SPCB
  ・1989年危険化学物質製造・貯蔵・輸入規則 CPCB SPCB、CCIE、CIF、
CID、CIM、AERB、
CCE、地域コレクター、
CEES、DRDO
  ・1989年危険廃棄物(管理・取扱)規則 MoEF
  ・1996年化学事故(非常事態計画・準備・対応)規則

  ・1991年一般損害賠償責任法 MoEF 地域コレクター
  ・1998年バイオ・医学廃棄物(管理・取扱)規則 CPCB SPCB
  ・1994年プロジェクト環境承認要件告示 MoEF
産業省(MOI)

  ・1984年インド爆発物法 主任爆発物管理官
(CCE)
CCE
  ・1983年インド爆発物規則

  ・1981年固定・移動圧力容器(未点火)規則

  ・1981年ガスボンベ規則

  ・1934年石油法

  ・1976年石油規則

  ・1923年ボイラー法 中央ボイラー委員会 州ボイラー委員会

略称(頭字語)
DGFASLI
DGMS
ESIC
CPCB
SPCB
MOEF
CIF
CCIE
CIDS
CIM
CCE
AERB
CEES
DRDO
工場指導・労働研究所総局
鉱山安全総局
従業員州保険公社
中央汚染規制委員会
州汚染規制委員会
環境森林省(インド政府)
主任工場監督官(州政府)
主任輸出入監督官
主任ドック安全監督官
主任鉱山監督官
主任爆発物監督官
原子力規制委員会
環境・爆発物安全センター
防衛研究開発機関


c) 任命のための資格

安全管理者は以下の資格を必要とする。
  1. 工学、技術のいずれかの部門で学位を持ち、2年以上の期間、監督者としての資格で工場に勤務した経験を持つ者
  2. 理学士であり、5年以上の期間、監督者としての資格で工場に勤務した経験を持つ者
  3. 労働安全の資格免許を持つ者
工場医務管理者は以下の資格を必要とする。
  1. 州政府が承認する、最低3カ月間の労働衛生研修証明書を持つ者、または
  2. 労働衛生の資格免許を持つ者
d) 安全委員会

下記の作業場では安全委員会を設置しなければならない。

1. 下記に該当するすべての工場
  1. 250人以上の労働者が常時雇用されている工場、または
  2. 本法87条において危険と指定された工程または操業を行っている工場、または
  3. 工場法で定義する「危険な工程」を行っている工場
e) 委員会の構成

安全委員会は下記の代表者によって運営される。

  1. 組織内の地位によって、委員会の職務に効果的に貢献できる上席の管理職。委員会議長となる。
  2. 安全管理者または工場医務管理者のいずれか。安全管理者がいる場合は、それが委員会事務局長となる。
  3. 生産、保守、購買各部門の代表者1名。
f) 安全委員会の職務と義務
  1. 占有者の「安全衛生基本方針」に規定する目的と目標を達成するため、経営者を支援し、協力する。
  2. 安全衛生および環境に関するすべての問題を取り扱い、直面した問題に対する実際的な解決策に到達する。
  3. すべての労働者の安全に関する意識を高める。
  4. 教育、訓練、推進活動を実施する。
  5. 安全、環境、労働衛生調査、安全監査、リスク・アセスメント、非常事態・災害管理計画などに関するレポートを検討し、レポートで提起された勧告を実施する。
  6. 安全衛生調査を実施し、事故の原因を明らかにする。
  7. 労働者の安全衛生に対する危険の切迫の可能性についての訴えを調査し、是正措置を提案する。
  8. 委員会が行った勧告の実施状況を再検討する。
g) 任期

委員会の任期は2年とする。

h) 委員会の会議

安全委員会は必要に応じて会議を開催するが、少なくとも各四半期に1回は会議を開催するものとする。会議の議事録を作成し、監督官から要求があればそれを提出する。


2.2.2 1986年環境(保護)法

これは産業施設における環境の保護のための包括法であり、それに基づいていくつかの規定が設けられている。

目的

環境の保護、改善のために必要な措置を取る。

主要規定

  • 排出物および資源保全に関する産業特定の基準を規定する。
  • 量的な基準を規定する。
  • 年次環境報告書の提出を規定する。
  • 排出物基準を遵守する。
  • SPCB/CPCBに年次環境報告書を提出する。
  • 特定の汚染物質の排出を分析し、SPCB/CPCBに定期的に報告書を提出する。
  • 汚染防止、制御のために最善の技術を使用する。
  • 資源の最大限の再利用とリサイクル。
  • クリーンな技術の利用。
  • 処理廃水中の化学的成分を減らすための三次処理の使用。

2.2.3 1989年危険化学品の製造、貯蔵、輸入に関する規則

これは環境保護法の下での主要な規則の一つである。

目的

各種分類の危険な化学品が関与する事故を防止する。

主要規定

  • SPCB/CPCBとともに、工場監督局によって執行される。
  • 主要な危険を特定し、特定された危険の防止措置を取る。危険な化学品を処理する際の安全な操業と非常事態体制を実証する。
  • MSDSを作成し、容器の適正なレベル表示を行う。
  • 危険な化学品が限界値を超えて貯蔵されている場合、安全報告書を作成する。
  • 限界値を超える危険な化学品が貯蔵されている場合、その場所を届け出る。
  • サイト非常事態計画を作成し、模擬訓練を行う。

2.2.4 1983年危険機械規則

目的

危険な機械を使用する労働者の福祉を確保するために、危険な機械を生産する産業の製品の生産、供給、流通における取引、通商の規則を制定し、それらの機械を使用する労働者の死亡または傷害の補償金支払い、さらにそれらの事項に関連、付随する事項を規定する。

主要規定

  • 危険な機械の製造、輸入、流通および販売の承認を得る。
  • 若年者による危険な機械の使用禁止
  • 危険な機械を使用、運転する従業員の完全な訓練および訓練を受け、経験を持つ監督者による監督
  • 機械のすべての「回転部分」および「危険ポイント」の防護
  • 機械の修理、保守の際に取り外した防護柵等を、始動、使用の前に取り付ける。これは訓練を受け、経験を持つ監督者の厳重な監督下で行われる。
  • 危険な機械およびその周辺での女性、児童の就労禁止
上記のOSH関連法規は、製造、輸送、取り扱いの開始前に、関係機関からの承認、許可、証明書の取得を義務づけている。また付録にはOSHマネジメントに関する許可、承認のリストが掲載されている。



3. OSH組織

インド政府は労働安全衛生法規を制定し、それを実施するためにDGFASLIおよびCLIを設置した。それらの機関は工場法の運用とOSHに関する国の政策立案について、中央政府、州政府に勧告する重要な役割を果たしている。それらはまた年間を通じて、安全衛生および福祉の各種領域についての訓練を工場労働者に提供している。

OSH法規の施行と必要な法規遵守は、州工場監督局が独自に行っており、同局は工場、企業を訪問して法規の不履行、違反を通告している。

政府によって設置された自主的な組織は、OSH基準、国の政策、および法規制定の原則を制定する作業を支援している。インド全国安全協会はこの過程において重要な役割を果たし、有効な貢献を行っている。評議会はまた、国内の安全に関する高い意識水準を維持するため、国内および国際的なOSHセミナー、研修課程、安全競技を開催し、文献を出版している。詳細は別の機会に述べる。

  • 政府のOSH組織

    • 工場指導・労働研究所総局(1954年設立)
    • 中央労働研究所および4つの地域労働研究所(1959年設立)
    • 州工場ボイラー監督局
    • 鉱山安全総局

  • 自主的OSH組織

    • インド全国安全協会(1966年設立)
    • インド損害防止協会(1978年設立)
    • 全国環境技術研究所
    • 全国労働衛生研究所


4. OSH情報センター

中央労働研究所はマネジメント情報サービス部を持っている。この部には、危険物質、主要な事故の危険がある施設、リスク・アセスメントのためのガス拡散特性、主要な事故危険制御領域の国内、国際専門家などの、コンピュータ化されたデータバンクを持ち、CIS/ILOデータベースおよびカナダ労働安全衛生センター・データベースも置かれている。国内のOSHネットワーク・システムであるINDOSHNETも設立されている。



5. OSHキャンペーン

毎年、以下のような安全衛生推進活動が産業界、港湾、鉱山などの部門で実施されている。

全国安全デー:3月4日
火災予防週間:4月14-20日
世界環境デー:6月5日



6. OSH顕彰

・ 全国安全顕彰

インド政府労働省は1965年からDGFASLIを通じて、全国安全顕彰制度を実施している。これらの賞は産業界が達成した、すぐれた安全実績を顕彰するために授与される。工場法の適用を受ける工場および1986年ドック労働者安全衛生福祉法の適用を受ける事業者が、この制度の対象である。

・ NSCI安全顕彰

インド全国安全協会は1998年から安全顕彰制度を設けている。これは工場として登録された産業施設が、安全衛生および環境上実績において高い基準を達成した場合や、効果的な安全マネジメント・システム、継続的な改善手順を実施している場合に、それを顕彰するものである。安全マネジメント・システムと方式、過去3年間の事故、危険事態、職業性疾病の統計などの総合的な評価基準に基づいて、4種類の賞が授与される。

・ 全国安全顕彰(鉱山)

労働省は1983年から全国安全顕彰(鉱山)制度を実施している。その目的は鉱山における安全基準の向上のために、鉱山事業間の競争意識を高め、全国的に見て高い水準の安全実績を上げた企業を顕彰することにある。



7. OSH基準

インド基準局は、安全衛生および環境等の基準を含む、各種の領域における全国基準を制定する、インドの中核的機関である。最近、NSCI総局長が議長を務める産業安全部門委員会で、OSHマネジメント・システムに関する次の2つの重要なインド基準が策定された。

i) インド基準:労働安全衛生マネジメント (OSHM) システム(策定中)
ii) インド基準14489:1998年OSH監査実施基準



8. 災害管理とリスク・アセスメント

環境森林省は環境保護法の下で、国内における4レベルの「化学品事故災害管理危機グループ」を設けている。この危機グループは「1996年化学品事故非常事態計画・対応規則」の範囲内で活動する。グループは非常事態計画の立案、リスク・アセスメント研究の実施、機能制御室の設置、および重大な化学事故の対策立案、準備、緩和などの責任を負っている。

グループは次のような構成を取っている。
国レベル: 中央危機グループ
州レベル: 州危機グループ
地域レベル: 地域危機グループ
産業部門レベル:地方危機グループ

各グループは指定された議長、事務局長、その他のメンバーが各部局、産業、各種機関から選抜されており、その機能は明確に規定されている。「危機警報システム」も、中央危機グループを支援するために設けられている。



9. インド全国安全評議会の役割

自主的な団体であるNSCIは、1966年3月4日にインド政府労働省によって設立された。その主な目的は、国レベルで安全衛生および環境についての自主的な運動を起こし、発展させ、維持することにある。この目的に添って、NSCIは各種の活動を行い、インド政府の政策立案に係わることを目標にしている。

国内のOSHマネジメント・システムを向上させるための評議会の活動は、次のように実施されている。

  • 短期の専門的訓練プログラムおよび特定的なプラント訓練プログラムの実施
  • 安全監査、リスク・アセスメント、HAZOP調査、安全衛生意識調査などの実施
  • 安全衛生・環境に関する技術的助言の提供、コンサルティング活動の展開
  • 安全ポスター、指導カード、安全壁掛けカレンダー、日記などの、安全衛生・環境に関する定期刊行物や文献を発行
  • 全国安全デー、安全週間の行事の指導
  • 国内および国際レベルでのセミナー、会議の開催
  • 全国安全評議会の安全顕彰制度の運用


10. 結論

すべての事故は防止可能であり、傷害や死亡事故、後遺障害、疾病、環境の破壊などを防止するために、あらゆる努力を尽くさなければならない。インド政府や産業界は国内の労働安全衛生問題と真剣に取り組んでおり、既存の制度を強化し、新しい制度を設けて、事故防止の全体的な目的達成のために努力している。過去20年の間に展開された安全運動の成果によって、十分な情報と自覚をもった労働者が増加し、インドにおける労働安全衛生の状況は改善されつつある。



付録
労働安全衛生マネジメントに関する法定の許可、承認


A. 工場法:主任工場監督官(CIF)から

1. あらゆる建物を工場として建設、拡張、または使用する許可

2. サイトおよび建物の計画の承認

3. 州サイト評価委員会によるサイト評価(危険プロセス・ユニットについてのみ)

4. 工場建物の安定性証明書

5. 工場の登録申請および占有の届出

6. 工場の許可申請、許可更新申請

B. 環境保護法およびそれに基づく各種規則:中央/州汚染規制委員会から

1. (危険化学物質に関する)サイトの届出

2. 工程からの排出物の排出に関する同意

3. プラント運用に関する同意(大気汚染防止地域において)

4. 危険な廃棄物(18種類の規制値を超える数量の危険廃棄物を生み出す部門の)について、州環境許可部からの環境に関する許可

C. 一般損害賠償責任保険法

危険物質を取り扱うオーナーの一般損害賠償責任保険

D. 爆発物・石油法:主任爆発物管理官(CEE)から

1. 爆発物の製造、保有、使用、販売、輸送および輸入の許可

2. 石油の輸入、貯蔵の許可

3. 石油の陸上輸送の許可

4. 固定および移動圧力容器の設置許可

5. ガス・ボンベに高圧ガスを充填、保有する許可

6. 高圧ガスを充填したボンベの輸送許可

E. ボイラー法

主任ボイラー監督官からのボイラー使用許可証明書



この記事の出典「 INDUSTRIAL SAFETY CHRONICLE OCT.-DEC. 2000」は
国際安全衛生センターの図書館が閉鎖となりましたのでご覧いただけません。