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安全監査員の役割と必要な能力:インドNSCの考え方

R.P. BHANUSHALI 、 V.B. PATIL

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Industrial Safety Chronicle」2002年7-9月号 p.62
(仮訳 国際安全衛生センター)


 この論文は、安全監査員(safety auditor)の役割と必要な能力についてインド全国安全協会(National Safety Council, 以下NSC)の考え方の要点を述べるもので、20年にわたり安全監査を実施し、また社内監査、社外監査についての訓練を行ってきたNSCの豊富な経験を基にしたものである。

 NSCは安全・健康・環境の分野での全国規模の技術支援サービスを提供している、よく知られた団体であるが、ここ数年、企業からの安全監査の要望が増加しているというはっきりした傾向に注目していた。この分野で仕事をしている他の団体、コンサルタントも同様の傾向を感じていた。

 この傾向の背景には主として二つの要因がある。一つはグローバル化が進んでいること、もう一つは、一定の規定量以上の有害な化学物質を取り扱い又は貯蔵する施設の「占有者(occupiers)」に対して課せられる法令上の義務である。国際協力分野に参入している企業や、国際的な取引を行っている企業は、競争力強化、イメージアップのために、現在の安全・健康・環境に関するマネジメントシステムや実践、パフォーマンスを自分で継続的に改善していくことの重要性をますます実感するようになっている。彼らは自己監査に加えて、著名な団体に独立した監査をしてもらい、監査で指摘された勧告を実施することに対するアドバイスを貰うことにも熱心である。従ってそのような団体は、そういう実践的なガイダンスを提供する能力や、企業のさまざまな従業員に対してニーズに基づいた訓練を考案して実施する能力を持つことが求められる。

 従って、安全監査員は、安全監査を構成する要素の中では、他の要素すなわち企業や規制当局などと比べて最も重要なものである。監査プロセスに対する信頼性や信用は、主として監査を行う者の能力にかかっている。このように安全監査員の役割は、安全監査システムにおいて、求められる結果を達成するために決定的なものである。

 この安全監査制度を実効あらしめるためには政府が重要な役割を果たす。それは、制度の枠組み、安全監査員の能力を強化すること、安全・健康・環境監査員の訓練と認定(accreditation)のために独立した制度を作ることにおいてである。


安全監査員の訓練と認証(Certification)


 NSCは1992年から、3日コースの「安全監査」に関する特別訓練プログラムを定期的に行ってきた。これまで21回の訓練を実施し、産業界からの約1100人が受講した。プログラムは、安全監査や、それに含まれる種々の技法に対し正しい理解を得ることを目的として作られている。そして産業界が安全監査について識見を広げ、内部安全監査員を育てるのを助けてきた。また、外部安全監査員として個人のスキルを磨くためにこのプログラムを役立てた人もいる。この訓練プログラムは有能な安全監査員をさらに教育するには十分ではないが、有能な安全監査員を育てることを主たる目的とした総合的訓練プログラムの予備講座としての役割を果たしてきた。

 時間が経過して経験が蓄積されると、懸念される部分も出てきた。一つはある種のコンサルタントによって行われる監査の質、もう一つは単に法的義務を果たすためだけに監査を受け、本当に改善しようという気のない一部の経営者である。安全監査員の訓練と認証のための独立した仕組みを、国内で自治組織(autonomous Board)の下に作るべきだという考えが政府や産業界でだんだん強くなっている。実際、そのような仕組みを作ろうという提案が「5年計画」の中に出されている。

 NSCはインド政府の計画委員会(Planning Commission)が「職場の安全衛生」に関しての提案書を作成するために立ち上げたワーキンググループのメンバーであった。安全監査員に対する認定を行う問題はワーキンググループで審議され、その趣旨での案が準備された。そして、安全監査員に認定を与えるために全国レベルの認定機関を作ることが提案された。また、この認定を定期的に評価し更新していくことも検討されるはずである。

 NSCは世界銀行(World Bank)を介してインド政府に対し、安全監査員が必要な能力をつけることに役立つ3つのモジュールから成る3週間コースの訓練を提案した。世界銀行は、インドのNSC、米国のテキサスA&M大学(Texas A&M University)、米国の世界環境センター(World Environment Center)のコンソーシアムがインド政府のために行った、「産業安全と災害防止プロジェクトの可能性調査(Feasibility Study on Industrial Safety and Disaster Prevention Project)」に資金援助を行っている。そのプログラムは付属書1に示されている。このコースが国の諸地方で特定の専門団体で実施され、安全監査員を認証するための要件の一つとすることが提案されている。


包括的な監査対象範囲と学際的監査チーム

 NSCは安全監査を行っている主要な団体である。これまで15年間に154の安全監査を行い、それに加えてHAZOPやリスクアセスメント、非常時対応計画等の技術的任務も行ってきた。(付属書2参照)

 監査の対象範囲は、経営者の要求、関係するコンサルティング機関からの助言に基づいて、事業所で異なる。しかし一般に近年、監査の範囲は非常に拡大している。多くの事業所が包括的安全監査を要求するようになってきており、その範囲を付属書3に示す。対象範囲にリストアップしたトピックから、労働衛生と環境の側面もカバーされていることが分かるだろう。従ってこれは単なる安全監査ではなく、安全・健康・環境の監査になりつつあるのである。さらに、監査は安全マネジメントシステムと手続きに限定されず、安全に一定の影響をもつ多くの技術的システムと方法(例えば保全の基準と方法、腐食監視システム、機械・電気設備保全方法など)も対象としている。このように監査対象が包括的範囲となると、監査の目的を達成するためには監査チームの中に必要な知識があることが要求されるようになる。NSCの監査は種々の技術分野の専門家からなる学際的チームによって行われる。このような方法をとらないと、監査チームが目的を達成出来ないこともあり得る。従って経験を持ち必要な資格をもった専門家による学際的構成の監査チームを奨励していくべきである。


全国レベルの規格と実施準則(Code of Practice)

 安全監査に対する要望が増大していることに対応して、インド規格局(Bureau of Indian Standards)はインド規格IS 14489 「労働安全衛生監査に関する実施準則(Code of Practice on Occupational Safety and Health Audit)」とIS 15001「労働安全衛生マネジメントシステム−標準と使用のためのガイダンス(Occupational Health and Safety Management Systems - Specification with Guidance for Use)」をそれぞれ1998年と2000年に発行した。NSCはこれらの規格の原案を作るにあたり、主導的役割を演じた。これらの規格を発行した産業安全部門委員会(Industrial Safety Sectional Committee)の議長はNSCの専務理事が務めた。これらの規格は強制ではないが、監査団体や監査を行う個人が、この中のガイドラインを活用することにより、監査の客観性と質の向上に役立つことが期待される。

 さらに、これらの規格を基にして認証を行うことが積極的に検討されている。そのような認証システムを確立するためには、安全監査の種々の要素、さらにその下部要素の点数付けシステムと標準的な記録方式を開発することが必要条件となろう。インド政府労働省(Ministry of Labour)とNSCが行っている安全表彰制度は、そういう点数付けシステムの基準を考えるための基礎となりうるかもしれない。そのようなシステムによって作られた基準は安全監査員にとって更なるガイダンスとなり、彼らの能力向上と主観低減に役立つことは明らかである。


個人より団体が望ましい

 団体に所属するもの、或いは著名な専門団体の会員となっているものは優先的に安全監査員の認定を与えるべきである。なぜなら、組織的な支援を受けることができるし、団体が整備している情報バンクを利用することもでき、従って状況の変化に応じて能力を維持することができるからである。


安全監査員の技術知識、技術、個人的特性

 教育、実務経験、訓練、監査経験が有能な安全監査員となるための知識と技術を獲得するための方法である。従って安全監査員としての認定を与えるためにはこれらの点が考慮される。認定された監査員は安全オフィサー(qualified safety officer)と同等の能力を持ち、上で提案された認証(certification)コースを受け、認定安全監査員の下で最低3年の安全監査を行った経験を有しているべきである。個人の特性例えば解放的な態度、ルールを遵守すること、多才なこと、社交性等は有能な安全監査員となるために不可欠のものであり、認定付与に当たってこれらも考慮するべきである。


結論

 提案された安全監査員の訓練と認定のプログラムは、適切に作られて適切に実施されれば、安全監査員の能力を向上させるのに確かに効果的だろう。

 安全監査がよく訓練された認定安全監査員により実施されるならば、質の高い安全監査となり、インド産業界の安全パフォーマンスを改善するという全体的な目的を達成することになるだろう。


 この記事の出典「INDUSTRIAL SAFETY CHRONICLE July-September 2002」及び付属書1〜3は国際安全衛生センターの図書館が閉鎖となりましたのでご覧いただけません。

"Paper presented at the 10th National Conference of NSC, India on 'HSE Challenges in the Era of Globalisation' and Published in the Industrial Safety Chronicle July-September 2002."