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インド 小規模企業における労働安全衛生および環境対策−背景情報

資料出所:National Safety Council (NSC)発行
「Industrial Safety Chronicle」2002年1-3月号 p.33-37
(訳 国際安全衛生センター)


はじめに

インド経済の小規模産業部門は、力強く、活発なセクターとして成長してきた。このセクターは工業生産高の40%、全輸出高の35%を占めている。そして国内の約300万の企業で約1,670万人を雇用している。このセクターは才能ある企業家を養成する場になっている。7,500品目を超える多様な製品を生産し、低所得層に安価な消費財とサービスを提供している。小規模産業部門にはある種のハンディがあり、規模の経済の恩恵もない。小企業への支援は、ほとんど万国共通の現象といってよく、先進国、途上国を問わず世界中の国がなんらかの形態で支援を行っている。小規模産業部門は急速に拡大しており、インドが抱える失業などの基本的問題の解決策となりうる。インドの産業の発展において、ますます重要な役割を担い続けるであろうことは、多くの事実からうかがえる。技術と資金の両面で魅力的な投資先であり、これによって急速な成長と継続的な技術革新、将来の品質改良が進む。

小規模産業と関連業種の分類は、自社所有、リース、分割払い購入を問わず、工場と機械への投資額1,000万ルピー以下が基準になっている。「輸出企業グループ」(EOU)は、年間生産量の30%以上を、生産開始から3年以内に輸出することを義務付けられており、固定資産(工場と機械)への投資額が3,000万ルピー以下と規定されている。

小規模産業(SSI)の利益を保護し、企業として生き残る力を強化するため、政府は特例措置、分類基準の投資上限額の見直し、近代化、技術革新、市場支援などの対策を随時とってきた。現在812の品目について、SSIの独占的生産とする特例措置がある。ただし、大企業による特例品目の販売への規制や制限はない。SSIに独占的生産を認める特例措置は、定期的に見直されている。政府は、SSIが生産した品目の調達に対する優遇措置も拡大してきた。政府は最近の改革のなかで、外国からの直接投資、成長センターの確立、輸出促進、マーケティングなどのために多数の新規対策を講じてきた。

役割と機能

小規模産業および農業・地方産業省は、小規模産業の政策立案、促進、開発および保護を担当する中心的な省庁である。同省は、これらの政策の実施状況も監督する。

同省は、現場機関を通じて、コイア産業を含む小・零細企業の促進と成長のための政策を立案し、実行する。また小規模企業セクターの立場に立って、他の省庁との調整も行う。

註) コイア産業--- ココナッツの繊維でロープなどを作る産業

小規模産業育成に携わるその他の主要機関

  1. 小規模産業開発長官(DC SSI)
  2. 小規模産業委員会
  3. カディー(手紡ぎ手織りの綿)および村落産業委員会(KVIC)
  4. 国立小規模産業公社(NSIC)
  5. コイア委員会
  6. この他、化学・関連物質、電子・電気、ガラス・セラミックス、機械工学産業のための資源センター、地域研修センター、現場研修ステーション、工具室も、小規模産業のための指針とサービスを提供している。

小規模産業の成長

小規模産業の堅実な成長は、計画的な経済開発のなかでも、もっとも際立った特徴の一つであった。過去30年できわめて急速に成長し、インドの社会的、経済的目標の達成に際して不可欠な役割を果たしてきたが、今後もさらに同様の役割を果たしていく可能性がある。この点は以下の表からも知ることができる。

企業数(単位10万) 生産高(単位:千万ルピー) 雇用数(単位:10万) 輸出高(単位:千万ルピー)
現在価格で換算 1990年−1991年の価格で換算
1991-92 20.82 178,699 160,156 129.8 13,883
1992-93 22.46 209,300 169,125 134.06 17,784
1993-94 23.88 241,648 181,133 139.38 25,307
1994-95 25.71 293,990 199,427 146.56 29,068
1995-96 27.24 356,213 222,162 152.61 36,470
1996-97 28.57 412,636 247,311 160.00 39,249
1997-98 30.14 465,171 268,159 167.20 44,437
1998-99(P) 31.21 527,515 288,807 171.58 49,461

小規模産業の成長機会が大きいのは、以下の要因による。

  • それほど資本を必要としない
  • 政府による強力な促進策と支援
  • 小規模産業による独占的生産の特例措置
  • プロジェクトの性格
  • 資金調達−財務および補助金
  • 機械の調達
  • 素材の調達
  • 人材育成
  • 技術および管理能力
  • 工具および試験に関する支援
  • 政府による独占的調達の特例措置
  • 輸出促進
  • 経済全体の成長による国内市場での需要増
  • インド製品の輸出力の向上
  • 大規模セクターでの新興企業増大による関連企業への需要増。小規模セクターの高成長により、インドは広範囲にわたる産業発展と多様化を実現できた。

小規模産業での疾病(経営不振)

小規模産業で発生する疾病は大きな懸念であり、論議を呼んでいる。産業部門での疾病は資源を制約し、資本的資産を浪費し、生産を低下させ、失業増につながる。また投資目的の銀行融資にも影響する。1999年末で経営不振企業は306,221社であった。

疾病(経営不振)の原因

小規模産業における疾病には多数の内的、外的要因があり、両方が絡み合って発生している場合が多い。具体的には、ずさんな計画、管理上のミス、非効率的な財務管理、資源の無駄使い、研究開発の軽視、技術と機械の陳腐化、未成熟な労使関係、需要不足、素材などの不足、停電、運転資本の不足、運転資本の認可の遅れ、タームローン認可と運転資本との時間的ずれ、その他のインフラの制約などがある。

疾病(経営不振)対策の戦略

  • 州段階多機関委員会(SLIIC)
    インド準備銀行は、政府の助言で州段階多機関委員会(SLIIC)を全州に設置した。当該州政府の産業部門長官を議長とし、インド準備銀行の地方計画と信用部門を担当する現地役員がメンバーとなって、中小企業が直面する問題についての情報交換と討議を行う効果的な場を提供する。またナヤック委員会とカプール委員会は、リハビリのための金利引き下げ、認定された経営不振企業の迅速な回復可能性調査と経営改善プログラムの実施、重要な地域センターと本部への担当室の設置を強調するとともに、銀行に対し、所得認定と資産分類の基準額を緩和して、存続可能な疾病発生企業の再建を引き受けるよう奨励している。

  • 技術管理
    Office of Development Commissionerは、1998年に技術革新と管理プログラムのための政策(UPTECH)を開始した。この政策は、特定の産業グループに適用され、対象グループの近代化と技術的ニーズを支援する。技術革新、生産性の向上、エネルギー節約、汚染管理、製品の多様化と販売、管理者と労働者の研修に関連した幅広い問題を取り扱う。

  • 品質管理のための研修と助言
    インド商工会議所連盟(FCCI)が、小規模企業向け上級研修コースを通じて各種の問題に関する研修と助言を行い、小規模企業の生産性と品質向上に取り組んでいる。また品質改善プロジェクト開始のための助言も行っている。

インド政府が労働省とDGFASLIを通じて国際労働機関(ILO)モデル(生産における安全)についての研修プログラムを実施している点も注目に値する。小規模企業はこれにもっと意欲的に参加するとよいであろう。

  • 世界の情勢とWTO
    小規模企業も世界情勢から無縁ではない。グローバル経済は、すべての途上国をクリティカル・パス註)の交渉に駆りたててきた。専門家は、自由化による雇用増大はインフォーマル・セクターにしか発生しなかったことを認めている。新しい経済政策には、市場参入と成長のための障壁を除去することで、システムを効率化する方針が取り入れられている。また研究開発費はすべて公的資金で賄われ、企業は資金提供を渋っているため、この点の改善が必要であるとことも指摘されている。

    註) クリティカル・パス--- 計画の進行状況をチェックする上で最も危機的で障害となる部分

    農業加工品産業の大半はインフォーマル・セクターに属しており、これに焦点を絞る必要がある。情報技術は中間的製品でしかないからである。国民の生計の必要を満たすためには、法律は柔軟に対応する必要があり、WTOの分野では小規模産業の市場アクセスを拡大しなければならない。労働安全衛生の問題はあらゆる性に影響されないようにする必要がある。労働安全衛生面での柔軟性は非貿易障壁になりうるからである。法律における柔軟性は、雇用に影響する場合にかぎって検討すべきである。数量規制が撤廃されると、小規模産業は安価な輸入品による圧迫を受ける。したがって、そうした品目の輸入には関税を高める措置を講ずるべきである。重要な前進を達成するためには、小規模産業が成長し、競争に勝ちぬく上での障害は排除することが望ましい。その利益を守るために、本当の意味での非貿易障壁を輸入品に課すことを検討すべきである。政府は、小規模企業を保護するための新しい方針案で、WTOに準拠して税金を引き下げるのでなく、国内小企業を保護するために輸入税を引き上げるであろうと指摘する専門家もいる。小規模産業は保護されたプールの中ではなく、大洋の中で泳ぐときが来たと述べる識者もいる。

統計データの収集

小規模企業セクターに関する計画立案と調整、研究開発の目的のため、Office of the Development Commissioner(小規模産業)の統計データバンク部門が、小規模産業のさまざまな面についての統計データの収集、編集、配布を行う。

意見と提案

インド商工会議所連合(The Associated Chamber of Commerce and Industry of India, ASSOCHAM)が、小規模産業活性化のための提案を行った。主なものは、小規模産業部門に関する単一の統一的な立法、小規模企業が中企業から大企業へと順調に成長していくための機会、小規模産業がWTO規定について直面する問題に対処する独自の法律部門の設立、小規模企業が技術革新用の銀行融資をPLRで利用できるようにすることなどである。

小規模産業の重要性が増していることをふまえ、ASSOCHAMは、小規模産業が知識産業、バイオテクノロジー、食品加工、ITサービスをはじめとするIT産業などのへの転換を目指すこと、サービス産業における事業機会に明確に焦点を絞ることを提案した。

技術革新については、CSIR研究所を活用して、小規模産業が技術的な選択肢や技術の吸収、生産性向上、輸入素材の代替品を検討するのを支援するよう提案した。

ASSOCHAMは、重点分野を選んでハイテク事業のインキュベーター註)を設立し、研究機関や学術機関からの技術の導入、商用化を通して、革新的な小規模産業を育成する必要があると考えている。また研究開発費用への重点的な税額控除を利用するための手続きの簡素化も主張している。

註) インキュベーター--- 新たに独立起業する企業のための支援機関

労働における安全衛生および環境

小規模産業における労働安全衛生および環境に関連した問題

以下は小規模産業での特徴的な問題だけを列記したもので、これがすべてではない。

  1. 危険な作業を行うケースも含めた企業での児童と女性労働者の雇用
  2. 長時間労働
  3. 劣悪または非衛生的な労働条件
  4. 適切な訓練と再訓練の欠如
  5. 旧式またはエルゴノミクスの面から見て不適切な機械、工具、設備の使用
  6. 不適切な職場整備
  7. 緊急退避口などの防火設備の不足
  8. 不適切なレイアウト
  9. 個人の安全、健康、衛生の無視または軽視
  10. 危険な機械への安全装置の未装着
  11. 個人用保護具の欠如または不足
  12. 全体および職場の汚染の無視または軽視
  13. 経済活動地域で企業に適切な指導とサービスを提供する機関の欠如
  14. 経済活動地域での十分な設備をもった労働安全衛生センターの欠如

以上の点に対する取り組みが真剣に行われれば、生産性と品質は向上するだろう。

労働法と政策

問題を解決し、前進への障害を取り除くため、インド政府は内閣官房長官を議長とするグループを組織し、小規模産業については定期的な監督を自主的な認可方式に変えることを検討している。検討グループは、「監督統治」によって小規模産業が直面する問題を討議した結果、小規模産業への障害を除去し、変化する情勢とWTO協定のもとで競争力を強化できるようにすることが合意された。

対策の一つとして、小規模産業による自主的な認可方式を認めること、臨検は利害関係者からの申し立てがあった場合にのみ実施するとの提案がなされた。また、監督官は業界基準の改善のために活用すべきであるとの指摘もあった。検討グループは、定期的監督の代わりに5%の無作為検査を取り入れたウッタル・プラデシュ州における経験を聴取した。また小規模産業を対象とした包括的な法律策定の可能性についても検討した。

多数の機関が、1948年工場法の適用対象を、動力を使用する労働者50人以上の工場、または動力を使用しない労働者100人以上の工場にすること、各種の当局機関に提出する報告書類が多すぎるため、これを合理化すべきであるとの提案がなされている。当局への報告書の提出手続きも簡素化すべきである。

アンドラプラデシュ州が小規模産業強化のために設置した合同検討委員会は、1948年工場法の第85条(同法を特定の施設に適用する権限)は、殺虫剤など特に危険または不安全な工程がないかぎり、小規模産業には適用する必要はないと提案した。また電子および組み立て、梱包などの業種では、建物の最低高さ要件(4.25m)を撤廃し、労働者1人当たりの室内の気積(14.2立方メートル)を緩和する必要があると具体的に提案した。委員会は、他の安全規定はそれほど大きな問題ではないとしたが、企業に負担を強いている保管義務のある記録の内容は検討の余地があると指摘した。

デリー首都圏政府は、中央政府が承認した政策に合わせ、知的産業であるITソフトウェアとITサービス企業を、工場、ボイラー、労働、汚染、環境、産業などでの定期検査の対象から除外するとの政策を発表した。またITソフトウェア産業については、以下の法令の規定からできるかぎり除外し、自主的認可方式にすることに原則的に同意した。

工場法
雇用交換(欠員の強制的通知)法
賃金支払い法
最低賃金法
契約労働(規制および廃止)法
労働者災害補償法
職場および事業所法
労働者州保険法

西ベンガル州は、地方の資源と技術力を活用すれば州全体での雇用と所得を創出できる可能性があることを重視し、家内および小規模産業の促進を目的とした大々的な政策を立案した。

ケララ州政府は、その労働政策のなかで、工場法や規則などの法令施行の効果をあげて職場の安全確保、職業的危険性および職業性疾病の排除をはかることを提案し、また産業の安全と汚染防止に関連した法律の徹底強化を提案している。さらに労働関係の法規を徹底する仕組みがきわめて不十分なため、労働法の多数の規定と、調査の必要な各種の事業所に対応できないと指摘している。提案された戦略では、現在の仕組みの負担を減らすとともに、事業主などの利害関係者に対し、この戦略に自主的な立場で積極的に参加するよう奨励する。

インド商工会議所連盟(FCCI)は、マクロ経済の検証のなかで、今日の契約労働法は、本当の意味での小規模起業家が産業にサービスを提供するのを妨げていると指摘している。またサービスの外部委託を後押しして新規雇用を創出できる近代的な契約労働法が必要だとも述べている。労働法とその手続きは、組織された労働者が作業を効率的に進める意欲を削ぎ、組織された産業が新規雇用の創出で利益を得るのを不可能にしていると主張している。インドの産業が中国と競争し、中国のように雇用を創出するためには、法律をもっと柔軟なものとする必要があると考えている。

この他、工場法による時間外労働の制限についての意見もあり、とくに小規模産業にとってはこれが障害となって、能力はあるのに輸出の注文に応えられないと指摘されている。

付言すれば、1948年工場法第66条に基づく午後6時以降の女性の就労禁止は、ムンバイの輸出促進地域の一部企業では、裁判によって施行が停止されている。

しかし安全専門家は「関連する法令の安全衛生規定を後退させるのではなく、特定の記録保管制度の簡素化を検討する可能性がある」ことを強調するだけである。

参照:

Survey of Indian Industries - The Hindu.
Web site of Min of Small Scale Industries Agro...Annual Report 99 - 2000.
Related web site for the Industrial/Labour Policies almost all states.
Joint Committee recommendations of AP government
Cabinet secretaries meeting with group
FCCI site
ASSOCHAM site
RBI site
Small Industries Management Association Cheenai, proposing a Law for SSI.
Proceedings of the National Commission of Labour Workshop
Web site of Laghuudyog.com