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技術基準
木工機械の安全性:労働者の経験を生かして

資料出所:the European Trade Union Technical Bureau for Health and Safety (TUTB)発行
「Newsletter」 No. 18 March 2002 p.20-23
(訳 国際安全衛生センター)
                         
スウェーデンの労働組合(LO、スウェーデン労働総同盟)の協力を得て行われた1997年のデータ収集プロジェクトに続いて、木工機械の安全性に関する技術基準の有効性を評価する際に労働者や企業を参画させるための調査プロジェクトを、TUTBがSindNova(イタリアの労働組合協会)に委託して開発した。

プロジェクトは1999年にイタリア、トスカーナ地方でシエナ地方衛生当局 (USL)のファビオ・ストランビらによって実施された。結果は、「ヴァル・デルサにおける木工機械の安全性:エルゴノミクスと技術基準。ユーザー情報に関するデータ収集」という題名で、木工業界における安全性、エルゴノミクス、及び技術の基準化を取り上げた一連の論文とともに出版された(差し込み広告を参照)。

本稿では、上記プロジェクトの方法論及び主な結果、並びに将来の展開についてレビューする。現在、上記のイタリアでのパイロット・プロジェクトの結果に対するTUTBのフォロー・アップ・プロジェクトが進行中だが、それについても述べる。

はじめに

トスカーナ地方のヴァル・デルサで地方衛生当局(USL)と共同で行われたプロジェクトの目的は、特定の危険性の高い業界環境における参加型モデルを導入することによって、機械の使用者からの情報を収集して機械の技術基準を改善するための戦略を練り上げることだった。

欧州の木材と木材製品業界は、1998年に、約90,000件の、3日を超える欠勤を伴う労働災害の発生に苦しんだ。1996年から1998年までの間に死亡事故は5.0%上昇した。このことは、製造現場において従業員9人に1人という高い危険性がある状況や、また相対的な発生率が業界平均を28%も上回るという状況を考えた場合、重大である。最後に、1999年の労働力人口調査では、職人(+64%)や据付け組立作業員や機械操作員(+55%)が特に危険性が高いグループであることが確認された。

イタリアの木工業界は、90,000社を超える企業から成り立っており、全体で370,000人の労働者(半数が職人)の雇用を行っている。このうち、100人を超える労働者を雇用する企業はほとんどない。

イタリアでは、木工業は一般産業の中で最も危険な職業の一つに数えられる。回転装置、裁断または剪断の刃、動いてはさむポイント、かみ合う歯車等が職場における傷害を引き起こす恐れのあるものの例であり、典型的な木工事故の場合、手がつぶれたり、指を切断したり、手足などを切断したり、失明したりする。1997年に、イタリアでは、3日を超える病欠につながる労働災害の内、3,600件に木工機械が関与していた。このうちの過半数がトスカーナ地方で発生した。トスカーナ地方では何千社もある木工業界の中小企業が地方経済の最大の担い手となっている。

イタリアの状況

大統領立法令(DPR)1124号によって労働災害や業務上疾病に対する強制保険が義務付けられているため、国立労働災害保険協会(INAIL)が労働災害に関する主な情報源となっている。

INAILもまた、国の衛生当局に対して、保険適用会社全部の一覧表とともに職場における傷害や業務上疾病に関する年間データを提出しなければならない。その後、衛生省は地方当局すべてに関連データを送付する。INAILもまた、中央労働安全衛生庁ISPESLと協力して、職場の危険因子に関するデータの収集と分析を行うための新しい基準の開発に着手することになっている。しかし、それは今もたぶんに計画中の業務のままとどまっている。

しかしながら、立法令626/94(欧州法令89/391/ECを翻訳したもの)によって、イタリアの産業関連システムに、企業代表のための新しい枠組み、地方合同組織のネットワーク、三者間協議のための本店の統合が導入された。現在、労働者の安全代表(RLS)は安全衛生問題に関する情報、訓練、相談へアクセスする権利を有する。労働組合や使用者団体は地方合同委員会内で会合を開き、労働条件を改善するためのイニシャチブを議論し促進することができる。一方、災害防止・衛生常任委員会では、実践的な社会的パートナーの参画という枠組みの中で安全衛生規程の実施の運営上の問題を審査する。

基本的な情報源

プロジェクトの第1段階では、最も危険な機械を確認するために、木工業界の災害に関する数値がINAILとトスカーナ地方当局から選り集められた。

次に、調査を拡大してヴァル・デルサUSLから災害情報を収集した。ヴァル・デルサUSLは過去10年間労働災害関連の医療証明と警察の調書を収集している。

過去9年間にヴァル・デルサ地方で発生した最悪の災害に関するISPESLの調査報告を分析することによって、丸のこスピンドル・モールダーが災害の大半の原因となっていた事実がまとめられた。関連する技術基準や種々の技術的な文書もまた集められた。

その後、様々な組織が持つ機械の安全性に対する要望を確認するために、また第2段階の詳細戦略を練るために、地方の労働組合、使用者団体、及び様々な木工会社の労働者の安全代表(RLS)がワークショップに参加した。

ワーキング・グループの活動

木工機械が関与する災害の分析と関係者全員の予備的なミーティングは、どのようにして木工災害が発生したかについてより詳しい情報収集を行うためにどの企業を調査しなければならないかを特定するのに役立った。予備調査の目的は、調査対象の機械の作業環境を検査して、特別な危険因子を記述することだった。その後、詳細分析のために各企業の災害記録簿を調べて、丸のこスピンドル・モールダーが関与する災害を選び出した。

この時、個々の災害の徹底的な分析を行うことによって次の点を確認することが可能になった。
  • 機械設計の不良
  • 規制に沿った機械安全装置ではあるが、不適当または不完全な設計
  • 機械安全装置が所定の位置に設置されていたが、労働者が誤使用
  • 不適切な操作手順
その後、複数のワーキング・グループが形成された。各グループは(会社は異なるが)同じ機械を使う労働者、その機械の技術的な知識を有する従業員かつ/または使用者、公的災害防止サービスの技術スタッフで構成された。

最初に、各作業段階は「基本操作任務」に分割された。操作手順、知識基盤、危険因子、及び傷害防止に対する要因を確認するために「基本操作任務」の調査が行われた。労働移動、作業分野、周辺分野で行われている操作、作業分野に特有の危険、全従業員の相対年齢と業務経験、安全衛生に関する適用規則、異常または予測できない問題の認識について検討が重ねられた。

ちょうどこの時、災害の類型化の中で専門家が立てた仮説の検証を行った。その際、労働者が自らの作業環境を評価するのに大きな役割を演じた。その労働者の情報から下表のような表が作成された。

この組織的なアプローチは、公的災害防止サービスの専門家の監督のもとに行われた。専門家は自由な討論の場を作るための後押しや調整を行い、労働者の情報と過去の災害調査報告や技術基準規程3)とを比較検討した。

作業工程に関するこのような厳しいレビューは、製造業者が提供した取扱い説明書や使用者が編集した使用説明書の分析によってさらに補足された。

上記の取組により、下表に示すとおり、関連技術基準の規程を具体的に取り上げながら、推奨事項が作成された。

任務 操作手順 知識基盤 危険因子 傷害防止のための示唆
1.機械の作動 防護フードの選択と取り付け ボードの端でつまって切断しないようにするために角度付け作業では防護フードの変更がしばしば必要になる。 フード選択が不適切な場合のこぎりの刃に接触する恐れが生ずる。 不適当なフードで切断を行うことがないように付属品を取り付けるべき。防護フードの選び方に関して適切な訓練が必要。
2.小さな加工品の切断 刃に向かって加工品を押すためにプッシュ・ブロック(ブロック型あて木)またはプッシュ・スティック(スティック型あて木)を用いて、仕上げ作業を実施すること プッシュ・ブロックは、台木の特徴に応じて慎重に選ばなければならない。 作業の仕上げと角きりは操作員の手が刃と接触する危険にさらされる可能性がある。 このようなスティックは、慎重に選びさえすれば、カッティング・ヘッドまたは刃を通して押されるため、台木の手動調整をうまく保ったまま、手を防護できる。取扱い説明では適当なスティック選びを強調しなければならない。


3)特にEN 848-1:1998 (CEN/TC142) 木工機械の安全性 − 回転工具付き片側モールディング・マシン − パート1:シングル・スピンドル垂直モールディング・マシン、及びEN 1870-1:1999 (CEN/TC 142)  木工機械の安全性 − 丸のこぎり − パート1:丸のこベンチ(スライディング・テーブル有・無)及びディメンション・ソー

推奨事項 EN 1870-1:1999
改善を要する関連規程
基準は、フードの側面の端とリップ・フェンスとの隙間で防護フードとプッシュ・スティックの両方を使うようにするために、取り除く木片の最小寸法を定義することを製造業者に義務付けていない。防護フードの特徴に従って作業可能な台木の最小寸法を定義すべき。プッシュ・スティックを使用した場合でさえも防護フードを使用すべき。 5.2.7.1.工具の保護
5.2.9.安全器具

推奨事項 EN 1870-1:1999
改善を要する関連規程
工具(刃)や材料(特にある種の木材)を手で扱う時切ったり、擦りむいたり、刺したりする危険性が考慮されていないし、関連する危険性が危険一覧に含まれていない。工具や材料の取扱いに関して適当な手袋の使用が推奨されていない。工具や材料の落下から労働者の足を保護するために適当な安全靴を使用するような推奨がなされていない。 4.危険一覧
5.2.3.機械上の危険からの防護:工具ホルダー及び工具設計
6.3.取扱い説明書
機械のテーブルや延長テーブルの寸法、のこぎりのスピンドルの中心線とテーブル(または延長テーブル)の長手方向の端との間の距離、テーブルの高さに関する規程を、労働者の位置を考慮した一貫したエルゴノミクス的なアプローチにのっとって改善すべきである。加工品の転覆落下が一般的な事故原因である。テーブルの寸法に応じて、加工品の最大寸法や重量を示すべきである。 5.2.6.2.テーブル寸法
付録E 機械のテーブル及び挿入物の最小寸法
6.3.取扱い説明書

特定の基準規程で触れられていない推奨事項も別にまた分類された。

推奨事項 対象者
  • 除じんシステムの製造業者は、システムのライフ・サイクル上で設計性能を監視する方法に関する手引きをユーザーに提供すべきである。
  • 刃の近くで台木を操作している時に仕上げ作業をいかに安全に遂行するかについての情報を労働者に与えるべきである。いかにして定期的に防護・安全装置の経時的な特徴を評価するかについての情報とともに保守に関する情報を労働者に与えるべきである。作業装置の使用時に受けなければならない訓練に関する情報を労働者に与えるべきである。
  • 製造業者
  • 使用者

労働者には、安全作業の実践、機械の保護、及び保護装置についての知識を評価するためにアンケートも実施された。また、労働者は、同僚、使用者、及び製造業者に対する意見や見解も問われた。


結論及び所見

上記プロジェクトは、技術基準に、より安全な作業環境をより効果的に明記するために、事故やヒヤリハット事故に関するデータだけでなく作業装置に対するユーザーの体験をも収集することが有意義であることをうまく実証した。

このプロジェクトの方法論を(次のとおり)体系的に適用すれば、新規または現行の技術基準に対する推奨事項を開発するために特定の機械を監視できるであろう。

まず、産業分野、関連作業装置、及び地理的な範囲(調査すべき機械が十分普及しているような地域)を選んだ後、労働組合の代表者、公的災害防止の専門家、製造業者、及び労働者の安全代表から構成された監視団が、調査対象の作業装置が関与した事故やヒヤリハット事故を分類するための予備調査を実施する。

その後、特定の基準規程に対する推奨事項を作成するために、ワーキング・グループがあらゆる角度から作業活動を調査する。

監視団はワーキング・グループが作成した推奨事項を収集して、別の団体に提出するために一つにまとめ上げる。

製造業者に対しては、確認された問題の解決を図るように(例、保護システムをより一層使い勝手の良いものにすること4))機械の設計を改善すること、また取扱い説明書を関連するコメントや示唆された改善の観点から定期的に更新することが要請される。その後、その資料は(少なくとも付録IVの機械類に関しては)通知先団体に提出されることも有り得る。機械が関与した事故やヒヤリハット事故に関する情報収集も、製造業者に義務付けられる場合も有り得る。
使用者は、労働者の安全行動を強化させるような訓練の規程に製造業者の指示を組み入れることによって、その指示を十分生かすことになる。
労働者の安全代表は、労働者の要求や示唆に基づいて、使用者の協力のもとに個々の会社で行わなければならない適切な災害防止プログラムを確認するための手助けを受けることになる。
基準の開発者は、技術基準の5年毎の更新過程に関連した補遺を手に入れることになる。
公的機関は、既存の災害データベースを改善して、災害防止戦略を支援するために新しいデータベースを作成することが可能になる。

TUTBリサーチャー ステファノ ボイ
sboy@etuc.org



4)丸のこやスピンドル・モールダーが関与する災害の分析によって、労働者の保護は安全装置に左右されることが示された。安全装置は一定の業務に対して適宜選び、適切に設置し、正しく使用しなければならない。例えば、EN 1870は、のこぎりとの接触を避けるために装置を設置することや木片の拒絶に関して改善を必要とする。