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労働監督制度における諸課題
Challenges in development of labour inspection systems
P・W・マホンジ(ケニア)

資料出所:フィンランド労働衛生研究所
(FIOH:Finnish Institute of Occupational Health)発行
African Newsletter on Occupational Health and Safety
Volume 15, No.1, April 2005「Occupational health and safety programmes and management」 p.32-33)

(仮訳 国際安全衛生センター)


  ケニアの労働監督制度には2つの部門があり、1つは労働時間、賃金、労働条件等を扱う労使関係部門、もう1つは職場の安全、衛生、福祉等を扱う労働安全衛生部門である。本稿では、労働安全衛生部門について述べる。

 労働安全衛生監督の責任部局は、労働人材開発省、労働安全衛生局である。同局には5つの課があり、1現場活動、1衛生環境、1労働安全、1労働衛生、1情報・研修をそれぞれ担当している。労働安全衛生では苦情や事故による監督請求、定期監督等、必要に応じて様々な監督を行う。定期監督は年間計画と設定目標にしたがって実施される。監督においては通常、ケニア「工場等労働法」第514章への違反の有無を調べる。

監督制度が直面する問題

 「工場等労働法」では、経営者は安全な職場環境を確保し、労働者の健康にリスクが生じないようにする責任を負っている。長年行われてきた従来の方法では通常、工場にいる者が政府監督官による監督と違反点の指摘を待ち、違反があった場合は具体的な改善を行う前に裁判を受けることになっていた。監督が行われなかった場合は、ほとんど職場安全環境の改善は行われず、行われたとしてもごく基礎的なものであった。このような対処式手法の効果が薄いことが分かってきたため、次のような理由から変更が必要である。

1)近年産業活動の規模が拡大しているにもかかわらず、定期監督を行う監督官の数が不足している。この状況は政府の構造改革による行政簡素化により、さらに悪化している。このような状況下では、各企業の監督がいつになるか見当もつかない。

2)監督官は通常、監督時に政府が提供する交通手段を利用している。しかし厳しい財政状況のため、政府は十分な交通手段を提供することができない。監督官が増えたとしても、十分な交通手段が確保できなければ、急増する監督対象に追いつくことができない。

3)企業は、適切な訓練を受け、問題点を指摘し、実際的な解決方法をアドバイスできる監督官を必要としている。にもかかわらず、1990年代以降、訓練機会は減少する一方である。これはボランティアへの依存が大きいためであり、ボランティアの数は現在きわめて少なくなっている。この状況により、政府が質の高い監督を実施することがより困難になっている。

4)監督申請者の多くは、監督結果を証明する科学的データを監督官に要求することが増えている。現場の監督官は、この要求に対応できる機器を持っていない。したがって測定を政府だけに頼らない制度を作る必要がある。政府が承認し監督する者により、工場の調査や監督を行う制度は、1951年9月の工場法施行から効果を発揮してきた。衛生環境についても同様の対処を行う必要がある。

5)全ての経済活動を労働安全衛生法で管理しようとすることは、従来の制度では対処しきれない仕事の増大につながり、多大な負担増を招く。

6)これらの諸問題への対応は、いずれも資金を必要とするため、予算における労働省の優先順位が低いことがそのネックとなっている。したがって職場における事故や病気を予防するため、政府活動を補足する革新的な監督制度の導入が必要である。

これらの諸問題を解決し、職場環境を改善するため、ケニアでは最近、次の施策を導入した。

  • 各企業の安全衛生委員会を再活性化し、経営者と労働者が政府の関与を待たずに企業全体で労働安全衛生問題に取り組めるようにした。現在、各企業の安全衛生委員会は最低3ヶ月に1度会議を開き、各職場の定期検査を行うことが義務付けられている。この政策は企業の自己管理能力を拡大させることを目的としている。
  • 変化の一環として、安全衛生委員会委員は公認研修機関において研修を受けることが義務付けられている。委員が質の高い研修を受けられるように、研修機関が労働安全衛生研修を行う能力を証明し、公認を受けなければならない。また、研修においては労働安全衛生局長が定めるカリキュラムとガイドラインに従わなければならない。
  • 監査やアドバイスを通じて法規制遵守のための最も効果的な方法を経営者に提案する安全衛生アドバイザー制度を導入した。これにより、主なアドバイス業務を分担させることができ、労働安全衛生局はアドバイザー、経営者、労働者に対する技術的ガイドラインの策定や実施という基幹機能により集中することができる。アドバイザーは労働安全衛生の資格を持ち、5年間の労働安全衛生経験、技術分野の学位やそれ以上の国家資格を有する者のみが対象となり、労働安全衛生局により公認される。同局はアドバイザーの監査報告を行政に利用する。監査方法を標準化するため、同局では安全衛生監査実施手順を定めている。本手順は各安全衛生委員会委員にも有益である。
  • 各企業に安全方針の策定と有能な安全責任者の任命を義務付けることにより、企業の安全管理に客観性を導入する。
  • 医学検査規則により、指名医師の任命を可能にし、国内労働者の健康診断を強化・改善する。
  • 国内労働安全衛生の拠点となる情報センターを設立し、情報の伝達・交換を促進し、監督内容の向上を図る。

新たな諸問題

1.経営者のコスト面からの新しい制度への抵抗。これは経営者が安全衛生による利益を理解できていないことを示す。

2.通商産業省における投資促進政策との対立。安全衛生問題は投資コストを増大させると考えられている。

3.監督活動の計画・管理能力の欠如。政府政策として戦略計画を実行し、成果契約方式を導入することにより、改善が期待される。ただし、計画・管理官の育成が必要である。

4.円滑な引継ぎと高水準な活動の継続を実現するには、ベテラン監督官と若手監督官のバランスをうまく取ることが必要である。地元の利益を計るため、興味のある人が本分野の修士課程を得られるよう地域の大学に要請している。

5.法執行者と安全衛生アドバイザーによる問題対応本位の取り組みは、監督申請者にとって有意義で意欲のわくものである。ただし、有効に機能させるためには適切な訓練が必要である。

6.学校の教育課程に基本的な労働安全衛生教育を組み込むことにより、安全衛生意識の高い未来の企業人を育てる必要がある。

ケニア労働安全衛生局
現場活動課長補
P・W・マホンジ
ナイロビ
私書箱34120-00100