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ケニアの職場安全衛生と経営者の取り組み状況
Management perspective of workplace health and safety practices
in Kenya
S・K・カンゲテ(ケニア)

資料出所:フィンランド労働衛生研究所
(FIOH:Finnish Institute of Occupational Health)発行
African Newsletter on Occupational Health and Safety
Volume 15, No.2, August 2005「Occupational health and safety
programmes and management
」 p.41-42)

(仮訳 国際安全衛生センター)


  ケニアに安全衛生の概念が導入されたのは1951年と早く、この時に制定された安全衛生法である「工場等労働法」は、工場等の職場に雇用される人の健康、安全、福祉の増進を目的としたものである。

 後にこの基本法の条文をもとに、種々の活動に対する労働安全衛生規則が制定され、工場等の職場における安全衛生推進のための基準およびガイドラインとなった。これらの規則には応急処置規則(1977年)、目の保護規則(1977年)、木材加工機械規則(1959年)、ドック規則(1962年)、セルロース溶液規則(1964年)、電気規則(1979年)、建造物・工事規則(1984年)、安全衛生委員会規則(2004年)、健康診断規則(2005年)、騒音防止管理規則(2005年)等がある。

 これらの規則は全て、経営者と労働者、ならびに他の関係者が、職場で発生しうるハザードを抑制できるよう基準を定めるものである。それにより労働環境は労働者と経営者にとって安全なものとなり、その結果として生産コストの削減とともに職場の生産性を全体的に向上することができる。 

 職場における監督・監視のフォローアップのため、労働安全衛生局では過去に訪問・監督した全ての職場の記録を保持している。ケニア国内の全ての職場(工場等職場)は、法により登録が義務付けられ、全職場の約40%の登録が現在完了している。これらの職場の多くは労働安全衛生官が監督のために訪問した後に登録が行われている。多くの場合、職場の所有者は法の強制がない限り登録を必要と思わない傾向があるが、労働安全衛生局側の登録手続を取ることにより、最終登録までに安全衛生の促進に必要な対策等があれば、アドバイスを所有者に提供する。経営者組織の関与や、労働安全衛生管理者に対する広報・教育活動により、所有者も次第に前向きな対応を取るようになっている。

 ケニアでは、全ての建造物設計図について地元当局の承認を受ける法的義務がある。また、工場等の職場に用いられる建造物は、工事開始前に労働安全衛生局長の承認を受ける必要がある。所有者はこの際、法の定める安全衛生基準を満たすために必要な改善点についてアドバイスを受ける。工場等職場の設計図が地元当局に提出されたら、地元当局が最終承認を行う前に、労働安全衛生局により設計図の承認を受けるよう、工場等職場の所有者に対し指示が与えられる。この必要性により、審査・承認のために同局に提出される設計図の数が多くなる。

 安全衛生法により、設備や施設によっては定期的な点検が必要である。このような設備にはホイスト、リフト、チェーン、ロープ、巻き上げ機、クレーンその他リフティング機械、スチームボイラー、スチームレシーバー、エアレシーバー、圧縮・液化・溶解ガス用シリンダー等がある。これらの設備・施設は労働安全衛生局が権限を付与する公認有資格者により点検される。この有資格者の一覧は毎年発表され、設備・施設の所有者が有資格者に依頼し点検を受けられるようになっている。この施策により、設備・施設の安全性が向上し、保険会社も同様の検査を要求するようになったため、経営者も前向きに対応するようになった。

 本法は職場所有者に労働災害の報告を義務付けているが、報告されていないものも多い。所有者の多くは労働者の補償の目的でしか報告を行わず、それ以外の場合は多くの労働災害が報告されないままとなっている。

 2004年には、職場所有者者に対し、各職場に安全衛生委員会を設けるよう通達が出された。これは職場における自己管理能力を高め、労働安全衛生管理への労働者の参画を促すものであり、労働者と経営者が平等に委員会で発言権を持つという三者構成に基づいて実施された。この通達に対し、一部の企業では経営者が積極的に労働者の安全衛生教育に取り組み、職場の安全衛生意識は飛躍的に向上した。

 労働安全衛生法は、雇用前、雇用中、雇用後の労働者に対する健康診断を義務付けており、その費用は経営者が負担することとされている。この義務を遵守している企業もあるが、多くの企業は法的に強制されない限り健診の実施に対して消極的である。2005年4月、健康診断規則が発布され、経営者は特定の業務に従事する労働者に対し、労働安全衛生局長が公認する指定医師による雇用前健診と定期健診を受けさせることが義務付けられた。この規則により毎年の健診が強制されたため、健診を受ける労働者の数、ならびに労働者に健診を受けさせる企業の数が増加するものと期待されている。

 全ての労働者は、職場におけるあらゆるハザードから守られなければならない。この実現には、技術的対策の実施も必要となってくる。技術的対策が行えない場合には、人体に危害を加えうる作業に従事する労働者に対しては、法により作業衣、ヘルメット、安全靴、ゴーグル等の個人用保護具を支給することが義務付けられている。多くの場合、経営者は常雇い労働者に対してはこれらの保護具を支給しているものの、臨時労働者に対しては「臨時労働者は保護具を持ったまま辞めてしまい、戻ってこない」という理由で支給していない場合が多い。しかし、どのような労働者に対しても、平等に危険な状態から守る義務が法律に明記されている。

 また、経営者が労働者の作業中、職場に施錠している場合があるが、これは許されない。労働者が職場で作業中、非常口の施錠は必ず解除し、非常事態の際に労働者が簡単に開けられるようにしなければならない。経営者が不安に感じてドアを外から施錠する場合があるようだが、これは火事、負傷、病気など労働者が外部に出る必要がある事態に彼らの生命を危険にさらすことになる。このような施錠は法令違反であり、決して行ってはならない。

 最後に、定められた安全衛生基準の遵守に消極的な経営者がいるのは事実であるが、全ての職場における安全を確立するには、何としても消極的な姿勢は改めてもらわなければならない。

 労働者と経営者が安全衛生委員会にともに参加し、一体となることにより、職場の安全衛生に対する理解と受容を促進することができるであろう。また、委員会は労働者と経営者双方の意見や経験の交換を促進する機会ともなる。

 安全衛生のコストが企業にとって損失であると考える経営者もいるが、これは誤りであり、安全な職場の健康な労働者は、生産性の高い労働者であり、企業にとって貴重な財産であることを強調しなければならない。