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欧州とアメリカの労働災害発生率

資料出典:HSE
PDF形式An investigation of approaches to worker engagement[ 1.38MB ]
(仮訳 国際安全衛生センター)

欧州委員会統計局(Eurostat)および欧州連合加盟国は、欧州連合(EU)内の労働災害統計に一貫性を与える作業を進めている。これまでの作業の進展による共通定義(1)基づいて、Eurostatは労働災害統計を発表している。

Eurostatの調査結果やイギリス安全衛生庁(HSE)の調査によると、イギリスの死亡率は欧州でも最も低い範囲にあり、アメリカよりも低いことがわかった。

死亡者および休業4日以上の負傷者を、Eurostatの刊行物およびHSEの「安全衛生統計」シリーズから作成した以下の表1および表2にまとめた。アメリカの率はHSEの調査によるものである。

主な結果

表1
1996年の欧州およびアメリカの労働災害就業者
(「就業者」には被雇用者以外に自営業者を含む)
または被雇用者10万人当たりの死亡率および休業4日以上の負傷率
死亡率 休業4日以上の
負傷率
対象者
フィンランド 1.7 3,400

被雇用者

イギリス 1.9 1,600 就業者
スウェーデン 2.1 1,200 就業者
オランダ注1注2 2.7 4,300 被雇用者
アメリカ注2 2.7 3,000 就業者
デンマーク 3.0 2,700 就業者
アイルランド 3.3 1,500 就業者
ドイツ 3.5 5,100 就業者
EU平均 3.6 4,200  
フランス 3.6 5,000 被雇用者
ギリシャ 3.7 3,800 被雇用者
イタリア 4.1 4,200 就業者
オーストリア 5.4 3,600 被雇用者
ベルギー 5.5 5,100 被雇用者
スペイン 5.9 6,700 被雇用者

ポルトガル

9.6 6,900 被雇用者
ルクセンブルグ(注3) ―― 4,700 就業者

全般の注

出典はEurostat「1996年のEUにおける労働災害」、重要統計(Statistics in FOCUS)テーマ3-4/2000。オランダとアメリカの出典はHSE調査による。

Eurostat(EC統計局)は交通災害を除いている。Eurostatは交通運輸業の労働災害および道路上の交通災害を死亡率から除いているが、休業4日以上の負傷率には加えている。加えることの影響が比較的小さいからである。すべての負傷率は、農業(狩猟と林業を含む)、製造業、公益事業、建設業、卸売・小売・流通業、ホテル・レストラン業、金融サービス業および不動産事業の9部門に基づいている。

加盟国はそれぞれの死亡者数は、労働活動でのおよびそれに関連するすべての死亡者の報告を受けているので、完全であると推定している。

イギリス、スウェーデン、オランダ、デンマーク、アイルランドの5カ国の負傷統計は、労働監督官に対する事業者その他の者からの負傷報告に基づいている。Eurostatの休業4日以上の負傷率はこれら5カ国の負傷災害の過少報告を考慮したものである。その他の諸国の負傷統計は保険請求または社会保障制度に基づいており、比較的完全だと見なされている。

各国別注

  1. オランダの労働省は死亡率をEurostatが発表した86人の死亡者に基づいている。これらの死亡者は「即死」であり、1年以内の死亡者を含んでいない。またこの数字には道路上の交通災害を含んでいない。
  2. アメリカおよびオランダの負傷率は休業が1日ないし3日の一部の負傷者を含んでいる。これらは1日以上の負傷率である。イギリスのこれに相当する率は、労働力調査によると、2,550人である。
  3. Eurostatはルクセンブルグの死亡率を公表していない。同国の死亡者数は比較的少ない。
表2
1996年の産業別EU平均とイギリス就業者10万人当たりの
死亡率および休業4日以上の負傷率
産業区分(SIC92による) EU平均 イギリス
死亡率 休業4日以上の
負傷率
死亡率 休業4日以上の
負傷率
建設業(F) 13.3 8,000 5.6 2,700

農業(A)

12.9 6,800 10.8 2,000

運輸、倉庫、通信(I)

12.0 6,000 1.2 2,400

電気、ガス、水道(E)

5.7 1,600 1.4 1,700

製造業(D)

3.9 4,700 1.4 2,200
(製造業内訳)    
食料品、飲料、たばこ(DA) 4.7 6,600 0.9 na
(Not available)
非金属鉱業製品(DI) 8.1 6,500 1.4 na
(Not available)
基礎金属、金属製品(DJ) 7.7 8,500 2.1 na
(Not available)
木材、木製品(DD) 8.5 10,800 4.9 na
(Not available)
卸売小売業、修理(G) 2.5 2,400 0.4 1,300
金融仲介、不動産、賃貸、事業活動(J&K) 1.6 1,600 0.3 700
ホテル・レストラン業 1.1 3,500 0.3 1,500

表2注

Eurostatは死亡率および休業4日以上の負傷者についてのEU平均の出所はEurostatである。Eurostatは交通運輸業の労働災害および道路上の交通災害を産業別死亡率に加えており、それによって5.3というEU平均が生じている。

イギリスの産業別死亡率および休業4日以上の負傷率の出典は、「1997/98年安全衛生委員会年次報告書」および「1997/98年安全衛生統計」である。死亡率は事業者その他からの報告、休業4日以上の負傷率は労働力調査に基づいている。

交通運輸業の災害報告範囲は国によって多少の違いがある。その結果、Eurostatの交通運輸業、倉庫業の負傷率は、フランス、イタリア、イギリスの鉄道輸送、デンマーク、ギリシャ、フランス、イギリスの海上輸送、デンマーク、イタリア、オランダ、イギリスの航空輸送を除いている。

イギリスの4種類の製造業における死亡率は、被雇用者10万人当たりの率である。しかしこれらの業種における休業4日以上の負傷率は出ていない。何となればこれらが労働力調査の比較的少数の負傷者数から得られたデータであるからである。

労働災害統計出典の背景

比較上の一般的問題

  1. 各国はさまざまな方法で労働災害を定義し、報告している。その結果、一部の国での災害統計は各国の労働監督機関に対する事業者またはその他の者からの報告の副産物である。イギリス、アイルランド、デンマークなどがそれに含まれる。一方、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシャなどでは、統計の主な出所は保険または社会保障制度に対する請求である。オランダでは、統計は事業者の報告と社会保障請求の両者から作成されている。保険や社会保障制度の場合、過少報告のレベルが比較的低いことが特徴の一つで、従って災害統計はほぼまたはまったく完全である。一方、事業者の報告では、負傷者の報告の過少報告率がかなり高い。
  2. 多くの国の労働災害統計は作業中道路上の交通災害または道路上の車両で死傷した者が含まれている。イギリスおよびアイルランドの統計はこれらの死傷者を除外している。交通事故関連の労働災害は他の加盟国における作業関連死亡者の20%ないし40%を占めている。
  3. 負傷者の報告は加盟国のほとんどで、休業4日または2日以上を基準に報告されている。この分類には特に「重傷」と定義されるケースが含まれている。たとえば、表においてイギリスの休業4日以上の負傷率は、国内の報告規則に決められた重傷を含んでいる。

Eurostatの調整プロジェクト

  1. Eurostatと加盟国は共同で、欧州規模で比較可能な労働災害統計を作成し、発表するプロジェクトに取り組んでいる。このプロジェクトはHSEの調査方法の一部を利用し、労働災害の定義の一貫性を改善している。これまでに加盟国に示された提案の中には、以下のような災害データを統計局に提供することが含まれている。
    • 通勤災害は除外する。
    • 休業4日以上を基準とする。
    • 道路上の交通災害を特定する。
    • 同じ産業を対象とする。
    • すべての種類の雇用を対象とする。
    • 加盟国は、報告制度が事業者の報告を基準としているか、または過少報告が存在していることが明らかである場合には、傷害の報告レベルの推定を提出することになっている。イギリスの労働災害統計は事業者の報告と労働力調査を基準としており、これらの主要な提案に該当している。
  2. Eurostatの死亡率および負傷率についての表1および2は、全加盟国における死傷者報告制度が対象としている9部門を扱っている。それらの部門は農業(狩猟と林業を含む)、製造業、公益事業、建設業、卸売・小売・流通業、ホテル・レストラン業、金融サービス業および不動産事業である。これらは1992年産業分類基準のA、D、E、F、G、H、JおよびKに当たる。(訳注:前にも出てきましたが、アルファベットも8個しかありません)
  3. Eurostatによると、1996年には欧州連合域内で5,549件の作業関連死亡災害があった。その内4,858件は全加盟国の死傷者報告制度の対象である9産業部門で発生している。この4,858件を基準とした場合、1996年におけるEUの作業関連死亡災害発生率は、就業者10万人当たり5.3人になる。全災害の内、3,011件は輸送産業または道路上の交通災害と関連のない災害であり、この3,011件の「輸送と無関係」の死亡者をもとにすると、EUの輸送関連を除く死亡災害発生率は3.6人になる。イギリスではこの率が欧州連合の約半分の1.9人である。
  4. 公表された率は表1にまとめられているが、数字は便宜上四捨五入されている。Eurostatはスウェーデン、オランダ、アイルランド、デンマーク、イギリスについては、死傷者の過少報告が明らかなため、調整を加えている。イギリスおよびアイルランドの調整は全国労働力調査の結果に基づいて行われた。
  5. 各国はそれぞれ、産業部門に異なった雇用構造を持っている。その結果、加盟国の全産業を合わせた死亡率および負傷率は比較できないものになっている。一部の加盟国では、他の国より高リスク産業に多くの就業者を抱えているためである。このためEC統計局は各国の死亡率および負傷率を、EUの産業別雇用指数を共通基準として標準化し、この問題に対応している。
  6. Eurostatの統計はまた、リスクが高い産業部門と低い部門とを明らかにしている。表2を見ると、Eurostat資料による、EUにおける死亡率および負傷率(休業4日以上)平均とイギリスの死亡率とが比較できるようになっている。Eurostatは労働災害の全リスクを示すために、道路上の交通災害も含めているが、それでもEUの率がかなり高いことが大きく変わるわけではない。
  7. Eurostatはこれらの産業部門について各国別の死亡率を公表していない。しかしEurostatは死傷者と雇用に関する詳細な統計を作成しており、それから加盟国の主要産業部門について死亡率を得ることができる。表3はイギリスと他の4主要加盟国についての数字をまとめたものである。作業関連の交通災害はこのレベルでの比較を阻害している。イギリス、アイルランド以外の国については、Eurostatの数字が交通災害を含んでいるからである。

HSE調査:イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア

  1. HSEは1991年にフランス、ドイツ、スペイン、イタリアなど主要加盟国の死傷者統計の独自分析を始めた。この調査では各国の死傷者統計を調整し、イギリスの数字と幅広く比較できるようにしている。たとえば、各国の統計から交通災害を除き、5カ国の災害発生率を同じ方法で計算できるようにした。またこの調査では、定量化が困難な要素、たとえば各国の保険制度の過大または過少請求に基づくバイアス、なども考慮に入れた。この調査は、統計制度の違いにかかわらず、全産業を合わせた(およびほとんどの主要部門内の)死亡率および負傷率において、イギリスが他の主要加盟国より低いことを示している。
  2. この調査は1980年代後半を対象としたもので、他の国およびEurostatからデータが入手できた場合、1993年、1994年にも延長して死亡率を作成した。また調査はアメリカおよびアイルランドの死亡率を得るために拡大された。死亡率は被雇用者または就業者(被雇用者プラス自営業者)10万人当たりで現されている(傷害を受けた人々のグループにどちらが適切かによって選択)。従ってグループはイギリスとスペインでは被雇用者(農業だけは就業者)、フランスでは被保険被雇用者(給与労働者)、イタリアでは就業者、ドイツでは被保険就業者である。
  3. 産業別比較のために行ったこの調査の結果、イギリスの主要産業における死亡率は他の主要加盟国より低いことがわかった。ただし農業については、イギリスはドイツ、スペインと大差がない。

オランダ

  1. Eurostatは1996年にオランダで86人の作業関連の死亡者(交通災害を除く)が出ていることを明らかにした。これらの死亡者は「即死」で、事故後1年以内の死亡者は含まれていない。EC統計局はこうした場合の死亡者の統計は発表していない。表1の死傷者発生率は労働省が提供した死亡者86人のデータによるものである。

アメリカ

  1. 1996年におけるアメリカの労働力は1億2800万人弱で、イギリスの5倍に近い。この膨大な労働力の作業関連の死亡者や負傷者についての推定は、さまざまな機関から提供されている。表1の数字は全米安全評議会(National Safety Council=NSC)の「災害資料1998年」に出ている統計によるものである。アメリカの死亡率は労働統計局が行う事業場調査に基づいている。それには道路上の交通災害は含まれてない。
  2. NSCは1996年中に自動車関連を除く災害のために、約380万人が身体機能を損なう傷害を受けていると推定している。NSCはこの推定を全国衛生統計センターのデータから得ている。「身体機能を損なう」(disabling)という言葉は、死亡、ある程度の恒久的障害に至る傷害、または傷害を受けた者が傷害の日以降、一日中その義務または活動を効果的に遂行できなくなることを意味する。アメリカの負傷者発生率はこの労働力中の380万人の推定負傷者に当たる。実際に、アメリカにおける負傷率は休業2日以上の負傷者発生率である。被雇用者および自営業者10万人当たり2,970人に相当する。イギリスの休業2日以上の負傷者発生率は労働力調査(LFS)から推定された2,550人(1993年)である。
表3
イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペインにおける6産業部門の死亡率(1996年) 就業者
または被雇用者10万人当たりの死亡者および休業4日以上の負傷者
産業 イギリス ドイツ フランス イタリア スペイン
1996/97年 1997/98年 1996年 1996年 1996年 1996年
農業 10.8 7.5 15.4 12.1 14.4 4.2

製造業

1.4 1.4 3.2 4.1 6.2 8.4
建設業 5.6 4.6 8.6 20.8 17.6 28.9
輸送業 1.2 1.7 15.6 18.3 14.5 21.3
卸売小売業、修理業 0.4 0.4 2.5 4.2 2.4 3.8
ホテル・レストラン業 0.3 0.1 1.0 0.3 1.5 1.9

表3全般の注

死亡率はフランスでは被雇用者、イギリスでは就業者、イタリアでは就業者、ドイツでは被保険就業者の10万人当たりの数字である。産業区分は1992年産業分類基準による。

出典はEurostatが作成した未公表の数字で、イギリスだけはHSEの年次報告書から再掲した。

作業関連交通災害はイギリスの死亡率からは除外されているが、他の加盟国では含まれている。

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