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労働安全衛生の問題点およびその対策

資料出所:中災防 研修生レポート

1. 問題点

いくつか明らかな問題点についてはある程度上記で述べたが、ほとんどの問題点は今日まだ未解決のままであり、新たな問題が表面に現れてきている。マレーシアが直面している労働安全衛生に関する今日の問題について以下に要約する。
  1. 安全衛生に関する意識と情報の欠如 労働者、特に海外からの労働者は、労働現場における安全衛生に関する規則に対する意識が低い。これらの規則は、しばしば労働者によって軽視されている。

  2. マレーシアへの外国人労働者の流入 外国人労働者の安全衛生に関する意識は、一般に地元の労働者に比べて低い。これら外国人労働者の多くは、建設業及び製造業部門で雇用されている。これら建設業で雇用されている労働者は、普通建設現場で仮設住宅を供給され、ほとんどの場合これらの住宅の状態は良くない。彼らの実際の人数は分からないが、労働者補償法のもとで労働部から外国人労働者に支払われた補償金の額は、1993年から1995年の間で増加している。

  3. 労働事故、薬害、疾病に関する中央政府の統計はない これらの統計は、三つの機関によって現在保存されている。社会安全協会(SOCSO)に事故が報告されているのは補償のためである。労働部は外国人労働者(合法的)、政府の肉体労働者およびSOCSOで守れない、給料RM400以下の政府被雇用者が関連した事故または負傷についての統計資料を集めている。労働安全衛生部(DOSH)は、地元または外国人労働者が受けた労働災害または疾病を記録している。しかし、DOSHに報告される症例数は、SOCSO に報告される数よりもはるかに少なく、DOSHによって保存されている統計資料は実際の状況を表さない。

  4. 執行担当官の不足 安全衛生法規は労働安全衛生部(DOSH)の執行担当官によって実施されている。1988年の執行担当官数は150人であったが、1992年にあった省庁の再編の結果として職員数が280に増えた(1994年現在249名の職員が実際に働いている)。職員数は190%の増加があったが、1994年の労働安全衛生法の実施で労働現場の適用範囲の著しい増加で相殺され、執行部門における被雇用者あたりの執行担当官の比は1:9,000から1994年の2月には1:30,000となった(1994年における執行担当官の数249人に基づき全被雇用者数を7.5millionと推定する)。

  5. 資格を有し訓練を受けた安全衛生専門家の不足 マレーシアでは労働安全衛生サービスが提供できる訓練された労働安全衛生専門家の数は多くない。政府部門では訓練された安全職員が249人おり、民間ではおよそ40人の専門家がいる。労働衛生では訓練を受けた医師と看護師はそれぞれ36人と14人と推定される。

  6. 労働者、監督者、管理職員に対する不十分な安全衛生訓練 国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が1992年の終わりに設立されたが、労働安全衛生に関する講習をキャパシティいっぱいに行っているとは言えない。たとえ今年の半ばまでにNIOSHが最大限活動したとしても、新安全衛生法が労働者に安全衛生講習を提供するように強調しているため、講習の需要に十分にこたえることはできないであろう。

  7. ローカルな事情を考慮して基準を設定するための研究の不足 現在、数箇所の地方大学でこの研究が行われている。国立労働安全衛生研究所(NIOSH)はこの分野での研究を行うことになっているが、1996年5月にならないと設備が整わないために開始されていない。

  8. 地方で作られたガイドライン及び実施基準(Code of Practice)の不足 ガイドライン作成及び実施基準の必要性が、安全衛生法の自己規制の取り組みにより高まっており、事業者は労働安全衛生対策を実行するときに実施の基準について言及する必要がある。今のところ、標準産業調査研究所(SIRIM)によって作成されたもの以外には、ガイドライン及び実施の基準は地方ではほとんど作成されていない。

  9. 労働疾病や薬害に関する資料の不足 回覧をすべての国立病院に配ったり、研修、演習そして会議を通じて、患者に接する医者に労働疾病や薬害例を報告することが法律で義務づけられていることを強調するなど、様々な努力がなされたにもかかわらず、取り組みが十分であるとは言えない。

2. 対策

この報告書で述べた現在の安全衛生の問題点により、結論は、意識の欠如、法執行、研究開発、基準設定及び情報交換網の不足であると言える。この問題の対策としては、著者の個人的見解であるが:
  1. 安全衛生意識づくり

    管理側、労働者双方とも昇進、実利及び意識づけなどの方法によって、研修や助言プログラムで学んだことを応用しようとする であろう。 その後労働現場に安全衛生カルチャーが生まれ、たとえば“ゼロ災害”といった目標の達成に導くであろう。 この観点から、政府は、この国のすべての事業者及び従業員に促進計画を通して安全衛生労働カルチャーを作り維持していく 姿勢を示さなければならない。 政府の努力と同時に、産業界は社内OHS運動、全国公開セミナー、展示会、VIPsによる工場訪問、安全衛生景品、社内討論、 ビテオ上映、新聞のOHS記事,OHSの歌、切り抜き、ラジオやテレビの公開討論会を開催しなければならない。

    安全衛生促進領域におけるもう一つの重要な開発は全国安全衛生表彰である。 これは、国内の安全衛生に貢献した個人と同様に、安全衛生実施に優れている企業を表彰するものである。 首相は、1994安全衛生運動実施期間中のスピーチで安全カルチャーを学童に教え込むことが重要であると述べた。 この点に関しては、現在小・中学校において多くの科目を通して安全衛生の認識が普及していることが認められる。 学校は今や、安全衛生に重点を置いて、整理整頓運動も展開している。 将来、安全衛生の認識を学校の教育課程や活動に融合させることに関して、すべての関係者よって継続する努力は為されている。

  2. 法執行

    当局は、監督官の専門性はある程度維持しつつも、監督システムを細分化すること、監督の重複は避けなければならない。 それはもちろん限りある人材を最も有効に活用する方法ではない。
    そのため、より柔軟に、効果的に監督システムを融合させることにより要求分野の監督官数の減少と同様に知識のある監督官を 養成できる。 特定な労働現場でなされる、より精密に専門化した検査が必要なときはいつも、技術部門の専門監督官が要求される。
    監督官が、選ばれた労働現場あるいは、事故発生率の高い、危険な環境またはプロセスがある部門での総合的な安全衛生の監督を 実施することを容易にするために、評価基準を含んだ包括的オーディットのチェックリストが導入されなければならない。 そのチェックリストはすべて安全衛生オーディットが行われる間用いられる。
    チェックリストシステムの実施により、問題のある又は危険性の高い労働現場での監督がより客観的で質の高いものになる。 最終的には、チェックリストはすべての労働現場をオーディットするために用いられ、それゆえ各労働現場の安全衛生水準は数字で 表されるようになる。
    この数量化によってすべての労働現場における安全衛生の実施のコンピュータデータベースが確立される。 安全衛生業務全体及び危険に基づくデータベースによる労働現場の格付けによって、近い将来優先的な監督が完全実施されるであろう。

  3. 研究及び開発

    労働現場における事故の防止には、危険を特定すること、およびいかに危険を除き軽減するかについて系統的な研究が必要である。 従って新しい技術開発及び新たな問題発生の際に危険を明らかにし、事故防止策を検討する研究が行われることが不可欠である。 この点に関して、我が国は産業の研究開発(R&D)活動が先進国に比べて基本的に不足しているということは、共通の認識である。

  4. 基準設定

    あらゆる労働安全衛生計画の根本的成功には実施基準の設定が不可欠である。これは重要な要素である。実施基準のない計画は羅針盤のない船のようなもので、どこに行こうとするかわからない。この点で実施に加えて、もう一つの政府の重要な役割としては、規則、実施基準及びガイドラインを通して労働安全衛生の基準を設置または推奨することがある。 国立標準作成団体、任意の協会、組合及び専門協会のような団体は、任意の事業者と同様に、労働安全衛生部(DOSH)のような政府機関と共に国内の特定の産業及びプロセスで使用される安全衛生基準の設置規則及びガイドラインを作成させようと努力を続けている。