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マレーシアにおける安全衛生委員会の課題
フズルル・ハク・アブド・ラジ(FDZLUL HAQ ABD RAZI)
国立労働安全衛生研究所情報技術広報部長
(Manager, Information Technology and Dissemination
National Institute of Occupational Safety and Health)

(資料出所:マレーシアNIOSH発行
「Buletin IKKPN」 Vol.8 No.5 /2000年12月号)
(訳 国際安全衛生センター)


1996年12月3日に労働安全衛生(安全衛生委員会)規則が施行された。この規則は40人以上を雇用するすべての企業、および長官が指定する企業に、労働者、経営者代表、書記、議長からなる安全衛生委員会を設置することを義務づけている。安全衛生委員会は労働者と経営者間の意志疎通のチャンネルとして機能し、作業場におけるすべての安全衛生問題を取り扱うとともに、OSHの基本方針、プログラム、手順を制定、計画、実施する機関である。委員会はまた事故を調査し、作業場の安全衛生点検を行い、少なくとも3カ月に1回の会議を開くことが規定されている。

マレーシア国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、1999年にその安全衛生管理者課程の参加者について調査を行い、マレーシアの各産業部門でのこの規則の実施および順守の状況を調べた。安全衛生管理者課程の参加者は、主に製造業、化学品、建設業、農業およびサービス部門など、各種の産業部門の中小企業から大企業を含む、企業の従業員である。この調査は次の4項目の調査を主な目的としていた。

  1. 安全衛生規則の順守率
  2. 安全衛生委員会の運営状況と効果
  3. 安全衛生委員会についての経営者の支持と意欲
  4. 安全衛生委員会が直面する問題点

順守状況

各種の企業からの合計136人の参加者が調査に応じた。136企業のうち88%の120社では、安全衛生委員会が設置されていたが、12%の16社ではまだ未設置であった。(表1参照)安全衛生委員会未設置の企業のほとんどは、経営トップの認識の欠如、意欲不足を主な原因に挙げていた。経営者の中には規則のことをまったく知らない者もおり、その他にも安全衛生委員会を設置するメリットについて、十分に認識していなかった。いくつかの会社は設立されたばかりで、まだ安全衛生委員会を設置する機会がなかったという。

この調査で明らかにされた興味ある事実の一つは、すでに安全衛生委員会を設置している企業の半分超(55%)が、1996年の規則施行以前に委員会を設けていることである。中には設置が1980年代という早い企業もある。1997年に設置した企業が14社(12%)、1998年が27社(23%)、1999年が13社(11%)である。(表2参照)規則施行以前に委員会を設けた企業の多くは多国籍企業で、親会社が母国で安全衛生問題について経験を持っている。

表1:安全衛生委員会を設置済み、または未設置の企業数と比率
安全衛生委員会をまだ設置していない企業 16社(12%)
安全衛生委員会を設置している企業 120社(88%)

表2:回答企業が安全衛生委員会を設置した年
設立年 1999年 1998年 1997年 1996年 1995年 1994年 1994年以前 不祥
企業数 13 27 14 10 7 6 23 20

安全衛生委員会の運営状況とその効果

規則を順守している率(88%)は高いが、これらの安全衛生委員会のうち「活動的」と見なされるものは半分未満(45%)に過ぎない。残りのうちの39%は「どうにか活動している」とされ、4%は「活動していない」状況である。委員会の活動状況が思わしくない原因としては、経営者のサポートがない、事業者、従業員双方の規則についての理解不足、情報や訓練の不足などが挙げられる。委員会の中には、規則の要件を満たすために名目上、設立されたものもある。

調査で明らかにされた注目される事実の一つは、委員会の活動が「どうにか活動している」または「活動していない」理由として、経営陣のサポートがないことに加えて、委員会のメンバーの意欲が不足していることが、挙げられていることだ。この現象については各種の理由が挙げられているが、共通しているのは以下の事項の自覚、理解が欠けていることである。

  1. 規則の要件
  2. 委員会を設置することの重要性や利益
  3. 委員会におけるメンバー各自の役割

上記の分析から、安全衛生委員会についての意識、訓練プログラムの欠如が、こうした問題の基本的原因であることが分かる。

意欲不足の原因に挙げられているもう一つの重要な理由は、委員会メンバーが職場での高い負担に加えて、別の「重荷」、つまり責任を負わなければならないという点にある。彼らは要するに、安全衛生委員会のメンバーとして新たな義務を履行する時間がないのである。これは実際に経営者が注意しなければならない重要な問題である。経営者は委員会のメンバーとして責任を遂行するために必要なサポートと時間を提供しなければならない、という法律上の規定は、1994年労働安全衛生法第27条と第30条、および安全衛生(安全衛生委員会)規則第22条に明確に規定されている。

委員会メンバーに対するサポートが不足しているその他の理由としては、彼らが全般に多忙であり、多様な仕事を抱えていて、出張や業務上のスケジュールが重なって、会議に出席する時間がとれないといった事情がある。こうした問題は解決できるものである。仕事の量が多いという問題は経営者の協力がないと解決できないが、出張や作業スケジュールの問題は、安全衛生委員会の会議日程を予め年間で固定しておけば、他のスケジュールをそれに合わせて組むことができる。

別の理由として、メンバーが出した提案について、経営者が何の措置も取らないため、メンバーが意欲を失ってしまうという問題もある。規則の第17条は次のように明記している。

  1. 事業者は副規則16(4)項に従って行われた勧告を、できるだけ早く実施しなければならない。もし事業者またはそれが権限を与えた管理者が勧告を実施できない場合、その理由を安全衛生委員会に通知しなければならない。
  2. 安全衛生委員会が、事業者またはそれが権限を与えた管理者が副規則(1)に基づいて提出した理由に同意しなかった場合、委員会は労働安全衛生部(Department of Occupational Safety and Health : DOSH)長官に、問題を解決するために作業場の点検を要請しなければならない。

このように事業者は、1994年OSHA第3条に従って規定された要素に基づき、委員会の勧告について「可能な限り」措置を実施するか、その他の方法を取る権限を持っている。このことを軽く見るべきではなく、事業者は委員会に対してその決定を通知しなければならない。

安全衛生委員会の設置に関連する問題の一つは、法律についての理解や知識が欠けていることである。その結果、安全衛生委員会があっても、法律の規定が守られていないことがある。調査における安全衛生委員会の10.8%は委員会メンバーを規定通りに構成していず、3.3%は最低3カ月に1回は開催するとした規定を守っていなかった。安全衛生委員会のメンバーに必要な訓練および情報を与え、メンバーがその責任を履行する能力を身につけさせるることは事業者の義務である。規則の第5章はこの義務について極めて具体的、明確に規定しており、能力が不十分なメンバーがその義務を適正に履行できず、そのようなメンバーを持つ安全衛生委員会が企業に利益をもたらさない理由を述べている。

安全衛生委員会の構成に関連するもう一つの違反は、多くの企業で労働者の代表を選ぶ際に、労働者に自分たちの代表を選出する機会を与えていないことである。調査に応じた企業の中には、少数ではあるが、労働者の代表を委員会に加えていないものもあった。これも法律の要件を理解していないためである。NIOSHは一般の人々に法律と規則を含むOSH関連情報を周知させるため、いくつかの措置を取っている。NIOSHはウェブサイトでOSH情報を提供するほか、DOSH事務所や、その他MSOSH、FMMなどの非政府機関を通じてパンフレットや書籍を出版、配布している。労働安全衛生法と規則を集めた法規集もNIOSHのOSH情報センターで販売している。詳細は電話、ファックス、EメールなどでNIOSHに連絡してほしい。

経営者の意欲

経営者の意欲はOSH規則の成功と実現に欠かせない要素である。調査によると、安全衛生委員会を設置した企業のうち、経営者の全面的なサポートを受けているのは55%に止まっている。部分的なサポートを受けているのが35.8%、経営者のサポートが全くない企業も9.1%あった。(表5参照)

安全衛生委員会および安全衛生活動全般に対する経営者のサポートが不十分なことには、多くの原因がある。主な原因は、経営者が利益に直接結びつく生産の増強を優先していることにある。この場合、経営者は利益を達成する上でOSHが持つ役割を十分に認識していないと言える。高品質の生産は労働者の安全衛生が十分である場合にのみによって達成できるし、事故や病気がない場合に最大の利益が確保できるからだ。事故の隠れたコストは大きく、経営者はそれを真剣に検討すべきである。同時に事業者は労働安全衛生の人間的な側面をよく考慮する必要がある。

経営者の意欲が不十分である別の理由は、1997年にこの地域をおそった経済的不況が挙げられる。そのため経営者は事業の生き残りに気持ちを集中しなければならなかった。事業の存続に集中するのはやむを得ないが、職場での安全衛生にも十分に関心を持つ必要がある。事故が多発すれば好況時でも事業を衰退に導くことは、ブーロー川のブライト・スパークラーズ(Bright Sparklers in Sungai Buloh)、ボパールのユニオン・カーバイド(Union Carbide in Bhopal)の例でも明らかである。安全は国の経済状況にかかわらず、維持しなければならない。

経営陣が職場での安全システムの確立にイニシアチブを取ることは、事故や病気の防止を成功させる重要な柱である。効果的な安全衛生委員会は、訓練や危険の予知、管理方法などとともに、安全管理システムの一部である。従って経営者の十分なサポートが得られないと、職場での安全衛生問題に十分に対処することができない。安全衛生委員会は経営者、労働者双方にとって、これらの問題を解決するための手段であり、方法である。

表4:回答企業の安全衛生委員会の構成状況
委員会メンバーの構成状況が規則に適合しているか。 適合している 99社 (83%)
適合していない 13社 (10.8%)
表5:安全衛生委員会についての経営者の意欲
経営者のサポート 全面的 部分的 サポートなし
企業数 66社 (55%) 43社 (35.8%) 11社 (9.1%)

安全衛生委員会に関連するその他の問題

回答者が示した共通する問題の一つは、委員会が作成または勧告したルールや手順が十分に執行、実施されないことである。これも経営者が委員会の決定をサポートしていないことの結果である。さまざまな部門の責任者が、安全衛生管理者によって首唱された安全手順の実施、会議開催などを無視する。安全衛生管理者に対する協力が得られず、場合によっては「トラブル・メーカー」とみなされることさえある。このようなライン管理者、経営者の態度は不幸なことであり、修正しなければならない。実際には、ライン管理者はそれが担当する部門の安全に責任を負うべきである。それには次の三つの理由がある。

  1. ライン管理者または監督者は、それぞれの部門の作業、活動の専門家であり、安全衛生管理者よりも各部門における業務、工程、機器にともなう危険やリスクについての知識を持っている。
  2. 彼らは各部門の責任者として、部課に対する監督・管理権限を持っている。従ってほかの誰よりも職場での安全衛生問題を管理することができる。
  3. 企業の規模が大きい場合、組織内で中立的な権限ラインを通じて安全を分散管理する方が、数人の安全衛生管理者が多数の労働者を管理する集中管理よりも効果的な方法である。

結論

この調査では、1996年労働安全衛生法がかなり広い範囲で守られていながら、半分以上の安全衛生委員会の活動が不十分か、またはまったく停滞していることが明らかになった。多くの当事者が経営者の意欲欠如がこうした状況の主な原因であると述べているが、委員会メンバーの意欲が足りない面も調査は指摘している。双方の意欲不足に関連する問題点はこれまでに述べた通りである。

調査はそのほかにも安全衛生委員会に関連する問題を明らかにしている。たとえばメンバーの能力不足、実行や意志の疎通が不十分なことである。メンバーの中には職場における危険有害要因やリスク、労働安全衛生の関連する法律の要件について知らない者もいる。また安全衛生委員会のメンバーとしての役割や責任を軽視する傾向もある。こうした問題は彼らの訓練や情報が十分でないこと、引いては経営者がそうした責任を果たしていないことを示唆している。

安全衛生委員会の意志疎通の問題は、経営者と労働者代表の認識の相違に現れている。外国人労働者が関係している場合には、言語も障害の一つである。意志疎通の問題は安全衛生委員会、そのメンバーの役割が誤って理解される結果となる場合が多い。