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中小企業のための労働安全衛生訓練:
効果的なアプローチと実施方法

(資料出所:マレーシアNIOSH発行
「Buletin IKKPN」 Vol.8 No.5 /2000年12月号)
(訳 国際安全衛生センター)


はじめに

労働者の間で、安全で衛生的な職場を作り、それを促進する意識を高めることは、あらゆる企業の最高経営責任者(Chief Executive Officer : CEO)の重要な責務である。今日の競争の激しい、問題の多い労働環境の中では、訓練を通じて従業員の能力を向上させ、その技能を改善することが必要である。新しい技術の進歩のために雇用に関する需要がすぐに変わって行くからである。

訓練を受けていない、または訓練が不十分な従業員は企業に大きな損害を与え、引いてはサービスの低下、顧客の不満、コストの増大と事業の損失につながり、企業のイメージも損なわれてしまうことは否定できない事実である。

中小企業からの目標グループ

従業員の訓練が不足するのには、さまざまな原因がある。まず訓練を投資と見ないで、経費と見るためである。訓練は何か問題が見出された時に、特定の目的のために実施されることが多い。ほとんどの企業で、訓練は孤立した行事であり、人材開発の不可欠な一部になっていない。経営者も、効果的な方法による実施、十分な予算の割り当てのために彼らが努力することが、訓練の成功に欠かせないことを理解していない。さらに多くの企業では、従業員が実際にどのような訓練を必要としているかの適切な分析が行われず、そのために仕事上のニーズに関係のない従業員が訓練にかり出されることもある。

中小企業とは、従業員の数が少ない、または資本金の額が小さい企業である。そのリソースは小さいが、中小企業はわれわれの経済的発展に重要な役割を果たしており、国の経済成長に対する中小企業の貢献は無視できないものがある。これまでの経験、証拠によると、生産性の向上と職場環境の改善は、正しい安全衛生活動の方法と文化から生まれている。しかし残念なことに、国内の中小企業の多くがまだこのような労働条件を達成するにはほど遠い。さらに中小企業は自分自身を富ませるような正しい労働文化を持っていない。

中小企業が顧客のニーズを満たす上で抱えている、課題や制約を理解するために、これらの各種の企業が限定されたリソースを使いながら、欠陥を克服しようとしている姿を見てみたい。

家具、印刷、製靴、ろう染め、手工芸、木製品、自動車修理、食品、機械/自動車部品、金物、織物、窯業などでは、小規模の家族経営を何世代も続けている企業が多い。これらの中小企業の間では資金の制約が重要な問題の一つであり、そのため、こうした企業は利益、収益を生む活動に集中する傾向がある。オーナーの中には、正しい安全衛生活動が利益を生み、生産性を高めるという考え方を信じない者もいる。作業場の多くは排水、換気設備などが不十分で、十分な設備を持つ仕事場もないことがある。そうした問題以外にも、職場には古い機械しかなく、労働者を保護するための装置や設備が組み込まれていないことも多い。労働者もシステムをあまり理解せず、安全上の要件を知らないままに機械を操作している場合がある。高品質の材料が手に入らず、一方で市場からは高品質の製品を要求されることもあり、これらの中小企業は競争力を維持するために価格を引き下げ、他の社会的義務を無視する傾向にある。しかし1994年労働安全衛生法の施行によって、職場条件はしだいに改善に向かっている。ただ、中小企業での事故統計は、多くの事故が報告されないままであるため、信頼できる状況にはない。

訓練と開発:その原則とアプローチ

成人の教育には、生徒が学習に意欲を持ち、学習のプロセスに責任を持つこと、同時に自分自身の速度で学習に参加することが必要である。学習活動は既存の知識と経験から出発し、強制されない環境で実際的な方法を通じて学習するのが最善である。どのような学習プロセスでも、参加者の行動の変化から成功の程度を測定することができる。行動の観察は主に、a)認識、すなわち知識、b)技能、すなわち精神運動、およびc)態度、すなわち感受性の3点について行う。

中小企業に訓練プログラムを広げるためには、最初に企業のオーナーに個人的な接触または既存の協会などを通じ、情報を提供し、または積極的に勧誘することで、説得しなければならない。訓練による直接的な成果の例を挙げ、訓練を受けた労働者の実情を示すのも、間接的な普及戦略になる。このような戦略では、達成された成果を重点的に取り上げ、労働条件やその他の管理条件との関連、地域的な慣行の醸成を重視すべきである。

人種グループ、教育水準、年齢、従来の労働環境などの文化的背景も学習方法の選択に関係する。それ以外にも、中小企業が直面する制約や制限も、CEOに積極的な姿勢が欠けていると、訓練プログラムの円滑な実施を妨げることがある。参加者の正しい、積極的な意欲を高めることも、すぐれた訓練環境を作る上で重要であり、同時に訓練プログラムの焦点に合わせ方も大切なポイントである。従って、訓練パッケージを成功させるには、経営者の正しい動機付けとサポートが不可欠である。訓練を計画し、実施する担当者は、目標とするグループのために訓練を設計する前に、適切なアプローチ採用し、考慮すべきポイントを決めなければならない。

訓練テクニックを採用する際には、費用効果、必要なプログラム内容、適切な施設、訓練生や講師の適性や能力、学習の原則など、いくつもの要素を考慮する必要がある。しかし学習の目的は、これらの要素を目標グループとその訓練ニーズに合わせて調整することによって、達成することができる。上記の要素のどれに重点を置くかは、それぞれの状況や企業の労働条件によるわけである。

講師が利用する最も一般的なテクニックの一つは、ただ講義することである。それは一番安上がりで、準備にも時間がいらない。しかしこの方法では、受講生はほとんど参加することができない。受講生からのフィードバックと対話は、講義の間に討論や質疑応答の時間があってこそ可能になる。これらのテクニックを組み合わせると、受講生は自分たちの経験や意見を分かち合い、討議することができ、学習を深めることができる。しかしオーバーヘッドプロジェクターや白板、 フリップチャートなどの視聴覚教材を使うと、講師は詳細な説明をする際に、クリエイティブな方法を生み出すことができる。

一般に、テレビ、映画、写真、ビデオ、スライドなどは複雑な状況やシナリオを、絵画的または動画的な方法で正確かつ明確に伝えるものである。こうした方法は視聴覚に訴えるだけに力が強い。狭隘なスペースの危険有害要因、騒音問題、高所での作業、危険有害な化学品を使う作業などは、こうした方法で教えるのが最善である。ビデオや映画を使う場合、長すぎても効果がなくなる。5分から20分程度にすべきであり、見せた後で内容を説明しておくべきである。

事故の分析や災害のように実演的な方法が採れない場合、ケーススタディが最も適した方法である。受講生が実際のまたは仮定の状況、その状況の下での行動や決定を評価し、学習する、リアルライフのシナリオを提供するからである。リアルライフのシミュレーションに参加すると、たとえば水中の非常事態では何をすべきか、といった重要なスキルを学ぶことができる。こうしたシミュレーションから、受講生は実際的な経験を学び、救命という貴重な瞬間を処理する学習から高度な利益を得る。同じく実際的な経験を学ばせる参加型のアプローチとしては、役割演技方式がある。これは参加者グループがある状況での人々の役割を演技する学習方法である。このような演技を通して経験的な学習が行われ、他の者も演技を見ることを通じて学習する。しかしこうしたテクニックは特別な努力、広い知識、余分な時間、講師の準備が必要であり、あまり一般的ではない。

最近登場している新しい技術は、新しい種類の危険有害要因を伴っている。そのため、労働安全衛生上の問題解決に当たって、経験を積んだ労働安全衛生の担当者、学者との討議や新しいアイディアが必要になる。こうした学習、研究の機会は国内または国際レベルでのフォーラム、対話、セミナーの際に得られる。

受講生が機械を安全に操作し、機器を安全に機能させる技術を取得し、学習するには、実地訓練のテクニックがベストである。このプロセスでは、受講生が作業、その目的、所期の結果などを全体的に、訓練を通じて学ぶことができる。訓練は講師が理解する体系的な方法で順序よく進められ、その際には受講生の全面的な参加が必要である。講師による実演と説明、受講生の実習が何度も繰り返され、それを受講生が誤りなく自信を持って操作できるようになるまで継続する。現場の施設で行われる実地訓練とは別に通常、訓練施設で行われる実習訓練がある。これも受講生の参加による訓練である。実習訓練では訓練された専門家が課程に参加し、経験やノウハウを教えることで、受講生が特定の作業を遂行する能力を養う。

企業での仕事のローテーションは、労働者が昇格までに幅広い仕事を遂行する能力を育てる方法として、よく行われている。それはまた仕事の退屈さを解消し、欠勤や退職などの問題を解決する方法としても利用される。仕事のローテーションにおける訓練プログラムは、適切な業務指示マニュアル、経験を積んだ上司による指導、受講生による修練の繰り返しを目標にしなければならない。

参加型の訓練方式は、もしそれが可能であれば、必ず採用しなければならない。最大の学習利益をもたらし、訓練の成果を最高に高めるからである。情報技術の新しい時代には、自己学習や遠隔学習も、多忙で熱心な従業員には適した方法である。この方法ならば、従業員は自分のペースで学習し、自分のスケジュールで計画を立てられる。これは柔軟性に富んだ方法で、講師や教師の監督もなしに、インターネットやパソコンによる教材、情報をもとに学習を進めることができる。

専門的内容と必要な資金

訓練を目的とする専門的な内容の選択に当たっては、特定の目標グループについて、その背景、これまでの労働環境、訓練のニーズなどを十分に考慮した上で、明確で現実的、関連性の高い、達成可能な目標を持つべきである。仕事上のニーズに合った、一般的で実際的な次のような科目を選ぶことが望ましい。

  1. 十分な照明設備
  2. 作業場でのストレス
  3. 機械の安全性
  4. 騒音とその防止プログラム
  5. 労働安全衛生管理システム
  6. 法律上の要件と実施方法
  7. 福祉設備
  8. 施設の維持管理
  9. 中小企業のためのリスク管理
  10. チェックリストの作成と検査
  11. 高所作業
  12. 危険有害物質の管理
  13. 資材の保管と取り扱い
  14. 作業場の設計とエルゴノミクス問題

訓練モジュールを設計する場合、実際のプログラムを作成する前に、必要なスタッフ、訓練設備(教室や設計を含む)、視聴覚設備、予算配分などのリソースをまず検討し、特定する必要がある。これらのリソースが入手できるかどうかで、各プログラムの開発の順序や多様性が決まるからである。

モニタリングと改善のための評価

各訓練プログラムの終わりに実施される評価の目的は、訓練プログラムに関する各当事者からのフィードバックを分析し、受講生、講師の実績を測定し、課程の目的が達成されたかどうかを判定することである。受講生やその事業者の行動の変化を測定すれば、特定の訓練の成功度を知識や技能の取得、行動、態度の変化などによって示すことができる。評価の目的によって、口頭でのフィードバック、アンケート、単純なテスト、アセスメント、または試験など、各種の評価方法を使うことができる。

勧告

上記のような訓練アプローチおよび原則の成功は、企業の経営トップが意欲を持ち、動機に基づく態度をとり、自覚をもって問題に取り組むかどうかにかかっている。それでも訓練の成果を最高に高めるには、訓練を受ける参加者が個々に、すぐれた、技能の高い労働者になることを目標とし、その意欲を持つことが肝心である。

以下の勧告は、中小企業がそれらのための安全で健康的な職場を作ることを目標とする、労働安全衛生訓練プログラムに積極的に参加できるような、環境を作る努力の中で実現して行くものである。

  1. 政府機関、訓練機関、中小企業グループは、各種の産業からのグループによって考えられた、各種の労働者の訓練のニーズを明らかにするために、研究、調査をさらに実施すべきである。
  2. 政府機関は、産業の種類に従って適切な作業場などのインフラと基本的設備とを提供すべきである。それには道路や輸送機関、排水、下水、ITおよび通信、融資制度、関係産業の技術的情報などが含まれる。
  3. 政府機関は適正な方法によって法規を執行すべきである。
  4. 訓練機関は、多国籍企業の支援によって、各種の中小企業グループの多様な労働者のニーズにあった具体的な訓練プログラムを開発すべきである。
  5. マスメディアは、利用可能な手段とリソースを使って、中小企業のための訓練プログラムの開発、促進を支援すべきである。

結論

継続的な教育・訓練は、特に労働安全衛生の面を考慮にいれた中小企業のためのプログラムを必ず含める必要がある。既存の労働条件を向上、改善する精神の上に立った絶え間ない、一貫した努力は、中小企業のための労働安全衛生の夢を現実化する前提条件である。関係機関、政府、非政府機関のサポート、さらには産業界の自覚と献身的な努力があれば、マレーシアにおけるすべての作業場を安全で衛生的な環境にする目標は達成に近づくことができるだろう。