このページは国際安全衛生センターの2008/03/31以前のページです。
国際安全衛生センタートップ国別情報(目次)マレーシア:トピック> マレーシアにおける労働安全衛生のシステムとプログラム

マレーシアにおける労働安全衛生のシステムとプログラム
Abu Bakar Che Man
Mohtar Musri、マレーシア

(資料出所:ILO/フィンランド労働衛生研究所(FIOH)発行
「Asian-Pacific Newsletter on Occupational Health and Safety」
Volume12, number2, July 2005)
(仮訳 国際安全衛生センター)


はじめに

マレーシアにおける労働安全衛生は改善が進んでおり、その変化は国際レベルでの進歩と密接に関連している。職場の安全性についての問題は、20世紀初頭の錫鉱業の出現に端を発している。錫鉱の採掘では原動力として蒸気ボイラーが使用されていたが、このボイラーの危険性が職場の安全に対する懸念を引き起こしたため、ボイラーの使用を管理するための法律が州ごとに制定された。工業化の進むヨーロッパや加工業および鋳造工業などの関連産業からの旺盛な需要を背景として錫鉱業が発展し、やがて錫鉱の採掘に浚渫しゅんせつ機が使用されるようになったことから、職場の安全問題は一般機械の安全性へとシフトした。これを受けて、政府は1913年に機械法規(Machinery Enactment)を制定する。後にこの法律が改定され、錫鉱業におけるそのような状況の管理を目的とした1953年制定の機械政令(Machinery Ordinance)となった。

鉱業の発展と並行し、ゴム製品に使用するゴムの大規模栽培や、これに続くヤシ油用のヤシの栽培によって農業も発展を遂げる。これらの産物を処理するための処理工場が設立され、一方では農業化学製品や関連の化学製品を製造するための工場が増加したことから、問題の中心は工場内の安全衛生へとシフトした。これに対して政府は、機械の管理と工場における労働者の安全衛生確保を目的として、1967年に工場・機械法(Factories and Machinery Act:FMA)を制定した。

1986年、政府は天然資源のみを基盤とする経済から工業およびサービス業を基盤とする経済への移行を目指し、第1次産業マスター・プラン(First Industrial Master Plan)を立ち上げた。このプランによってマレーシアへの投資が盛んになり、電気およびエレクトロニクス、食品、繊維および衣料、化学、運送、機材、機械および機器、石油化学などの各産業の成長によってマレーシア経済は急速な発展を遂げた。急速な経済発展と工業化は労働安全衛生問題のさまざまな変化を引き起こし、機械・工場法による対応に限界が生じたため、1994年、政府は労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act:OSHA)の制定に踏み切った。

この法律は、各産業における問題に個別に対処することを目的として策定されているため、そのアプローチはこれまでとはまったく異なるものとなる。労働安全衛生法は、規範的法律である機械・工場法から大幅に方向転換し、基本原則として自主規制を採用して軍隊および商船での労働者を除くあらゆる労働者に対して適用される。すなわち労働安全衛生法は現場志向の法律であり、職場における安全衛生の確保に向け、事業者や労働者、さらには産業衛生、人間工学、労働安全に関わる労働安全衛生の専門家の自主的かつ積極的な関与を求める法律である。

これまでの労働安全衛生の状況変化に対処するため、労働安全衛生に関する法律の監督および施行の手法やアプローチも大きく変化した。規範的法律に基づいていた時代の監督指導担当官の役割は、職場でのハザードを把握し、事業者に対して状況改善のための取り組みを指導することであった。職場でのハザードへの対処については法律で詳細に規定されていたため、事業者や労働者が労働安全衛生の改善策の刷新に取り組む必要はなかった。実際に、事業者や労働者の一般認識は、政府が労働安全衛生の責任を負い、その改善のために政府が監督官を増員して監督業務を強化する必要があるというものであった。しかし、自主規制の導入により、監督官の役割は、技術的な監督の実施から、各企業の事業者の安全衛生管理に対する取り組みを労働安全衛生管理システムの基準に照らして監査するという役割へと変化した。

マレーシア政府は、2003年にマレーシア国家基準(Malaysian Standard(MS1722:2003))を制定した。これは、国際労働機関(ILO)の労働安全衛生マネジメント・システム2001(Occupational Safety and Health Management System 2001)についてのガイドラインを基本としたもので、職場の労働安全衛生管理における労働安全衛生法遵守のための参照基準として機能する。この現在のMS 1722.2003は、あくまでもガイドライン基準(Guideline Standard)であって、認定業務には適用できない基準である。この欠陥を補うため、政府は現在、労働安全衛生管理システムのための規格基準(Specification Standard)の制定に向けた最終段階の作業を進めており、この制定後には、マレーシア国家基準に対しての認定業務が可能となる。

マレーシア政府は、職場の労働安全衛生の持続的な改善に意欲的に取り組んでいる。2000年には、労働安全衛生部(Department of Occupational Safety and Health: DOSH)が5か年戦略計画(2000-2004)を策定し、安全かつ健康的な労働という意識をマレーシア国民全体に啓蒙するための取り組みを定めている。この計画には、(@)事業者による労働安全衛生の基準遵守および改善に役立つ関連法の制定や実施基準およびガイドラインの拡充、(A)系統的な研修の開発による監督指導担当官への新たな知識や技術の提供、(B)中小企業における労働安全衛生レベルの改善、(C)この法律に記載されるすべての業界における労働安全衛生法の施行、(D)公式の業界分類に該当しない分野への啓蒙活動などの戦略が組み込まれている。この計画の実行段階で、労働安全衛生部は2002年から2004年の期間を対象とした「労働安全衛生部の対応範囲および機能の強化」というUNDPプロジェクトを請け合うことができた。このプロジェクトは、この戦略計画の目的達成と労働安全衛生レベルを5年前の段階から数段階引き上げるための労働安全衛生部の取り組みに大きく貢献している。

労働安全衛生関連の法律

現在、マレーシアにおける労働安全衛生業務に適用される主な法律は、工場・機械法と労働安全衛生法である。工場・機械法とこれに基づく規則は規範的法律であり、現在も効力を持つものの、その廃止および労働安全衛生法に基づく規則や承認実施基準(Approved Codes of Practice)への置き換えが順次進められている。これらの主な規制ツールとは別に、法律の内容に安全衛生に関する規定が組み込まれる形で、特定の業界やハザードに適用される法律もある。これらの法律には、1984年制定の原子力エネルギー認可法(Atomic Energy Licensing Act)、1994年制定の建設産業振興法(Construction Industry Development Board Act)、1974年制定の農薬法(Pesticide Act)、1990年制定の電力供給法(Electricity Supply Act)、1993年制定のガス供給法(Gas Supply Act)がある。これらの法律と労働安全衛生法との間に矛盾や一貫性の欠如がある場合には、労働安全衛生法の規定が優先される。

業務上の災害や疾病が発生した場合には、1969年制定の被雇用者社会保障法(Employee's Social Security Act)に基づく社会保障セーフティ・ネットがその被災者に提供され、社会福祉上の保護措置が取られる。海外労働者または移住労働者については、職場での傷害または疾病に対して1952年制定の労働者災害補償法(Workmen Compensation Act)が適用される。表1は、マレーシアにおける労働安全衛生関連の法律および規則の一覧である。

表1  現在施行されている労働安全衛生関連の法律および規則の一覧

労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act)1994年 法律番号514
規則:

  1. 1995年 安全ポリシー例外規則(Safety Policy Exception Regulation)
  2. 1996年 重大災害危険の管理規則(Control of Industrial Major Accident Hazards Regulations)
  3. 1996年 安全衛生委員会規則(Safety and Health Committee Regulations)
  4. 1997年 危険な化学物質の区分・包装および表示規則(Classification, Packaging and Labeling of Hazardous Chemicals Regulations)
  5. 1997年 安全衛生管理者規則(Safety and Health Officer Regulations)
  6. 2000年 危険有害化学物質の使用及び暴露の基準についての規則(Use and Standard of Exposure of Chemicals Hazardous to Health Regulations)
  7. 2004年 危険な事故の発生、職務に起因する中毒および疾病についての報告規則(
    Notification of Accident Dangerous Occurrence, Occupational Poisoning and Occupational Disease Regulations)

工場・機械法(Factories and Machinery Act)1967年 法律番号169
規則:

  1. 1970年 安全・衛生及び福祉規則(Safety Health and Welfare Regulation)
  2. 1970年 蒸気ボイラー及び非加熱圧力容器規則(Steam Boiler and Unfired Pressure Vessel Regulations)
  3. 1970年 乗客及び物品用電動リフト規則(Electric Passenger and Goods Lift Regulations)
  4. 1970年 機械の囲い及び安全規則(Fencing of Machinery and Safety Regulations)
  5. 1970年 担当者規則(Persons-in-charge Regulations)
  6. 1970年 管理規則(Administration Regulations)
  7. 1970年 資格証明と審査規則(Certificate of Competency-Examinations Regulations)
  8. 1970年 適合性及び検査の通知規則(Notification, Certificate of Fitness and Inspections Regulations)
  9. 1978年 違反の和議規則(Compounding of Offences Rules)
  10. 1978年 和議可能な違反規則(Compoundable Offences Regulations)
  11. 1984年 鉛規則(Lead Regulations)
  12. 1986年 アスベスト加工規則(Asbestos Process Regulations)
  13. 1986年 建設工事及び土木工事規則(Building Operation and Works of Engineering Construction Regulations)
  14. 1989年 騒音ばく露規則(Noise Exposure Regulations)
  15. 1989年 鉱物粉じん規則(Mineral Dust Regulations)
  16. 2004年 適合性及び検査の通知(改訂)規則(Notification, Certificate of Fitness and Inspection (amendment) Regulations)

担当省庁

マレーシア政府は、労働安全衛生に関する政策の実行や、労働災害による障害や死亡に対する補償の処理を担当するさまざまな部局や機関を設立している。その中でも、労働安全衛生部(Department of Occupational Safety and Health:DOSH)、国立労働安全衛生研究所(National Institute of Occupational Safety and Health:NIOSH)、社会安全保障機構(Social Security Department:SOCSO)、および労働安全衛生評議会(Council for Occupational Safety and Health:NCOSH)が重要である。

労働安全衛生部(DOSH)

人的資源省に属する労働安全衛生部は、職場での労働者の安全、衛生及び福祉の確保を担当するとともに、職場での業務によって発生する安全衛生上の危険から職場以外の人々を保護するための業務を担当する。この担当業務を遂行するために、この労働安全衛生部は、(@)基準の設定、(A)法律の施行、(B)労働安全衛生の推進と情報提供という3つの重要な活動を行っている。労働安全衛生部は、労働安全衛生法や工場・機械法、およびこれに基づいて制定された規則の施行を担当する。労働安全衛生部は、約464名の監督指導担当官を擁しており、その内訳は正職員が412名、他の政府部局からの出向者が52名である。監督指導担当官の基本研修は、技術から薬品、看護、農業、森林および獣医学におよんでいるが、これはこの業務に分野横断的なアプローチが求められることを反映するものである。労働安全衛生部は、本部と13の州支部で構成される。本部は基準の設定、承認、認定、データ分析を担当し、州支部は職場の監督、管理システムの監査、法的手続き、事故や疾病および苦情の調査を担当する。労働安全衛生についての推進活動および情報提供活動は、本部と支部の両方が実施する。

国立労働安全衛生研究所(NIOSH)

国立労働安全衛生研究所は、労働安全衛生研修についての業界への支援、情報の提供、研究開発(R&D)、および推進活動を目的として、1993年に設立された。国立労働安全研究所は有限会社として設立され、15名のメンバーで構成される理事会の責任において運営される。理事会メンバーの3分の2は人的資源省大臣によって任命され、3分の1については、年次総会で同研究所所属メンバーから選任される。研究所の日常業務は、所長の管轄のもとで行われる。本部はセランゴール州バンギにあり、4つの地方事務所がペナン、ジョホール、トレンガヌ、サラワクに置かれている。

社会安全機構(SOCSO)

社会安全機構は、傷害および疾病の補償とリハビリテーションを担当する。社会安全保障機構は、事故や業務上疾病によって傷害または障害を負った被保険者に対し、タイムリーかつ適切に給付金の支払を行う。労働者が職場での事故によって死亡した場合には、その扶養家族に給付金が支払われる。これらの責務を遂行するため、社会安全保障機構は担当者の技術や専門性の強化、最新技術によるサービスの改善に取り組んでいる。社会安全保障機構はまた、その資金の維持および拡大に努めている。補償やリハビリテーションの提供以外にも、その強大な資金力を背景として、労働者の安全衛生の推進分野でも多大な貢献が可能である。社会安全保障機構の本部はクアラルンプールにあり、多数の支部をマレーシア全土に設置している。

全国労働安全衛生評議会(NCOSH)

全国労働安全衛生評議会は、労働安全衛生法の8項に基づいて設立された。この評議会の主な目的は、人的資源省大臣に対して労働者の安全衛生問題についてのアドバイスを行うことにある。この評議会の議長は人的資源省の副大臣が兼務する。評議会は、関連政府機関、労働組合、事業者組合、および非政府組織の代表から成る最大16名のメンバーで構成される。その主な目的は労働安全衛生の推進である。

建設産業開発局(Construction Industry Development Board:CIDB)

建設産業開発局は、品質と建設業界の高度な安全基準の確保を目的として設立された法人である。特に、建設産業振興法(Construction Industry Development Board Act)で定められるように、建設作業の安全確保や、建設労働者や監督者の技能の認定および認証などにより、建設業界の発展、向上、および拡大に取り組むと同時に、建設業界における品質保証を推進する。

その他の政府機関

労働安全衛生は本来的に多様かつ多元的な性質を持つことから、上記機関の他にも、労働安全衛生関連する個々の専門分野を担当する政府機関が存在する。特に、健康に関する情報と専門知識を豊富に有する保健省(Ministry of Health:MoH)は、労働衛生の分野で極めて重要な役割を担う。保健省に所属する医薬品管理局(National Pharmaceutical Control Bureau)は、1974年制定の毒劇物法(Poisons Act)で定められた「毒劇物」に分類される物質の使用についての規制を担当する。農業省(Ministry of Agriculture)に所属する農薬委員会(Pesticides Board)は、農薬の使用における安全確保を担当し、生産者および供給者に対する規則を通じてその規制管理を行う。科学・技術・環境省(Ministry of Science, Technology and Environment)に所属する原子力エネルギー許認可理事会(Atomic Energy Licensing Board)は、放射性の物質や機器に関連する衛生安全問題を統括する。エネルギー・電気・通信省(Ministry of Energy, Telecom, and Communication)に所属するエネルギー委員会(Energy Commission)は電気および電気機器に関連する衛生安全問題を担当し、建設産業開発局は、建設作業の安全確保を含む、建設業界の発展を担当する。

労働安全衛生プログラム

基準の設定

基準の設定は、労働安全衛生の方向性を明示する国家プログラムの重要な要素である。法律、規則、実施基準、ガイドラインによって、現場責任者が常時提供および維持する必要のある労働安全衛生の最低要件が設定される。基準設定は労働安全衛生部が担当するが、これは同部の中核業務のひとつである。基準設定のプロセスには、基本的に関係三者が参加するが、関係者はすべてこれに関与する。2004年には、労働安全衛生法に基づき、「危険な事故の発生、現場に起因する中毒および疾病についての報告規則(Notification of Accident Dangerous Occurrence, Occupational Poisoning and Occupational Disease Regulations)」が制定される一方、工場・機械法に基づく「適合性及び検査の通知規則(Notification, Certificate of Fitness and Inspection Regulations)」が改訂された。現在までに、労働安全衛生部は各種項目を対象として、2つの実施基準と34のガイドラインを発表している。最近発表された実施基準は、「職場での薬物・アルコール乱用の撲滅および防止についての実施基準(Code of practice on the Eradication and Prevention of Drugs, Alcohol and Substance Abuse at the Workplace)」と、「閉塞空間における安全作業についての実施基準(Code of Practice for Safe Working in Confined Space)」である(実施基準およびガイドラインの一覧は、労働安全衛生部のウェブサイトwww.dosh.mohr.gov.myを参照のこと)。
 労働安全衛生部以外にも、科学技術・イノベーション省 (Ministry of Science, Technology and Innovation)に属する基準部(Department of Standard:DSM)も基準を作成するが、これらの基準は自主的な取り組み基準に相当する。労働安全衛生関連の基準については、作成プロセスにおいて労働安全衛生部が入力項目を提供する確立されたメカニズムが存在する。

施行

労働安全衛生部は、その中核業務として規則の施行を担当する。同部は、1994年制定の労働安全衛生法、1967年制定の工場・機械法、1984年制定の石油(安全対策)法(Petroleum (Safety Measures) Act)の規則が適用される業界において、職場での規則の施行を実施する。施行内容は、次のように分類される。

表2  工場、機械設置および承認対象機械の登録(2004年まで)
番号 承認タイプ


2004
2004年までの累計
1 工場の登録
519
22,631
2 設置機械の登録
1,138
28,326
3 蒸気ボイラーの登録
372
10,039
4 非加熱圧力容器の登録
3,124
102,096
5 乗客用リフト、エスカレーター、小型エレベーターの登録
990
23,982
6 移動式クレーンの登録
197
13,769
7 その他のホイスト機械の登録
2,137
37,672

合計
8,477
238,515
表3 研修センター、有資格企業、有資格者の登録数(2004年まで)
番号 承認タイプ
2004年までの累計
1 認定研修センター
20
2 有資格企業
1,758
3 有資格者
26,825
表4 実施された法定検査のタイプおよび数(2003年、2004年)
番号 検査のタイプ
1 工場の法定検査
10,907
11,795
2 設置機械の法定検査
14,179
14,173
3 蒸気ボイラーの法定検査
5,485
6,357
4 非加熱圧力容器の法定検査
42,561
62,296
5 乗客用リフト、エスカレーター、小型エレベーターの法定検査
13,633
16,136
6 移動式クレーン車の法定検査
4,657
5,405
7 その他のホイスト機械の法定検査
19,848
23,536
8 水圧テスト/空気圧/蒸気ボイラーの操作/非加熱圧力容器
23,809
26,019

合計
135,079
156,717
  1. 機械の設計承認および工場と機械の登録
    蒸気ボイラー、非加熱圧力容器、およびホイスト機械は、設置および操作前に、設計の承認を受ける必要がある。労働安全衛生部本部の設計セクション(Design Section)が承認業務を担当する。2004年には、承認が必要なこれらの機械に対して、合計8,395件が承認された。
     労働安全衛生部の州支部は、工場や設置機械、および承認を要する機械の承認と登録を担当する。これについての最新データは表2のとおりである。
  2. 有資格企業および有資格者の認定
    この法律では、蒸気ボイラーに代表される特定の機械の操作を、有資格の技術者または操作者に制限している。また、蒸気ボイラー、非加熱圧力容器、ホイスト機械など、特定の機械の組み立ては、労働安全衛生部に登録された有資格者だけが担当できる。リフト機械の保守作業も、この業務の担当を許可されている有資格技術者を擁するメンテナンス企業に限定している。労働安全衛生部は、企業および個人がこれらの業務の遂行に必要な設備と専門技術を備えていることを確認する。2004年時点で登録されている有資格企業、研修センター、および有資格者の数は、表3のとおりである。
  3. 法定検査
    法定検査とは、工場、設置機械、ボイラー、ホイスト機械、および非加熱圧力容器を対象とした検査である。この検査は、工場・機械法に基づいて実施される。この検査の目的は、工場施設と機械の安全確認である。2003年と2004年に行われた各種の検査は、表4のとおりである。
  4. その他のタイプの検査
    法定検査の他に、労働安全衛生部も専門的な検査を実施する。これには、職場の衛生検査や、主要なハザードについての検査、そして農業、林業、漁業、および運送業の職場検査などがある。図1と表5は、2004年に実施された検査数を示している。


図1  特殊産業における衛生健康検査(2004年)

表5 産業別の検査実施数
番号 産業


2003
2004
1 農業
264
370
2 養鶏業
144
528
3 漁業
12
26
4 林業
36
54
5 運送業
73
93
6 卸売業および小売業
76
90
7 宿泊業/飲食業
87
97
8 銀行業
72
85
9 官公庁および公的機関

91

労働安全衛生教育

労働安全衛生教育の提供には、公的および私的なさまざまな組織や機関が関与している。国立労働安全衛生研究所は現在、事業者や労働者を対象とした労働安全衛生教育を提供する主要機関である。教育は、その本部または支部の施設を使用して実施するが、依頼人が希望する場所で実施する場合もある。国立労働安全衛生研究所は、一般的な労働安全衛生研修から資格対象のコースまで、さまざまなタイプの教育コースを1日から20日の期間を設定して提供している。最も利用が多く需要が高い教育コースは、安全衛生担当者、化学物質の使用における安全、化学物質の健康リスク評価、および閉塞空間における作業である。国立労働安全衛生研究所が提供するすべての教育コースのリストは、www.niosh.com.myで確認できる。教育カレンダーに予定が記載されている研修の他にも、依頼人の要望に応じて個別の教育パッケージを作成することも可能である。

国立労働安全衛生研究所以外にも、マレーシア労働安全衛生協会(Malaysian Society for Occupational Safety and Health:MSOSH)、労働環境医学協会(Society of Occupational and Environmental Medicine:SOEM)、マレーシア労働衛生協会(Malaysian Industrial Hygiene Association:MIHA)、経営者および労働者団体などの非政府組織や労働組合が、所属メンバーや一般国民向けに教育を実施している。これらの取り組みは、国立労働安全衛生研究所による教育業務の補完機能を果たしている。

労働安全衛生の情報提供および推進

この活動に関与する機関や組織は多数にのぼり、たとえば労働安全衛生部はそのウェブサイトやその宣伝用の資料および宣伝活動を通して労働安全衛生に関する情報提供に努めている。労働安全衛生部は全国労働安全衛生評議会と連携し、労働安全衛生についての全国キャンペーンを毎年実施している。このキャンペーンでは、労働安全衛生に優れた業績をあげた企業に対する労働安全衛生賞(OSH Award)の授与や、年次セミナーおよび展示会の開催、個々の業界とのディスカッションなどが実施される。今年の全国キャンペーンは12月の開催を予定している。

国立労働安全衛生研究所は、労働安全衛生の実践、調査、および研究に関与する人々や、各業界を対象として労働安全衛生情報サービスを提供している。www.niosh.com.myからアクセスする情報公開システム(Public Information System)は、各業界や世界に向けた労働安全衛生情報サービスへの玄関口として機能している。この7年間、国立労働安全衛生研究所は労働安全衛生に関する会議と展示会を毎年開催しているが、これはマレーシアで労働安全衛生を実践する人々の集いの場として認識されており、関係者が労働安全衛生に関する経験や情報を交換することによって知識の刷新を図る場として有効に機能している。

一般に大企業や多国籍企業に分類される個々の企業や非政府組織も、セミナーやワークショップの形で労働安全衛生の推進活動を展開している。

労働安全衛生の研究開発

研究開発(R&D)、特に地域、気候、社会経済、および民族的な特徴への適応を考慮した研究開発は、国家レベルの労働安全衛生を進める長期戦略の重要な構成要素である。この点を念頭に置き、マレーシア政府は労働安全衛生に関するあらゆる分野での研究開発を推進している。国立労働安全衛生研究所もまた、研究開発をその設立目的のひとつとする機関である。国立労働安全衛生研究所は現在、少額ではあるが、年間で総額300,000.00RMの研究助成金を提供し、労働安全衛生に関する研究を奨励している。この助成金は、特に研究優先分野において国立労働安全衛生研究所の調査要件を満たした意欲的な個人またはグループに付与されている。マレーシア国立大学やプトラ大学の他、労働安全衛生の研究を実施している地方の高等教育機関もこの分野の研究に意欲的であるため、政府はこれに対して助成金を支出している。


図2  労働者1,000人あたりの事故発生率(1993年から2004年)
表6 社会安全機構に報告された事故件数
1993
1994
1995
1996
1997
1998
事故件数
134,549
125,506
117,231
108,418
89,049
85,338
1999
2000
2001
2002
2003
2004
事故件数
92,074
95,006
85,926
81,810
73,858
69,132

労働事故疾病統計

労働安全衛生に対する国家レベルでの実績を把握する方法のひとつに、監督機関への報告対象となる事故件数の傾向を調べる方法がある。マレーシアでは、労働安全衛生部、社会安全保障機構、および労働局(Department of Labor)の3つの機関が、それぞれが施行を担当する規則要件に沿って事故統計を収集している。これらの統計のうち、社会安全保障機構が作成している統計は、全産業を網羅する最も総合的な統計と見なされている。社会安全保障機構によれば、2004年の事故件数は69,132件であり、これに対して1993年の事故件数は134,549件である。すなわち、この12年間の改善率は48パーセントを超えることになる。このデータを労働者1,000人あたりの比率に計算しなおすと、事故件数は1993年の21.4件から2004年の6.7件に低下していることがわかる(図2および表6を参照のこと)。これらの数値は、職場における事故の発生件数が激減していることを示し、マレーシアにおける安全衛生が全体的に改善されていることを意味するものである。この改善には、労働安全衛生法の導入が大きく貢献していると考えられる。

結論

過去100年間の労働安全衛生の推進状況を振り返ると、政府の意欲および先見性なしには、マレーシアにおける労働安全衛生レベルが今日のレベルに到達することはなかったと考えられる。この期間を通じ、政府は労働安全衛生システムの確立を通して労働者の安全衛生の確保に努めている。このシステムは、その時代の要件に即して制定された法規制や、法規制の要件を施行するための政府機関の設立によって構成されてきた。労働安全衛生の多様化にともなって変動するニーズを取り込むために、政府により制定された労働安全衛生システムは改訂されて新たな発展へとつながるよう拡大強化をされてきたと言える。そしてその結果、従来の規範的な手法に代わる自主規制によるアプローチによる新たな法規制の施行に到達した。自主規制によるアプローチとはすなわち、企業レベルでの労働安全衛生管理システムの導入、国立労働安全衛生研究所の設立による研修ニーズへの対応、労働安全衛生情報の提供、相談サービスや業界研究の実施などである。また政府は労働安全衛生部を通して戦略計画(労働安全衛生プログラム)を策定しており、労働安全衛生の持続的な改善を達成するため、短期的には実現可能な目標を設定し、長期的には安全かつ健康的な労働文化の創造という全体目標を掲げている。

参考資料

  1. 2003年度 労働安全衛生部アニュアルレポート
  2. 2003年度 社会安全保障機構アニュアルレポート
  3. 1967年制定 工場・機械法
  4. 1994年制定 労働安全衛生法

Ir (Dr) Abu Bakar Che Man
Director General
Department of Occupational Safety and Health (DOSH), Malaysia

Ir Mohtar Musri
Director
Department of Occupational Safety and Health (DOSH)
7th Floor, Wisma CONSPLANT2
Jalan SS 16/1 47500
Subang Jaya, Selangor
Malaysia
E-mail:mmusri@hotmail.com