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アクリルアミドがもたらした不快な出来事

資料出所:European Commission発行「JANUS」第28号、1998 p.26-27
(訳 国際安全衛生センター)


牛の中毒が最初の兆候だった。その後、環境専門家の調査でアクリルアミドが小川と井戸に漏出していたことがわかった。当初、一部の建設労働者に現れた症状についてはごく一般的な説明がなされた。アクリルアミドは神経系に作用する。共通の症状として、手や足の麻痺、刺すような感覚がある。アクリルアミドは、がんのリスクを高める場合もある。

スウェーデン南部の山稜を貫く大規模なトンネル建設プロジェクトの実施中、トンネル壁の防水工事のために、ある物質が使われた。この建設工事は新しい高速鉄道プロジェクトの一環であり、ここ数年ではスウェーデン最大の工事現場のひとつだった。

ところが使用された結合剤にはアクリルアミドが含まれていた。建設労働者は数カ月にわたり、この物質をなんらの保護対策なしに使用していた。労働者は、その物質の使用法と健康への影響について、きわめて断片的な情報しか与えられていなかった。一部の労働者が刺すような感覚や不快感などの異状を訴えたが、それが結合剤と関係があるとは考えなかった。

「ポリマーとしてのアクリルアミドは、健康上、問題にはならないかもしれませんが、モノマーとしてのアクリルアミドは労働者の健康に影響する可能性があります。」と、スウェーデン労働基準設定規準グループの責任者、Per Lundberg氏が説明する。そして「モノマーとしてのアクリルアミドは、皮膚から容易に浸透します。手に小さな傷口があると浸透しやすくなります。また肺から吸入する場合もあります。アクリルアミドを扱う労働者は、保護マスク、保護手袋、保護衣、保護長靴など、完璧な個人用保護具を使用すべきです。」と結論づけた。

今回のケースでは、建設労働者はその危険性を知らずに、アクリルアミドを扱った。農業従事者が牛の中毒を報告し、その後環境専門家が小川と井戸の水にアクリルアミドが含まれていることを確認してから、はじめて労働者の健康状態に注意が払われることになった。血液検査によって、労働者の体内にアクリルアミドが存在していることが確認されたのである。

「アクリルアミドは、赤血球にきわめて容易にまた迅速に蓄積します。したがって血液検査は、体内への吸入に関する重要な情報を与えてくれます」とPer Lundberg氏は説明する。


神経系に作用するアクリルアミド

アクリルアミドは目を刺激する。また皮膚を傷つけ、赤い斑点を形成し、フレーク状に剥がれ落ちる状態にする。長時間触れると皮膚炎になる可能性が高い。

アクリルアミドは神経系にも作用する。初期症状として麻痺、刺すような感覚、そして全体的な筋力の低下が生じる。この他に体重減少、意識障害、身体の震え、言語障害、疲労感などの反応もでる。暴露が中断すると、普通、症状は徐々に消える。きわめてまれに、症状が慢性化する場合もある。

アクリルアミドが遺伝子プールに作用する場合があり、これも不妊症になる可能性がある。動物を使った研究で、がんを発生させる場合のあることが示されている。

「現在は、アクリルアミドに暴露した労働者に関する疫学的研究はありません。しかし国際ガン研究所(IARC)は、アクリルアミドを発がん性物質と判断しています」とPer Lundberg氏は結論づけた。アクリルアミドは、IARCのリストで「人体に対する発がん性の可能性がある物質」として分類されている。1991年、アメリカとスウェーデンの研究者が最新の研究成果を検証した結果、IARCの専門家と同じ結論に達した。


危険性の低い製造業

アクリルアミドは、製紙工場、下水処理場、精糖工場などで使用されているが、もっとも多いのはプラスチック製造業である。また建物、ダム、導水管、トンネルで強化剤として使用されている。

「製造業ではシステムは通常、閉じられているため、接触の機会は低いのです。労働者がアクリルアミドに接触する機会はそれほど多くはありません」とPer Lundberg氏は指摘する。

スウェーデンで警鐘が鳴らされた後、ノルウェー当局の調査でも、オスロ中心部からガーデモエン新国際空港に至るトンネル工事でもアクリルアミドが使用されていることが判明した。

このような事態が発生した原因についての結論についてはスウェーデンではまだ議論が続いている。また、この事故には3つの組織が関与しているため、責任の所在もはっきりしていない。具体的には、この物質を含む製品を提供したフランス企業、トンネル所有者であるスウェーデンの鉄道会社、そしてスウェーデンの建設会社である。

Lars Gronkvist

出所:Molak, V, NIOH and NIOSH, 'Basis for occupational standard-Acrylamide: a review of the literature',Albete och Halsa (21),1991