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労働災害における労働者保護制度

蘇徳勝

資料出所:中華民国工業安全衛生協会発行
「工業安全衛生」2002年4月号(154)
(訳 国際安全衛生センター)


1. 序文

 我が国の労働法令は、労働災害における労働者の保護について、現行の労働基準法に沿って労働災害補償規定を定めており、労働保険条例には各保険給付の規定が定められ、労働安全衛生法及び労働検査法には各種の労働災害予防規定が定められ、労働災害に遭った労働者の権益を保障しており、また現職の労働者が労働災害に遭った場合、その保護を強化する必要があり、以前から労働保険に加入している被保険者が以前の就業場所を離れてから職業病を患っていることが判明した場合、職業病と以前の仕事との関係を実証し、その上で特別な保護をするのが当然であります。
 生産力をもっと高め、利潤をもっと増やすことは、労働者の生命の大切さと比べものにならず、あいにく国内における労働災害率は高く、労働災害を効果的に減らし、企業が経営を永続し、国家の競争力を高めるためには、労働災害に遭った労働者に対する災害補助の支給に消極的にならず、労働災害予防の職務にもっと積極的であるべきで、当会においては、安全な作業環境を構築するという施政上の主目的のもと、企業の競争力を維持し且つ労働災害に遭った労働者への配慮はもとより、労働災害予防の職務をもっと強化する必要があり、そこで、労働災害における労働者保護法を立案、それは政府各党の共通認識を経て、2001年10月11日に立法院の三読(3回読み)を通過し、2001年10月31日に総統により公布され、2002年4月28日に施行と明記されています。


2.労働災害における労働者保護の内容

.労働者が労働災害に遭い、もし使用者が労働保険に加入しておらず又労働基準法で定める労働災害補償をしない時に、労働災害における労働者保護法で補助を受けることができます: 労働災害における労働者保護法は、91年4月28日に施行後、もし労働者が不幸にも労働災害に遭い死亡又は労働保険の身障者給付基準表第1等級から第10等級までの規定に該当すれば、使用者が労働保険に加入しておらず又労働基準法で定める労働災害補償をしない時に、労働保険条例の基準に照らして保険加入期間の最低賃金補助を労働保険局に申請します。

.労働災害に遭った労働者を保護する原資: 労働災害における労働者保護法の施行後、その原資は労働保険基金労働災害保険収支残高から割り当てられたり、政府が編成する公務予算でやりくりされるが、使用者又は労働者から何ら費用を徴収しません。

.労働者は、労働災害に遭った場合、労働保険局へ補助を申請することができます:

(一)労働保険に加入している被保険者が、保険期間中、労働災害に遭った場合の補助申請の条件:

1.職業病を患って労働能力の一部又は全部を喪失した場合、労働保険の各種災害給付を申請した後、生活手当の支給申請をすることができます。

2.労働災害により身体に障害が残り労働能力の一部又は全部を喪失した場合、労働保険の身障者給付基準表第1等級から第7等級までに定める項目に該当すれば、身障者生活手当を支給申請することができます。

3.労働災害に遭った後、職業訓練に参加した期間について、訓練補助手当又は前二項の生活手当を未申請の場合、生活手当の支給申請をすることができます。

4.労働災害により身体に障害が残って補助器具を使用する必要がある又その他の法令で定められていない器具の補助を受け取る場合、器具の補助を支給申請することができます。

5.労働災害により自力で生活する能力の全部又は一部を喪失して、明らかに他人の世話を受ける必要がある又その他の法令で定められていない補助を受け取る場合、看護補助の支給申請をすることができます。
6.労働災害で死亡した場合、その家族は必要な補助を受けることができます。

(二)労働保険に加入していない労働者が労働災害に遭った場合についても、上述の状況に合致していれば補助を申請することができます。

.事業所,職業訓練所及び関係団体が労働災害の予防と労働災害に遭った労働者のリハビリを行う時には、労働保険局に補助を申請することができます:

(一)労働災害の研究。

(二)職業病の予防と治療。

(三)職業病を受け持つ医師及び労働衛生を受け持つ看護師の育成訓練。

(四)安全衛生施設の改善と管理制度の制定及び機械の本質面に対する安全化制度の推進。

(五)労働安全衛生の教育訓練及び宣伝広報。

(六)労働災害に遭った労働者のリハビリテーション。

(七)労働災害に遭った労働者の職業指導及びその評定。

.職業病の鑑定:

(一)我が国では、労働者が職業病を患ったと疑われる場合、診断を任されている医療機関から職業病診断書(労働者の罹患に際して、病院・診療所が医療法第54条及び医師法第11条の規定に従い交付する職業病診断書は専門的な効力を有しています)を入手することと定められています。労使双方は、職業病の診断結果に異議がある時、労使双方が協力的に話し合う又は地方の労働主管機関に認定を依頼します。そこでは、労働者が患った職業病とその職業,個人の生活歴,家族や家系などと関係があるかどうかを明らかにします。労使双方が地方労働主管機関の職業病認定に異議がある又は地方労働主管機関が認定困難とした又は労働保険機関が疑義ありと査定した時、労使双方は、行政体系に従って、関連資料を準備して行政院労働委員会に鑑定してもらいます。

(二)行政院労働委員会は、職業病鑑定の申請案件を受理した後、それを速やかに各委員に送り書面審査を行い、第1回目に全委員の4分3以上が同一意見であれば鑑定結果を出します。第1回目で鑑定結果が出なかった場合、労働委員会は各委員に第2回目の書面審査を行わせます。第2回目の書面審査の結果、全委員の3分の2以上が同一意見になれば鑑定結果を出します。第2回目でも鑑定結果が出なかった場合、当委員会の主任委員は全体委員会を招集し、2分1を超える委員が出席し且つ出席者の中で職業病専門医が2分の1を超えて初めて会議を開けます。もし全体委員会で意見が一致しない時は、無記名投票を行い、過半数の同意があれば鑑定結果を出します。

(三)労使の一方が職業病の診断に異議を申し立てる時は、認定(鑑定)に関する次の資料を添付しなければなりません:

1.使用者が提供する資料は、労働者の過去の勤務経歴,職業上の守秘資料,労働者の身体検査及び健康診断の記録などであります。

2.労働者が提供する資料は、過去の勤務経歴,職業上の守秘資料,労働者の身体検査及び健康診断の記録,職業病診断書,病歴,生活歴及び家族の病歴などであります。

.労働災害に遭った労働者との労働契約を終了する場合の条件:

(一) 使用者は、次の状況の一つに該当しない限り、労働災害を理由に労働契約を終了してはなりません:
1.営業停止又は重大な欠損により主管機関の裁定を受けた場合。

2.労働災害に遭った労働者に対する医療が終了し、公立の医療機関が、当人は心神喪失者又は身障者で作業に堪えられないと認定した場合。

3.天災,事変又はその他の不可抗力により、事業が継続不可能になり主管機関の裁定を受けた場合。

(二)次の状況の一つに該当した場合、労働災害に遭った労働者は労働契約を終了することができます:

1.公立の医療機関が、心身喪失者又は身障者で作業に堪えられないと認定した場合。

2.事業所が改組又は譲渡されて消滅した場合。

3.使用者が第27条の定めに従って処理しない場合。

4.使用者が第27条の定めにより行った職場配置に同意できない場合。

.事業所がその仕事を請負に出す場合、労働災害における労働者保護法が定める労働者に対する労働災害補償の利点: 労働災害保護法の法律施行後は、事業所がその仕事を請負に出した場合、請負人は、請け負った仕事で使用する労働者に対する労働災害補償に事業所と連帯して責任を持たればならなりません。下請負人も同様です。不幸にも労働災害に遭った労働者に対して万全な保障をします。

.労働災害における労働者保護法による使用者の処分:

(一)職業病鑑定委員が労働検査官を労働者の職場に派遣して行う検査を拒絶した、また労働災害に遭った労働者との労働契約を終了する時に労働者の賃金残額又は退職年金を規定通りに支給しなかった,また職業病に遭った労働者を適当な職場に配置しなかった、更に事業所が組織変更又は譲渡される際に労働災害に遭った労働者の権益や労働災害の認定前後の休暇規定を守らなかった場合、使用者はNT$50,000元以上300,000元以下の罰金を科せられます。

(二)雇用している労働者のために法により加入すべき労働保険の手続をしていなかった使用者は、労働者が労働災害の事故に遭った場合、雇用した日から事故の発生した日までの本来負担すべき保険料に基づき、その4倍から10倍の罰金が科せられます。

(三)労働者が労働災害により死亡したり後遺症が残った場合、労働保険条例の身障者給付基準表に第1級から第10級まで等級が定められており、使用者が労働基準法の保障をしなかった時、また本法により労働保険加入期間中の最低賃金額に基づき補助をした時、使用者はそれ相当額の罰金を科せられます。


3. 結論

 労働安全衛生の施政目的は、やはり労働災害率を継続して低下させるという目標を達成し、国の貴い労働資源を確保したいということであります。労働災害における労働者保護法は、労働災害の予防方面を強化する条項を定めており、職業上の流行病についての学術研究を強化し、職業病を監視・抑制するシステムを作り上げることを含め、当面の予防について重点的に提起しています。職業病専門医の養成及び医師に対する労働医学の訓練を強化し、医師の職業病診断能力を向上させ、職業病通報システムを作り上げます。機械器具の型式検定制度を推進します、機械の本質的な安全化を実行に移します、機械設備や電気設備の災害を防止する技術、土建業における整合性のある安全施工循環メカニズム、土木建築における墜落・倒壊の災害を有効に減らす技術、製造過程における安全面の改善策、安全・危険の評価制度及び火災に伴う爆発を防止する技術を作り上げます。事業所における安全衛生面の自主的な防護制度を推進し、管理者層に対する安全検査の訓練を行い、事業所における自主的な管理体制の構築を強化します、地域的・衛星状及び同質的な災害における安全衛生上の協調とそれに関わる技術制度を作り上げます。現場における安全な行為のサンプリング及び安全面の観察を推進し、実害がない些細な事故でも無視せず報告する体制を築きます。大規模な防災を指導するスタッフを育成訓練し、中小企業に臨場感のあるコンサルテイングサービスを提供します。人為的事故が起こりやすい工程における制御技術の研究を強化し、健康及び衛生技術のコンサルテイングサービスを提供します。危険物及び有害物質の知識を普及させる制度,作業環境を測定する制度を実施し、それによって労働災害の予防活動を強化し、労働災害の発生及びその補償を少なくし、災害予防の理念を実践します。


参考資料

(ア) 行政院労働委員会、労働災害における労働者保護法、2001年10月31日。
(イ) 行政院労働委員会、労働災害の予防及び労働災害における労働者リハビリ補助規則、91年4月。