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職業関連の筋骨格系障害
およびその予防について


資料出所:中華民国工業安全衛生協会発行
「工業安全衛生」2001年5月号(143)

戴基福

(訳 国際安全衛生センター)


I はじめに

 筋骨格系障害は、多くの工業国家で既に確認されている主な職業性障害のひとつである。アメリカ労働統計局(BLS)が1993年、報告した筋骨格系障害(MSD)レポートによると、MSDが引き起こした労働損失日数(LWD)案件は毎年62万件、つまりLWD案件総数の3分の1を越えており、LWDでない案件(不休災害)を含めるとすると、MSD案件の総数は恐らく3倍に登るだろう。(BLSの指摘によると3分の2の案件はLWDに至っていない案件である)。欧州各国、日本でも同様の報道がある。スウェーデンにおける1990‐1992年の報道によると筋骨格系障害は70%を占めており、デンマークは36%、フィンランドでは39%を占めている。日本では1998年、約5000件の職業性障害があり、筋骨格系障害の総数は約8600件で、最多数の業務上疾病となっている。筋骨格系障害はさまざまな原因が重なって発生している。恐らく長時間にわたる人体に対する作用が引き起こした危害で、重労働、動作の繰り返し、不自然な姿勢での作業、振動、低温などによるもので、この中の低温と振動がほとんど特定の職場で発生していることがはっきりしている。例えば、食肉処理場、車両修理工場では、反復的な動作と不自然な姿勢がひろく存在している。文献では、研磨、部品組立、タイプ、会計、放送、建築作業、運送、食肉処理、郵便輸送、医療看護などが挙げられている。社会的心理、個人的な体質、老化などの要素も恐らく関係しているだろう。このためこの問題の複雑さは、特に業務上疾病としての判定にある。一般的にいって、日常生活や休暇中の活動がこの種の障害に与える影響は、1日8時間、長年積み重ねてきた労働による反応よりも少ない。現代化した作業環境で、なぜこのように多く筋骨格系障害が現れるのか。その予防はどうしたらよいのだろう。

 工業革命後の生産は、機械化し、生産量が急増、流れ作業化してきた。人の作業は、この大きな変革の流れの下、日に日に機械化している。人と機械設備、環境の間には、確実に高度な生理的、心理的な摩擦が存在している。昔の職人は、個人の技術、なれた道具をつかって、作品全体を作り上げていた。感情作用によって、作業自体に創造的な充実感があった。現代化した流れ生産の作業では、作業が細分化され、単調な繰り返しとなっている。個性に欠け、製品を完成させる喜びがない。人の作業は体力を使うものから、軽度で積み重ねられる負荷に変化した。ハイテクで優れた設備を制御することは、形のないままで、人の心理的なストレスを増加した。こうした変革はみな、間接的、直接的に、筋骨格系障害に衝撃を与えている。米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の報告によると、米国は1980年代に食肉処理場の生産力を向上するために、機械速度を早め、作業の細分化、手作業に動力を導入した。こうした措置が、作業員にたとえば腱鞘炎、手根管症候群など慢性疾病の上肢筋骨格系障害を引き起こしたのである。当時、食肉処理業には反復的負荷障害の発生率が他の業種の約75倍あった。そこでNIOSHはこの種の障害に対する予防を提言し、こうした上肢機能障害を予防した。欧州連合でも調査により、労働速度が1991年から1996年の間に急速に早まっていることが判り、目下、北欧国家では事業者、労働組合、政府の三方向からの努力を通して、反復作業の軽減に努めている。

II. わが国における職業上の筋骨格系障害の概説

1. 主観的アンケート調査

 筋骨格系障害は非常に広い範囲に広がっており、建設業、製造業、サービス業、農林、畜産、漁業、交通運輸などのさまざまな業種に全て存在している。一般製造業、つまり自動車製造、電機部品組立、紡績からコンピュータや集積回路の従業員までに筋骨格系障害が見られる。100人の一般人のうち、70人から80人は、生涯のうちにみな腰痛を経験している。1日8時間労働の年月を重ねた労働者はもっと多い。労働委員会、労働組合の安全衛生研究所は設立以来、積極的にわが国のデータを集め、さまざまな業種の筋骨格系障害の概況を調査している。後での比較に便利なように一致性を持たせる意味で、調査は基本的に(1)標準北欧筋骨格系障害アンケート(standardized Nordic Musculoskeletal Questionnaire:NMQアンケート)を採用して、対象者は過去1年間に筋骨格系障害の経験のあるものを主にしている。NMQはひとつの標準的な筋骨格系障害のアンケートとして、その中で筋骨格系を9つの大きな部位に分けている。すなわち、頭部、肩、背中上部、背中下部及び腰、手肘、手あるいは腕、臀部や大腿、膝から脛や踝である。NMQのアンケートは非公開性のアンケートであり、個人の基本データ、作業状況、筋骨格系障害について、鋭利な痛み、しびれ、不具合などの症状やそれに対する上述の状況と作業との関連についての主観的な印象をまとめている。質問には、発生の頻度、継続時間、医療記録や作業と家庭での活動への影響などがあり、これによって筋骨格系障害程度の軽重を判定している。NMQアンケートの信用度は77%から100%で、しかも効果は80%から100%の間である。

 表1は台湾における、さまざまな業種の労働における筋骨格系の痛みの概況である。全産業の全国労働者から抽出された約2万人の労働者から得られた調査結果である(2)。

表1:筋骨格系障害の症状の訴えが比較的多い産業

部位 報道カメラマン 運輸業 全産業 建設業 電器製造業 集積回路製造業
57% 36% 25% 30% 65% 35%
67% 36% 27% 30% 65% 42%
背中上部 63% 18% 12%   35% 27%
背中下部、腰 66% 33% 24% 47% 30% 44%
手肘 24% 15% 12%   30% 17%
手腕 28% 19% 19% 32% 60% 25%
臀部大腿 14% 11% 7%   30% 23%
19% 11% 9%   35% 14%
18% 13% 10% 9% 40% 42%

 

背中下部の比率は各業種とも高くなっている。報道カメラマン約66%(3)、集積回路製造業44%、コンピュータ製造業36%(4)、建設業47%(5)、電器製造業30%、運輸業33%、通信製造業37%、全産業24%(2)であった。国外でも腰痛の比率は大きい。同様に過去1年間をひとつの区切りとすると、英国全産業人口での腰痛の比率は39%で、オランダ男性における腰痛の比率は46%、女性は52%(6)(台湾における痛みの比率も女性が男性よりもやや高く55%対50%であった)だった。これを生物力学的に言えば、腰痛に関係する作業動作には、不適当な姿勢(60度以上の腰曲げ、ひねりなど)、重量物を持ち上げるなどが含まれる。「よく重量物を運ぶ」という項目では、建設業の比率が最も高く44%で、全産業が16%だった。全EU加盟国の労働者で作業中にかならず重量物を持ち上げると考えている比率は34%だった。(「よく」は11%、「ときどき」は23%)「不自然な姿勢」では建設業が23%、農林、畜産、漁業で22%、全産業が16%だった。腰痛のある人の比率の高い業種は、労働時間に運搬などに従事しているか、不自然な姿勢の比率が比較的高かった。

 頭、肩の痛みは報道カメラマン、運送業(運転手や貨物運搬員を含む)電器製造業の比率がやや高く、それぞれ57%、36%、65%で、全産業では25%だった。こうした作業の特長のひとつは、作業時間によく上肢を持ち上げ、重量物を持つことである。これが手腕の痛みにもいえることで、電器製造業、建築業やコンピュータ製造業の労働者の比率が比較的高く、それぞれ60%、32%、31%で、全産業では19%だった。EUでは、首、肩と上肢の痛みの比率が17%で、その中で英国は17%、オランダは19%(比率の高い業種では約40%)、スウェーデンでは男性約20%、女性は33%だった。上肢の痛みの原因は一般にさまざまで、不適当な姿勢、力の使いすぎ、ひどい繰り返し動作、振動工具の使用などの要素が重なっている。「振動工具の使用」では、建設業は最も高く26%、製造業では11%だった。「手部の単調な繰り返し動作」では製造業が最も高く25%、全産業では21%だった。EU国家の調査により作業速度が1991年から1996年の間に急速に早まっていることが判り、45%の労働者が仕事は単調作業だと認識しており、37%が作業に従事していると考えている。現代化した生産機器(方法)と反復による障害に関係があることは明白である。

2. 作業の特長と痛み

 建設作業員の筋骨格系痛みの部位は、主に背中下部、肩、首である。ペンキ工が右肩に痛みを訴えている以外には、その他の業種の労働者はみな背中下部(腰)を主な痛みの部位としていて、国外でも類似した結果が出ている。報道カメラマンは首、肩、背中上部、背中下部、腰、手肘と膝など6ヶ所の部位の反応が、集積回路業やコンピュータ産業の労働者よりも、症状の比率が高くなっていた。特に肩、背中上部と下部、腰の3部位の反応は、科学3産業の20%よりも症状の比率が高くなっていた。これは報道カメラマンの体、特に上半身の労働負荷がかなり重く、撮影作業時には右肩に撮影機材を下げるために、肩が圧迫され体が右に下がる、背中の上、下部と腰は長時間に体のバランスを取るために力が入ることに関係している。集積回路作業員は長時間立ったリ、歩いたりする作業により、臀部、大腿と踝に疲労性の痛みが引き起こされる。工業団地のある班長は12時間立ち仕事を行ない、ある時には急ぎの仕事のために小走りにならなくてはならない。その上、貴重な部品が落ちて壊れないかという心配から来るストレスも重なって、恐らくこれらが筋骨格系痛みと関係している。医療関係者に対する調査研究で67%の医療関係者が過去1年以内に腰痛を経験しているという。医療関係者の中でも特に看護師の筋骨格系痛みの状況は非常に重く、主に医療関係者はよく病人を運んだりするが、これは相当に体力を消耗する作業である。一般の人々にも、医療関係者自体は筋骨格系障害の予防に比較的高い認知度を持っていると認識されているが、そうであればこのように痛みの比率が高くなるとは考えられない。しかし、作業に関係する危険要素から言えば、作業設備と手順の設定に既に筋骨格系障害の存在の可能性が決定している。運送業労働者の筋骨格系痛みは約33%で、主に、背中下部、肩首と上肢が含まれている。運送業労働者は作業時に一般的には静かな姿勢をとっている。例えば、運転手は労働時、上肢を胸より高い位置に上げているが、これにより首、肩、上肢がだるくなりやすく、生物力学的にいえば既に間違いがないと証明されていることになる。この腰痛は主に自動車の運動と長時間座っていることに関係がある。同様の状況が建築業や一般製造業の工作機械運転手や制御要員にも発生している。自動車製造や電器製造業の労働者は、よく比較的重い工具を持ったり、電動工具を使うことがあり、同時に立ち仕事である。こうした産業では首、肩と手腕の部位の痛みが比較的多い。

3. 労働保険における筋骨格系障害の現状

 わが国では筋骨格系障害と関係ある業務上疾病の保険認定を1996年6月14日に開始した。これには長期にわたる圧迫のため起った関節変形の病変、長期にわたるひざまづきの姿勢作業による膝関節半月状軟骨の病変、圧迫による神経マヒ(業務上の手根管症候群など)および長期にわたり作業による圧迫が引き起こした椎間板ヘルニアなどの4種類の項目が含まれる。1998‐2000年の労働保険給付人数から見ると、鉱山作業員のじん肺症が主で、この結果と政府が職業性鉱山労働者じん肺症の給付を広げる見識を打ち出したことは関係がある。鉱山労働者のじん肺症を除くと、筋骨格系障害の比率は第1位になる。筋骨格系障害は1998年には84人、99年126人、2000年には147人が給付を受けており、もちろん人数や比率は年を追うごとに上昇方向にある。わが国における筋骨格系障害疾病件数のうち、主なものは腰痛で3分の2を占めている。その次は手、首、肩の疾病、振動により引き起こされた疾病が続いている。米国労働者の統計データによると、損失作業日数の件数を基数とすると、筋骨格系障害の比率は約3分の1を占め、労働保険が補償する金額のおよそ3分の1を占めている。フランス1992年の筋骨格系障害が占める比率は40%で、1996年には63%になっている。日本の業務上の筋骨格系障害の比率は最も高く、約58%である。(1998年)

III. 予防策と措置

 職場にこのような反復的負荷傷害が見られるのはどうしてなのか。現代化した生産機器と管理方式により、作業環境は人の能力や限界を超えて要求されるようになった。これは重要な影響を与える要素になっている。わが国の労働者が作業時にエルゴノミクスに関係する問題にあう比率は46%で、EU全体では約30%、危険要素の比較的大きい業種では約50-90%であった。いいかえれば、適当な改善措置を講ずれば、筋骨格系障害は減少させることが可能だといえる。予防策は簡単に言って、主に作業時に筋骨格系障害の発生を避けることにあり、つぎにリハビリによって労働者を職場に復帰させることにある。一般的な予防は往々にして政府、労使双方および学術機関の三方向が協力して努力し、コンセンサスを得た後、導かれるものである。

1. 国外における予防策の概略

 スウェーデンでは1993年、不適当な動作や姿勢に対して法令を制定した。ならびに1998年筋骨格系障害の予防に対して法案を拡大し、エルゴノミクスに関する法令を発布した。このエルゴノミクス法令には、事業者が筋骨格系障害に関するデータを労働者に提供すること、および必要な改善余地を講ずることを要求している以外に、労働者の参加を強調している。この他、多くの予防措置に関するデータを事業者の参考のために提供している。目下北欧国家ではまさに、事業者、労働者、政府の三方向で努力し、反復的作業を減少させようとしている。

 日本では1970年、「重量物取扱い作業における腰痛の予防について(通達)」および1975年「重症心身障害児施設における腰痛の予防に付いて(通達)」を公布した。しかるに、腰痛の発生件数の割合は依然として下がらず、1994年に以前に発布していた「重量物取扱い作業における腰痛の予防について(通達)」と「重症心身障害児施設における腰痛の予防に付いて(通達)」を廃止した。この後、さまざまな業種、事業場に対する腰痛予防措置を提供するために、「職場における腰痛予防対策指針」を公布し、更に一歩進んで、1995年「腰痛予防のための労働衛生教育実施要領」および「腰痛予防のための労働衛生教育指導員(インストラクター)講習実施要領」を制定した。職場における腰痛予防対策指針は、事業単位で作業管理、作業環境管理、健康管理や労働者の保健教育対策などにこれを施行することを通じて、腰痛発生の原因を減らそうとするものである。この指針は主に基本の予防対策を提示するもので、各事業単位が実際の状況に合わせて調整を加え、さらに完全に対策が行われるようにできる。この他、腰痛の発生を減少させようと、一般的な職場の腰痛予防対策以外に比較的腰痛が発生しやすい業種には、個別に基本的な対策を提出している。

 米国労働省は1979年、エルゴノミクス専門の専門家を雇用して、この種の障害予防を開始し、今まで約20年のキャリアがある。労働安全衛生局(OSHA)は、1988年に労働安全衛生法第5条によって撮影方式でエルゴノミクスの検査を開始し、1995年はじめてエルゴノミクス基準草案の構想を発表した。2000年12月にこの基準(エルゴノミクス基準最終規則)を修正し、公告した。(最終的に上院で否決され、廃案となった。主に筋骨格系障害が相当ひろがっており、改善に必要なコストが社会に与える衝撃が大きすぎることが原因)。現在、米国は更に共通認識のある予防策を確立しようとしている。この対策は1990年OSHAが定めた非強制的な食肉処理業者エルゴノミクス管理計画指針を基準として、さらに改善を加えたものになるだろう。この年、食肉処理業は労働者100人中20.2の障害症例があった。この症例は主に筋骨格系障害だった。多くの食肉処理業者がこの非強制的指針を採用した。OSHAを通じて、事業者、労働者の三方向からの努力によって、10年たって生涯の比率は39%下がり、1989年に100人あたり20.2の症例が12.3件にまで下がった。この計画管理指導の主な内容は以下のとおり(1999年)。

(1) 高レベル管理委員会:事業者は筋骨格系障害を下げる意図を宣言する方策を確立し、この委員会は同時に各階層の管理職員、労働者に対し、人的資源の配分を行なう権利を持つ。

(2) 労働者の参加:労働者が参加できるパイプライン、筋骨格系症状反応の手順、エルゴノミクス改善グループを作る。

(3) 管理計画:作業現場危険分析(Work-site Analysis)、危険予防と制御(Hazard Prevention and Control)、健康管理、教育と訓練などの4部門からなる文書を作成しなければならない。この計画管理指針では関係する人々の全員参加、特に第一線の労働者参加の部分を強調している。この他、事業単位ごとで現況調整計画内容によるべきで、この指導に更に柔軟性を持たせることで、中小企業に与えるショックを和らげることが出きる。この計画の成功は、事業者と労働者全員が参加する以外にも、中小企業の関係計画を立案に対する政府の協力、必要な科学機器の検査表の提供、背中下部の障害に対する機器の評価、予防制御の原則、法令による実施が必要な検査と監督などへ努力が必要である。

2. わが国の予防措置

 上述の各国の予防対策は、労、資、政の三方面の努力がひとつでも欠けては達成できない。政府は予防対策に必要な科学的データを事業主に提供し、その助けとしたい、全体的な監督を行うことを考えている。事業者は作業現場の特長によって個別に適合する管理計画を確立し、権利を確実に受託し、労働者参加のためのパイプラインを設定する。労働者は事業者の実施計画に応じて、教育、訓練、改善措置などを受けなければならない。計画要項の中のデータについていえば、労働委員会労働安全衛生研究所が、過去にすでにかなり国土性に根ざした成果を事業単位への参考に提供している。

(1) 危険評価:改善措置の必要性を確定する。危険評価のテクニックは簡単なものから複雑なものまでさまざまある。当所では、すでに国土性にあわせた検査表を完成しており、事業単位へ提供し、現場で使用されている。わが国の労働者人体計測値、労働者筋骨格系整理統計値などの全国的データを取り、利用して、わが国の労働者の背中下部が受けている圧力の評価モデルと教育ソフトを業界へ提供している。

(2) 改善措置(工程制御):オートメーション化は基本的で有効な工程制御方法だが、往々にして行きすぎてしまい、生産現場に不適切なことがある。このため、作業調節方法(事業場の再設計、補助用具の活用、機械設備の導入など)により、作業負担を軽減化することもかなり実務的な方法である。上述のような原理原則に基づいて、当所ではエルゴノミクス的な事業場と作業補助用具の開発を完成した。

◆ 作業用いす:長時間座ったままの姿勢でいると背中下部がだるくなりやすいので、労働時間に上肢の活動を組み合わせることが必要なため、この作業用いすを開発した。

◆ 食肉処理用ナイフ:食肉処理業では筋骨格系障害の発生比率がかなり高い。このナイフは食肉の屠殺に使用するもので、目下工場で試用段階にある。

◆ ペンキ用刷毛:非対称式の取っ手で、作業時に自然な姿勢を保てる。

◆ 身障者用作業補助用具:すべて開発完成している。(1)車椅子(2)車椅子専用作業机(3)バリアフリーコンピュータステーション(4)コンピューターソフト音声入力用具:音声によるインプットおよび制御(5)手肘と呼吸により制御可能なマウス

(3) 教育訓練と健康促進:教育訓練により、労働者に例えば、比較的よい持ち上げ方法や筋骨格系障害の症状など筋骨格系障害の情報を伝える。労働者訓練は労働者が主体的に参加した場合(健康機能促進や作業方法のテクニック訓練など)の効果は、往々にして受身の安全衛生教育よりもよい結果が出る。当然、労働者教育訓練の効果は工程の制御と取って代われるものではない。研究でも、労働者身体検査によっても筋骨格系障害は避けることができないと明確にわかっている。現在、当所と事業単位は協力して健康促進計画をすすめており、作業員を訓練することにより、健康機能の促進が筋力強化につながり、不適当な障害を避けることになろう。

(4) 管理措置:管理措置とは、たとえば合理的な作業と休憩時間の配分、作業輪番制、作業の複雑化などいずれも可能な方法を行なう。過去の経験からわかったのは、成功する管理措置はかならず以下のことを考慮している。(i)事業者と関係する作業員の利益(ii)労働者の主体的な参加上述の工程制御と管理措置の精神に基づいて当所では現在、労働者参加式のエルゴノミクス現場改善制度を進めている。労働者、事業者と学者が共同参加して現場の改善、永続的な改善制度を確立する。わが国の事業単位はほとんどが品質管理活動や改善提案制度を採用しており、これは労働者の主体的な活動で、この活動が事業者の激励によって何年も続いている。そこで、当所はこの活動と仮に方法を組合せて、現場におけるエルゴノミクスに関連する筋骨格系障害の危険要素の改善を進めている。労働者、事業者、学術界と政府が共同で参加し、共同で学び、筋骨格系障害を改善する文化を現場に根付かせようとしている。国瑞自動車、宏碁コンピュータ、長庚医院、および中華電信など、昨年(2000年度)4社の事業単位で試行した。実際の改善過程において、エルゴノミクス教育訓練の推進を使用と、国内のコンセンサスを確立しようとしたものであった。

IV. 結論:未来に向かう努力

 近年、労働安全衛生は国際的にも共に注目の議題となっている。同時に貿易活動や国際交流によって、他の国家の労働安全衛生基準に影響を与えている。多くの欧米国家はみなエルゴノミクスと筋骨格系障害に関する法案を作ったり、制定したりしている。規範の制定には以下の内容を考慮していなければならない。(1)筋骨格系障害の因果関係はまだはっきりせず、一定の規範を決定するには科学的な証拠が足りない。国内筋骨格系障害防止の助けとするため、規範を検討しなければならない。(2)経済に対する衝撃が大きいため、さまざまな業種で筋骨格系障害が拡大している。作業上の原因について対策が講じられていない場合もあり、中小企業の改善コストもかなり高い。(3)労、資、安全衛生担当者の筋骨格系障害に対する調査と改善はまだ不足しており、広く確実に現場を改善する方法もない。これらは重要な要素であるが、国内筋骨格系障害の広がりと症状の重さを考えた場合、われわれは慎重にこの問題に対応する必要がある。このため国内の推進運動は非強制的な指導方法で行なうのが、おそらく可能な方向であり、私たちの参考になるだろう。国内の事業単位、学界や政府は更に広いコンセンサスを確立し、経験を重ねて、強制的規範を実行してこそ、筋骨格系障害の予防という目的の法令を達成することができよう。当面の急務は、しっかりと過去の国内の改善技術とあわせて、現場での改善推進をおこない、国内の事業単位が筋骨格系障害を重視し、改善管理制度を樹立するよう推進することが、筋骨格系障害の予防の基本であり、われわれの努力する方向である。

参考資料

1. Participatory Ergonomic Interventions in Meatpacking plants、DHHS(NIOSH)publication No.92-124,p5-10.

2、作業環境安全衛生状況の調査―労働者認識調査、1999年労働者安全衛生研究所、IOSH88-H309.

3、報道カメラマンの背中下部障害に対する評価研究、2000年労働安全衛生研究所、IOSH89-H331.

4、半導体製造業における重複性作業による障害の現場評価と改善、1986年労働安全衛生研究所、IOSH85-H326.

5、住宅建設業における労働者の背中下部障害の危険分析と改善研究。1988年労働安全衛生研究所、IOSH87-H325.

6、Work-related Low Back Disorders,2000, European Agency For Safety and Health at Work.