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災害ゼロ運動推進に不可欠の認識

林永卿

資料出所:中華民国工業安全衛生協会発行 「工業安全衛生」2001年3月号(141)
(訳 国際安全衛生センター)


■災害ゼロコラム■

災害ゼロ運動推進に不可欠の認識

生命には値段を付けられない。人の命は地球より重い。人生はたった一度。自分はたった一人しかいない。おそらくけがを負って障害が残ったり死んでしまったりしたい人は一人もいないだろう。しかし産業界における職業上の災害、負傷事故は一向に減らない。私たちはこれについて省みる必要がありそうだ。

 
政府はすでに「労働者の安全衛生法」を公布しているが、産業界は災害ゼロ運動を推進する必要はないのだろうか。法令は国家の基本的な最低限の要求であり、私たちは法令の最低限の要求をもって最も貴い人命を取り扱うことはできない。よって私たちは環境や設備そのものの安全化を図った上で、さらに安全規則や標準的作業手順などを制定し、様々な防護用具を組み合わせて従業員を訓練してしっかり覚えさせ、規則通り行わせなければならない。人の知識や経験は、すべて背景が異なっているためその理解力には差がある。全員を同じスピードで完全に理解させるのは難しいし、作業時は往々にして人間の性として無意識のミスが生じやすい。例えば忘れたり、うっかりしたり、錯覚したりなどは人間の弱点である。心が乱れて落ち着かない、近道を探す、手順を省略するなども災害事故を起こす。故に私たちは「心と心、手と手をつなぐ」集団活動を推進しなければならない。これがいわゆる災害ゼロ運動である。群集の心理を把握し、管理し、随時頭を働かせて互いに充電し合い、「予知」の機能を働かせる。これと同時に団体心理の群衆作用を把握して、確認とかけ声をかける方法により危険に対する感受性を高め、手落ちや錯覚を防がなければならない。また全員に一体感を持たせ、自分を守り、互いに守り、気をつけ合う意識を持たせることで、近道を探したり、よく考えずにすぐさま行動に移ることを防ぎ、危機を制御する「先制」機能を発揮させる。そして災害ゼロという最終目的を達成するのだ。
 
災害ゼロ運動は従業員一人一人に効果的に「3つの守る」措置を実施させるので、毎日全員が「楽しく出勤、安らかに帰宅」を実行できることになる。災害ゼロ運動の実践にはまず「人の命と人間性を尊重する理念」がなくてはならない。「工場を家とし、工場を学校とする」という雰囲気を作り上げ、全員が「一家」であるとの意識を持たせることにより、「ゼロ」がどんなに厳粛なものであるかを実感させることができ、「ゼロ」の原則と道理を理解させることができるのである。さらに「前もって知り、先制する」ことにより「従業員の安全と健康を保障する」、そして「予想外の」事故の原因を調査糾明して「予期できる」ものに変える。また「確認し、かけ声をかける」運動を武器にしてミスや人間の弱点から生じる「内在的危機」と、複雑な環境から生じる「外在的危機」の二大難関を突破することにより、初めて知行合一が成り立ち、「危機を抑え、事故の発生を防止する」という課題が達成されるのだ。次に「安全第一の経営理念」がなければならない。企業の経営者は、「災害ゼロ、疾病ゼロを目指し、その厳しい経営態度をスタート地点とする。安全な条件のもとでなければ一流の品質を備えた製品を生産することは不可能である。」を経営理念とすることを公に表明しなければならない。さらに各機構の主管者には会社の方針を守り、作業の安全を強化するとともに災害ゼロを目標とすることを求めていくべきである。企業の経営者は人材訓練、危機の環境、設備そのものの安全化、基本的体制のメディアの確立、安全を第一とする経営管理、心と心をつなぐ運動の推進など6Mを理解し、仕事上の安全を脅かす危機や落とし穴をなくしていかねばならない。また企業の労働安全経費予算は実行計画と十分に連携させなければならない。同時に安全政策の4E(教育、技術、実行、熱意)機能を発揮させることに力を注ぎ、人為的ミスやシステムのミスによる危害を抑制する。所属従業員の安全と健康を確保することが各部門の主管者の職務責任なのだ。このため、各作業部門の管理者および監督者は安全・衛生作業を生産活動の一種として組み込まなければならない。つまり作業現場を徹底的に安全で衛生的な場所にしていくことが必要なのだ。同時に各従業員も安全衛生が自分に密接に関わる問題であることを深く認識すべきである。自分や皆の安全と健康を確保するためには、同僚と集団で協力し、自動的、自発的に安全と衛生を求める習慣と気風を育て、作業場を自主的活動の場、活躍の場としていくことが大切だ。
 
労働者の安全衛生管理作業はトップダウン方式で行われるが、災害ゼロ運動は下から上へ流れる。両者が相乗効果を上げれば、現場の災害をゼロにする目標を達成することができる。災害ゼロ運動の最終目標は、会社全体に安全を浸透させることにある。既存の安全措置を充実させるほか、設備標準を満たさなければならない。主に一人一人が参与し、徹底的に現場の安全と衛生を推進し、作業場を自主的活動の場、活躍の場としていくのだ。従業員の危険に対する感受性を高め、キーとなる作業を行うときの集中力を高め、勤労意欲を喚起し、人為的なミスや人間の弱点によるミスをなくしていく。そしてなるべく少ない費用で最大の効果を上げる。よって企業の大きさに関わらず、すべて適切な災害ゼロ運動を推進していかねばならない。災害ゼロ運動を通じて、消極的、受動的な安全管理を積極的な安全制度に変え、作業場に前進する意欲と明朗快活な雰囲気を作り出し、安全で快適な作業環境を作り出すことができるのだ。何を好んでそれを行わないのだろうか。
 
総じて見れば、災害ゼロ運動は「あなたも、私も、彼も、皆も実行できる」素晴らしいことで、政府の労働安全衛生・健康保障政策を実践することにもなり、企業のオーナーは機敏な危機管理と指導方針を手に入れることができる。各レベルの主管者は従業員の安全についてより注意するようになり、従業員の危険に対する感受性も高まる。そして自分を守り、他人を守り、注意し合うという道義的、道徳的な気風ができあがる。さらには従業員に家族としての意識と、ともに繁栄することの楽しさが生まれ、毎日楽しく、心配もなく出勤し、安らかに帰宅することができるのだ。全員がしっかりと実践し、もっと素晴らしい災害ゼロの生活に向かって邁進しようではないか!